Ⅱ. 栄養の基礎

名古屋記念病院 栄養サポートチーム
栄養マニュアル
II. 栄養の基礎

・ 栄養とは、「物質を取り入れて同化し、それにより組織を作り、エネルギーを産生する」という生物の生理機能を営むために備わった「機能」、さらにその取り入れる「物質」自体と定義される。生存、成長、活動、生殖などの生物の営む多くの生理機能も、同化と異化反応の組み合わせ、積み重ねであり、その材料として栄養基質が不足した状態を栄養不良と言う。
・ 栄養不良とは、摂取する栄養基質不足や需要増大などこれらの生化学反応過程に関わる障害により生じる病的状態と定義。

・ 生理機能の代表として生存、活動、成長などがあげられる。

・ 生存における重要なポイントは全ての臓器に栄養補給を行わければならないことであるが、特に全ての臓器機能を統御している中枢神経と、24時間休まずに全ての臓器に血液を送り続ける心臓を考える。中枢神経系の神経細胞はグルコースを中心に代謝しており、グルコース利用優先順位が高い。長期飢餓状態によってグルコースの供給が不可能になると、神経細胞自体の代謝がケトン体代謝に切り替わる。

・ 活動における重要なポイントは、神経・骨格筋活動で重要な膜興奮性細胞代謝に必要な電解質能動輸送にエネルギーが大量に必要なことである。また、筋組織の形態と機能維持のためには、タンパク質の新陳代謝がスムーズに行われる必要がある。

・ 成長における重要なポイントは、組織構築に必要な原材料としてのタンパク質、細胞膜成分の中心となる脂質、そしてその合成反応に必要なエネルギーである。

・ 5大栄養素の機能的分類

燃料源: 糖質、脂質、タンパク質(糖新生)

生体構成材料: タンパク質、脂質、カルシウム、糖質、核酸

生体反応調整成分: ビタミン、ミネラル

・ 栄養障害は蛋白異化が亢進している患者、エネルギー需要が増加している患者、栄養素の利用能が低下している患者、組織や臓器障害がある患者で特に進行しやすい。

・ 栄養障害が進行すると、組織・臓器の機能不全、創傷治癒遅延、感染性合併症の発生、原疾患の治癒障害ないしは悪化をもたらす危険がある。

・ 適切な栄養補給が健康を維持するための基本であり、身体の構成成分が正常に維持されることによってその機能を正常に発現できる。

・ 極度の栄養不良の場合、脳がグルコース代謝からケトン体代謝に変わり、それをシグナルとして代謝低下へと向かい、体温設定の低下や心拍数減少をきたす。

・ 新陳代謝の速度は、皮膚約28日、筋肉約60日(2倍)、骨約90日(3倍)だが、胃粘膜は約5日。

・ 除脂肪体重(LBM:lean body mass)の減少は予後と相関するとされ、30%低下すると、窒素死として筋肉量の低下と内臓蛋白の減少から免疫能に破綻をきたし、生体適応の障害から生命の危機となる。さらに、肝臓にて合成される機能性タンパク質も低下し、鉄や脂肪などの輸送担体としての機能が欠乏し、さらに栄養不良を増悪させる。

II-1. 三大栄養素

図14. 三大栄養素
三大栄養素とは、上図のように糖質、アミノ酸、脂質であり、それらの適正配分は糖質55〜60%、アミノ酸15〜20%、脂質20〜25%です。簡単に3:1:1と覚えましょう。
糖質(炭水化物) : 1日必要量 5〜7g/kg/日
糖質は、生体内でブドウ糖となり、血糖を維持するだけでなく、身体のほとんどの組織でエネルギー源としてとして作用しています。難しい話をすると、糖質は生体内でインスリンによる調節で解糖系と呼ばれる代謝経路を経て、最終的にTCA回路にてATP(アデノシン三燐酸)と呼ばれるエネルギーを産生することになります。肝臓、脳、赤血球などを除いた組織において、インスリンの作用のもとにこれらの代謝が行われています。特に、中枢神経系のエネルギー源はこの糖質のみであることに注意しましょう。
アミノ酸(蛋白質) : 1日必要量 1〜2g/kg/日
アミノ酸は、蛋白合成の素であり、内臓蛋白、筋肉蛋白、酵素やホルモンなどの合成に生体内で用いられます。投与されたアミノ酸は、他の栄養源が不足した状態では、エネルギー源として使用されてしまうので、十分な栄養バランスのもとに投与される必要があります。
脂質 : 1日必要量 0.3〜1g/kg/日
脂質は、燃焼効率の高いエネルギー源であるだけでなく、ホルモンやプロスタグランジンなどの合成や細胞膜の成分である必須脂肪酸の投与も必要です。血糖に影響を与えないエネルギー源としても重要です。
以下に絶食、飢餓時の体の反応を示します。

図15. 栄養分の飢餓時における体内消費

図16. 蛋白喪失に伴う病態
ブドウ糖は確かに体内最大のエネルギ−源ですが、ブドウ糖のみでは筋蛋白の崩壊は防げません。一般的に4日間以上の絶食状態が続くと重篤な体蛋白の崩壊をきたし、免疫能の低下を招くとされています。すなわち、体蛋白の25〜30%程度を失うと生命の維持も困難となり、死に至ることを「窒素死(NitrogenDeath)と呼びます。上記の蛋白喪失は、臨床的には非常に予後不良のサイクルです。例えば、筋肉量が減少すると運動ができなくなり、褥瘡ができたり、呼吸が弱くなって痰の喀出が困難になります。そこに感染が併発すると、さらに全身状態は不良となり、内蔵蛋白の減少に拍車がかかり、臓器不全が促進されてしまいます。
完全飢餓状態で、末梢よりブドウ糖を投与しても約50%の蛋白喪失効果しかないと言われています。例えば、6日間以上の絶食期間にて約20%に相当する筋蛋白が喪失するとされていますが、ブドウ糖をどれだけ投与しても6日間で10%、そのままだと約2週間で窒素死になってしまう計算になります。さらに、エネルギーや蛋白の需要が亢進するような侵襲が加わった場合には、さらに悪化してしまいます。従って、侵襲があって1週間以上絶食となる場合には、末梢からでもアミノ酸の投与(PPN、Peripheral Parenteral Nutrition)が必要となり、もし侵襲がない状態でも2週間以上の絶食が続くならPPNが必要となるのです。
また、栄養をたくさんいれようとしてのブドウ糖の過剰投与は脂肪肝が発生します。それを予防するには、脂肪投与を併用することです。すなわち、点滴や経腸栄養も食事と同じで偏らず、バランスよくということが大切なのです。
参考: 絶食と侵襲に対する代謝反応
・ 絶食による代謝反応はその病態によって異なる。
・ 短期の飢餓ではグルコース酸化が亢進し、長期の飢餓では脂肪分解、脂質酸化、ケトン体生成が亢進する。
・ 侵襲下反応ではタンパク分解、アミノ酸酸化、グルコース代謝回転の亢進が著明になる。
・ 侵襲下反応は、傷害期、異化期、同化期の3相からなるが、異化亢進により筋タンパクは減少する。
・ 人は貯蔵エネルギーを用い、エネルギー消費量を減少させることで、正常体組成の成人は3ヶ月間の飢餓に耐え、その結果、体重は40%減少し、BMIは男性10、女性11になる。
・ 短時間(72時間未満)の飢餓
インスリン低下とグルカゴン・カテコラミン分泌増加により、グリコーゲンと脂肪分解により骨格筋・心筋、腎臓、肝臓のエネルギー源となる。代謝率は初期に亢進し、2日目以降は減少する。
・ 長時間(72時間以上)の飢餓
インスリン分泌はさらに低下し、筋タンパクの異化によるアミノ酸、脂肪分解によるグリセロール、筋における嫌気解糖による乳酸から糖新生(Cori cycle)が行われてグルコースを供給する。
代謝率を10~15%抑制(活動量低下、活動性ホルモン分泌低下)
肝臓でのケトン体生成亢進により、神経・筋のエネルギーとして利用する(20%の脳のエネルギー)
筋タンパクの異化を3分の2に抑制
内臓、特に消化管機能の低下
* 肝臓・心臓・脾臓・膵臓重量30%↓、不安・うつ指数↑、骨格筋収縮力20%↓、心拍出量↓、腸管上皮のターンオーバー↓、消化液量↓
・ 侵襲下の飢餓
外傷、手術、敗血症などの侵襲下にある患者の飢餓は、飢餓への適応は生じない

