IV. 主観的包括的アセスメント(SGA)について

名古屋記念病院 栄養サポートチーム
栄養マニュアル
IV. 主観的包括的アセスメント(Subjective Global Assessment:SGA)について

IV-1. 栄養不良タイプの分類、PEM(Protein energy malnutrition)蛋白質・エネルギー低栄養状態の分類栄養不良は、先ず急性と慢性の病態の識別から始まります。ただし、日本の高齢者や重症患者の多くは混合型のことが多いですので、あまりこだわる必要はありません。ここでいう栄養不良は、蛋白質またはエネルギーが不足している状態と定義します。

PEM(Protein energy malnutrition) 蛋白質・エネルギー低栄養状態

体重 皮下脂肪 血清アルブミン リンパ球数 免疫能
慢性栄養不良:Marasmus ⇔↓
急性栄養不良:Kwashiorkor
合併型:

・急性栄養不良(Kwashiorkor:クワシオコ−ル)(「次の赤ちゃんを妊娠した母親から離された子供に起こる病気」アフリカ)

急性(Kyusei)のKとKwashiorkor
蛋白質が不足  筋肉(Kinniku)不足のK

蛋白摂取不足や敗血症、手術などのストレスによる代謝亢進患者にみられ、エネルギ−は相対的に保たれているものの蛋白質が著しく欠乏した状態です。骨格筋からのアミノ酸放出と脂肪組織からの遊離脂肪酸放出が抑制され、血清蛋白の低下から浮腫が出現します。従って、脂肪組織や骨格筋は比較的保たれ、体重減少は軽微で身体計測上の異常は少ないが、内臓蛋白の著減、免疫能の低下を伴う状態です。

簡単に言うと、窒素減少により、筋肉の新陳代謝が低下しており、筋肉はブヨブヨになります。低蛋白血症により全身に浮腫ができますので、さらにブヨブヨになりますが、外見上は太さが保たれています。したがって、簡単な計測のみでは判定が難しく、必ず筋肉の緊張を触診にて確認して、上腕筋囲などの定期的チェックが必要です。重症になると、腹水が目立つようになります。

・ 慢性栄養不良(Marasmus:マラスムス)(「しおれる」というドイツ語)

慢性(Mansei)のMとMarasmus
エネルギーと蛋白質が不足  ミイラ型(Miira)のM

経口摂取が不可能な消化器癌や神経因性食思不振患者などにみられ、骨格筋や貯蔵脂肪が崩壊して体重減少は著明ですが、血清蛋白は比較的保たれています。クワシオコールと比較しての一番の違いは、絶対的エネルギー不足です。「骨と皮だけ」の状態になるので、一見して栄養不良がわかるタイプです。触診で皮下脂肪がほとのどないことがわかります。


TNTワークブック  TNTプロジェクト実行委員会編より
図29. 栄養不良のタイプ

これらのタイプの識別は、後述する栄養アセスメントにおいて大切で、実際に栄養メニューを考える際にもエネルギーまたは蛋白質のどれを重点的に補給するかの一番の目安になります。

日本で行われた病院におけるPEMの調査のデータです。NST活動における非常に重要なスライドです。一見すると重症の病気だから入院している高齢患者に栄養不良が多いのは当たり前のようにも感じますが、入院患者だからこそしっかりとした栄養管理が行われなければいけないはずなのに、約40%が栄養不良の状態がだったことが推察されるのです。これは、従来の栄養管理方法が間違っていた、すなわち、患者さんの個々の状態に応じたオーダーメイドの栄養管理の必要性を示唆しています。従来、私たちが思っていた、患者さんは病院が出す食事を10割食べていれば大丈夫、ほとんど食べれなくなったら栄養法を考えるでは、栄養状態の改善は難しいのです。適切な栄養アセスメントを行って栄養状態を改善していくことが基礎疾患の改善、合併症の予防に重要なのです。


厚生労働省保険事業推進等補助金研究、高齢者の栄養管理サービスに関する報告書、1998 アボット(株)資料より
図30. 日本の高齢者のPEM

一般的に言われている栄養障害(PEM)による問題点は以下のようになります。

・ 病気になりやすい

・ 合併症を起こしやすい
・ 病気の回復が悪い
・ 褥瘡ができやすい、キズの治りが悪い
・ 死亡率が高くなる
・ 再入院が多い
・ QOL、ADLが低下する

・ 医療費が増大する
・ 入院日数が延長する
・ 患者さんが一番つらい


図31. PEMの影響


図32. PEMと合併症


アボット(株)資料より
図33. PEMと死亡率

IV-2. 栄養アセスメント

栄養アセスメントとは、栄養に関する様々な情報を収集して栄養状態を評価することです。以下の因子から構成されています。

A. 身体計測 Anthropometry 身長・体重、体脂肪、骨格筋
B. 生化学検査 Biochemistry 内臓蛋白、窒素平衡
C. 臨床診査 Clinical Assessment 病歴、栄養不良の兆候、患者の訴えを

観察・評価
D. 食事摂取状況 Dietary Intake Survey 24時間思い出し法、食物摂取
頻度調査法、摂取量記録法
E. 環境要因 Environment Factor
F. 心理状態 Feeling

1) 栄養スクリーニング

栄養スクリーニングとは、本来なら全員に栄養アセスメントを行うべきなのですが、ある程度の栄養不良のリスクの高い患者を抽出することで、栄養アセスメントにかかる時間とコストを削減することです(これをハイリスク・アプローチと呼びます)。当院でも、いろいろと検討した結果、以下の基準で栄養不良患者さんを入院時にピックアップしてアセスメントを行っています。

