褥瘡治療マニュアル(DESIGN-R改定版)

参考:科学的根拠に基づく褥瘡局所治療ガイドライン(日本褥瘡学会)

褥瘡対策の基本

1. 褥瘡危険因子評価による発生予防
2. 体圧分散寝具などによる褥瘡予防
3. 栄養改善による褥瘡発生予防
4. 適切なスキン・ケアと観察
5. 褥瘡局所処置
6. 再発予防とリハビリ

1. 褥瘡危険因子評価による発生予防

大浦・堀田スケール(OHスケール)

自力体位変換 できる
0点

1.5点
できない
3点
病的骨突出
(仙骨部)
なし
0点

1.5点
高度(2cm)
3点
浮腫 なし
0点
あり
3点
関節拘縮 なし
0点
あり
1点

全患者版褥瘡危険因子スケール(大浦・堀田スケール)のエビデンスとその応用
日本褥瘡学会雑誌 7(4); 761-772、2005

OHスケールによる危険因子分類

危険因子 OHスコア 褥瘡発生確率 平均治癒期間
なし 0点
軽度 1〜3点 25%以下 40日
中等度 4〜6点 26〜65% 57日
高度 7〜10点 66%以上 173日

全患者版褥瘡危険因子スケール(大浦・堀田スケール)のエビデンスとその応用
日本褥瘡学会雑誌 7(4); 761-772、2005

褥瘡危険因子の評価は、従来大浦スケールが用いられることが多かったですが、上記のOH(大浦−堀田)スケールの簡便性と客観性が評価され、当院ではこ のOHスケールによって褥瘡危険因子の評価と対策に使用しています。10点満点を3点ずつにリスク分類することにより、褥瘡の発生率が予測されるだけでな く、後述の体圧分散マットレスの適応などにも関連して行きます。病的骨突出は目安を体表から2cm以上の骨突出とされていますが、判定器も堀田先生の HP(堀田予防医学・統合医療研究所HP)にて販売されています。

2. 体圧分散寝具などによる褥瘡予防

OHスケールによるマットレス選択基準

危険因子 OHスコア 体圧分散マットレス
なし 0点
軽度 1〜3点 汎用静止型ウレタン系
アイリス2
中等度 4〜6点 圧切り替え型エアー系
トライセル・エアードクター
高度 7〜10点 高機能タイプコンピューター制御
アドバン・ビッグセルEX

簡易体圧測定器    (ケープ(株)パンフレットより)

褥瘡危険因子にあった適切な除圧効果のあるマットレスや枕を用いて、体圧を32mmHg以下(28mmHgという人もいます)、できれば20mmHg以下にコントロールできれば褥瘡の発生が予防できるだけでなく、治癒も早まります。


ケープ(株)パンフレットより

3. 栄養改善による褥瘡発生予防

1. 適切な1日必要エネルギー量の設定
2. 適切な蛋白質補給(アミノ酸)
3. 微量元素(亜鉛、銅、セレン、鉄など)
4. 十分なビタミン(A、C、Bなど)の補給
5. 必須脂肪酸の補給とω-3系脂肪酸
6. プレバイオティクス・プロバイオティクス

4. 適切なスキンケアと観察

① 全身の観察
・ 1日に1回は必ず全身の皮膚を観察します。
・ 褥瘡危険因子が中等度以上の患者は、1日2回好発部位(仙骨部、
肩甲骨部、大転子部、踵部など)もチェックします。

② 清潔の維持
・ 理想的には入浴かシャワーが良いですが、不可能な場合にはていねいに
部分浴、洗浄、清拭を行う必要があります。
・ 皮脂膜まで剥ぎ取ってしまうので、熱い湯や頻回の洗浄剤の使用は
避けます。
・ 石鹸は弱酸性の刺激の弱いものを使用します。