干潮期(傷害期)

満潮期(異化期)
回復期(同化期)
・ 糖質代謝

グルコースの産生と代謝回転は平常時の150%に亢進
肝のグリコーゲン分解では、12~24時間の短時間しか供給できない。肝で乳酸やアミノ酸からの糖新生にて生成されたグルコースが利用される(乳酸回路:グルコース→乳酸ATP2分子、乳酸→肝で代謝ATP6分子

・ タンパク・アミノ酸代謝
ほとんどのアミノ酸は筋組織から供給される。特に、BCAAとグルタミンは有用なエネルギー源。
・ 脂質代謝
肝における糖新生の80~90%は脂肪酸化による。
・ ブドウ糖投与による体タンパク節約効果(飢餓時)
肝・筋肉のグリコーゲン分解
脂肪の分解(遊離脂肪酸のβ酸化)
タンパク質の分解(糖産生)
→糖質の投与でタンパク質の異化抑制(100g/日のブドウ糖投与で約50%の抑制)
ブドウ糖投与による体タンパク節約効果(侵襲時)
エネルギー需要の増加
タンパク質の異化亢進
糖質投与の身では、タンパク異化抑制は不可能
アミノ酸から糖新生
→糖質、脂質(エネルギー源)とアミノ酸の投与必要
* 同化と異化
・ 栄養とは、栄養素を消化吸収し、体構成成分に合成し(同化:アナボリズムanabolism)、また分解(異化:カタボリズムcatabolism)してエネルギーを得る過程と定義できる。
・ エネルギー回路
栄養素の酸化 →水素発生 →ミトコンドリアの電子伝達系 →ATP産生(代謝水)
クエン酸回路(TCAサイクル、トリカルボン酸サイクル)にて、補酵素NADHとFADH産生 →ATP産生に関与
・ 同化
グルコースはグリコーゲン合成され、肝臓に72g(300kcal)、筋組織に245g(1000kcal)貯蔵
血糖維持には、主に肝臓のグリコーゲン利用(12~18時間の絶食で枯渇)。次にタンパク質を異化して利用する。
筋組織のグリコーゲンは、筋組織の解糖(エネルギー産生)に利用
脂肪組織は10万kcal貯蔵、過剰な糖質は脂肪酸合成に向かう
タンパク質には、予備はない(体タンパクが全て燃焼すると25000kcal)
・ 異化
すべての栄養素はアセチルCoAに代謝され、クエン酸回路にてATP(エネルギー)産生
炭素・・・肺から二酸化炭素として排出
水素・・・水分として尿から排出
窒素・・・肝臓で尿素回路により尿素へ、腎から尿中へ排泄
*ココでちょっと一息
ちなみに三大栄養素以外にもっとエネルギ−になるものにアルコ−ルがあり、アルコ−ル1gにつき7kcalのエネルギ−を発生します。それではアルコ−ルを飲むと太るのかというと、アルコールの場合すべてが有効な熱源になるのではなく、その30%は摂取したその場で燃焼したり捨てられたりしています。誰もが経験することですが、アルコールを飲むと顔が赤くなり、心臓がドキドキして身体が熱くなります。要するに平常時よりも熱の放散が増え、酸素消費量 が増加します。したがって純アルコール1グラムのエネルギーは7キロカロリーではなく5キロカロリーと計算するのが妥当とされています。しかし注意しなければならないのは、ビール、日本酒、ワインにはアルコールのほかに少量ではありますが糖分と蛋白質も含有していますので、これも計算にいれる必要があります。しかもアルコールは食欲増進作用がありますので、いつもより食が進みます。また、内臓脂肪の蓄積の増進も報告されています。要するに、ビールやお酒を飲むと肥るというのは事実のようです。
厚生省が推進している21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)によると適度な飲酒量 は1日平均純アルコールで約20g程度だそうです。純アルコール20gをお酒の種類で換算するとビール 中瓶1本(500ml)、清酒1合(180ml)ウイスキーまたはブランデーダブル1杯、ワインボトル3分の1(240ml)、焼酎(35度)は3分の1合(60ml)です。ではこれらのお酒のカロリーはどのくらいでしょうか。
・ ビール(中瓶、500ml) 200Kcal (約ご飯 1杯ちょっと)
・ 清酒 (一合、180ml) 196Kcal  (約ご飯 1杯ちょっと)
・ ウイスキー(ダブル一杯) 142Kcal  (約ご飯 1杯)
・ ワイン (一杯)  88Kcal  (約ご飯 0.5杯)
・ 焼酎(一杯、3分の1合) 124Kcal  (約ご飯 1杯弱)
ダイエットするなら、アルコ−ルの分も勘定しないといけませんね。

II-2. 糖質

栄養管理に使用される糖質には上記のものがありますが、体内の栄養源の基本はブドウ糖の代謝産物であり肝臓や筋肉に貯蔵されるグリコ−ゲンです。特に、脳(神経)と赤血球などでは唯一のエネルギ−源でもあります。以下に、各糖質の利点・欠点を挙げます。
表6. 糖質の種類