① 標準体重比が80%以下である。

これに関しては、慢性疾患の患者さんやもともと痩せている患者さんが対象となってしまうことが考えられ、慢性期病院などでは体重変化を重視することが多いです。これは介護保険の栄養スクリーニングも体重減少をチェック項目としています。しかし、われわれはもともと痩せている患者にも内分泌疾患などが内在している可能性も考慮して、標準体重にこだわりました。また、入院時のスクリーニングの簡略化も考慮しました(過去の体重を調べるのは、結構手間がかかります)。

② 褥瘡がある。

褥瘡がある患者は、前述のように栄養不良がある可能性が高いだけでなく、褥瘡の治療のためにも十分な栄養管理が必要とされています(WOCNSガイドライン)。したがって、われわれは軽度の褥瘡患者も全て、栄養アセスメントの対象としています。

③ 食事摂取に問題がある(経管栄養中を含む)。

これは、本人や家族の訴えも含めてのスクリーニングが大切です。

④ 外見上栄養不良が疑われる。

後述する主観的包括的栄養評価法(SGA)を習得することによって、栄養不良のチェックの精度は確実にあがります。われわれは、スタッフのこの評価を一番大切にしています。

参考:一般的栄養適応基準(静脈・経腸栄養ガイドライン:日本静脈経腸栄養学会)

① 理想体重比80%以下または有意な体重減少率
② 窒素バランスの負が1週間以上継続

③ 血清アルブミン値が3.0g/dl以下
④ 総リンパ球数1000 /μl以下
⑤ トランスフェリン200mg/dl以下
⑥ ツベルクリン(PPD)皮内反応直径5mm以下
* PSの低下、褥瘡形成または治癒遷延

2) A: Anthropometry 身体計測

身体計測の基本は、身長と体重の測定です。それらに加えて、栄養評価として、体脂肪や筋肉量を測定して、栄養不良タイプの判別を行います。実際には、寝たきりや重症患者さんは、身長や体重測定でも苦労します。したがって、以下のような取り決めで測定を行っています。

名古屋記念病院身体測定マニュアル:

1. 身長

① 本人または家族からの自己申告でも可

② 立位身長

③ 臥位身長: 寝たきりまたは外傷で起きれない患者の身長測定

A. 背臥位にして患者の踵、臀部、背部の3点がきちんとベッドに接地した位置で、できる限り膝関節、股関節を伸展させ、頭部が真上を向いているようにして、頭頂から足底までの距離を巻尺または定規を用いて測定する。この時に巻尺または定規をベッドに置いて測定する。

B. 寝たきり患者で脊柱の変形が強いものや、下肢の関節拘縮が重度のもので、背臥位をとることが困難な患者では身体の各部分の計測を行って、合計して身長とする。可能な限り脊椎に沿って、曲がった部分を頂点として部分、部分を計測して合計する。

④ 指極長

上記のいずれの方法にても困難、例えば下肢欠損などや高度の亀背には、指極の長さをもって身長に代えることもできる。指極とは、両上肢を左右水平に完全に伸展させた時の、両手の中指先端間の距離で、これを測定する。

2. 体重

① 体重測定

② スケーラー測定

③ 患者さんを抱きかかえて体重計に乗り、測定者の体重を引く。

3. 膝高計測による身長および体重の推定式

<男性>

身長推定式: 64.02+2.12×KH−0.07×年齢

体重推定式: 1.01×KH+2.03×AC+0.46×TSF+0.01×年齢−49.37

<女性>

身長推定式: 77.88+1.77×KH−0.10×年齢

体重推定式: 1.24×KH+1.21×AC+0.33×TSF+0.07×年齢−44.43

*KH: 膝高cm、AC: 上腕周囲長cm、TSF: 上腕三頭筋部皮下脂肪厚mm

<体重推定式別法>

男性

0.98×上腕周囲(cm)+1.27×ふくらはぎ周囲(cm)+0.40×肩甲骨下部皮下脂肪厚(mm)+0.87×膝下高(cm)-62.35

女性

1.73×上腕周囲(cm)+0.98×ふくらはぎ周囲(cm)+0.37×肩甲骨下部皮下脂肪厚(mm)+1.16×膝下高(cm)-81.69

4. 体重補正

稀に、病気などで身体の一部が欠損している場合には、以下の補正式を用いて

体重を補正することが必要です。ただし、実際の臨床では、そこまで凝ることは必

要ないかもしれません。

例)

50kgの患者さんの片方の腕が切断されている場合

50×(1+0.065) = 53.25(kg)

40kgの患者さんの片方の足が膝下から切断されている場合

40×(1+0.053+0.018) = 42.84(kg)

図34. 体重補正表

その他の測定項目:

・ Body mass index :  BMI = BW(kg) / BH(m)2

BMIとは、身長からみた体重の割合を示す体格指数で、手軽に分かる肥満度の目安です。以下に、日本肥満学会の基準を示しますが、一般的に日本人の標準は22と言われています。したがって、標準体重も身長の2乗に22をかけて算定します。

例)

身長173cmの人の標準体重は・・・

1.73×1.73×22 =  65.8(kg)

日本肥満学会基準(1999年10月)

18.5未満         やせ

18.5〜25.0          普通

25.0〜30.0         肥満1度

30.0〜35.0         肥満2度

35.0〜40.0         肥満3度

40.0以上           肥満4度

参考: 簡易換算表

27-25 太りすぎ、25-21 普通、21-19 やせ気味、19未満 やせすぎ

体重表:          BMI 25       BMI 19

身長130cm    42kg          32kg

身長140cm    49kg          37kg

身長150cm    56kg          43kg

身長160cm    64kg           49kg

身長170cm    72kg          55kg

身長180cm    81kg           62kg

身長190cm    90kg           69kg

・理想体重比:

理想体重(kg)= 身長(m)2 × 22

80-90% 軽度、70-79% 中等度、69%以上 高度の栄養不良

・体重変化率:

以下の基準で、体重変化の有意性を判定します。特に、慢性疾患患者などの  栄養評価には、標準体重比よりも重要です。

期間 有意の体重減少 重症
1週間 1〜2% 2%超
1ヶ月 5% 5%超
3ヶ月 7.5% 7.5%超
6ヶ月 10% 10%超


図35. スケーラー

・上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF:triceps skinfold thickness) 体脂肪量の指標

標準の80-90% 軽度、60-80% 中等度、60%以下 高度の体脂肪消耗状態


図36. 上腕三頭筋皮下脂肪厚の測定法

・上腕周囲長(AC:arm circumference) 筋肉量と体脂肪の指標

標準の80-90% 軽度、60-80% 中等度、60%以下 高度の骨格筋と
体脂肪消耗状態


図37. 上腕周囲長の測定法

・上腕筋面積(AMA:arm muscle area)  筋肉量の指標

AMA(cm2)=(AMC)2÷(4×3.14)

* これらの指標の変化率も10%を超えれば高度の消耗状態と判定

* 厳密に評価するのは体脂肪量の指標:上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)と筋肉量の指標である上腕筋面積(AMA)となるが、簡便に測定する場合にはAMAの代わりに上腕周囲長(AC)を用いて評価する。ただし、浮腫などがあって評価が困難な場合には下腿周囲長や肩甲骨下部皮下脂肪厚を代用としますが、同じ部位で経過を見ていくことが必要。

参考:パ−センタイル表示の活用

日本人の身体計測基準値JARD2001(Japanese Anthropometric Reference Data)

日本栄養アセスメント研究会が、身体計測基準値検討委員会を組織して実測7640例、有効5492例(男性2738例、女性2754例)、対象年齢18〜85歳以上として現代日本人の身体計測基準を算出し発表したものです。
図38. JARD2001


図39. パーセンタイル

・ 生体インピーダンス法(BIA;bioelectrival impedance analysis)…生体に微弱な交流電流を流して電気伝導性を測定することにより、身体構成成分を測定すること。
・ 機能的アセスメント

大腿四頭筋筋力、母指内転筋筋力、呼吸筋筋力、握力

4. B: Biochemistry 生化学検査

<栄養評価指標>


(図をクリックで拡大)

<栄養障害の評価>

* 窒素平衡について

体内の窒素バランスをプラスに維持することは大切で、生体は筋肉量や内臓蛋白を守るためにプラスの窒素バランスを維持しなくてはなりません。食事から充分なカロリーを取らず、さらに蛋白質から必要な量のアミノ酸を摂取しないと体の窒素バランスはマイナスになります。つまり体は「消耗」状態になり、自らの筋肉組織や内臓にある蛋白質を分解します。蛋白質は体内の主な窒素源で、分解されると窒素を排出します。窒素排出率を測定することで、どのくらいの蛋白質が分解されているか知ることができます。摂取量よりも多い窒素が尿中または糞便、汗に排出されている場合、窒素バランスはマイナスの状態で、筋肉は事実上消費されています。特に絶食、飢餓状態が続くと、急性の場合1日10〜15gの窒素が尿中に排泄されるとされ、これにストレスが加わると30g/日にまで増加します。これらは蛋白質量に換算すると60〜200g/日にもなり、喪失筋肉量にさらに換算すると1kgになります。一般的に体蛋白の25〜30%が喪失すると窒素死(nitrogen death)といって、内臓機能の維持ができなくなり生命の危険をきたします。完全飢餓の場合、この状態に4〜6日でなるとされていますが、ブドウ糖を一定量補給すると窒素排泄量は半減するとされています。ただし、1〜2週間以上ブドウ糖のみでの栄養管理を行うと、窒素平衡は負となり、体蛋白の崩壊は予防できません。

参考: クレアチニン身長係数、尿中窒素排泄量、尿中3−メチルヒスチジン排泄量


図40. 蛋白代謝

参考:窒素代謝および窒素平衡

・ 生体のタンパク質、アミノ酸必要量=各臓器の代謝的窒素必要量(metabolic demands:MD)±遊離アミノ酸プールと体構成タンパク質プールの間のタンパク代謝回転による調節

・ 不可避的タンパク総質量(obligatory protein loss:OPL)・・・生理的に尿や便などから喪失されるタンパク質量

健康男性成人                              0.34g/kg/day (窒素として約54mg/kg/day)

1日タンパク最低必要量                      0.44g/kg/day

食餌中のタンパク質利用率を70%としての補正  0.57g/kg/day

・ 窒素平衡は投与された窒素量と尿中に排泄された窒素量の差であらわし、約2週間窒素の補給がないと体蛋白の20~30%を喪失し、窒素死(nitrogen death)となる。

・ 窒素バランス(nitrogen balance:NB)

NB (-)・・・全身のタンパク代謝が体タンパクの分解優位で、栄養療法が必要

NB (±)・・・平衡状態

NB (+)・・・体タンパク合成優位で、有効な栄養療法がなされている

窒素は腎臓から尿素窒素として約80%が排泄され、便や汗、体液として少量排泄

NB(g/day)=(投与アミノ酸量/6.25―尿中窒素排泄量)×5/4=投与アミノ酸量/6.25―[尿中窒素排泄量+推定非尿中窒素排泄量(3.5~4.0g)]

