Ⅲ. 経腸栄養

名古屋記念病院 栄養サポートチーム
栄養マニュアル
III. 経腸栄養

Ⅲ-1. 栄養療法の適・ 栄養療法の第一選択は経腸栄養である。When the gut works, use it.

・ 静脈栄養は経腸栄養が不可能または不十分な場合に選択される。

・ すべての領域において経腸栄養の方が静脈栄養よりも優れているというエビデンスがあるわけではない。

・ 経口摂取は最も生理的な栄養投与経路である。

・ 経腸栄養でもtube feedingの場合には、投与経路の管理に十分な注意が必要である。

・ 静脈栄養の管理では特に感染性合併症に注意する。末梢静脈栄養でも同様である。

・ 栄養療法には経腸栄養法(enteral nutrition:EN)と静脈栄養法(pareteral nutrition:PN)とがある。

・ 経腸栄養法には、経口投与法と経管栄養法(tube feeding)とがある。

・ 静脈栄養法には末梢静脈栄養法(peripheral pareteral nutrition:PPN)と中心静脈栄養法(total pareteral nutrition:TPN)とがある。

・ 栄養療法の適応は、すでに栄養障害に陥っている場合や、食事摂取では栄養状態の維持が不可能な患者、あるいは栄養障害に陥るリスクが高い患者である。

・ 栄養療法が必要な場合は可能な限り経腸栄養を用いる。

・ 静脈栄養は、消化管が機能していない患者、腸管への栄養投与が不可能である患者、経腸栄養に起因する合併症(誤嚥性肺炎など)の危険性が極めて高い患者が適応。

・ 静脈栄養を試行中でも常に経腸栄養の併用、移行を考慮する。

・   経口摂取においては、長期間同じ味が続くと摂取量が減少する(taste fatigue)に気をつける。

 

Ⅲ-2. これからは経腸栄養!


図23. 栄養法による腸管粘膜の影響
長期にわたるTPN管理の最も問題となるのは、上図の腸管粘膜の萎縮です。腸管は使わなければ萎縮してより消化吸収が悪くなる悪循環になるだけでなく、粘膜の免疫防御機構の破綻による腸内細菌の血管内侵入をきたし、これをバクテリアル・トランスロケ−ション(BT)と呼びます。BTをきたすとエンドトキシンという毒素が全身に広がり、敗血症から死亡にいたることもあります。どのくらいのTPN期間で発症するかは個人差があるようですが、経腸栄養はBTの予防になります。その他にも長期絶食による合併症として以下のものがあります。

1. 腸管由来の免疫因子の欠如(ムチン、分泌型IgAなど)

2. 胆汁うっ滞による胆管炎、胆のう炎

3. 腸管由来ホルモンの減少
(ボンベスチン、コレシストキニン、腸管グルカゴンなど)

4. MRSA腸炎やVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)腸炎などの院内感染

5. 萎縮性胃炎

6. 舌苔、舌炎、口内炎

7. 味覚障害、嚥下障害

また、最近、腸は人体における最大の免疫機関であることが分かってきたため、GALT(Gut-Associated Lymphoid Tissue、腸管関連リンパ組織)と呼ばれ、人体を外来抗原から守るだけでなく、免疫寛容などの複雑な免疫機構が成立しています。これらに対して、腸内細菌をターゲットとした「プレバイオティクス」「プロバイオティクス」などにて、アレルギーや自己免疫疾患、腫瘍免疫にも効果が確認されています。特に手術の分野では、その管理において早くから経腸栄養剤の効果は認められていましたが、immunonutrition(イムノニュートリション、免疫賦活療法)として術後の合併症を軽減し早期退院に結びついています。

