Ⅴ. 在宅における口腔ケア

口腔ケアの定義

口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康の保持・増進、リハビリテーション等によって、その対象者のQOLの向上を目指した看護や介助をいい、広義には口腔疾病の治療及び予後管理、教育、相談、診査、予防処置を含んだ、単に口腔領域にとどまらず、全人的支援を意味するもので、さまざまなケアの一環として取り扱われるものである。

口腔ケアの意義

1. 虫歯や歯周病の予防

2. 口腔の爽快感、口臭予防、心地よい睡眠

3. 食感覚の覚醒、咀嚼の刺激

4. サブスタンスP上昇による嚥下反射の促進

5. 口呼吸や薬物による口腔乾燥、嚥下困難の予防、脱水の早期発見

6.口腔内細菌による二次感染の防止(VAP,周術期術後合併症)、発熱の予防、細菌性心内膜炎の予防

7. 誤嚥による誤嚥性肺炎の予防

8. 口唇、舌、頬、咽頭のマッサージによる摂食嚥下訓練

9. 発音、構音に関係する口唇、舌、軟口蓋のリハビリテーション

10. 歯磨きによる手や腕、首のリハビリテーション

11. 歯磨きのための座位や洗面所への移動によるADLの向上と自立支援

12. 日常生活リズムの回復

13. 対人関係の円滑化、口元の健康的な美しさ、会話、口臭予防

14. 歯周病菌による全身疾患の関連(脳出血、糖尿病増悪の予防、リウマチ疾患、がん治療、悪液質など)

参考:口腔ケアによる肺炎の予防と認知機能、ADLの改善

4ヶ月後の「食べこぼし」患者の割合が減少

2年間の発熱発生者、肺炎発生者、肺炎による死亡者および死亡率が減少

2年後の認知機能(MMS)の低下を予防

図1図をクリックすすると大きくなります

図2図をクリックすると大きくなります

米山武義ら 日歯医学会誌20:58-68 2001

誤嚥性肺炎の予防効果

米山らによる無作為比較対照試験(RCT )であり,特別養護老人ホーム入所者を無作為に2群に割り付け,1群(口腔ケア群)には週に1回歯科医師もしくは歯科衛生士が訪問して専門的な口腔清掃を実施,他の1群(対照群)は従来通りのケアとして,2年間の肺炎発症率をみたところ,肺炎発症を約4割減少させることができた。

図3図をクリックすると大きくなります

Yoneyama T, et al. Lancet 1999; 354(9177):515(健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス2015)

口腔アセスメント

1)改訂口腔アセスメント(Revised Oral Assessment Guide:ROAG)

  8点:正常 9~12点:軽微な口腔機能障害 13点以上:中等度~重度の口腔機能障害

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入院患者に対するオーラルマネジメント 財団法人8020推進財団 より引用

2)全国国民健康保険診療施設協議会版 在宅ケア アセスメント票

在宅で非常に使いやすいです。

IMG3_0001_NEW図をクリックすると大きくなります

入院患者に対するオーラルマネジメント 財団法人8020推進財団 より引用

3)Oral Health Assessment Tool(OHAT)

 在宅や施設入所の高齢者対象の評価用紙で、口腔の問題(歯科受診の必要性)が把握しやすい。

詳細は、藤田保健衛生大学医学部歯科教室で紹介されていますので、参考にしてください。

口腔ケアの内容  下線は歯科受診が必要なもの

1)口腔清掃

含嗽、ブラッシング、フロッシング、歯間清掃、ガーゼ・スポンジなどによる清掃、吸引・洗浄、

2)歯垢・歯石の除去

3)フッ素化合物の塗布

4)義歯の装着と手入れ

義歯の洗浄・ブラッシング、安定剤・装着剤、保管

5)咀嚼

6)摂食・嚥下訓練

7)食物残渣の除去

8)口臭予防

9)口腔、舌の乾燥防止

10)口腔の痛みの軽減

含嗽剤、口腔用軟膏

11)口腔出血の防止

12)口唇のひび割れ、出血の防止

13)舌のブラッシング、舌苔の除去

14)歯肉のマッサージ

15)頬部、口腔周囲筋のマッサージ

16)舌のマッサージ

17)言語訓練

18)口腔内の観察

19)栄養方法の検討

口腔内観察のポイント

・ 虫歯がないか?歯の痛みを訴えていないか?歯のぐらつきがないか?

虫歯のできやすい場所:

歯と歯ぐきの境目

奥歯の溝、歯のかみ合う面

歯と歯の間

歯周病で歯の根が露出した部分

・ 口臭があれば、その原因は何か?

口臭の原因となりやすいもの:

歯周病

虫歯

舌苔

口腔内の食渣や歯垢

副鼻腔炎などの耳鼻科疾患など

・ 口腔内に食渣、歯垢、舌苔が付いていないか?