・ 熱量/窒素比(non protein calorie / N ratio、NPC/N)  100~200

[(総投与カロリー)-(投与アミノ酸量×4kcal)]  /  投与アミノ酸量/6.25

* 適正比 150・・・アミノ酸が効率よく体タンパク合成に利用され、エネルギーとして利用されたり、尿中に代謝排泄されない。

必要窒素量(g/day)=投与エネルギー量(kcal/day)/150

必要アミノ酸量(g/day)=必要窒素量×6.25

5. C: Clinical Assessment 臨床診査

<栄養障害を示唆する身体所見>

衰弱、腹部膨満、肝臓腫大       蛋白、エネルギー

浮腫                     蛋白、チアミン

褥瘡、創傷治癒遅延           蛋白、ビタミンC、亜鉛

骨粗鬆症                  ビタミンD

骨痛                     ビタミンC

蒼白                     葉酸、鉄、ビタミンB1

皮膚角化症                 ビタミンA、C

リンパ周辺の静脈点状出血       ビタミンC

皮膚の剥がれ、落屑           蛋白、エネルギー、ナイアシン、リボフラビン、

亜鉛、ビタミンA

紫斑                     ビタミンC、K、必須脂肪酸

皮膚の色素沈着             ナイアシン、蛋白、エネルギー

陰嚢皮膚炎                リボフラビン

セロファン様皮膚炎           蛋白

頭髪不足                 蛋白、亜鉛、ビオチン

脱毛                    蛋白

巻爪                    ビタミンC、A

スプーン状の爪             鉄

横線ある爪                蛋白質

夜盲症、結膜炎             ビタミンA

舌炎                    リボフラビン、ナイアシン、葉酸

歯肉出血                 ビタミンB12、蛋白質

口唇炎                   ビタミンC、A、K、葉酸、ナイアシン

口角炎                   リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン

味覚減退                 亜鉛、ビタミンA

舌裂                    ナイアシン

6. D: Dietary Intake Survey 食事摂取調査

図41. 栄養アセスメント

IV-3. 主観的包括的アセスメント SGA(Subjective Global Assessment)

1980年以降栄養法の確立とともに、詳細な栄養評価法がいろいろと考案され、各種の栄養学的パラメーターの組み合わせが発表されました。最終的には、間接カロリメトリー(呼気中の酸素、二酸化炭素濃度からエネルギー量を算出)や放射性同位元素を用いた直接測定法など大掛かりで患者に負担となるような検査法まで登場ました。しかし、1994年JAMAという医学雑誌に、1982年以降発表されたDetsky、Smalley、Changらの3つの症例研究を総括したSGAという新たな栄養評価法が発表されました。SGAはその簡便性だけでなく、再現性にも優れており、他の客観的パラメーターとの相関も高く、欧米ではガイドラインに採用されて今日に至っています。唯一の欠点は、全員に同じ評価ができるようになるまで、訓練が必要なことです。今日、日本におけるNST活動での栄養評価法もSGAにほぼ統一されています。

A. 病歴

1. 体重の変化

過去6ヶ月間における全般的体重減少:

kg     %減少

過去2週間における変化:

kg増加、変化なし、    kg減少

2. 食物摂取量の変化(通常の摂取量との比較)

変化なし

変化:       持続期間      (週)

タイプ:固体ダイエット        完全液体ダイエット

低カロリー液体        飢餓

3. 消化器症状(2週間の持続)

なし 悪心       嘔吐       下痢       食欲不振

4. 機能性

機能障害なし

機能障害:         持続期間     (週)

タイプ: 労働       歩行       寝たきり

5. 疾患および疾患と栄養必要量の関係

初診診断:

代謝動態—ストレス: なし

軽度      中等度      高度

B. 身体検査

(0=正常、1=軽度、2=中等度、3=重篤)

皮下脂肪の減少(上腕三頭筋皮下脂肪厚)

筋肉喪失(上腕三頭筋、上腕周囲長)

くるぶしの浮腫

仙骨部の浮腫

腹水

C. 自覚的包括的アセスメント

栄養状態良好          

中等度の栄養不良        B

高度の栄養不良          C

極度の栄養不良          D

A-1. 体重の変化の問診のコツ

体重減少は栄養状態を示す重要な指標です。体重減少の発生時期は、6ヶ月を慢性、2週間を急性として必要な情報です。過去6ヶ月に体重が徐々に減少した場合、慢性的進行性症状か食生活の変化が原因とされます。過去2週間に極度の減少が発生した場合、栄養不良の危険性は高いと思われます。

・ いつもの体重はどれくらいですか?

・ 過去○○の期間の間に体重がどのように変化しましたか?どのくらい減少しましたか?

・ 自分の体重で気になることはありますか?

・ 体調のよい時の体重はどれくらいですか?

・ 体重減少はいくらか元にもどりましたか?

・ 洋服のサイズは変化しましたか?

・ ベルトの長さを調節しましたか?

・ 周りの人から「やせたね」と言われましたか?

A-2. 食物摂取パターンにおける変化のチェック

食物摂取パターンや習慣の変化は栄養状態に重大な影響を及ぼします。

・ 食習慣が変化しましたか?

・ どのような食事を食べていますか?

・ 家族と同じ食事が食べれますか?

・ 固形の食事が食べれますか?それとも、液体の食品しか食べれませんか?

・ 食事はどれくらい食べれますか?また、食事の量が変化しましたか?

・ 食事の変化はいつからですか?