(図をクリックで拡大)
果糖(フルクト−ス): 果物や砂糖の成分として日常摂取している糖質であるが、血液中にはほとんど存在しない。投与された果糖は、主に肝臓で代謝され、血液中からの消失はブドウ糖よりも早い。各組織への取り込みはインスリンに依存せず、また、血糖にほとんど影響を及ぼさないため、糖尿病患者の糖質補給に有効。血中乳酸値が上昇しやすいので乳酸アシド−シスに注意。高尿酸血症にも注意が必要。
ソルビト−ル: 果糖の糖アルコ−ルで、肝で代謝されて果糖とマンニト−ルになるため、利尿作用がある。ソルビト−ルの代謝は果糖より遅いため、尿中排泄が多い。溶解時に清涼感があるため、食品添加物として使用される。腎でのシュウ酸結石の形成や乳酸アシド−シスの危険性がある。
キシリト−ル: 食品中に存在するD-キシロ−スの糖アルコ−ルで、インスリン依存性がなく、ペント−スリン酸回路を経て肝臓で代謝される。このため、核酸や赤血球の合成に関与し、血糖値の上昇がない。虫歯予防の甘味料としてよく知られている。肝機能に負担をかける可能性があり、肝障害患者には注意を要する。高尿酸、乳酸アシド−シスの合併もある。単独ではエネルギー源となりえないが、グルコースとの併用で解糖系が円滑になるとされ、TPN製剤のアミノトリパやトリパレンはブドウ糖、フルクト−ス、キシリト−ルを4:2:1配合(GFX)されており、これらの合併症に気をつけなければならない。
マルト−ス: ブドウ糖が2個結合した二糖類で、体内でマルタ−ゼという酵素によってブドウ糖となって利用される。したがって、ブドウ糖と同量の投与で2倍のエネルギ−が投与できる計算になるが、実際には人体ではマルタ−ゼ活性が低いため代謝が遅く、投与速度が速いとほとんど尿中に排泄されてしまう。インスリンに依存性がなく、血糖値の上昇も少ない。
その他:
グリセロ−ル: 単糖類アルコ−ル(3炭糖)で、体内でグリセリンとアルコ−ルに分解される。脳浮腫治療薬と使用されるが、生食と同じNaCl(154mEq/l)を含有するために高Na負荷に注意を要し、マグネシウム(Mg)の低下や溶血、腎不全などにも注意が必要。また、利用率80%でエネルギ−を供給するので、血糖管理にも注意が必要。
マニト−ル: 単糖類アルコ−ルの1種で、昆布の甘みのもとであり、乾燥昆布の表面の白い粉です。アイスクリ−ムの増量剤もこれです。臨床的には血管内ボリュ−ムの上昇、血液粘調度の低下、脳浮腫予防に利用される。生化学的には不活性で全て尿に排泄されるため、エネルギ−源にはならない特徴があります。
乳糖(ラクト−ス): 2糖類の仲間で、腸粘膜のラクタ−ゼという酵素にて、グルコ−スとガラクト−スに分解され、吸収される。ちなみにガラクト−スも単糖類でエネルギ−源となりますが、酵素欠損症もあり、注意が必要です。経腸栄養の成分になります。
ショ糖(スクロ−ス): 2糖類の仲間で、腸粘膜のスクラ−ゼ(サッカラ−ゼ)により、グルコ−スとフルクト−スに分解され、吸収されます。経腸栄養の成分になります。
デンプン: 代表的多糖類で、理科の実験でもおなじみのデンプンです。多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子であり、唾液中のα-アミラ−ゼにてデキストリンとマルト−スに分解されます。
デキストリン: デキストリンとはデンプンが分解されて生成される多糖類で、腸粘膜中のイソマルタ−ゼにてグルコ−スに分解されます。栄養学的にはジャガイモのデンプン質を加工してつくられたD-グルコ−スを主成分とした食物繊維(多糖類)で水溶性です。腸内で食べ物の水分を取り込んで”ゲル化”するという特性があります。デキストリンは、安全性のみでなく、低粘性、低甘味、熱および酸に対する安定性、保存性などの物性にも優れているために広範囲の食品への応用が可能です。また、生理作用についても確認されており、整腸効果、インスリンの分泌を抑え血糖調節効果、ダイエット効果などもあります。最近はビ−ルにも含有した製品も発売されました。多くの経腸栄養剤の主糖質成分です。
セルロ−ス: 多糖類のセルロ−スは直鎖グルコ−ス多糖体で植物の細胞壁の成分であり、食物繊維とよばれるものの主成分です。セルロ−スは食物中に含まれていますが、消化しにくく、エネルギ−源としての利用はできません。消化管機能の維持や腸粘膜の保護、腸内細菌の活性化に有効です。他にフラクトオリゴ糖や大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などもあります。
* 糖質の吸収と利用
肝臓はグルコースの血中濃度を調節するという基本的な代謝機能を持ち、グリコーゲンに転換するか(グリコーゲン合成、glycogenesis)、脂肪に転換合成する(脂肪合成、lipogenesis)。
単糖類・・・グルコース(ブドウ糖)、フルクトース、ソルビトール、キシリトール、リボース(核酸成分)
*グルコースは全身で代謝され生体内で主に機能しており、特に脳・中枢神経系では唯一のカロリー源である。成熟赤血球にも必須。代謝上インスリンが必要。
*フルクト-ス:糖尿病時の糖質補給に用いられるが、乳酸アシド-シスや高尿酸血症の可能性あり。
*ソルビト-ル:脱水酵素によりフルクト-スとマンニト-ルに分解され、主に利尿作用を有する。乳酸アシド-シスや腎シュウ酸結石の合併あり。
*キシリトール:肝障害に注意。乳酸アシドーシスや高尿酸血症の可能性もある。
二糖類・・・マルトース、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)
*マルトース:加水分解により2分子のグルコ-スになるが、代謝速度が遅く血糖値に影響を与えることが少ない。
*スクロース:フルクトース+グルコース
*ラクトース:グルコース+ガラクトース
小糖類(2~10分子の重合体)・・・オリゴ糖など(本来は二糖類も含む)。
多糖類(10分子以上?の重合体)・・・セルロース、デンプンなど(ハンドブックには小糖類の分類がなく、オリゴ糖も含む)
・ グリコ-ゲン:炭水化物は吸収されると主に肝臓にグリコ-ゲンとして貯蔵され、体内エネルギ-や骨格筋の収縮に使用される。
解糖(glycolysis)
・ グルコースを代謝してアセチルCoAに変換し、クエン酸回路(TCAサイクル)にてエネルギー産生(ATP、アデノシン三リン酸)を行うこと。
好気的解糖・・・酸素のある状態でミトコンドリアを中心にピルビン酸を最終産物として、アセチルCoAからATP産生
グルコース1分子あたり38分子のATP
嫌気的解糖・・・赤血球などのミトコンドリアを欠く細胞や酸素不足の状況で、乳酸を最終産物としてATP産生
グルコース1分子あたり 2分子のATP
*  糖新生(gluconeogenesis)
・ 糖の供給・・・グリコーゲンの分解、食事、糖新生(筋タンパク分解による糖原性アミノ酸と脂肪分解によるグリセロール)
* 肝のグリコーゲンは半日で枯渇する(特に、肝障害患者)。
・ 絶食の間の糖新生は90%が肝臓で10%が腎臓、絶食が長引くと腎臓40%まであがる。
・ 糖新生はインスリン、グルカゴン、糖質コルチコイド、成長ホルモン、アドレナリンが調節。
*ここでちょっと一息
水溶性食物繊維: 小腸での栄養吸収を緩やかにすることによって、血糖値やコレステロールの上昇を抑制します。大腸菌に働き、プレバイオティクスとしての効果もあり、腸内細菌を整え排便をスムーズにします。
ペクチン(果実)、グアーガム、オリゴ糖、グルコマンナン(こんにゃく)、フコダイン(海草)など
不溶性食物繊維: 吸収力が強いため、便や腸内の有害物質を吸収して対外に排出する働きがあり、腸の動きを活発化して便秘にも効果がある。
セルロース、グルカン(きのこ)、キチン(甲殻)など