③ 湿潤に対するケア
湿潤により皮膚を保護している皮脂膜が取り除かれ、皮膚のバリア機能が
損なわれると浸軟、損傷、感染と皮膚の抵抗力は弱まります。この現象は、
尿・便失禁、発汗時にみられます。
・ オムツは尿が逆戻りしない高吸収性ポリマー入りの紙オムツを用い、
パッドなどを何枚も重ねて使用しないようにします。
・ 尿・便失禁が頻回の場合には、集尿器や粘着性の肛門用装具などを検討
しましょう。最近は、肛門内に挿入するタイプの集便器もあります。
・ 排泄物による皮膚障害が予想される場合には、ローションなど患者の
肌にあうものなら何でもよいので、撥水性のものを使用
します。

* 医学的には、浅いびらんには化粧品類のローション、やや深いびらんには
ゲンタシン、テラジアパスタなどの軟膏を使用します。
* 予防的にフィルムドレッシング材やラップを貼付して直接接触しないように
することも有効です。ただし、亜鉛華軟膏については、効果はありますが除去
しにくいので注意が必要です。
* 全身発汗に対しては、清拭と寝衣交換を速やかに行います。通気性があり
吸水性のよいシーツが好ましいです。

④ 乾燥の予防
・ 乾燥皮膚に対してはワセリンの使用が良い。

⑤ 圧迫部位の摩擦の予防
・ 一般的に圧迫部位や循環不良部位のマッサージは禁。
・ 骨突起部の保護は、パーミエイドまたはパーミロールを貼付し観察します。
・ 抵抗の大きい被覆材やガーゼはかえってズレの原因になるので注意
しましょう。

ALCAREリモイスパッドパンフレット

* 30度までの頭側挙上

まず、下肢をやや挙上してずりおちを予防し、頭部を30度挙上します。さらに「背上げ」といって、必ず体をベッドから一旦浮かして皮膚のシワをとります。

* 30度ルール、2時間ルールの見直し


従来言われていた30度の体位変換に関しては、日本人に多い痩せ型の患者の場合には上図のように除圧にはあまり適さないと言われています。患者の楽な側 臥位でいいと思います。また、2時間の体位変換ルールもWOCNSでは2002年のガイドラインにて適切なマットレスを使用しての4時間変換でも効果は変 わらない可能性を示唆しています。今後、これらのEBMを踏まえた日本のガイドラインの完成が待たれます。

5. 褥瘡局所処置

A) NMH褥瘡分類 (Shea分類改変)

Stage I 表皮の損傷 (圧迫しても消退しない発赤)
Stage II 全層皮膚損傷 (水疱や硬結を含む)
Stage III 皮下組織に及ぶ損傷
Stage IV 筋肉、骨、関節に及ぶ損傷

褥瘡の深度分類は、いろいろあり、微妙に定義が異なっています。したがって、当院では後述するDESIGN分類に沿ってこのように定義して使用しています。

Stage I Stage II
Stage III Stage IV

B) DESIGN分類

DESIGN

D Depth 深さ
E Exudate 浸出液の量
S Size 大きさ
I Inflammation
/Infection
炎症/感染
G Granulation tissue 肉芽組織の量
N Necrotic tissue 壊死組織の量
-P Pocket ポケットの有無

* DESIGN-R分類(日本褥瘡学会)  2008年

DESIGN-R分類の使用方法

・ 褥瘡発生直後から約1〜3週間の急性期は使用しない。
・ 採点は基本的に1週間、または変化のあったときに行う。
・ 基本は大文字を小文字にしていく。

・ 総合点は褥瘡の重症度と表す

Depth:深さ

d0:皮膚損傷も発赤もない状態
d1:持続する発赤の存在
d2:真皮までの損傷
D3:皮下組織までの損傷
D4:皮下組織をこえ筋肉,腱などにいたる損傷
D5:関節腔,体腔にいたる損傷または,深さが 判定できない場合

Exudate:浸出液

e0:浸出液は見られない
e1:少量(毎日のドレッシング交換を必要と
しない程度)
e3:中等量(1日1回のドレッシング交換を要する)
E6:多量(1日2回以上のドレッシング交換を要する)

Size:大きさ

s0 皮膚損傷なし
s3 4未満 2cm
s6 4以上,16未満 4cm にー(s1の2倍)、しー(s2の2倍)
s8 16以上,36未満 6cm ろー(s3の2倍)、はー(s4の2倍)
s9 36以上,64未満 8cm とー(s5の2倍)未満と覚えます。
s12 64以上,100未満 10cm
S15 100以上

