ESPEN在宅経腸栄養ガイドライン 2020.01.20
*日本にはない概念、材料、訳語は著者の判断で日本語訳しています 武内有城
推奨1:在宅経腸栄養(以下、HEN)は栄養不良のリスクのある、または通常の食事摂取では必要な栄養量が充足できない栄養不良患者で、消化管機能が正常かつ急性治療中ではない患者に適応がある。そのためには、体重や身体機能、QOLを改善する目標に向かって、在宅経腸栄養管理を行うことに患者の同意が必要である(コンセンサス強、同意97%)
推奨2:栄養学的リスクのある退院患者(例えば、神経疾患や頭部外傷、頭頚部がん、胃消化管及び他の悪性疾患、消化吸収不良症候群のある他の非腫瘍性消化管疾患など)には、経口サプリメントやHENを考慮すべきである(強、96%)
推奨3:もし、生命予後が1か月未満の場合には、HENは適応がない(中、78%)
推奨4:上下部消化管閉塞や消化管出血、重症の消化吸収障害や代謝障害による重症の機能障害のある患者には、HENは禁忌である(中、84%)
推奨5:もし、患者本人または介護者がHENに同意しなかったり、諸処の社会環境問題が克服できなければ、HENを提供すべきではない(強、97%)
推奨6:4-6週間の短期間のHENが必要な患者に対しては経鼻胃管の使用は許容される(中、90%)
推奨7:長期間のHENに対してはPEGまたはPEJが推奨される(強、93%)
推奨8:PEGは外科的胃瘻造設に比較して、合併法が少なく、経済的で手術時間も短いために推奨される(強、100%)
推奨9:PEGが長期HENに対して困難場合には、腹腔鏡手術による胃瘻造設(PLAG)が安全であるかもしれない(強、93%)
推奨10:腹腔鏡による胃瘻造設が困難な場合には、放射線透視下に胃瘻を増設する方法(RIG、PRG)が代替法として検討する(強、97%)
推奨11:PEG造設後4週間以上経過していれば、予期せぬ脱落や定期交換に対して、再手術しなくても直接交換可能である(強、93%)
*可能であれば、PEG造設後の最初のカテーテル交換は、造設した病院で交換をすすめる
推奨12:PEGが完成して創が治癒したら、毎日の創部管理を消毒処置にて術後5-7日まではクリーンでドライに行う(強、100%)
推奨13:術後最初の1週間は、消毒の代わりに創傷被覆材で被覆することもかまわない(強、97%)
推奨14:創が治癒したら、1週間に1、2回創部を石鹸と水道水で洗浄するのみとする(強、90%)
推奨15:創の治癒後は、創傷被覆材は不要で開放創とすることも可能である(強、92%)
推奨16:PEG造設後は、外部バンパーは緩めで皮膚を決して圧迫しないようにする(強、93%)
推奨17:胃瘻造設後1週間くらい経過して瘻孔が完成していれば、カテーテルは毎日回転を確認し、1週間に1回は少なくとも2-10cmの範囲で瘻孔内に挿入可能であることを確認する(強、93%)
推奨18:カテーテルの回転や深さの調節が可能であることを確認したら、皮膚と外部バンパーの間隔が0.5-1cmの遊びがあるように固定する(強、93%)
推奨19:PEGJカテーテルは回転を確認しない(強92%)
推奨20:瘻孔周囲の消化管内容の漏れに対しては、皮膚保護軟膏または保護剤を使用する(強、93%)
推奨21:PPIは瘻孔周囲もれに胃酸分泌を減少させるため有効であるが、使用するなら定期的に評価が必要である(強、96%)
推奨22:過剰肉芽は一般的なPEGの合併症で、予防するとともに適切な処置(瘻孔や周囲皮膚の保護、硝酸銀やステロイド軟膏使用など)を行う(強、93%)
推奨23:カテーテルは、損傷、閉塞、脱落や劣化があれば交換をすべきである、定期的交換は必要ない(強、93%)
*バルーンタイプのPEGカテーテルは、1週間に1回バルーンの蒸留水の量をチェックする
推奨24:瘻孔感染が疑われたら、抗菌薬軟膏を瘻孔及び周囲皮膚に塗布する必要があるが、この治療が⒮法構しなければブロードスペクトラムの抗菌薬を内服する(強、93%)
推奨25:上記の方法でも瘻孔感染が改善しなければ、カテーテルは抜去すべきである(中、86%)
推奨26:HENは病状の安定した患者に施行され、カテーテルの位置が正しく、使用する経腸栄養剤の量および内容が患者に適しており、さらに患者及び医療者がHENについて適切な知識と管理スキルにたけていることが必要である(強、100%)
推奨27:経鼻胃管でHENを施行する患者は、カテーテルの位置が適切な位置にあることが確認されたら、事前に設定した栄養管理プランに従ってすぐに経腸栄養が開始できる(強、96%)
推奨28:成人の場合、胃瘻カテーテルが造設されて2-4時間たてば使用できます(強、93%)