II-3. アミノ酸

アミノ酸は窒素(N)を含み、それらがペプチド結合してポリペプチドとなり、さらに三次元結合すると蛋白質になります。多くの栄養の教科書では蛋白質、アミノ酸、窒素という言葉がたくさんでてきますが、ほぼ混同して用いている場合もあるので注意してください。蛋白質は私たちの体の臓器や筋肉、ホルモンや酵素を形成する重要な成分で、体重の約20%を占めます。自然界ではおよそ500種類のアミノ酸が発見されていますが、このうち20種類のアミノ酸の組み合わせで、10万種類にもおよぶ蛋白質が構成されています。私たちが肉、魚、穀物などを食べると、その蛋白質は20種類のアミノ酸に分解され、私たちのカラダの中で再び、蛋白質、すなわち体蛋白に組み換えられます。その際、12種のアミノ酸は他のアミノ酸から体内で合成して不足を補うことができますが、残る8種類は食事から摂取することが不可欠です。このように体内で合成できないものを必須アミノ酸、合成できるものを非必須アミノ酸とよんでいます。非必須アミノ酸という呼称は誤解を与えやすいのですが、私たちの生命活動にとってむしろ必須であるからこそ、体内での合成能力が進化の過程で保存されたものとも考えられます。体内では、蛋白質に再合成されたアミノ酸のほかに、細胞や血液中などに蓄えられているアミノ酸もあります。これらは遊離アミノ酸とよばれます。実際、非必須アミノ酸を含む多くの遊離アミノ酸は私たちの生体を維持するために、きわめて重要な役割を担っています。
タンパク質は、生体の主要な有機生体分子であり、さまざまな機能を担う。
触媒、酵素などの輸送・貯蔵、免疫防御、神経インパルスの伝達、組織の支持、細胞の増殖分化など
タンパク質はアミノ酸がペプチド結合し、高次構造を形成したものである。
人体の乾燥重量の3/4をタンパク質が占める。
タンパク質の構成単位はアミノ酸であり、アミノ酸は縮合してペプチドとなる。アミノ酸2個でジペプチド、3個でトリペプチド、数個でオリゴペプチド、多数でポリペプチドと呼ぶ。タンパク質は100個以上のアミノ酸がペプチド結合して。ポリペプチド鎖を形成。1g→4kcal

アミノ酸には、必須、条件付き必須、非必須があり、また構造による分類がある、。
アミノ酸・タンパク質の同化と異化の過程の理解は重要であり、それはタンパク質の異化亢進により除脂肪体重の減少を招き、全身臓器の機能障害を生じて窒素死に至るからである。
アミノ酸は分解され尿素として尿中に排泄され、投与された量と排泄量から窒素平衡を評価することができる。生物に標準的なアミノ酸は全20種類。

必須アミノ酸(生体内では合成されず補給が必要) 9種類
バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、ヒスチジン
* 条件付き必須アミノ酸    アルギニン、グルタミン
非必須アミノ酸(生体内で産生可能) 11種類
アラニン、チロシン、アスパラギン酸、アスパラギン、(アルギニン)、グルタミン酸、システイン、(グルタミン)、グリシン、プロリン、セリン
*小児では、アルギニンは必須
*分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン(タンパク質合成促進と筋タンパク崩壊抑制効果
栄養管理におけるアミノ酸の役割は、体蛋白の喪失がないように糖質などとともに充分量のアミノ酸の補給をおこなうことです。例えば、手術や感染など体にストレスがかかっていれば、組織の修復などのために、多くのアミノ酸が必要となり、これらが栄養だけでなく予後の改善にも有効性が証明されています。しかし、充分量のアミノ酸が投与されないと、投与したアミノ酸はエネルギ−として消費されてしまい、蛋白質として合成できないのです。
このため、ストレス下のアミノ酸必要量のガイドラインが提案されています。以下に当院におけるストレスの度合いに応じた必要量を示します。ただし、アミノ酸の投与速度は0.1g/kg/時間以下にしないと、悪心・嘔吐をきたすので注意が必要です。
ストレス・レベル       なし         中等度           極度

カロリ− / 窒素      150超      100から150        100未満
蛋白質 / 総カロリ−  15%未満      15〜20%          20%超
蛋白質 / 体重    0.8g/kg/day    1.0〜1.2g/kg/day   1.5〜2.0g/kg/day
アミノ酸の投与量のもうひとつの目安として、非蛋白熱量/窒素比があります
(non-protein calorie/nitrogen : NPC/N)。これは投与されたアミノ酸以外の栄養素(糖質+脂肪)から計算されるエネルギ−量(kcal)を投与アミノ酸に含まれる窒素量(g)でわった比のことです。先に述べたように、アミノ酸は十分なエネルギー投与がなければ、いくら投与してもエネルギー源として消費されてしまい、蛋白質が合成されません。つまり、アミノ酸が有効に蛋白質に合成されるために必要な指標として、必要エネルギ−に対してどれくらいの窒素(アミノ酸)を最低投与しなければいけないのかを表します。例えば術後などのストレス下では、この比が150〜200、すなわちアミノ酸含有窒素量の150〜200倍のエネルギ−があれば蛋白合成が順調に行われるということが証明されています。また、特殊な病態下で、例えば腎不全の患者さんは窒素の排泄が悪くBUN(尿素窒素)が高いため窒素の投与量が制限され、さらに蛋白代謝の亢進を改善するために一般の人よりやや高めのエネルギ−投与が必要とされていることから、NPC/N比は300〜500にもなります。当院のTPN製剤もこれらを考慮して作成されています。

