口腔ケアマニュアル

1. 口腔ケアの定義

口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康の保持・増進、リハビリテーション等によって、その対象者のQOLの向上を目指した看護や介助を いい、広義には口腔疾病の治療及び予後管理、教育、相談、診査、予防処置を含んだ、単に口腔領域にとどまらず、全人的支援を意味するもので、さまざまなケ アの一環として取り扱われるものです。

2. 口腔ケアの内容

1)口腔清掃
含嗽、歯磨き、ブラッシング、フロッシング、歯間清掃、綿棒・ガーゼ
・スポンジなどによる清掃、吸引・洗浄、歯垢・歯石の除去
2)フッ素化合物の塗布
3)義歯の装着と手入れ
義歯の洗浄・ブラッシング、安定剤・装着剤、保管
4)咀嚼
5)摂食・嚥下訓練
6)食物残渣の除去
7)口臭の除去
8)口腔、舌の乾燥防止
9)口腔の痛みの軽減
含嗽剤、口腔用軟膏
10)口腔出血の防止
11)口唇のひび割れ、出血の防止
12)舌のブラッシング、舌苔の除去
13)歯肉のマッサージ
14)頬部、口囲筋のマッサージ
15)舌のマッサージ
16)言語訓練
17)口腔内の観察
18)栄養方法の検討

下線は歯科受診が必要なもの

3. 口腔内観察のポイント


・ 虫歯がないか?
歯の痛みを訴えていないか?
歯のぐらつきがないか?
虫歯のできやすい場所:
歯と歯ぐきの間
奥歯の溝、歯のかみ合う面
前歯の裏側
となりあった歯と歯の間
上顎の一番後ろの歯の裏側
・ 口臭があれば、その原因は何か?
口臭の原因となりやすいもの:
歯槽膿漏(辺縁性歯周炎)
虫歯
舌苔
口腔内の食渣や歯垢
副鼻腔炎などの耳鼻科疾患など
・ 口腔内に食渣、歯垢、舌苔が付いていないか?
・ 口腔内が乾燥していないか?
・ キズや出血がないか?
・ 義歯や補綴装置のチェックと不具合はないか?
・ 咀嚼や嚥下に問題はないか?
・ 栄養剤や消化液の逆流はないか?

<実際の口腔内観察手順>

口臭?臭いはあるか?:
口臭は歯垢(プラ−ク)や歯石あるいは歯周病の歯周ポケットにいるいろいろな細菌によって出血や膿のタンパクが分解されたり、細菌が産生する揮発性の硫 化物による不快な臭いです。また、歯肉炎や歯周病、あるいは癌の潰瘍のような粘膜の組織が死んで特有の腐敗臭を発生することも原因となります。舌表面の白 い苔(舌白苔または舌苔)も白血球やいろいろの細菌からなり、これらの細菌の分解産物が口臭となって現われます。これらは、痛みや出血などによって清掃が 不足したり、高齢者や麻痺などによる不完全な清掃でも増悪します。さらに、脱水になると唾液の量も減ってきて、舌苔の量が多くなって口臭が強くなります。 鼻・呼吸器・肝臓等の疾患や糖尿病、尿毒症等の特有の口臭が生じるため、全身疾患にともなっても増悪してきます。
出血をみる:
歯周病に見られる歯肉の感染によって出血しやすくなります。出血傾向として歯肉出血は比較的早期にみられる徴候で重要です。潰瘍や腫瘍による易出血も注意が必要となります。
痛みはないか?:
虫歯による痛みや、虫歯や歯周病が歯の根の周囲の骨にひろがると痛みの強さが増してきます。入れ歯が不具合によって歯肉にあたって潰瘍をつくると痛くて 物が食べられなくなり、歯肉・口蓋・頬・舌・口唇粘膜のアフタやヘルペスに見られる口内炎の潰瘍やびらんは物が触れただけで痛みを強く感じて食べ物を口に 入れられないこともあります。免疫能の低下した患者やステロイド投与、放射線治療の際にも、白斑と痛みを伴うカンジダ症があり注意が必要です。これらは、 痛みのために食事がとれなくなり、栄養不良の合併からさらに症状は増悪する悪循環となります。
腫れをみる:
感染による口唇・歯肉・舌・頬粘膜の腫れや、歯周病による歯肉の腫れ、薬(ヒダントイン、Ca拮抗剤、シクロスポリンAなど)の副作用により歯肉が腫れ たり、口腔癌の腫れがあります。頬や唇を噛んでできるポリープや入れ歯や歯にかぶせた金属冠の刺激でできるエプ−リスなどの腫れもあります。
乾燥をみる:
口の中が渇いてネバネバしたり、口の中の違和感に注意しましょう。催眠鎮静剤、抗不安剤などの薬剤を長期間内服していると、唾液の分泌が押さえられて唾 液の量は5分の1から10分の1に減ってしまうために口の中が乾燥してネバネバした感じになります。放射線治療で唾液の量が20分の1に減ってしまうか殆 ど出なくなることもあるので注意が必要です。
味覚の異常はないか:
血圧降下剤を長期間内服していると味に異常をきたして味がわからなくなります。味覚神経がおかされると同じようなことが起こります。亜鉛の欠乏でも起こると言われています。
舌の知覚異常はないか:
舌の知覚を司る神経が異常をきたすと舌の表面・側面・突端の知覚が異常をきたしてピリピリ舌過敏な知覚や麻痺感が生じます。
舌と顎の動きをみる:
舌を動かす神経がおかされたり、脳の麻痺や頭部の外傷による意識障害などが生じると舌の運動が異常になったり、食べることが出来なくなったり、飲み込み が難しくなって、あやまって気管に入って誤嚥性の肺炎を起こしたりするので注意が必要です。脳が障害されると口を開いたり閉じたりする顎の運動が障害され て食べ物を咀嚼することが難しくなったり、口の中を清掃することが難しくなって不潔なままで誤嚥しても肺炎を生じることがあります。顎がはずれてしゃべる ことも、食べることも出来なくなることも高齢者では時々あります。
引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~oralcare/hand-book.html#Anchor38887