推奨29:空腸栄養は以下のレジメンで開始することを推奨する(強、93%)
*開始第1日目…生食10mL/h
第2日目以降…経腸栄養剤10mL/hで開始し、6日目までに20mL/hにアップ
*術後第1日目に1.0kcal/mLの経腸栄養剤を30mL/hで開始し、第3日目までに84mL/hまでアップなど
推奨30:HENの管理計画は、多職種からなるNSTで、基礎疾患、アクセスルート、栄養剤の忍容性、患者の嗜好などを考慮して決定される(強、100%)
推奨31:ボーラス投与、間欠的持続投与、ポンプを用いた持続投与のどの方法を使用するかは、医療的必要性と安全性、注入速度の制度の必要性から決定される(強、92%)
推奨32:カテーテル閉塞を予防するために使用前後の水によるフラッシュは重要であり、患者及び介護者の指導に不可欠である(強、100%)
推奨33:経腸栄養ルートから投与することで効果がある薬剤は、経腸栄養ルートから投与することができる(強、92%)
推奨34:もし、経腸栄養ルートから薬剤を使用する場合には、患者及び医療者にその薬剤の適切な投与方法を薬剤師から説明する(強、100%)
推奨35:経腸栄養ルートから薬剤を投与する場合には、誤接続予防のシリンジ(ISO)やコネクターを確認して使用する(強、100%)
推奨36:正しい薬剤投与量を注入できるように注意する(強、100%)
推奨37:使用する薬剤の体内での吸収動態や、経腸栄養剤やカテーテルとの相互作用にも気を付ける(強、100%)
推奨38:経腸栄養ルートから薬剤を投与する場合には、各薬剤ごとに注入し、投与前、中、後でそれぞれ30mLずつ水によるフラッシュを施行する(強、100%)
推奨39:混合食などの適応がなければ、標準の経腸栄養剤を使用する(強、92%)
推奨40:下痢の患者には、通常は食物繊維配合の栄養剤を使用する(強、92%)
推奨41:便秘の患者も、食物繊維配合の栄養剤を使用する(強、96%)
推奨42:糖尿病患者には、緩徐に吸収される糖質やMUFAを中心とした不飽和脂肪酸を豊富に配合する血糖上昇抑制効果のある経腸栄養剤が使用される(弱、60%)
推奨43:それ以外の患者は、専門家の指導の下に標準の経腸栄養剤を使用する(強、96%)
推奨44:HENを施行している患者は、定期的に効果や合併症などを多職種でモニタリングする必要がある(強96%)
推奨45:体重、体組成、体内水分量だけでなく、血清アルブミン値やトランスフェリン値などの血液生化学データをモニタリングすることは有用である、経腸栄養の合併症も(中、83%)
推奨46:HENは希望した体重に達したり、経口摂取が充足した段階で終了する(強、92%)
推奨47:HENの機械的合併症を減少させるために、4-6週間を超える長期の経腸栄養には経皮的消化管瘻孔アクセスを使用する(強、98%)
推奨48:在宅でのミキサー食は、標準の経腸栄養剤より効果が劣るので、使用しない(弱、63%)
推奨49:在宅でのミキサー食は、標準の経腸栄養剤より安全性に劣るので、使用しない(中、76%)
推奨50:HENを管理するチームは、合併症と再入院がなくなるように適切な経腸栄養管理を遂行する(強、100%)
推奨51:HEN施行中の患者は定期的にQOLを評価する(強、92%)
推奨52:HEN施行患者のQOL評価は、適切な質問票などで評価する(中、88%)
推奨53:多職種からなるNSTで管理したHEN患者は、QOLの向上とコスト削減に効果があった(強、96%)
推奨54:HENに関する情報は、口頭でつたえるだけでなく、文書にしたり、図にしたりして提供すること(強、100%)
推奨55:すべての医療者は、HENや適切な栄養管理についての規定を、あらゆる場面で自らの義務に関連して遂行できるように教育・訓練を受けるべきだ(強100%)
推奨56:医療者は、栄養管理の必要な全ての患者に多職種からなるNSTの治療が受けられるように努力すべきだ(強、100%)
推奨57:HENを行う予定の退院患者がいるすべての病院では、少なくとも一人の専門看護師や管理栄養士を雇うべきだ。このような病院は、医療体制の中でNSTも持つ必要がある(強、96%)
推奨58:HENを行う患者の環境は、合併症のリスクのない経腸栄養管理を安全に行うべきだ(強、100%)
推奨59:HEN関連感染合併症をなくすために、衛生環境を充実させる(強、100%)
推奨60:すべてのHEN患者は、特に合併症や緊急対応のできる専門家と連絡をもつべきである(強、%)
推奨61:最適なHEN管理は、NSTからなる(医師、管理栄養士、看護師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、薬剤師など)