A-3. 消化器症状のチェック

2週間以上消化器症状が継続する患者は、栄養不良の危険性が高い。特に、嘔吐、下痢、悪心、食欲不振は栄養不良との関連性が高い。

A-4. 機能性、エネルギー・レベルのチェック

健康状態が悪化すると体力が低下し、活動性を維持することが困難となるため、機能性をチェックする。

A-5. 疾患の活性レベルと影響

参考:その他の栄養アセスメント
・ MUST(malnutrition universal screening tool)  英国静脈経腸栄養学会の成人用栄養障害スクリーニング

BMI、体重変化、最近5日間の栄養摂取状態、リスク判定、管理方法の選択の5stepからなる。

・ MNA;mini nutritional assessment  65歳以上の高齢者対象の簡易栄養状態評価法

予診6項目、問診12項目 * MNA-SFが最近では汎用

・ NRS2002 (nutritional risk screening)  ESPEN(欧州静脈経腸栄養学会)2003

スクリーニング:BMI<20.5、最近3か月の体重減少、最近1週間の食事摂取量低下、重篤な疾患

栄養障害スコア、侵襲スコア

 

IV-4. ODAと生化学指標

・ ODA:objective data assessment臨床検査などの客観的なデータに基づいて栄養評価をおこなうこと。SGAは栄養不良が存在するか否かを短時間で判断する手段であるが、ODAはさらに詳細にどの型の栄養障害が存在するのか、栄養素の何が不足しているのか、どの程度の栄養不良であるのかを、より深く判断するための手段である。

・ 客観的指標のみで行う栄養アセスメント

GNRI(Geraiatric Nutritional Risk Index)=1.489×血清アルブミン値(g/L)+41.7×現体重/理想体重

CONUT(Controlling Nutritional Status) 血清アルブミン値、総リンパ球数、血清コレステロール値にて栄養評価

・血清タンパク

血清総タンパク(total protein:TP)・・・アルブミンとグロブリンに分けられ、グロブリンでは感染症、肝機能障害、悪性腫瘍、腎機能障害、自己免疫性疾患などの病状に影響を受けるγグロブリンを反映するので、必ずしも栄養状態を表していない。

血清アルブミン(Alb)・・・血清中で最も含有量が多いタンパク質 3.5~5.5g/dl

<機能>

血漿の膠質浸透圧の保持

生体内物質(金属イオン、陰イオン、ビリルビン、トリプトファン、胆汁酸、脂肪酸など)の輸送

生体内のアミノ酸の供給源

<体内動態>

生体内のアルブミンプール3.5~5.3g/kgで約3分の1が血管内に存在

血管内プール(血清アルブミン)と血管外プール(体組織、皮膚など)があり、血管内プールの約4分の3は48時間以内に血管外プールと交代

1日200mg/kgのアルブミンが合成・分解

血清アルブミン値は、副腎皮質ステロイド、インスリン、甲状腺ホルモン、脱水状態などで上昇し、炎症性メディエーター、肝

機能障害、心機能障害、吸収障害、輸液過剰、亜鉛欠乏などで低下する。

アルブミンの半減期は約20日

* 侵襲下では、サイトカインを中心とする急性期の炎症性メディエーター合成(CRPなど)が増加し、アルブミンの合成は低下し、血管外プールへの移動も起こる。

急性相タンパク(RTP:rapid turnover protein)・・・アルブミンより半減期が短く、短期間の栄養評価に有用

トランスフェリン(Tf:transferrin)・・・半減期7日 男190~300mg/dl、女200~340mg/dl

肝臓で作られる血清β分画の約50%で鉄の運搬に関わる糖タンパク

血清鉄の影響を受けるため、貧血には高値となり、注意を要する

トランスサイレチン(TTR:transthyretin)・・・半減期2日 男23~42mg/dl、女22~34mg/dl

プレアルブミンとも呼ばれる

肝臓で合成される甲状腺ホルモン(サイロキシンT4)の運搬に関わるタンパク

肝機能や甲状腺機能に影響を受ける

周術期のTPN管理にのみ保険適応(月1回)

レチノール結合タンパク(RBP:retinol binding protein)・・・半減期0.5日 男3.6~7.2mg/dl、女2.2~5.3mg/dl

肝臓で作られる血清タンパクα1分画で、レチノール(ビタミンA)の結合・運搬に関わるタンパク

肝機能の栄養を受ける

血漿アミノ酸・・・血清アミノ酸は体内遊離アミノ酸プールの5%、低栄養で低値、高度肝機能障害で高値

BCAA(分岐鎖アミノ酸)のバリン、ロイシン、イソロイシンはタンパク栄養障害で著明に低下

フィッシャー比(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸、BCAA/AAA)は肝障害時に低下

AAA(aromatic amino acid):フェニルアラニン、チロシン

臨床的には総分岐鎖アミノ酸/チロシンモル比:BTRが用いられることが多い。

コリンエステラーゼ・・・半減期約11日

肝臓で合成される、コリンエステルを加水分解する酵素で、肝細胞障害を反映し、肝タンパク代謝の指標

・ 尿中クレアチニン

尿中クレアチニン ∝ FFM(除脂肪組織) ∝ エネルギー必要量  FFM(Kg) = 23.3×Ucr(mg/day)+21.1

・ クレアチニン身長係数(creatinine height index:CHI)・・・筋タンパク代謝の指標

理想24時間尿中クレアチニン排泄量=理想体重(kg)×クレアチニン係数(男23mg/kg、女18mg/kg)

CHI(%)=実測値/理想値(24時間尿中クレアチニンン排泄量)×100

・ 3-メチルヒスチジン(3-Mehis)

筋肉量、筋タンパク代謝状態に相関し、男性・若年者で高値、女性・高齢者で低値

ストレスによる異化亢進時と低栄養で増加、慢性低栄養に伴う筋肉消耗時に低下

・ 血清脂質

血清TG(中性脂肪)・・・栄養不良で低値を示すが、重症感染症では分解低下により高値を示すこともある

血清コレステロール・・・栄養不良で低値を示すが、過剰栄養や脂肪分解の抑制により高値

Ⅳ-5. 栄養アセスメントの実際

基礎疾患:
1. 栄養必要量:
A.代謝状態:

B.総エネルギー必要量:
C.必要水分量:
D.アミノ酸(蛋白質)供給量:
E.脂質供給量:
F.炭水化物供給量:
G.電解質供給量:

H.微量元素・ビタミン供給量:
2. 栄養剤の選択メニュ−およびアクセス・ル−ト

A. 代謝状態

先ず、基礎疾患の状態を確認して、特に糖尿病などの代謝性疾患や心不全、腎不全の有無を確認しておきます。そして、基礎エネルギー代謝量を基本として、病態に応じた必要エネルギー量を以下の公式にて算出します。

B. 1日必要エネルギー量

1. 簡便法(健常者)

活動レベル    女性(kcal/kg/day)  男性(kcal/kg/day)

超軽度        30           31

軽度          35           38

中等度        37           41

高度          44           50

2. 栄養必要量の初期設定(必要な情報がない場合)

25〜30kcal/kg

* 糖尿病 28kcal/kg)

3. エネルギ-必要量(kcal/day)=BMR×活動係数(activity index:AI)×障害係数(stress index:SI) Long法

基礎代謝量:

①体重からの基礎代謝量の推測

基礎代謝量 = 25kcal × 体重(kg)

②Harris-Benedictの公式

男性:66.47+13.75W+5.0H−6.78A

女性:655.1+9.56W+1.85H−4.68A

W(体重kg) H(身長cm) A(年齢)

③日本人のための簡易式

男性:14.1W+620

女性:10.8W+620

W(体重kg)

* 補正標準体重:実際に入力する体重の求め方

補正標準体重 = {(現在の体重(kg)− 理想体重)×0.25 } + 標準体重(kg)

活動係数(activity factor):

1.0(寝たきり) 1.2(歩行) 1.4〜1.8(労働)

障害係数(stress factor):

手術後3日間

侵襲なし(ソケイヘルニア、腹膜炎のない虫垂炎、骨折など)  1.0

軽度(ラパコレ、開腹胆嚢・胆管手術、乳腺・内分泌手術など) 1.2

中等度(胃手術、大腸手術など)                    1.4

高度(胃全摘、直腸手術、汎発性腹膜炎手術など)        1.6

超高度(食道がん、肝臓手術、膵頭十二指腸切除など)     1.8

感染症 軽度1.0  中等度1.2  高度1.5

発熱  37.0℃ 〜   1.2

38.0℃ 〜   1.4

39.0℃ 〜   1.6

40.0℃ 〜   1.8

外傷 骨折・鈍傷1.1  頭部損傷1.2  多発外傷1.3

熱傷 体表面積10%ごとに1.0に0.2ずつアップ(最大2.0)

臓器不全 1.2+1臓器ごとに0.2 (4臓器以上は2.0)

担癌状態  1.2

* 参考:現在、ストレス係数は日本で統一されたものはありません。

・ 間接熱量測定法・・・エネルギー基質を生体内で参加してエネルギーを産生する際に必要な酸素消費量と、その結果生じる二酸化炭素量とを測定し、安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure:REE)および呼吸商(respiratoryqoutient:RQ)を測定する方法。

呼吸商・・・間接熱量測定時点でのエネルギー基質の酸化状態を表し、エネルギーとして利用し得る基質(糖、脂肪、タンパク質)の状態を反映し、また、投与したエネルギー基質が有効に利用されているか否かを推測するうえで有用。糖質酸化 1.00、 脂肪酸化 0.70

C. 水分必要量(1日)

次に、患者への水分投与量を決定します。特に、経腸栄養剤は実際の量の80%が水分となることに注意が必要です。

① 30ml× 体重(kg)
② 1ml× 栄養摂取量(kcal)
③ 1500ml÷ 体表面積(m2)× 実質体表面積(m2)

④ 尿量(予想尿量1ml ×体重(kg)×24時間) + 600ml

カロリー摂取量   成人              1.0ml/kcal
小児              1.5ml/kcal

体重         成人 25-55歳      35ml/kg/日
55-65歳      30ml/kg/日

65歳超        25ml/kg/日
小児 1歳(9kg)     120-135ml/kg/日
2歳(12kg)    115-125ml/kg/日
3歳(16kg)    100-110ml/kg/日
4歳(20kg)     90-100ml/kg/日

<水分需要量が増える病態・疾患>

・ 感染

・ 発熱

・ 高室温、低湿度

・ 高蛋白食

・ 嘔吐・下痢

・ 消化管瘻孔、創ドレナージ   など

* 代謝水の目安: 一般的に100kcalあたり 13ml(1日300ml)

代謝水(ml)=13ml×1日必要エネルギー量(kcal)÷100kcal

* 不感蒸泄の目安:不感蒸泄 15ml /kg / 日

通常の環境で呼吸を普通にするだけで400ml喪失

発汗によりさらに400〜600ml喪失

ただし、厳密には発汗は不感蒸泄には含めない

計800〜1000ml

不感蒸泄量(ml/日)=15ml×体重(kg)+200×(体温−36.8℃)

* TNTガイドラインでは、総カロリ−の約25%が不感蒸泄で喪失

欧米では汗のカウントは事実上不可能なので、汗も糞便も全て非腎性

分喪失として一括して扱う。ただし、下痢などの大量水分喪失でカウントできるものは補給する。

例)必要カロリ−2000kcalならそのうち500kcalとなり、水分蒸発時の熱量は1mlあたり1.7kcalのために850mlが不感蒸泄となる

* 体温1℃上昇に応じて13%不感蒸泄は増加

D. アミノ酸(蛋白質)必要量

侵襲に応じたアミノ酸(蛋白質)の総投与量を決定し、病態に応じたアミノ酸の組成も考慮します。

蛋白質の総投与量の目安:
総カロリ−の20%  1.2〜2.0 g/kg/day
アミノ酸 1g → 4kcal
アミノ酸量 = 窒素量 (g) × 6.25
* 必要窒素量 = 総エネルギ−必要量(kcal)÷ 150