*虫歯とは?
口の中の口腔内細菌(むし歯菌)が砂糖などの糖質(炭水化物)を取り込んで、歯に付着して酸を作りだして歯を溶かす、それがむし歯(う歯)です。しか し、むし歯ができるにはむし歯菌と糖質の存在だけでなく、作用する時間の長さ(食生活の乱れ)・歯の抵抗力の低下といった要素が揃うことが必要です。最近 は、口の中では歯が溶け出す脱灰という作用と、溶けた歯が再び元の状態に戻っていく再石灰化という作用が日常的に繰り返し起こっていることから、この脱灰 と再石灰化のバランスが崩れるとむし歯になると言われています。ミュータンスレンサ球菌は、私たちの食事に含まれる糖から酸を作り出し、歯はその酸によっ て少しずつ溶けていきます。酸を出す細菌は他にもありますが、この菌は、糖のない状態でも酸を作り出すことができるうえ、砂糖(ショ糖)からねばねばした 水に溶けない物質を作り出し、歯にしっかりとくっつき、他のくっつく力のない細菌を巻き込んでバリヤーを作り、細菌の巣窟となるプラーク(病原性バイオ フィルム)を形成します。その他、非常に強い酸を出すラクトバシラス菌など、酸を出すさまざまな菌がむし歯の発生や進行に関係しているといわれています。

高齢者の虫歯
高齢者の大半の人は歯肉退縮をおこします。すると歯根が露出し,歯根表面あるいは歯間に歯垢が付着し,歯ブラシが届かない不潔な部位が出来,むし歯になりやすくなります(印)。 部分的な義歯を入れている高齢者は残存歯と義歯の間が不潔になり,歯根露出部がむし歯になりやすくなります。歯根が露出していますと,歯ブラシが当たり, 歯根表面を被うセメント質が擦り減り,象牙質が露出し,長年歯磨きを続けることにより,歯頚部の歯根に楔状の欠損が形成されます(矢印)。この部は褐色あ るいは黒色に着色され,更に歯磨きを強く行うと冷温水でしみたりする様になり、折れたりする原因となります。
引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~oralcare/hand-book.html#Anchor38887