図18. アミノ酸の投与効果
アミノ酸は蛋白質合成の素材であるほかに、ホルモンなどの体内での重要生理活性物質の前駆体となるものがあります。以下に代表的なものをあげます。
ヒスチジン → ヒスタミン(神経、アレルギー)
フェニルアラニン → 甲状腺ホルモン、カテコールアミン(神経、血管)
トリプトファン → セロトニン(腸管、神経)、松果体ホルモン
また、最近では投与するアミノ酸の成分も考慮され、肝不全治療に用いられていた分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid : BCAA)であるロイシン、イソロイシン、バリンの含有率の高いアミノ酸製剤のほうがストレス下の蛋白合成に有用であるとされ、臨床的に使用される輸液はほとんどがBCAAの含有率が30%近くなっています。また、腎不全用のアミノ酸製剤としては、腎不全時の特殊なアミノ酸代謝に対応して、アルギニンを増量、メチオニンを減量したものが使用されています。
* アミノ酸の投与は気をつけましょう!
アミノ酸の投与において化学反応に気をつける必要があります。
酸化反応: 空気中の酸素、過酸化水素水やビタミン剤に含まれる酸化剤などと反応して、 システィンやトリプトファンなどのアミノ酸が変化します。
メイラード反応: アミノ酸と糖が反応して、メイラード化合物を生成し、褐色化することです。そのため、アミノ酸と糖を別々のダブルバックにするか、pHを低く調整してあります。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)とは、下図のように枝分かれしたような分子構造をもつ必須アミノ酸で、他のアミノ酸と異なって主に筋肉で代謝される特徴があり(他は肝臓)、糖新生や筋蛋白代謝、肝性脳症の予防に効果が実証されており、臨床応用だけでなく栄養飲料としても使われています。

図19. 分岐鎖アミノ酸
(図をクリックで拡大)
BCAAの効果:
① 筋肉、脳でのエネルギー源、蛋白合成 → 蛋白分解抑制
② 主に筋肉で代謝(他のアミノ酸は肝代謝)
③ アラニンとなり、糖新生に利用
④ 肝性脳症の予防
⑤ 免疫能強化
その他のアミノ酸の効果
* グルタミンは免疫細胞や消化管細胞のエネルギ−補給と恒常性の維持や修復に関与し、骨格筋や肝臓で蛋白代謝のもとになっている。ストレス下で欠乏することがわかっているため、重症患者には条件必須アミノ酸とされる。
・ 侵襲時に筋肉から大量に合成、放出され、腸や免疫担当細胞の主要な
エネルギーとなる
・ 腸管バリア機能の維持(バクテリアル・トランスロケーションの予防)
・ 免疫能の増強(リンパ球、マクロファージ、好中球、腸管免疫組織など)
・ 蛋白質代謝の改善
* アルギニンも免疫や創傷治癒に関係しており、その投与による臨床的効果が期待されている。
・ 成長ホルモンやプロラクチン、インスリンなどのホルモンの分泌増加による
免疫賦活、創傷治癒の促進
・ リンパ球や免疫組織の賦活
・ コラーゲン合成の賦活
・ 一酸化窒素(NO)の前駆物質であり、増加による組織循環や免疫能の改善
* タウリンは細胞の安定、神経調節、カルシウム代謝や肝臓の解毒作用に関連しており、ストレス下での欠乏が指摘されている。
*アルギニンは免疫細胞の支援、創傷治癒の促進、ストレス下の窒素貯蔵の強化が必要とされており、栄養不良やストレス下の患者には補給が必要とされている。
重要キーワード:
* muscle-liver fuel system
生体に侵襲が加わると、損傷された組織を修復しようとして、筋タンパク質を壊してグルタミンやアラニンなどのアミノ酸が動員されて、肝臓で糖新生に利用されると同時に組織タンパクの合成に使用される。
* gut-glutamine cycle
腸管のグルタミンはアラニンに転換され、肝臓にて糖新生からエネルギー基室として利用される。
* 除脂肪体重(Lean body mass:LBM)は、体重から体脂肪を引いた値で、骨格筋、骨、内臓の重量を表す。LBMの減少は、筋肉量の減少、アルブミンなどの内臓タンパクの減少、免疫能の障害、創傷治癒遅延、臓器障害、生体適応の障害を引き起こし、70%以下となると窒素死(nitrogen death)となる。
* protein sparing effect
栄養投与により、飢餓状態でのタンパク異化亢進を抑制して、タンパクを節約すること。
* 尿素回路・・・有利アンモニアをグルタミンとカルバモイルリンに変換して無害にし、排泄しやすい形に転化する。
* ここでちょっと一息
Immunonutritionって知ってますか?
近年、患者の生体防御能を改善し感染症を予防する栄養法として免疫賦活栄養法(Immunonutrition、イムノニュートリション)が注目され、外科手術やICU管理に導入され効果をあげています。海外での多くの大規模臨床試験にて、手術患者の感染症などの合併症の減少、在院日数の短縮、死亡率の軽減、医療費の削減が示されています。その歴史は、1970年代にChandraによって栄養は免疫能の維持に不可欠であるとの報告にはじまり、80年代にアルギニン、ω-3系脂肪酸、核酸、グルタミンなどの栄養成分の生体防御機能への効果が明らかにされ、90年代に臨床試験にてその効果が証明され、2002年に日本でも正式に経腸栄養剤インパクト(味の素)として導入されました。現在はグルタミンを強化したイムン(テルモ)もあります。
参考:肝臓で合成される機能性タンパク質
アルブミン・グロブリン           膠質浸透圧維持
アポ・リポタンパク             脂質輸送担当

トランスサイレチン              甲状腺ホルモン輸送担体

レチノール結合タンパク          レチノール輸送担体

トランスフェリン            鉄輸送担体
コリンエステラーゼ          アセチルコリン分解
プロトロンビン・フィブリノーゲン    血液凝固
CRP                 創傷治癒
尿素                  アンモニア処理、窒素排泄