* 蛋白質(g)= 体重(kg)× 障害係数 ÷ 4
* 蛋白質熱量(kcal)= 体重(kg)× 障害係数

ストレス・レベル      なし       中等度
極度

カロリ− / 窒素     150超    100から150    100未満

蛋白質 / 総カロリ−  15%未満    15〜20%     20%超

蛋白質 / 体重  0.8g/kg/day 1.0〜1.2g/kg/day 1.5〜2.0g/kg/day

推 奨         ストレス係数(障害係数)

必須アミノ酸(生体内では合成されず補給が必要)

イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン(小児のみ)、アルギニン(小児のみ)

* アルギニンは免疫細胞の支援、創傷治癒の促進、ストレス下の窒素貯蔵の強化が必要とされており、栄養不良やストレス下の患者には補給が必要とされている。

非必須アミノ酸(生体内で産生可能)

アラニン、チロシン、アスパラギン酸、タウリン、グルタミン酸、システイン、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン

* グルタミンは免疫細胞や消化管細胞のエネルギ−補給と恒常性の維持や修復に関与し、骨格筋や肝臓で蛋白代謝のもとになっている。ストレス下で欠乏することがわかっているため、重症患者には条件必須アミノ酸とされる。

* タウリンは細胞の安定、神経調節、カルシウム代謝や肝臓の解毒作用に関連しており、ストレス下での欠乏が指摘されている。

E. 脂質供給量

日本では、比較的脂肪投与が軽視されがちであるが、重要な栄養成分であり、TPNの際には脂肪投与量の決定はブドウ糖より優先されます。

脂肪投与の目安:
総カロリ−の15〜40%  静脈内投与は1.0〜1.5g/kg/day以下
脂質 1g → 9kcal (中鎖脂肪酸1g → 8.3kcal)

必須脂肪酸(生体内で合成されず補給が必要)

リノ−ル酸(M6)、αリノレン酸(M3)が必須。これらはプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサン、プロスタサイクリンなどの前駆物質であり、体内で重要な働きを担っている。特に脂質の投与は呼吸不全などでCO2の蓄積傾向にある患者には糖質比較してエネルギ−源として有効であり、中鎖脂肪酸(MCT)はやや燃焼率は長鎖脂肪酸に比較して劣るが、消化吸収に優り肝障害患者にも使用できる利点がある。また、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などのω-3系必須脂肪酸の投与も抗血栓、抗動脈硬化作用だけでなく、ω-6系脂肪酸を抑制することによって炎症反応の抑制にも効果があるとされている。

誤解されやすい脂肪乳剤

* 脂肪製剤の指摘投与速度は、0.08〜0.15g/kg/ 時間。10%イントラリピッド200mlの場合には、体重50kgの患者で最大75ml/時間(2時間40分)、慎重投与の場合40ml/時間(5時間)となる。

* 脂肪乳剤の投与極量は、成人2.0g/kg/ 日(体重50kgの場合に10%イントラリピッド200ml5本)、小児4.0g/kg/ 日(体重10kgの場合に10%イントラリピッド200ml2本)。一般に総必要カロリ−の40%。

* 必須脂肪酸の欠乏は、絶食2週間で発生する。

* 脂肪乳剤の過剰投与による副作用は、溶質のレシチンによるものが主なので20%などの濃度の濃い製剤が主流。

* 脂肪乳剤は脂肪肝を発生させるというよりは、糖質の過剰投与による脂肪肝や膵手術後の膵ホルモンの不均衡による脂肪肝に対して逆に改善効果がある。

* 特に、免疫低下や急性感染症時、急性肝障害・肝不全、急性膵炎には禁忌。

F. 炭水化物供給量

最終的に残った必要カロリー量と残った水分投与量で糖質の濃度がけっていされます。基本はブドウ糖です。

炭水化物(糖質) 1g → 4kcal

グルコ−ス: グルコ−スは全身で代謝され生体内で主に機能しており、特に脳・中枢神経系では唯一のカロリ−源である。

フルクト−ス:糖尿病時の糖質補給に用いられるが、乳酸アシド−シスや高尿酸血症の可能性あり。

ソルビト−ル:脱水酵素によりフルクト−スとマンニト−ルに分解され、主に利尿作用を有する。乳酸アシド−シスや腎シュウ酸結石の合併あり。

キシリト−ル:肝障害に注意。乳酸アシド−シスや高尿酸血症も可能性ある。

マルト−ス:加水分解により2分子のグルコ−スになるが、代謝速度が遅く血糖値に影響を与えることが少ない。

多糖類

グリコ−ゲン:炭水化物は吸収されると主に肝臓にグリコ−ゲンとして貯蔵され、体内エネルギ−や骨格筋の収縮に使用される。

デンプン、セルロ−ス、グリセロ−ル、フラクトオリゴ糖など

G. 電解質、ビタミン、微量元素の供給

<電解質>

1日あたりの電解質必要量(FDA基準) 平均的な摂取量

ナトリウム(Na)      60-80 mEq     8〜12g(137〜204 mEq) 1g=17
mEq

カリウム(K)         30-60 mEq           40〜120 mEq

塩素(Cl)         80-100 mEq           137〜204 mEq

カルシウム(Ca)     4.6-9.2 mEq             10〜20 mEq

マグネシウム(Mg)    8.1-20 mEq             15〜30 mEq

リン(P)           12-20mEq              10〜16
mEq

* 参考:消化液中に含まれる電解質成分

分泌物     ナトリウム    カリウム    塩素      炭酸水素塩

胃液瘻      40-60       10      100-140

膵液瘻      135-155       5       55-75       70-90

胆汁瘻      135-155       5      80-110      35-50

回腸液瘻     120-130      10       50-60      50-70

水様下痢     25-50     35-60      20-40       30-45

<ビタミン>


* AMA(米国医師会)ガイドライン
(図をクリックで拡大)

<微量元素>


(図をクリックで拡大)