* 歯周病とは
歯周病とは、歯周組織(歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨)に発生する炎症性病変の総称で、代表的なものに、歯肉炎と歯周炎があります。これらは、生き た細菌の集団(歯垢、プラーク)による感染と、それに対する生体の防御反応(炎症、免疫反応)により、組織の破壊が起こる病気です。まず細菌の歯面への付 着により、歯肉に限局した歯肉炎が起こり、この状態を放置しておくと細菌は歯と歯肉の間に入って増殖し、同部の付着がはがれて溝のような状態(歯周ポケッ トの形成)になります。この付着が消失した段階で歯周炎という名称となり、細菌の増殖に伴い、感染および炎症は歯周組織深部に進行し、歯肉のみならず、歯 根膜、セメント質、歯槽骨の破壊が起こる結果、歯根が露出して知覚過敏を起こし、支えの少なくなった歯は動揺を来たし、歯周ポケットからは出血、排膿が生 じ、最終的に歯は抜けてしまいます。歯周病は、口臭、歯列不正の原因ともなり、全身的には細菌性心内膜炎、誤嚥性肺炎、低体重出生児との関係も指摘されて おり、放置することなく、適切な治療を受ける必要があります。

引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
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歯肉炎:(Gingivitis)
歯肉片縁に付着したプラークにより,歯肉に炎症が起こった状態です。アタッチメントロス(付着の喪失)を伴わないので的確な初期治療で完全に治癒しま す。しかし,放置するとアタッチメントロスが発生する歯周炎に発展してしまいます。一般的に付着の喪失がおこってしまうと,特殊な術式を用いない限り,再 獲得するのは困難です。歯肉炎にも普通の歯肉炎,妊娠中に発生する妊娠性歯肉炎,高血圧治療薬,てんかん治療薬を服用している人に見られる薬物性の歯肉炎 などさまざまなタイプが認められます。
成人性歯周炎:(Adult Periodontitis)
もっとも多いタイプの歯周炎で、30代から始まり比較的ゆっくりと進行します。初期にはほとんど症状がなく、ブラッシング時の歯肉出血がある程度です が、進行するにしたがって、歯肉が腫れ、膿がでたり、歯がぐらついて抜けてしまうことがあります。早期発見が大事で、適切な治療により回復します。

日本人の場合、歯肉炎は10〜20代前半ですでに60%のかたがかかっているといわれ、50才代でおおよそ80%の人がかかってい るといわれるほど、多くの方が悩んでいる歯の病気です。だれもがかかっている病気だからといって軽視していると最後には取り返しのつかないことになってし まう怖い病気です。
歯周病が知らない間に進行しないように、日頃のチェックと予防が重要であり、チェックポイントとしては歯肉の変化が重要な部位です。中でも、歯肉の色や 形態の変化、出血や排膿の有無が重要で、その他、歯の動揺、食べかすが歯と歯の間につまる(食片圧入)、歯の移動、口臭がチェックポイントになります。

<歯周病のチェックポイント>
□ 歯肉の色が赤い、もしくはどす黒い。
□ 歯と歯の間の歯肉が丸く、腫れぼったい。
□ 歯肉が、疲労時やストレスがかかっているときに腫れやすい。
□ 歯肉が下がって、歯と歯の間にすき間ができてきた。
□ 歯が長く伸びてきた。
□ 歯の表面を舌でさわるとザラザラする。
□ ブラッシング時などに歯肉から出血しやすい。
□ 起床時に口が苦く、ネバネバして気持ち悪い。
□ 歯肉を押すと白い膿がにじみ出てくる。
□ 歯の動揺がある。
□ 歯と歯の間に食物が挟まりやすい。
□ 上顎の前歯が出てきた。
□ 人から口臭があると言われる。

引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
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次に、予防法ですが、歯ブラシや補助清掃用具によるプラークコントロールが予防の基本です。方法の選択は、歯科医師に決めてもらうのがよいと思われま す。さらに、何の症状がなくても、半年に1度位毎に歯科医院を受診し、チェックしてもらう必要があると思われます。特に、口腔清掃習慣、喫煙、ストレス、 大酒家、食生活などが増悪因子とされており、注意が必要です。

4. 口腔ケアに必要なもの

歯ブラシ(毛はやわらかく、頭が小さく、柄がおおきいもの)
* 吸引付歯ブラシも必要に応じて使用する
歯間ブラシ、デンタルフロス
舌クリーナー
トゥースエッテ(ハミングッド)、綿棒
タオル1枚
ガーグルベース
コップ3個(器具洗浄用、含嗽用、口腔洗浄用)
洗浄用水(水道水、緑茶、イソジンガーグル液)
* 基本は水道水または緑茶、感染を疑う場合にはイソジンガーグル液
オーラルバランス
らくのみ、カテーテルチップ、注射器、吸引セット
ペンライト、手鏡
バイトブロック、ゴム管、開口器
処置用シート、エプロン、プラスチック手袋、ガーゼ、ティッシュペーパーなど