Inflammation/Infection:炎症/感染

i0 :局所の炎症徴候が見られないもの
i1 :局所の炎症徴候が見られるもの
(褥瘡周囲の発赤,腫脹,熱発,疼痛など)

I3 :局所の明らかな感染徴候が見られるもの(局所の炎症徴候,膿,悪臭を含む)

I9 :全身的影響が見られるもの(発熱など)

Granulation:肉芽組織

g0 :創が治癒した場合または,創が浅いため肉芽形成の評価ができない
g1 :良性肉芽が創面の90%以上を占める
g3 :良性肉芽が創面の50%以上,90%未満を占める
——— 良性肉芽が半分未満 ———
G4 :良性肉芽が創面の10%以上,50%未満を占める
G5 :良性肉芽が創面の10%未満を占める
G6 :良性肉芽がまったく形成されていない

Necrotic tissue:壊死組織

n0 :壊死組織は見られない
N3 :柔らかい壊死組織あり
N6 :硬く厚く,密着した壊死組織あり

Pocket:ポケット

p0 : ポケットなし

P6 :4未満
P9 :4以上,16未満 直径2cm
P12 :16以上,36未満 直径4cm
P24 :36以上 直径6cm

C) 褥瘡処置

浅い褥瘡(d)の場合:

発赤 ・・・
パーミエイドRまたはパーミーロールRを貼付し、毎日皮膚の状態を観察します。皮膚が回復に向かっている場合には、そのまま1週間貼付して交換します。悪化していく場合には、ただちに除去し、原因を再検討して治療法を変更しましょう。
* 皮膚が非常に弱く、パーミエイドR、パーミロールRの粘着性が問題の場合には、ラップをあてる(絆創膏は使用しない)ことも考慮しますが、必ず十分なインフォムド・コンセントを得たうえで委員会に届けて行うこと。

水泡 ・・・
水泡はなるべく破らずに、上記と同様の処置を行います。破れたら、下記の浅い潰瘍の処置に準じます。

浅い潰瘍・びらん ・・・
浸出液が少ない場合には、ワセリン +パーミエイドRまたはパーミロールR
浸出液が多い場合には、ハイドロサイトRまたはカルトスタットR
+パーミエイドR、パーミロールR
* 適宜、アクトシン軟膏Rやプロスタンディン軟膏Rも使用して、
創傷治癒を促進します(医師の処方が必要)。
* ドレッシング材の交換は、汚染が強くなく浸出液の漏れがなければ
3〜5日ごとでよいです。ただし、決して観察は怠らないことが重要です。

深い褥瘡(D)の場合:

<壊死組織の除去 (N → n)>
洗浄 ・・・
洗浄は、水道水で十分な圧をかけて十分な量で行います。

外用剤 ・・・
ワセリンにて自己融解を促進します。
ブロメライン軟膏Rにて化学的デブリードメントを併用する(医師の処方が必要)。
* ワセリンの使用は、必ず木ヘラで塗ること。

ドレッシング材 ・・・
浸出液が少ない場合には、パーミエイドRまたはパーミロールR
浸出液が多い場合には、ハイドロサイトRまたはカルトスタットR
+パーミエイドR、パーミロールR
出血があるまたは可能性が高い場合には、カルトスタットR +パーミエイドR、
パーミロールR

外科的デブリードマン ・・・
壊死組織と周囲の健常組織が明瞭になった場合に全身状態をみておこないます。
* ラップ閉鎖療法による自己融解を促進する方法もありますが、十分なインフォムド・コンセントを得たうえで委員会に届けて行う。

<肉芽形成の促進 (G → g)>
外用薬 ・・・
基本的には湿潤環境を保つのみでよいですが、乾燥しやすい場合にはワセリンを併用します。肉芽形成が非常に不良の場合は、フィブラストスプレーRを使用します(医師の処方が必要)。
* 必ず、血行障害や栄養不良などの障害因子を検討する。

