新しい便秘薬と便秘対策(2019.04.07)

◇慢性便秘症とは
慢性便秘症の診断基準(成人)慢性便秘症診療ガイドライン2017
1.「便秘症の診断基準」
以下の6項目のうち、2項目以上を満たす
・ 排便の1/4超の頻度で、強くいきむ必要がある
・ 排便の1/4超の頻度で、兎糞状便または硬便である
・ 排便の1/4超の頻度で、残便感を感じる
・ 排便の1/4超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある
・ 排便の1/4超の頻度で、用手的な排便介助が必要である
・ 自発的な排便回数が、週に3回未満である
2.「慢性」の基準
6か月以上前から症状があり、最近3か月間は上記の基準を満たしていること

小児の慢性機能性便秘症の診断基準(小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン)
Neonate/Toddler
4 歳未満の小児では、以下の項目の少なくとも 2 つが 1 か月以上あること
1.1 週間に 2 回以下の排便
2.トイレでの排便を習得した後、少なくとも週に 1 回の便失禁
3.過度の便の貯留の既往
4.痛みを伴う、あるいは硬い便通の既往
5.直腸に大きな便塊の存在
6.トイレが詰まるくらい大きな便の既往
随伴症状として、易刺激性、食欲低下、早期満腹感などがある。大きな便の排便後、随伴症状はすぐ に消失する。
乳児では、排便が週 2 回以下、あるいは硬くて痛みを伴う排便で、かつ診断基準の少なくとも 1 つ がある場合、便秘だとみなされる。
Child/Adolescent
発達年齢が少なくとも 4 歳以上の小児では、以下の項目の少なくとも 2 つ以上があり、過敏性腸症 候群の基準を満たさないこと
1.1 週間に 2 回以下のトイレでの排便
2.少なくとも週に 1 回の便失禁
3.便を我慢する姿勢や過度の自発的便の貯留の既往
4.痛みを伴う、あるいは硬い便通の既往
5.直腸に大きな便塊の存在
6.トイレが詰まるくらい大きな便の既往
診断前、少なくとも 2 か月にわたり、週 1 回以上基準を満たす

◇日常生活からの便秘対策
食物繊維…食物繊維が不足していると考えられる場合には、1日当たり成人男子20g以上、成人女性18g以上の摂取を推奨(両てのひらにのる野菜を毎食)。ただし、過剰摂取は逆に便秘の原因になります。
発酵食品…ヨーグルトなどの乳酸菌食品で腸内細菌のバランス改善効果。
水分摂取…水分不足の予防により効果が期待できる。朝起きたときの副交感神経が優位な際の飲水はより効果的だが、過剰摂取に気を付けます。
運動…運動による腸蠕動の活発化などの効果が期待できます。
マッサージ…1日15分のマッサージ(へそを中心に「の」の字を書くように)が有効です。温罨法と言って温めるのも有効で、入浴中などにも定期的に施行します。
排便姿勢…ロダンの考える人(かかとをあげ、両肘は太ももの上に置き、前傾姿勢になる)がいいとされますが、転倒しないように気を付けましょう。
排便習慣…毎日、排便がなくても定時に便器に座り、排便を試みることも有効です。
シャワートイレ…排便なくてもシャワートイレで肛門に刺激を与えることも有効です。

◇便秘薬(当院で使用している薬)
1. 浸透圧性下剤
・塩類下剤…酸化マグネシウム、マグミット、硫酸マグネシウム
腸管から吸収されにくい水溶性無機塩類で、浸透圧作用によって腸内容の水分を維持し、腸の蠕動も促進するWの効果。効果は早く1-2時間で有効とされ、習慣性が少なく、長期使用も可能(腎機能障害には注意)。
・糖類下剤…ラクツロース、モニラック、D-ソルビトール
消化されない非吸収性の糖類の作用で、浸透圧により水分を保持するだけでなく、腸内細菌によって変化し、腸を活性化します。
2. 刺激性下剤
・アントラキノン系…プルゼニド、アローゼン、センノシド
大腸粘膜を刺激して蠕動を起こさせ、排便を促す。服用後6-15時間かかって排便させるため、就寝前に服用する。連用により刺激性が低下する可能性があり、依存性もあるので、短期使用が勧められる。
・ジフェニール系…ラキソベロン、ピコスルファートナトリウム
液体で量が調節しやすく、飲みやすい特徴がある。
3. 直腸刺激剤
・ビサコジル坐薬…テレミンソフト
直腸粘膜を刺激して、排便反射を誘発する。
・炭酸水素ナトリウム配合剤…レシカルボン坐薬
肛門から挿入後、体温で温められて、炭酸ガスを発生し、直腸を刺激する。
・グリセリン浣腸
グリセリン液で直腸壁からの水分吸収に伴う刺激にて蠕動を促進し、また、便を軟化・膨潤させて糞便を排泄させます。
4. 漢方薬
大建中湯、麻子仁丸、大黄甘草湯、大承気湯、防風通聖散など
5. 合剤
セチロ(ダイオウ、センナ、オウレン、マグネシウム)

◇新しい便秘薬
・アミティーザ(ルビプロストン)1日2回朝夕食後内服
小腸上皮頂端膜に存在するClC-2クロライドチャネルを選択的に活性化することで、腸管内への水分分泌を促進し,糞便の腸管内輸送を高めて排便を促進するという全く新しい作用の便秘薬です。
・リンゼス(リナクロチド)1日1回朝食前内服
腸管の上皮細胞に存在するGC-C受容体に作用し、腸管内への水分分泌を促進し、小腸運動を活性化して、便通を改善します。また、神経線維に作用して、腹痛や腹部不快を改善します。
・グーフィス(エロビキシバット)1日1回夕食前内服
大腸内での胆汁酸の吸収を抑制することで、大腸内の水分分泌を増加し、胆汁酸の刺激で大腸運動を促進します。効果発現まで5時間以上かかります。
・モビコール(ポリエチレングリコール製剤)1日1-3回水に溶かして内服
ポリエチレングリコールが水分を保持することで、便通を改善します。即効性はなく、1週間くらいで効果が安定します。小児に使用しやすい安全な便秘薬です。
・スインプロイク(ナルデメジントシル)1日1回朝食後 モルヒネなどを服用している患者のみ
消化管のオピオイド(モルヒネなど)受容体に結合し、オピオイドの副作用である便秘をブロックします。効果発現まで5時間以上かかります。

新しい便秘薬は、従来の便秘薬と全く作用機序が異なるので、併用も可能です。当院では、小児の便秘から高齢者、がん患者の便秘まで対応しています。