<歯ブラシ選びのポイント>
よい歯ブラシとは、ひとことでいえば磨き残しが少なく、歯ぐきを傷つけることがなく、口の中で動かしやすいものです。単純なかたちのもののほうがどの場所にも使いやすいと思います。
●全体の形を横から見たときに、ブラシの頭部と把柄部分が一直線で、
頚部に極端な角度が付いてないもの。柄の部分は、握りやすく頭部が
小さめのもの。
●歯ブラシのブラシの部分の大きさは、毛の生えている部分の長さが、
前歯2本分くらい(または、人さし指と中指の幅を合わせたくらい)で、
毛束が「まばら」に植えられているもの。
●歯ブラシの毛先は、刷面がまっすぐで、「毛先が丸めてある」もの。
●歯ブラシの材質は、豚毛などよりもナイロン毛が良い。
●歯ブラシの硬さは、一般的には「ふつう」の硬さのもの。
歯間ブラシやデンタルフロスなどを併用しないと完全なプラークコントロールは不可能です。

引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
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5. 口腔ケアの基本

〇ブラッシング(歯磨き)
歯ブラシ、口腔ケア用スポンジ、舌ブラシなどにより、口腔内汚染の清掃、
歯垢の除去を行うこと。
使用物品:
歯ブラシ、電動歯ブラシ、ワンタフトブラシ(歯垢用)、タングクリーナー
(舌苔用)、くるりーなブラシ

* 舌苔のクリーニング
食事が食べれないと舌の表面の糸状乳頭の先端が削り落とされることがなく、どんどん伸びてしまって舌表面に白っぽい毛のようなものがびっしり生え、そこ に口腔内の種々のものが付着して舌表面に苔が生えたように見えるようになるのが舌苔です(舌白苔)。舌苔が付着しやすい誘因として、胃腸障害、糖尿病、腎 疾患、血液疾患、喫煙、抗生物質連用、飲酒などが挙げられます。しかし、この舌苔があまり長期間にわたって多量に付着していると、種々の細菌が増殖しやす く、舌の異和感、味覚異常、痛みなどの原因となります。カンジダ症などとの鑑別が必要です。

舌苔の清拭の仕方:
舌背の表面をまんべんなく歯ブラシで軽く擦るのが最もよいです。べったり付着した舌苔を一度にすべてを取ってしまおうとせず、気長に毎日ブラッシング して徐々に 少なくなるのを待つのがいいです。しかし、ブラッシングを止めるとすぐにまた舌苔は付着し始めますので根気がいります。口腔乾燥の予防と舌苔 そのものの柔軟化を期待して、乾燥予防材の塗布も有効です。殺菌性のうがい薬や抗真菌剤の塗布を勧める人もあるが、舌苔のでき方を考えるとあまり効果は期 待できません。

〇フロッシング(歯間清掃)
専用の糸や歯間ブラシなどを用いて、歯間の清掃をおこなうこと。
ブラッシングで清掃できない場合や歯垢の除去に用いる。
比較的難しいので、無理はしない。
使用物品:
歯間ブラシ、デンタルフロス、糸ようじ

〇リンシング(洗口)
すすぎ・うがいのことで、口腔内を水道水などで洗浄すること。
義歯がある場合には必ず義歯を外して行い、義歯は別に洗浄する。
水道水で十分ですが、カテキンの殺菌効果を利用してお茶を用いる場合
もある。薬剤としては、イソジンガーグル、オラドール含嗽水、ハチアズレ、
重曹水などがある。

<リンシングのポイント>
通常、水を含み、頭をのけぞらせて”ガラガラ”と喉のおくを洗うのを「うがい」といい、水を含み口先を濯ぐのを「口すすぎ」といいます。「うがい」は口 内と咽頭・喉頭部分を清潔にし、潤いを与えるので、呼吸器感染の予防に重要な役割をします。うがいをするためには意識がはっきりしていること、唇が閉じら れること、頭がのけぞらせること、水が吐き出せることなどの条件が必要です。うがいに使用するものは、日本なら水道水でも十分ですが、お茶・レモン水もよ いでしょう。風邪を引いて喉に痛みがあるときは消炎鎮痛剤の入ったうがい薬を使うと更に効果的です。
「口すすぎ」は食べ物のカスを取り除き、気分を爽快にするのが目的ですが、寝たきりの場合などは口の中をきれいにすることで肺炎の予防も可能です。口を すすぐためには唇が閉じられ、舌や頬が動かせることが条件です。水道水・お茶・レモン水・水歯磨きなどが使われます。