IV-6. 栄養アセスメント手順

①  問診、身体計測 → SGAによる栄養状態の評価

②  血液検査(血清アルブミン値、リンパ球数など)による補助評価

実際のビタミンやミネラルの血中濃度の測定

③  栄養投与ル−トの決定

④  1日投与水分量の決定

⑤  基礎代謝量から測定した1日の栄養必要量の算定

⑥  障害係数(ストレス係数)からみたアミノ酸投与量の決定

⑦  患者状態からみた脂肪投与量の決定

⑧  残存必要カロリ−と投与可能水分量から糖濃度の決定

⑨  投与する栄養成分やビタミン、ミネラルの詳細決定

⑩  最終的に輸液内容と患者状態との照合確認

⑪  決定した栄養内容に応じた実際の薬剤調整

⑫  栄養法施行に伴う合併症のチェック

⑬  栄養管理の継続的評価と再プランニング


図42. 栄養管理手順
(図をクリックで拡大)

《参考》
名古屋記念病院 栄養アセスメントシート

Acrobat Readerで開いてください。
パスワードは、『nmh』です。

参考: 免疫能評価

・ 侵襲に対する生体反応は、神経・内分泌経路と、サイトカインを中心とする免疫系が関わる。
・ ストレス反応により、炎症性サイトカイン(IL-1β、TNFα、IL-6など)が誘導される。

・ ストレス下では、細胞性免疫が障害され、体液性免疫が優位となっていることが多い。

・ 総リンパ球数の低下は栄養不良の指標となり得る。

・ いくつかの生化学的指標を組み合わせた予後推定栄養指標(PNI)は、栄養状態、全身状態の把握と予後推定に役立つ。

・ 神経・内分泌経路

上行性刺激伝達: 侵襲刺激を末梢受容体で受け取り中枢神経に伝える・・・侵襲・刺激 →末梢受容体 →中枢神経

下行性刺激伝達: 刺激を認識・統合する制御中枢(視床下部)、中枢より末梢の効果器官に命令・情報を伝える・・・視床下部 →下垂体 →副腎(内分泌系) コルチゾール、抗利尿ホルモン、成長ホルモン、甲状腺ホルモン

傍側脳室 →交感神経(交感神経系)   ノルエピネフリン、エピネフリン、インスリン、グルカゴン

・ サイトカイン・・・細胞間情報伝達の中心となるメディエーター

炎症性サイトカイン・・・TNFα、IL-6、IFNγなど

抗炎症性サイトカイン・・・IL-4、IL-10、TGFβなど

・ サイトカインと免疫調節

抗原提示細胞(単球・マクロファージ) →ナイーブヘルパーT細胞(Th0)

IL-12 →Th1(エフェクター細胞) →IL-2、IFNγ →細胞性免疫を調節

IL-1、IL-4 →Th2(エフェクター細胞) →IL-4、IL-6、IL-10、IL-13 →体液性免疫を調節

糖質コルチコイド →Th2抑制、ノルアドレナリン →Th1抑制

* ストレス下では、Th2有意

・ SIRS(systemic inflammatory response syndrome、サース)・・・炎症性サイトカインが優位の状態

1. 体温   38℃超または36℃未満

2. 脈拍   90回/分超

3. 呼吸数  20回/分超またはPaCO2 32mmHg未満

4. 白血球数  12000/μL超または4000未満、あるいは幼若球10%超

* CARS(compensatory anti-inflammatory response syndrome、カース)・・・抗炎症性サイトカイン優位

免疫抑制状態のため、感染がおこりやすい

* MARS(mixed antagonistic response syndrome、マース)・・・両者が混在

・ 総リンパ球数(total lymphocyte count:TLC)

総リンパ球数=白血球数×リンパ球割合(%)/100

TLC:1200~2000/ml 軽度栄養障害

800~1199/ml 中等度栄養障害 T細胞の減少により、細胞性免疫低下

800/ml未満    高度栄養障害 B細胞も低下し、液性免疫低下

* 栄養障害を表す免疫学的指標として、一番有用

・ リンパ球サブセット

ヘルパーT細胞(Th)・・・CD4を発現し、免疫応答を活性化(リンホカイン産生、T細胞の機能誘導、B細胞の分化成熟および抗体産生)

サプレッサーT細胞(Ts)・・・CD8を発現し、免疫応答を抑制

* 低栄養状態では、Th/Tsは低下する、すなわち免疫は抑制される。

・ リンパ球幼弱化反応

リンパ球が抗原刺激で芽球様細胞に変化し分裂増殖することを幼弱化といい、PHAなどでT細胞を刺激してT細胞のDNA合成能を測定することで評価する。低栄養で低下。

・ 皮膚遅延型過敏反応

細胞性免疫能の評価・・・ツベルクリン反応(purified protein derivative:PPD)

10~15mm:経度栄養障害、5~10mm:中等度、<5mm:高度

ただし、免疫抑制剤投与、高齢者、悪性疾患、感染症、肝不全、腎不全でも偽陰性あり。

・ 補体・・・肝で合成されるタンパク質(C3、C4)

NK活性(natural killer、ナチュラルキラー)・・・担癌患者や肝硬変において栄養状態と相関する細胞障害性リンパ球機能

免疫グロブリン・・・Bリンパ球から産生される液性免疫で、IgAなどが低下

サイトカイン・・・細胞間の伝達物資であり、代謝などと相関しているが、臨床的には栄養評価としての定量は困難

・ 予後推定栄養指数(prognostic nutritional index:PNI)・・・外科手術成績などと栄養評価相関

血清アルブミン、トランスフェリン値、上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)、遅延型皮膚過敏反応試験(PPD)を用いて、栄養状態に応じた術後の有病率と脂肪率の危険性を予測するもの(小野寺1984)