・ 口腔内が乾燥していないか?

・ キズや出血がないか?

・ 義歯や補綴装置のチェックと不具合はないか?

・ 咀嚼や嚥下に問題はないか?

・ 栄養剤や消化液の逆流はないか?

・ 味覚障害や感覚障害はないか?

・ 嚥下や舌の動きに問題がないか?

口腔ケアに必要なもの

やわらかめの歯ブラシ

* 吸引付歯ブラシも必要に応じて使用する

歯間ブラシ、デンタルフロス

舌ブラシ

スポンジブラシ

タオル1枚

ガーグルベースン

コップ

洗浄用水(水道水、緑茶、)

保湿剤

らくのみ、カテーテルチップ、注射器、吸引セット

ペンライト、手鏡

バイトブロック、割り箸にガーゼをまきつけたもの、開口器

処置用シート、エプロン、プラスチック手袋、ガーゼ、口腔ケア用ウェットティッシュ、ティッシュペーパーなど

<歯ブラシ選びのポイント>

よい歯ブラシとは、ひとことでいえば磨き残しが少なく、歯ぐきを傷つけることがなく、口の中で動かしやすいものです。単純なかたちのもののほうがどの場所にも使いやすいと思います。  ●全体の形を横から見たときに、ブラシの頭部と把柄部分が一直線で、頚部に極端な角度が付いてないもの。柄の部分は、握りやすく頭部が小さめのもの。  ●歯ブラシのブラシの部分の大きさは、毛の生えている部分の長さが、前歯2本分くらい(または、人さし指と中指の幅を合わせたくらい)目安です。

図5

  • 歯ブラシの毛先は、刷面がまっすぐで、「毛先が丸めてある」もの。  ●歯ブラシの材質はナイロン毛
  • 歯ブラシの硬さは、一般的には「ふつう」の硬さのもの。  歯間ブラシやデンタルフロスなどを併用しないと完全なプラークコントロールは不可能です。

〇ブラッシング(歯磨き)

歯ブラシ、口腔ケア用スポンジ、舌ブラシにより、口腔内汚染の清掃、歯垢の除去を行うこと。

使用物品: 歯ブラシ、電動歯ブラシ、ワンタフトブラシ(歯垢用)、くるりーなブラシ

* 舌苔のクリーニング

食事が食べれないと舌の表面の糸状乳頭の先端が削り落とされることがなく、どんどん伸びてしまって舌表面に白っぽい毛のようなものがびっしり生え、そこに口腔内の種々のものが付着して舌表面に苔が生えたように見えるようになるのが舌苔です(舌白苔)。舌苔が付着しやすい誘因として、胃腸障害、糖尿病、腎疾患、血液疾患、喫煙、抗生物質連用、飲酒などが挙げられます。しかし、この舌苔があまり長期間にわたって多量に付着していると、種々の細菌が増殖しやすく、舌の異和感、味覚異常、痛みなどの原因となります。カンジダ症などとの鑑別が必要です。

舌苔の清拭の仕方:   舌背の表面をまんべんなく歯ブラシで軽く擦るのが最もよいです。べったり付着した舌苔を一度にすべてを取ってしまおうとせず、気長に毎日ブラッシングして徐々に 少なくなるのを待つのがいいです。しかし、ブラッシングを止めるとすぐにまた舌苔は付着し始めますので根気がいります。口腔乾燥の予防と舌苔そのものの柔軟化を期待して、乾燥予防材の塗布も有効です。

食事が食べれないと舌の表面の糸状乳頭の先端が削り落とされることがなく、どんどん伸びてしまって舌表面に白っぽい毛のようなものがびっしり生え、そこに口腔内の種々のものが付着して舌表面に苔が生えたように見えるようになるのが舌苔です(舌白苔)。舌苔が付着しやすい誘因として、胃腸障害、糖尿病、腎疾患、血液疾患、喫煙、抗生物質連用、飲酒などが挙げられます。しかし、この舌苔があまり長期間にわたって多量に付着していると、種々の細菌が増殖しやすく、舌の異和感、味覚異常、痛みなどの原因となります。カンジダ症などとの鑑別が必要です。舌の力が弱り、口蓋に押し付ける力が弱り飲み込む力が落ちた人も舌苔が増えます

舌清掃の仕方:   舌背の表面をまんべんなく歯ブラシで軽く擦るのが最もよいです。べったり付着した舌苔を一度にすべてを取ってしまおうとせず、気長に毎日ブラッシングして徐々に 少なくなるのを待つのがいいです。しかし、ブラッシングを止めるとすぐにまた舌苔は付着し始めますので根気がいります。口腔乾燥の予防と舌苔そのものの柔軟化を期待して、保湿剤の塗布も有効です。