* 口腔乾燥について
唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺と口腔内に広く分布する小唾液腺から、一日に約1500CC排出されます。耳下腺と顎下腺では水分が主体で、その他は粘液 で、唾液には粘膜保護、潤滑、洗浄、静菌、消化、食塊形成や緩衝作用があり、唾液の減少が続くと口腔乾燥症といわれる症状が現れます。

症状:
粘膜萎縮、義歯性潰瘍、義歯不安定、味覚障害、舌痛、多発性歯頚部
う蝕、歯周炎の増悪、咀嚼障害、嚥下障害、食思不良、構音障害

口腔乾燥症の原因:
加齢、糖尿病、尿崩症、自律神経失調症、放射線被曝、
シェーグレン病、薬物常用(睡眠薬、抗ヒスタミン薬、精神安定剤、
利尿剤、降圧剤ほか)

治療:
1)  薬剤性の場合:原疾患に影響しない範囲で減量・休止,他剤に変更。
2)  糖尿病、尿崩症、自律神経失調症:原疾患の治療
3)  口腔乾燥への対処:口腔環境の悪化を防ぐために口腔の湿潤と
清潔を心がける。甘いものは口腔乾燥感を和らげるがう蝕の原因と
なるために避ける。
4)  薬剤: サラジェンR、フェルビテンR、ビソルボンR
水分補給: 人工唾液(サリベートR)、お茶・水、サワーキャンデー、
ハッカキャンデー、トマトジュース
口唇乾燥: リップクリーム
保湿剤: オーラルバランスR、ウエットケアR、オーラルウエットR

引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
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6.口腔ケア手順

1) 患者さんに声かけをし、覚醒をうながします。そして口腔ケアの説明し同意を求めます。移動可能な場合には洗面台まで移動し、座位で行います。
2) 姿勢を整えます。
起き上がって座位の姿勢が取れる場合:
完全な座位(安定しない場合は45度の半座位)にて補助枕などで
安定させます。
起き上がれなくて座位が取れない場合:
上体を30度くらい高くして、可能であれば側臥位にします。
麻痺があれば麻痺側を上にします。背中に枕やバスタオルを入れて
安定させます。側臥位が困難な場合には、顔を横にむけさせますが、
少し下顎を引いた姿勢が好ましいです。必ず吸引の準備をしておきます。
3) 衣服やベッドが濡れないように胸元にタオルをかけるか、エプロンや処置用シーツをあてます。
4)緊張がとれるような環境に心がけます。
5)口腔内の観察と義歯の有無をチェックして義歯があれば外します。
6)口腔内の清掃
*必ず出血傾向の有無をチェックしておきます。
ある程度自立できる患者さんの場合:
1. 含嗽をうながします。
「うがい」の種類と方法:
口の中を湿らせる「うがい」
少しだけ含嗽水を口の中に含んで、そのままだしてもらいます。
口の中をきれいにするための「うがい」
ブクブクまたはクチュクチュうがいという口すすぎです。口の中で
含嗽水が動くように頬を左右に5〜6回動かします。主に食渣などが
洗い流されます。
のどをきれいにする「うがい」
俗にいうガラガラうがいです。のどのよごれや細菌を洗い流します。
2. 水にぬらした歯ブラシを患者さんにもたせて歯のブラッシングを指導
します。自立のためにも最初は必ず患者さんにやってもらうか、手を
そえてブラッシングを行います。そして、仕上げを介助者がおこなう
ようにします。
上手なブラッシング:
・ 手鏡や拡大鏡などで口の中を見ながら、必ず歯をブラッシングします。
・ 毛先をきちんと歯にあててみがく。
・ 軽い力でみがく。
・ 小刻みに動かしてみがく。
・ 歯と歯ぐきの境目は45度の角度であてる。
・ 歯垢のできやすいところ