II-4. 脂肪

脂肪投与の目的は、効率のよいエネルギ−補給とともに必須脂肪酸の補給です。効率のよいエネルギ−源という意味には、1gで9kcalという糖質の約2倍の燃焼効率と高血糖予防、インスリン分泌抑制による脂肪肝の減少があります。脂肪を多く投与するほうが脂肪肝になると誤解されることが多いのですが、糖質の過剰投与のほうがより脂肪肝を合併します。もちろん、脂肪の過剰投与は結果的に脂肪滴の肝臓内への取り込みにつながり肝障害となりますが(肝細胞のなかには取り込まれませんので脂肪肝とは呼びません)、投与量と投与速度を守れば安全です。また、脂肪は燃焼してエネルギ−を発生した後の二酸化炭素の発生が糖質より少なく、呼吸不全の患者に多く投与することが可能です。これらの特徴を利用した糖尿病患者用、慢性呼吸不全患者用の脂肪成分の多い(40〜50%含有)経腸栄養剤も発売されています。
図19. 脂肪酸の種類
・ 脂質は、生体の主要なエネルギー源であり、また生体膜の疎水性構造を形成する。
・ 脂肪酸には、短鎖・中鎖・長鎖が、また飽和・不飽和脂肪酸、必須脂肪酸であるn-6系、n-3系多価不飽和脂肪酸という種類がある。
・ 生体膜リン脂質から形成されるエイコサノイドは局所ホルモンとして生体機能調節を行う。
・ 脂肪酸は生合成と酸化によりエネルギーの貯蔵と供給に使われる。
・ コレステロールの合成と分解、また脂肪乳剤の代謝を理解する。中鎖脂肪は吸収が容易でカルニチンに依存せずに代謝される。
短鎖脂肪酸(炭素数が6個以下)
腸内細菌による難消化性糖類の代謝産物で、大腸粘膜上皮細胞の主要なエネルギー基質である。
中鎖脂肪酸(炭素数が8-12個) MCT:middle chain triglyceride)
エネルギー1g→8kcal
代謝速度が速い
カルニチン非依存性
組織への蓄積が少ない
感染防御能や網内系への影響が少ない
投与速度と投与量によって毒性が発現(LCTとの併用で軽減)
* 必須脂肪酸(体内で合成されず補給必要)
リノール酸 アラキドン酸
αリノレン酸 →エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)
必須脂肪酸とはリノ−ル酸、α−リノレン酸、アラキドン酸のことをいい、必須アミノ酸と同様に体内で合成することができず、食物から供給されなければならない脂肪酸のことです(アラキドン酸はリノール酸より体内で合成されます)。これらは2週間で欠乏するとされ、細胞膜の構成成分だけでなく、体の維持に必要なプロスタグランジンなどの酵素の成分であり、必須脂肪酸欠乏症という成長障害や皮膚病変、免疫能の低下を合併します。したがって、脂肪投与の目安は2週間以上の絶食または摂食不良となります。しかし、実際の臨床の場では、末梢より投与できる高カロリ−輸液に準じる方法として、その燃焼効率を重視して使用することが多いです。すなわち、高濃度糖加維持液と併用することによって1日1000kcalのカロリ−投与も末梢から可能となるからです。
脂肪はグリセリン(糖)と脂肪酸がエステル結合したもので、一般的には3個ずつ結合してトリグリセリド(中性脂肪)と呼ばれます。脂肪、脂質に関する説明は、グリセリンは全て共通するため、脂肪酸の形態で表されます。
① 飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸
脂肪酸の中に二重結合をもつものを飽和脂肪酸、もたないものを不飽和脂肪酸と分類します。一般的に飽和脂肪酸は動物性脂肪(バタ−、チ−ズ、肉の脂身、魚油など)、不飽和脂肪酸は植物性脂肪(サラダ油、オリ−ブ油、ゴマ油など)に多いとされています。ただし、一部例外もありますので注意してください。一般的には、動物性脂肪は俗に言う「悪玉コレステロ−ル」であるLDLコレステロ−ルを増やし、植物性脂肪は減らすと言われています。したがって動脈硬化の予防には動物性脂肪を減らして植物性脂肪を増やすよう指導されていましたが、最近では植物性脂肪のとりすぎは「善玉コレステロ−ル」を減らすとの報告や、マ−ガリンなどに含まれるリノ−ル酸の取りすぎはかえって動脈硬化を促進するなどの報告もあります。また、魚油には不飽和脂肪酸も多く、動脈硬化に効果のあるEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)もあり、適度な植物性と動物性脂肪の摂取が動脈硬化の予防にはよいようです。
・ 飽和脂肪酸 S (二重結合をもたない)一価不飽和脂肪酸 M (二重結合が1個) 多価不飽和脂肪酸 P (二重結合が2個以上)
* S:M:P=3:4:3、n-6:n-3=4:1が推奨
② 長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸
脂肪酸の炭素数が14以上を長鎖脂肪酸(LCT: long chain triglyceride)、13以下を中鎖脂肪酸(MCT:
medium chain triglyceride)と分けられます。これは臨床的には、その分解・吸収過程が異なることから重要です。
表7. LCTとMCTの比較
MCTはLCTに比較して腸からの吸収が早いだけでなく、血液内から門脈を経て肝臓に運ばれた後も肝臓での代謝が早く、敗血症や肝機能低下の時に欠乏しやすいカルニチンという酵素を必要としない利点がある。また、LCTは感染防御や免疫系に負荷がかかるがMCTは影響が少なく、また組織への蓄積傾向や臓器障害のもととなる脂質過酸化反応も少ないためより安全に投与できます。ただし、脳脊髄液中に移行しやすく、投与速度が速いと神経障害や運動障害が起こることがあるので注意が必要です。現在、MCTの点滴用製剤はありませんが、経腸栄養剤にはLCT+MCTの製剤はあります。
③ 今話題のω(オメガ)系*不飽和結合がメチル炭素(n炭素)から何番目・・・n-3系、n-6系
ω3系:αリノレン酸→EPA(エイコサペンタエン酸)→DHA(ドコサヘキサエン酸)
ω6系:
リノール酸→アラキドン酸
* 日本人に推奨されるω3 / 6比     ω3 : ω6 = 1 : 4
上図のように、αリノレン酸、リノ−ル酸の動物の体内での代謝経路をそれぞれ、ω3、ω6系と呼ばれます。動物の体内では、それぞれが独立しているため、元になる脂肪酸は最低限バランスよく摂取する必要があります。最近では、前述のようにω3系に動脈硬化やアレルギーの予防効果だけでなく、免疫系の賦活や血栓の予防にも効果があることから、投与する脂肪の構成においてω3系/ω6系の比が重要とされています。
脂肪乳剤(イントラファット)は、大豆油に乳化剤として卵黄レシチン、等張化剤としてグりセリンを使用して浸透圧を血漿と同じに調節され、リノ−ル酸54%、オレイン酸24%、パルミチン酸12%、リノレン酸8%、ステアリン酸2%を含有しています。すなわち、長鎖脂肪酸のみから構成されており、必須脂肪酸であるリノール酸とリノレン酸を半分以上含有しています。植物油そのものからできていますので、血管内に投与された段階で人工脂肪粒子となり、血液内を運搬されて肝臓に達して代謝されますが、代謝できないものは異物として肝臓の免疫担当細胞(網内系)に取り込まれます。従って、適正な量を代謝可能な適正な量だけ投与されないと合併症が発生します。簡単に説明すると、脂肪乳剤というのは血管内に大豆油を投与していることになります。ですので、脂肪乳剤投与中の患者に採血を行うと、血漿内に油が浮いているのです。