ドレッシング材 ・・・
湿潤環境を保つ被覆材なら何でもよいので、浸出液の量に応じて行います。

<創の縮小 (S → s)>
外用薬 ・・・
基本的には湿潤環境を保つことと、圧迫やズレの排除の徹底のみでよいです。

ドレッシング材 ・・・
湿潤環境を保つ被覆材なら何でもよいので、浸出液の量に応じて行います。

外科手術 ・・・
骨膜に達するような深い褥瘡や難治性の場合に考慮します(皮弁形成など)。

<感染・炎症の制御 (I → i)>
洗浄 ・・・
洗浄は、水道水を十分な圧をかけて十分な量で行います。
感染コントロールの基本は、洗浄の繰り返しと十分なドレナージ。さらに、排泄物などの接触の回避です。

外用剤 ・・・
洗浄を十分行えば基本的には必要ありません。

ドレッシング材 ・・・
浸出液が少ない場合には、パーミーエイドR、パーミロールR
浸出液が多い場合には、ハイドロサイトRまたはカルトスタットR +パーミエイドR、パーミロールR
* カルトスタットR、アクアセルRには、感染抑制効果はない。
出血があるまたは可能性が高い場合には、カルトスタットR +パーミエイドR、パーミロールR

外科的デブリードマン ・・・
感染を伴う壊死組織にはデブリードマンを適宜、全身状態をみて行います。

抗生剤投与 ・・・
感染の4徴(発赤、熱感、疼痛、腫脹)を認めたら、全身的な抗生剤投与を行います。

< 浸出液の制御 (E → e)>
外用剤 ・・・
基本的には、有効なものはありません。

ドレッシング材 ・・・
ハイドロサイトRまたはカルトスタットR +パーミエイドR、パーミロールR

< ポケットをなくす P >
洗浄 ・・・
洗浄は、水道水を十分な圧をかけて十分な量で行います。
ポケット内部の壊死組織や残留物を除去する目的にて十分な圧をかけます。

外用剤 ・・・
ワセリンの充填。

ドレッシング材 ・・・
ハイドロサイトRまたはカルトスタットR +パーミエイドR、パーミロールR
出血があるまたは可能性が高い場合には、カルトスタットR +パーミエイドR、パーミロールR
* これらは決してポケット内につめこみすぎないこと。

外科的デブリードマン ・・・
保存的治療にて改善しない場合に、全身状態をみてポケットの切開をおこないます。

物理療法 ・・・
ポケット内に壊死組織がない場合に、陰圧吸引療法を考慮します。

* 被覆材使用時の注意事項

・ パーミエイドR、パーミーロールRは算定されません。R
・ ハイドロサイRト、カルトスタットR、デュオアクティブETR、グラニューゲルは
同一部位に使用した場合には、1種類しか請求できません。
・ ハイドロサイトR、カルトスタットR、デュオアクティブETR、グラニューゲルRは
1月に2週間しか算定できません、医師のコメント対応でも3週間。
・ ハイドロサイトADRというバンソウコウ一体タイプは、基本的には
パーミロールRの併用は不要です。

* フィルムドレッシング材のはがし方

創面に対して、平行に(接線方向に)はがすようにして、皮膚の損傷を最小限
にしましょう。特に、びらんや水疱のある皮膚は要注意です。また、かぶれには
皮膚に固着した「のり」も影響しますので、かならずしっかり洗浄しましょう。

* 固定テープの張り方 (緊張を決してかけない、テープを横断しない)

基本的には、密閉することが湿潤療法ではありません。

* 創傷被覆材

1. ポリウレタンフィルムドレッシング材
バイオクルーシブR 、テガダームR 、オプサイトR 、パーミエイドR
パーミロールR

2. アルギン酸塩被覆材
カルトスタットR 、ソーブサンR、アルゴダームR

3. ハイドロコロイドドレッシング材
デュオアクティブETR 、カラヤヘッシブR、グラニュゲルR
コムフィールR、イントラサイトジェルR

4. 親水性ポリウレタンドレッシング材
ハイドロサイトR
5. ハイドロゲル材
ビューゲルR
6. ハイドロファイバー材
アクアセルR
7. ハイドロポリマー材
ティエールR

褥瘡は
ちょっとした工夫と周りの愛情で
治ります!予防できます!なくせます!

http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/design-r.pdf#search=’DESIGNR’