引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
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歯ブラシの動かし方は,一口で言うと,細かく動かし,1本1本磨くような感じです。 磨くときに力を入れる必要はありません。 プラーク(歯垢)は柔らかいので,歯ブラシの先が,歯面に触れていれば除去できます。歯ブラシを歯と歯肉の境目に,歯の側面にほぼ垂直に押し当てて,横に 細かく振動させるように動かします。 大きく動かすと,汚れは取れないばかりでなく,歯肉を傷つけたり,歯根の表面をすり減らしたりします(歯肉が退縮して歯根の表面が露出すると,歯根表面は 柔らかいため,不適切なブラッシングにより,くさび状にすり減ります)。 歯の上の面も同じように細かく振動させるように動かします。 歯ブラシを,大きく動かすと,歯の膨らんだ舌に触れる面だけつるつるになるため,うまく磨けたように錯覚します。これは,歯ブラシを細かく動かすことがう まくできない介護を要する人の場合や,介護者がブラッシングを行う場合に,とくに注意する必要があると思います。

歯磨き剤は,基本的には,気に入ったものであれば何でもいいと思います。 メーカーは薬理学的な効果をいろいろアピールしていますが,これは補助的なものと考えた方がいいようです。 あくまで,ブラッシングによる機械的な汚れの除去を主体とし,薬理学的な効果はおまけと考えた方が無難なようです。

3. 歯間は歯間ブラシまたはデンタルフロスで処置するが、介助者が行う。
デンタルフロス,歯間ブラシ
デンタルフロスは,別名糸楊枝とも呼ばれ,絹糸やナイロン糸が使われ,歯間部の汚れをとるのに使います。 使用法は,フロスを歯と歯の間に通し,歯肉の部分から歯面をこすりながら歯の上部に移動させて汚れを取ります。 Y字型の柄に糸を装着した,使い切り型のものと,使用する長さだけを切って使うタイプのものがあります。 また,後者のタイプのフロス用のホルダーもあります。 経済的で,操作しやすい点ではこのタイプのものがお奨めです。
歯間ブラシは,歯ブラシの小型版という感じで,細かい隙間を清掃するのに用いる小さな円錐型のブラシです。 歯肉が退縮し,歯間部が広くなった場合や,ブリッジの下部など,普通の歯ブラシでは清掃が難しい場合に用いると効果が上がります。

4. 舌もブラッシング必要です。舌苔は舌クリーナーを用いて除去しますが
無理はしない。0.1%オキシドール液を用いることもあります。

5. 口蓋、頬粘膜などの歯や歯肉以外の口腔内は湿らせたスポンジブラシ
で軽くぬぐい、唾液や食渣のたまりを除去します。
スワブとトゥース・エッテ
スワブとは綿棒のことですが,スワブする=口腔清拭する と動詞で用いることもあるようです。 市販品もありますが,コスト面や大きさを自由にできることから,一般的には看護婦さんの手づくりが多いようです。 スワブは,歯ブラシの使用が不可能な場合に用いられますが,清掃効果がかなり違うため,できるだけ歯ブラシを使用してほしいことは前述しました。 ただし,歯ブラシを使用する前段階として,スワブを使用することは非常に効果的です。 また,無歯顎の人は,このスワブやガーゼによる清掃が主になります。
スワブに水やお湯,重曹,ポビドンヨード(イソジン),液体歯みがき剤などを浸み込ませて,歯や口腔粘膜を丁寧に清掃します。 歯ブラシ使用時と同じように,汚れが残りやすい部位を頭に入れて清掃すると清掃効果があがると思います。

6. ブクブクまたはクチュクチュうがいで口をすすぎます。

<自立できていない患者さんの場合>
1. 湿らせたスポンジブラシで口腔内をまんべんなくぬぐい、唾液や食渣の
たまりを除去します。痛みが強い場合には、オリーブ油を少しつけた
ガーゼを指にまきつけてかるくふきます。必ずプラスチック手袋を着用
しましょう。
上手な口の中の拭き方
・ 先ず、舌苔を奥から手前に丁寧にふき取ります。
・ 歯磨きと同じ順番で、歯を1本1本円を描くように拭いていきます。
歯ぐきも同時にマッサージするようにします。
・ その他の部位も同じく円を描くようにていねいにふいて行きます。