図20. 脂肪乳剤の体内代謝経路
脂肪製剤の至適投与速度は、0.1g/kg/時間で20%イントラリピッド100mlの場合には、体重50kgの患者で25ml/時間(4時間)、肝障害や敗血症などの慎重投与の場合0.8g/kg/時間(20ml/時間、5時間)となります。脂肪乳剤の投与最大量は、成人2.0g/kg/ 日(体重50kgの場合に10%イントラリピッド200ml5本)、小児4.0g/kg/ 日(体重10kgの場合に10%イントラリピッド200ml2本)までであり、一般に総必要カロリ-の30%までが限界です。脂肪乳剤の過量投与による副作用は、溶質のレシチンによるリン脂質の過剰であり、10%よりも20%などの濃度の濃い製剤が推奨されています。
* 脂肪乳剤は脂肪肝を発生させるというよりは、糖質の過剰投与による脂肪肝や膵手術後の膵ホルモンの不均衡による脂肪肝に対して逆に改善効果があります。前述のようにこれは多くの人が誤解しています。脂肪乳剤は免疫低下や急性感染症時、急性肝障害・肝不全、急性膵炎には禁忌です。さらに、高脂血症、脂肪塞栓、血液凝固障害、溶血、肝機能障害に気をつけて投与する必要があります。
・ 脂肪酸の生合成は過剰なグルコースやピルビン酸、乳酸、アセチルCoAなどの中間代謝産物を脂肪に変換することで、脂肪酸の酸化はβ酸化によってATPを生成することである。脂肪酸の酸化が非常に速い場合には、肝ミトコンドリアでケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が生成され、血中に流れて肝外組織のエネルギー基質として利用する。
・ コレステロールはアセチルCoAから生成され、胆汁中に排泄される。コルチコステロイド、性ホルモン、胆汁酸、ビタミンDなどの体内のステロイドの前駆体であり、細胞膜やリポタンパク質の外層の構造に使われている。
* 必須脂肪酸欠乏とは?
絶食患者では2週間脂肪乳剤の投与がなければ、体内で合成されない必須脂肪酸が欠乏します。その症状としては、以下のものがあり、注意が必要です。
・ 皮膚の硬化、肥厚や落屑(カサカサ)など
・ 脱毛
・ 成長傷害
・ 創傷治癒傷害
・ 貧血、血小板減少 など
* エイコサノイド(炭素数20個の化合物で、アラキドン酸カスケード代謝産物)
プロスタグランジン(PG)群・・・血小板凝集抑制、末梢血管拡張、免疫能、cAMPレベル上昇
トロンボキサンA2(TXA2)・・・血小板凝集、平滑筋・気管支収縮
ロイコトリエン(LT)群…好中球・好酸球走化性上昇、平滑筋・気管支収縮、微小循環漏出
その他、血小板活性化因子(PAF)、アナンダミドなど
・ エイコサノイドは、炭素数が20であるポリエン脂肪酸由来の物質である。これらエイコサノイドは主にアラキドン酸、エイコサペンタエン酸などから生成される。つまり、必須脂肪酸から作られる。エイコサノイドはこれらの物質から生成される物質の総称であり、プロスタグランジン(PG),トロンボキサン(TX),ロイコトリエン(LT)がある。アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(COX)が反応し、これをもとにプロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TX)が合成される。また、アラキドン酸にリポキシゲナーゼ(LyX)が反応し、これをもとにロイコトリエン(LT)を合成することができる。このようにアラキドン酸をもとに、さまざまな反応が滝(カスケード)のように起こることで物質を合成する。そのため、このような反応をアラキドン酸カスケードと呼ぶ。

II-5. TPNとPPN


図21. 栄養補給のアルゴリズム
(図をクリックで拡大)
TPN(Total Parenteral Nutrition、完全静脈栄養法)とは、必要な栄養素を全て経静脈的に与える完全静脈栄養法のことで、中心静脈栄養法とも言います。消化管が利用できなくて2週間以上の栄養管理が予想される場合に適応となります。欧米では感染などの合併症率が高く、可能な限り回避すべき栄養法との位置づけになっていますが、日本でもNST管理を施行している病院では、TPNの適応をより厳密にして合併症を予防しています。TPNはこれまで勉強した三大栄養素をうまく配合して、中心静脈という太い血管から投与することによって栄養状態を維持または改善する方法で、臨床の現場ではIVH(IntraVenous Hyperalimentation、経静脈的な高カロリー栄養)やCV(Central Venous、中心静脈)などと呼ばれますが、国際的にはTPNを用います。最近では、ビタミン、微量元素一体型の製材も発売されています。
これに対して、最近ではいろいろな輸液製剤の開発、進歩により、末梢静脈から三大栄養素の投与も可能となり、これをPPN(Peripheral Pareteral Nutrition、末梢静脈栄養法)と言います。患者さんの体格にもよりますが、末梢血管の静脈炎の限界は糖濃度では10%、アミノ酸製剤では12%、輸液の浸透圧では1000mOsm/Lくらいと言われていますので、1日に2000ml近くの輸液が可能であれば1200kcalくらいまで1日分として投与可能です(アミノフリード500ml4本+20%イントラファット100ml2本)。 TPNもPPNにしても、長期間継続する場合には、病態に応じたビタミンや微量元素の補充が必須です。最近では、ビタミン一体型の製剤も発売されています。

図22. TPNを構成する薬剤
TPNの適応
① 消化管が機能していない場合
短腸症候群、代謝性の特殊疾患など
② 消化管が利用できない場合
腸閉塞、腸管出血、消化管瘻、縫合不全など
③ 消化管の安静が必要な場合
炎症性腸疾患急性期、重症腸炎、急性膵炎など
TPNの禁忌
①  敗血症、菌血症
②  重症心不全などの循環不全
③  癌末期
④  経腸栄養が可能な場合
TPNの合併症
① 中心静脈カテーテル挿入手技および留置にともなう合併症
気胸、血胸、動脈穿刺、空気塞栓、カテーテル位置異常など
② カテーテル敗血症、血栓症
③ 代謝上の合併症
高血糖、高浸透圧性昏睡・利尿、アシドーシス、高アンモニア血症など
* TPN時のアシド−シス(酸性過多)に注意
TPN施行時は高濃度の糖質が強制的に血管内に持続的に投与されるため、糖質代謝回路がフル回転するために体内でのビタミンB1の消費量が増大します。もしビタミンB1が枯渇してしまうと嫌気性解糖といって乳酸が大量に発生し、重篤なアシド−シスになります。早期に発見し対処しなければ、極めて予後不良な疾患で注意が必要です。
<ビタミンB1欠乏アシドーシスの特徴>
・ TPN開始から2〜4週で発生することが多い
・ 悪心・嘔吐や全身倦怠で発症
・ 呼吸状態の変化、ゆっくりとした深呼吸(クスマウル呼吸)
・ 見当識傷害、傾民傾向、昏睡
・ 不整脈、徐脈、心源性ショック
・ メイロン(重炭酸ナトリウム)などの緩衝剤が無効
・ ビタミンB1(100mgずつ頻回投与)の補給により急速に軽快
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II-6. ビタミン