図6

〇歯間清掃

歯間ブラシやフロス(歯と歯の間に入れる糸のようなもの)を用いて、歯と歯の間の細菌をとること。

使用物品:     歯間ブラシ、デンタルフロス、糸ようじ

* 口腔乾燥について

唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺と口腔内に広く分布する小唾液腺から、一日に約1ℓ~1.5ℓ分泌されます。耳下腺と顎下腺では水分が主体で、その他は粘液で、唾液には粘膜保護、潤滑、洗浄、静菌、消化、食塊形成や緩衝作用があり、唾液の減少が続くと口腔乾燥症といわれる症状が現れます。 「症状」:粘膜萎縮、義歯性潰瘍、義歯不安定、味覚障害、舌痛、多発性歯頚部、う蝕、歯周炎の増悪、咀嚼障害、嚥下障害、食思不良、構音障害 「口腔乾燥症の原因」:加齢、糖尿病、尿崩症、自律神経失調症、放射線被曝、シェーグレン症候群、薬物常用(睡眠薬、抗ヒスタミン薬、精神安定剤、利尿剤、降圧剤ほか) 「治療」: 1)  薬剤性の場合:原疾患に影響しない範囲で減量・休止,他剤に変更。 2)  糖尿病、尿崩症、自律神経失調症:原疾患の治療 3)  口腔乾燥への対処:口腔環境の悪化を防ぐために口腔の湿潤と清潔を心

がける。甘いものは口腔乾燥感を和らげるがう蝕の原因となるために避ける(キシリトールは可)

4)  薬剤: サラジェン®、フェルビテン®、ビソルボン®、ムコスタ®

白虎加人参湯、滋陰降火湯、麦門冬湯、十全大補湯       水分補給: 人工唾液(サリベート®)、お茶・水 キシリトール入りキャンディ

口唇乾燥: リップクリーム

保湿剤: オーラルバランス®、ウエットケア®、オーラルウエット®

口腔ケア手順

1)患者さんに声かけをし、覚醒をうながします。そして口腔ケアの説明し同意を求めます。移動可能な場合には洗面台まで移動し、座位で行います。

2)姿勢を整えます。

A)起き上がって座位の姿勢が取れる場合:

完全な座位(安定しない場合は45度の半座位)にて補助枕などで安定させます。

B)起き上がれなくて座位が取れない場合:

上体を30度くらい高くして、可能であれば側臥位にします。麻痺があれば麻痺側を上にします。背中に枕やバスタオルを入れて安定させます。側臥位が困難な場合には、顔を横にむけさせますが、少し下顎を引いた姿勢が好ましいです。必ず吸引の準備をしておきます。

3) 衣服やベッドが濡れないように胸元にタオルをかけるか、エプロンや処置用シーツをあてます。

4) 緊張がとれるような環境に心がけます。

5) 口腔内の観察と義歯の有無をチェックして義歯があれば外します。

6) 口腔内の清掃

*必ず出血傾向の有無をチェックしておきます。

A)ある程度自立できる患者さんの場合:

①含嗽をうながします。

「うがい」の種類と方法:

口の中を湿らせる「うがい」・・・少しだけ含嗽水を口の中に含んで、そのままだしてもらいます。

口の中をきれいにするための「うがい」・・・ブクブクまたはクチュクチュうがいという口すすぎです。口の中で含嗽水が動くように頬を左右に5~6回動かします。主に食渣などが洗い流されます。

のどをきれいにする「うが」・・・俗にいうガラガラうがいです。のどのよごれや細菌を洗い流します。

②水にぬらした歯ブラシを患者さんにもたせて歯のブラッシングを指導します。自立のためにも最初は必ず患者さんにやってもらうか、手をそえてブラッシングを行います。そして、仕上げを介助者がおこなうようにします。

上手なブラッシング:

・ 手鏡や拡大鏡などで口の中を見ながら、必ず歯をブラッシングします。

・ 毛先をきちんと歯にあててみがく。

・ 軽い力でみがく。

・ 小刻みに動かしてみがく。

・ 歯と歯ぐきの境目は45度の角度であてる。

・ 歯垢がつきやすいところ

歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目、奥歯のかみ合わせ、背の低い歯、凹凸しているところ

歯ブラシの動かし方は,一口で言うと,細かく動かし,1本1本磨くような感じです。 磨くときに力を入れる必要はありません。 プラーク(歯垢)は柔らかいので,歯ブラシの先が,歯面に触れていれば除去できます。歯ブラシを歯と歯肉の境目に,45度の角度に当てて,横に細かく振動させるように動かします。 大きく動かすと,汚れは取れないばかりでなく,歯肉を傷つけたり,歯根の表面をすり減らしたりします(歯肉が退縮して歯根の表面が露出すると,歯根表面は柔らかいため,不適切なブラッシングにより,くさび状にすり減ります)。 歯の表面は、歯に垂直に当てて細かく振動させるように動かします。 歯ブラシを,大きく動かすと,歯の表面の出っ張った部分だけつるつるになるため,うまく磨けたように錯覚します。これは,歯ブラシを細かく動かすことがうまくできない介護を要する人の場合や,介護者がブラッシングを行う場合に,とくに注意する必要があると思います。  歯磨き剤は,基本的には,気に入ったものであれば何でもいいと思います。 メーカーは薬理学的な効果をいろいろアピールしていますが,これは補助的なものと考えた方がいいようです。 あくまで,ブラッシングによる機械的に汚れを除去することを主体とし,薬理学的な効果はおまけと考えた方が無難なようです。

フッ素は入りのものを上手に選びましょう

③歯間は歯間ブラシまたはデンタルフロスを行う。

歯間ブラシ,デンタルフロス

歯間ブラシは,歯と歯の間を清掃するのに用いる小さな円錐型のブラシです。 歯間部は、口腔内の細菌の温床となるため歯周病が進行するため、毎日夜は必ず行うことが望ましいです。

デンタルフロスは,別名糸楊枝とも呼ばれ,ナイロン糸が使われ,歯間ブラシの入らない歯と歯の間の汚れをとるのに使います。

使用法は,フロスを歯と歯の間に通し,歯肉の部分から歯面をこすりながら歯の上部に移動させて汚れを取ります。 U字型やY字型など柄に糸を装着したものと,使用する長さだけを切って使うタイプのものがあります。 また,後者のタイプのフロス用のホルダーもあります。 経済的で,操作しやすい点ではこのタイプのものがお奨めです。

図8

図10

④舌もブラッシング必要です。舌苔は歯ブラシや舌用ブラシを用いて優しく除去します。

⑤口蓋、頬粘膜などの歯や歯肉以外の口腔内は湿らせたスポンジブラシで軽くぬぐい、唾液や食渣のたまりを除去します。

B)自立できていない患者さんの場合:

①湿らせたスポンジブラシで唾液や食渣を除去します。必ずプラスチック手袋を着用しましょう

7)必要な患者さんは簡単な機能訓練を終了時に行う。

8)口腔内が清潔になったら、患者さんの口の周りや手をきれいにして終了。

9)むせやチアノーゼの有無を確認する。必要があれば、呼吸音を聞いたり、SpO2を測定する。

10)終了後も30分くらい安楽な姿勢を保ち、すぐに仰臥位にはしないようにしてください。

 

* 嚥下障害のある患者の口腔ケア

(1)嚥下障書のある人は口腔内汚染が強く、舌苔がつきやすいので汚染された口腔内分泌物を誤嚥し、肺炎をおこす危険があります。したがって唾液が気道へ流れこんで感染のない状態にしておくことが大切です。

(2)口腔ケアにはお茶や冷水を用い、誤嚥しないように健側を下にして行ないましよう。 (3)食前後に歯ブラシや綿棒で舌苔を除き歯根部をマッサージして唾液の分泌や嚥下筋の緊強を高めましよう。

また開ロ障書には大臼歯周囲の歯根部を軽擦したり頚部伸展位、リラクゼーション等の効果があります。

(4)口腔ケアは摂食・嚥下の間接訓練です。舌の麻痺や萎縮には舌を引き出すようにストレッチやマッサージを行ない、咀嚼運動を誘発させましよう。また咽頭に寒冷刺激を加えた後、うなずき嚥下を行うと唾液を嚥下する訓練になります。

義歯の清掃・手入れ

必要物品:

義歯用ブラシ 洗面器

水をいれた洗面器を洗面台に置き、毎食後、義歯をはずして流水で食物残渣を流し、義歯用ブラシでヌルヌルをとるように磨きます。そのあと義歯洗浄剤につけます。つけ終わったら、流水でよく流します。保管は専用容器に水をはりつけておきます。

・ 義歯は落下等で破損しやすいため、取り扱いに気をつけます。

  •  義歯をみがくコツ 義歯は金具(クラスプ)のついているところや粘膜にあてるくぼんだ部分が、特に汚れやすいので義歯用歯ブラシでしっかりみがきます。金具(クラスプ)は、変形しやすいものもあるので、取り扱いに気をつけましょう。その他のところは、ヌルヌルをしっかりとるようにきれいにみがきます。それから義歯用洗浄剤につけるようにします。歯磨剤は、研磨剤が入っているため義歯に使うと細かい傷がつき細菌が繁殖しやすくなるため使用しない。