2. 歯垢などはなかかとれないので、歯ブラシなどでブラッシングして
除去します。

3. 歯間は歯間ブラシかデンタルフロスを用いて処置します。

4. 口腔内の乾燥が強い場合には、オーラルバランスなどの保湿剤を
あらかじめ塗布しておき、湿潤したところで清掃を行います。

5. うがいができない患者さんは、カテーテルチップなどで少量の含嗽水を
含ませて、ガーゼでふきとるか、吸引します。

7) 必要な患者さんは簡単な機能訓練を終了時に行う(別紙参照)。
8) 口腔内が清潔になったら、患者さんの口の周りや手をきれいにして終了。
9) むせやチアノーゼの有無を確認する。必要があれば、呼吸音を聞いたり、SpO2を測定する。
10) 終了後も30分くらい安楽な姿勢を保ち、すぐに仰臥位にはしないようにしてください。

* 嚥下障害のある患者の口腔ケア
(1) 嚥下障書のある人は口腔内汚染が強く、舌苔がつきやすいので汚染された口腔内分泌物を誤嚥し、肺炎をおこす危険があります。したがって唾液が気道へ流れこんで感染のない状態にしておくことが大切です。
(2) 口腔ケアにはお茶や冷水を用い、誤嚥しないように健側を下にして行ないましよう。
(3) 食前後に歯ブラシや綿棒で舌苔を除き歯根部をマッサージして唾液の分泌や嚥下筋の緊強を高めましよう。また開ロ障書には大臼歯周囲の歯根部を軽擦したり頚部伸展位、リラクゼーション等が効果があります。
(4) 口腔ケアは摂食・嚥下の間接訓練です。舌の麻痺や萎縮には舌を引き出すようにストレッチやマッサージを行ない、咀嚼運動を誘発させましよう。また咽頭に寒冷刺激を加えた後、うなずき嚥下を行うと唾液を嚥下する訓練になります。

引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~oralcare/hand-book.html#Anchor38887

* 口をあけてくれない患者の口腔ケア
口を開けてくれないお年寄りは、重度の痴呆をもつお年寄りによくみられます。口腔ケアへの理解が無いため口を開けてくれないのだとは思いますが、まれに 顎骨骨折や神経疾患などの開口障害を症状とする疾患の場合もありますので注意が必要です。理解がないと思ってはみてもやさしい語り方で声かけを行なうと開 口することもありますし、何度も根気よくやくことによって自然に口をあけてくれることもよくあります。口を開けてくれないからといって口腔ケアをしなくて よいということはなく、ある程度強引にでも開口させて口腔ケアを行なう必要があります。実際には、開口器(またはガーゼを巻いた割りばしやバイトブロッ ク、ゴム管など)を用意して、なるべく複数(2人以上)で口腔ケアを行なうようにします。いやがって手を出したり、頭を振ったりする人もいますので、他の 人に頭を抑えてもらうようにして、口角から指を入れて唇を広げるようにして口腔内を先ず観察します。十分に開口させるには、首を後屈させると閉口しにくく なり、口角から指を入れいやがって発声したところをみて素早く開口器を入れると云うやり方もあります。また、Kポイントといって両側の口角の裏側を圧迫す ることにより反射的に開口が楽になります。

7.義歯の清掃・手入れ

必要物品:
義歯用歯ブラシ(毛はかためのもの)、洗面器
毎食後、義歯をはずして水をいれた洗面器にまずつけておきます。そして、流水 で洗って食物残渣などをとります。おちにくい汚れは義歯用歯ブラシでかるくみがきます。夜間は義歯をはずし、専用容器に入れておきます。週に1〜2回は義歯用洗浄剤で洗浄します。
* 義歯は落下等で破損しやすいため、取り扱いに気をつけます。

義歯をみがくコツ
義歯は金具(クラスプ)のついているところと粘膜にあてるくぼんだ部分が特に汚れやすいので義歯用歯ブラシでしっかりみがきます。ただし、金具は変形する とはめれなくなるので。取り扱いに気をつけましょう。その他のところは、キズをつけないように軽くみがきます。洗浄は流水で十分ですが、食器用の中性洗剤 や義歯用洗剤を併用してもいいです。ただし、歯磨き剤の使用はあまり好ましくありません。