欧米の栄養管理は詳細なビタミン処方が一般的であり、日本のように「総合ビタミン剤1本いっとく」という考えはありません。欧米の栄養管理のマニュアルには、驚くほど詳細に各ビタミンの作用や関連酵素について述べてあり、病態に応じて基準値のビタミン剤に必要ビタミンを追加処方するシステムとなっています。
<脂溶性ビタミン>4種類:特異的な生理作用で、効率的吸収に胆汁と膵液が必要
ビタミンA: βカロチン(植物性)、レチノール(動物性)
創傷治癒、組織修復、粘膜保護(感染防御)、夜盲症の予防、角膜保護
* βカロチンには癌予防効果を言われていたが、過剰で癌のリスクも指摘されている
欠乏:夜盲症、眼球・皮膚乾燥
過剰:脳圧亢進、肝腫大、四肢骨端部の疼痛・腫脹
ビタミンD:
カルシウム・リンの合成・吸収、骨粗しょう症の予防
欠乏:くる病、骨軟化症、テタニー
ビタミンE:
酸化防止作用、末梢神経賦活
欠乏:溶血性貧血、運動神経失調、眼筋麻痺
過剰:食欲不振、下痢、腎障害
ビタミンK:
血液凝固因子の合成、骨形成不全
欠乏:出血傾向
過剰:悪心・嘔吐、呼吸困難
<水溶性ビタミン>9種類:エネルギー代謝に関与する重要な酵素の構成要素
チアミン(ビタミンB1):
組織呼吸に必要な補酵素として作用(神経、消化、循環系の機能調節)、糖質分解、不足すると脚気
欠乏:多発神経炎、脚気
* ビタミンB1欠乏にともなう乳酸アシドーシスやウエルニッケ脳症に気をつける。
* TPN時のアシド-シス(酸性過多)に注意
TPN施行時は高濃度の糖質が強制的に血管内に持続的に投与されるため、糖質代謝回路がフル回転するために体内でのビタミンB1の消費量が増大します。もしビタミンB1が枯渇してしまうと嫌気性解糖といって乳酸が大量に発生し、重篤なアシド-シスになります。早期に発見し対処しなければ、極めて予後不良な疾患で注意が必要です。
<ビタミンB1欠乏アシドーシスの特徴>
・ TPN開始から2~4週で発生することが多い
・ 悪心・嘔吐や全身倦怠で発症
・ 呼吸状態の変化、ゆっくりとした深呼吸(クスマウル呼吸)
・ 見当識傷害、傾民傾向、昏睡
・ 不整脈、徐脈、心源性ショック
・ メイロン(重炭酸ナトリウム)などの緩衝剤が無効
・ ビタミンB1(100mgずつ頻回投与)の補給により急速に軽快
リボフラミン(ビタミンB2):
脂肪酸およびグルコ-スの酸化、発育促進、不足すると目、鼻、口、皮膚、毛髪に症状
欠乏:口角炎、皮膚炎、成長障害
ナイアシン(ニコチンアミド、ニコチン酸):
グルコ-スなどの酸化還元反応の補酵素、不足すると食欲低下、筋力低下、ペラグラ
欠乏:皮膚炎、下痢、痴呆、ペラグラ
ピリドキシン(ビタミンB6):
蛋白質合成に必須、脂質代謝、薬物投与による欠乏あり
欠乏:口角炎、皮膚・末梢神経炎
葉酸:
赤血球、白血球の合成に必須、不足すると貧血、成長障害
巨赤芽球性貧血、舌炎
ビタミンB12:
DNA合成障害、不足すると神経変性、貧血
欠乏:悪性貧血、シビレ、舌炎
パントテン酸:
細胞代謝における補酵素だが、不足の報告例はない
欠乏:手足の麻痺、下腿の灼熱感
ビオチン:
CO2の活性に関する補酵素、数年間におけるTPNで欠乏例の報告あり
欠乏:皮膚炎、舌炎
アスコルビン酸(ビタミンC):
コラ-ゲン合成、組織修復、創傷治癒、感染防御、鉄分の吸収を強化、その他多くの代謝の補酵素
欠乏:皮膚粘膜出血、毛嚢炎
表7. 当院のビタミン剤 *AMA(米国医師会)ガイドライン
(図をクリックで拡大)

II-7. 微量元素

生体内にその存在が確認され、生命活動に必須な元素(ミネラル)は、Naなどを含めて27種類あり、この中で体内含有量が鉄(Fe)より少ないもの、または生体内に1mg/kg体重以下を微量元素と呼びます。人間の必須微量元素は現在10種類あり、これらが欠乏した場合の病態も判明しており、微量元素製剤が発売されています。最近は過剰投与による副作用も報告されており、漫然と投与することに注意が必要です。
・ 亜鉛は欠乏により成長障害、味覚障害、皮疹、下痢などが起こり、栄養管理上重要視される。
・ 鉄欠乏による貧血はよく知られているが、銅欠乏による貧血、白血球減少、特に好中球減少が見逃されることがあり注意を要する。
・ セレン欠乏のための心筋障害による突然死が時として報告され、長期栄養管理において注意を要する。
・ 一方、過剰にも注意が必要で、特に銅、マンガンは主として胆汁を介して排泄されるため、胆汁排泄障害のある場合には投与量に注意を要す

・ 銅・マンガンは胆汁排泄なので、胆汁排泄障害に気をつける。
クロム・セレンは腎機能障害に気をつける。
・ 微量元素製剤は長期TPNでは必ず添加する。
・ 低栄養、侵襲下ではいずれも欠乏しやすい。

Fe(鉄): 酸素運搬、ヘモグロビン合成、脳・神経伝達系の賦活、免疫能の維持
欠乏・・・鉄欠乏性貧血、成長障害
過剰・・・鉄沈着、肝機能障害
Zn(亜鉛): 蛋白質・核酸の代謝、抗酸化作用、骨代謝(300種以上の金属酵素として、生体内の反応に強く関係)
欠乏・・・成長障害、皮膚炎、脱毛、味覚障害、創傷治癒遅延、免疫不全、精神症状
過剰・・・発熱、悪心、中枢神経障害
* 亜鉛:銅=10:1  亜鉛の過剰投与により、銅や鉄が欠乏する。
Cu(銅): 造血機能
欠乏・・・汎血球減少、骨の成長障害
過剰・・・嘔吐
* 先天異常に、銅輸送タンパクATPaseの異常であるWilson病(ATP7B)、Menkes症候群(ATP7A)
Mn(マンガン): 脂肪酸代謝、各種酵素の活性化
欠乏・・・成長障害
過剰・・・パーキンソン症候群
* MRIのT1強調で淡蒼球に高信号  Mn20μmolから1μmolへ1日必要量変更
I (ヨウ素): 甲状腺ホルモン
欠乏・・・甲状腺腫
過剰・・・甲状腺機能低下
Se(セレン): 抗酸化作用
欠乏・・・筋力低下、筋肉炎、不整脈、心筋症(克山病)、爪白色化
過剰・・・貧血、肝障害
Cr(クロム): 糖・脂質代謝
欠乏・・・耐糖能異常、末梢神経障害、運動障害
過剰・・・発癌性?
Mo(モリブデン): 各種酸化酵素の分解、アミノ酸分解
欠乏・・・悪心・嘔吐、頻脈・頻呼吸・視野異常、成長障害、アミノ酸不均衡
過剰・・・痛風、成長障害
Co(コバルト): ビタミンB12の補酵素
Sn(スズ): 酸化還元触媒
表8. 微量元素必要量
(図をクリックで拡大)