<義歯の手入れのポイント>
取り外しのできる義歯には部分床義歯と全部床義歯の2種類があります。部分床義歯は、歯が部分的に失われたあごに装着する義歯で、残っている歯に義歯を固 定し維持するための細い金具(クラスプ)が付いています。全部床義歯は、歯を全て失ったあごに入れる義歯で”総入れ歯”ともいわれクラスプはありません。
・クラスプ付き義歯の取り外し方のコツ
上あごの義歯は、人差し指の爪をクラスプに掛け、親指をその歯の上に置き、着脱方向に人差し指を引き下げます(図1)。 下あごの義歯は、親指の爪をクラ スプに掛け、人差し指をその歯の上に置き、着脱方向に沿って親指を引き上げます。それぞれのクラスプに対して均等に力を入れると外しやすくなります(図 2)。義歯によってはクラスプに力を加えない方が良いタイプもありますので歯科医に確認して下さい。また小さな義歯の着脱時には下を向いて行い、誤って口 の中に落ちても飲み込まないよう充分に注意して下さい。

図1.上顎のクラスプ付き義歯の外し方


図2.下顎のクラスプ付き義歯の外し方


図3.総入れ歯の外し方

・総入れ歯の取り外し方のコツ
上あごは、義歯をしっかりつかみ後ろを下にさげると外れます(図3)。下あごは、義歯の端を引き上げれば簡単に外すことができます。いずれも具合の悪い場合には無理せず歯科医に相談して下さい。

引用:目で見る口腔ケア 口腔ケアハンドブック
http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~oralcare/hand-book.html#Anchor38887

人工呼吸器装着患者の口腔ケア

【目的】
1) 人工呼吸器関連肺炎(Ventilator Associated Pneumonia:VAP)の予防
2) 口腔内の細菌繁殖を防ぎ、誤嚥性肺炎を予防
3) 口腔内疾患(う歯、歯槽膿漏、口内炎)からの合併症を予防
4) 唾液の分泌促進による自浄作用の増進
5) 患者の爽快感
6) 意識レベルの回復

【必要物品】
タオル1枚
プラスチック手袋
ガーグルベースン
綿棒(大)4〜5本
トゥースエッテ(ハミングッド)2〜3本
歯ブラシ
らくのみ2個
洗浄液(イソジンガーグル液・レモン水・10倍希釈オキシドール)
50ccシリンジ
吸引セット
チューブ固定用テープ
バイトブロック
カフ用注射器
ペンライト
あると便利なもの:
舌苔ブラシ、クルリーナブラシ、吸引付き歯ブラシ

【手順】
* 経口挿管時の口腔ケアは、固定を外して行わなければならず、チューブ・トラブルなどの危険性が高くなります。そのため、1日1回チューブ固定を外し、ブラッシングを行います。それ以外は、細菌数の増加状況を考慮し、4時間毎に口腔洗浄を行います。
* 口腔ケアは安全のため、必ず2人で行い、1人はチューブを固定します。
* バイトブロックは、4時間毎の洗浄がしやすい様にゴム製を使用する。
* 口腔アセスメント用紙(別紙)を活用する。 まず、挿管時に用紙記入を開始し、または脳外患者など必要時記入を開始します。評価は、3日目および変化時に施行します。
* 薬剤は冷たくすると爽快感がまします。

1) 気管内吸引、口腔吸引施行。
2) カフ圧を確認する。
3) 正しい姿勢をとる。
・ 30〜45度の半座位とし、麻痺のある場合には健側を下にします。
・ 枕を挿入し、下顎を引いた体位をとる。あるいは、顔を横に向けます。
4) 気管チューブの固定を外し、1人はチューブの固定を行う。
5) 口腔内の観察を行い、アセスメント用紙に記入します。
6) 口腔内清拭
・ 口腔内が乾燥している場合には、綿棒に水を含ませた物で口腔内を湿らせます。
・ 出血傾向がなければ、歯ブラシで歯面をブラッシングします。出血傾向のある場合は、トゥースエッテや綿棒で歯面、歯肉の清拭を行います。
・ ブラッシング中は吸引を行い、ブラシング後は水を浸した綿棒で拭き取ります。
・ 歯ブラシで歯肉のマッサージを行います。
・ 綿棒で頬部の内側をマッサージします。
・ 吸引を行いながら、シリンジ50mlにいれた洗浄液を4〜5回に分けて注入し、洗浄します。この動作を2回繰り返し、100ml洗浄します。
7) 口唇の保護
・ 乾燥が著しい場合、ワセリンやリップクリーム等で保護する。
8) 気管内チューブの再固定
・ チューブの長さ、カフを確認する。
9) 観察項目のチェック
・ 口腔ケア後、呼吸音、SpO2、1回換気量、気道内圧、呼吸状態などに異常がないか確認します。
10) 終了