経腸栄養の利点および特徴を以下に列挙します。

① 消化管を利用するため、静脈栄養に比較して生理的である。

② 静脈栄養に比較して、安価である。

③ TPN管理に比較して、重篤な合併症がなく、代謝上の合併症も少ないため安全。

* TPNとの最近の比較では、患者転帰に差はない。

* TPNに比較して有意に感染性合併症は少なかったが、他の合併症は経腸栄養に多い。

④ 持続投与の必要がすくなく、在宅管理が可能。さらに、入浴なども可能で社会復帰できる。

⑤ 投与ルートが選べ、最近ではいろいろ便利なキットが開発されている。

⑥ 消化管免疫や内分泌機能を活性化し、腸管安静によるBTなどの合併症がない。

⑦ 栄養源としていろいろな成分の配合(中鎖脂肪酸や特殊なアミノ酸など)を試みることが可能。

⑧ 静脈栄養に比較して心肺機能への負担が少なく、高齢者にも長期管理が可能。

⑨ いままで内服していた薬剤をそのまま使用できる。

⑩ 医師でなくても管理できる。

⑪ 門脈を介して直接肝臓に達する栄養ルート(胆汁などの腸肝循環の改善)。

⑫ 長期間にわたって施行可能。

経腸栄養の適応

・ 経口摂取が不可能、または不十分
嚥下障害、意識障害、手術後、化学療法・放射線治療中、認知症、精神疾患など

・ 炎症性腸疾患(特にクローン病)
・ 消化吸収不良
・ 特殊な病態
肝不全、重症膵炎回復期、多発外傷、広範囲熱傷など
・ immunonutrition

経腸栄養の禁忌

<絶対禁忌>
・ 完全腸閉塞
・ 消化管にて栄養剤の吸収が全くできない
<相対禁忌>

・ 短腸症候群
・ 著しい消化管瘻
・ 重篤な下痢
・ 消化吸収障害
・ 重症膵炎の急性期
・ 炎症性腸疾患急性期

・ 重篤な消化管出血
・ ショック
・ 逆流による嘔吐・誤嚥

III-2. 経腸栄養とは・・・


図24. 経腸栄養法の投与ルート

経腸栄養とは上図のように消化管に投与される栄養ル−トの総称であり、口から飲む経口栄養とチュ−ブを鼻から胃、十二指腸、空腸まで挿入・留置する経鼻法と、手術や内視鏡を用いて胃または空腸に直接チュ−ブを挿入して行う経瘻孔法の2種類があります。この経鼻法と経瘻孔法は一般的に6週間を基準として、長期の場合には経瘻孔法が選択されます。また、誤嚥の可能性がなければ胃に留置しますが、あれば誤嚥しにくい十二指腸、空腸まで留置する方法が推奨されます。

・ 経腸栄養の投与部位は口腔(経口)、食道、胃、空腸である。
・ 短期の経腸栄養には経鼻チューブが、長期の場合は胃瘻・腸瘻が選択される。

・ 胃投与は最も標準的な投与方法で、全ての経腸栄養剤が投与でき、ボーラス投与が可能である。

・ 胃食道逆流(GER)は胃投与の最大の障壁となる。栄養剤の半固形化・持続投与が行われる。

・ 持続投与の場合はポンプの使用が原則である。

・ 栄養剤中の個々の栄養素の効果を理解し、病態に適した栄養剤を選択する。

・ 定期的な栄養評価による栄養効果の判定が重要である。

・ 経管栄養では、エネルギー代謝やタンパク代謝に重要となる微量元素、ビタミン不足に配慮して、単一製剤の長期使用には注意する。

・ 成分栄養剤は脂肪含量が少ないものもあり、長期管理では必須脂肪酸の欠乏に注意する。

・ 小腸上皮細胞のエネルギー源は主にグルタミンで、大腸粘膜は短鎖脂肪酸である。

・ 酸化ストレスや炎症は、急性慢性を問わず多くの疾患背景に存在する。

・ 経鼻チューブは経腸栄養専用のできるdけ細いチューブを用いる。気道内への誤挿入に対する注意が必要である。

・ 胃瘻用チューブはさまざまなものが開発されているので、その使用方法を熟知したうえで選択する。

・ 経腸栄養剤の感染予防にも注意が必要で、RHT(ready-to-hang)製剤が有用である。

・ 経腸栄養投与ラインは、静脈栄養投与ラインと接続できないカテーテルテーパーを使用する。

・ 空腸への経腸栄養では、経腸栄養ポンプを使用すると消化器系合併症を予防しやすい。

・ 経腸栄養剤のタンパク質は、低乳糖乳タンパク、ジペプチドおよびアミノ酸で、それぞれ半消化態、消化態および成分栄養剤と呼ばれている。

・ 経腸栄養剤の糖質はデキストリンあるいはマルトデキストリンである。

・ 経腸栄養剤の脂質はコーン油や大豆油を原料としたリノール酸(n-6系)あるいはしそ油を原料としたαリノレン酸(n-3系)である。

・ 経腸栄養剤の栄養素は薬と同じように小腸上皮細胞から吸収される。

・ 糖尿病治療薬服用時には、経腸栄養剤の摂取時間に注意する。

・ PEGの適応を決める際には、医学的側面と倫理的側面から検討する必要がある。

・ PEGの造設法として、Pull/Push法とIntroducer/seldinger法がある。

・ 胃瘻カテーテルは、胃内の形状からバンパー型とバルーン型、外部の形状からチューブ型とボタン型に分かれる。

・ PEG合併症は、major complicationが約4%、minor complicationが約4~16%である。

・ 胃瘻カテーテルの交換は、バンパー型は4~6カ月、バルーン型は1カ月が目安である。

<投与経路・投与法>

1. 経口投与

最も生理的な食事摂取および経腸栄養剤の飲用

2. 食道投与

間欠的経口腔食道栄養法(間欠的経鼻食道栄養法)(IOC:intermittent oral catheterization)・・・意識障害がなく、意思の疎通が可能で、回復可能な嚥下障害をもつ患者に対して、経腸栄養剤投与時のみに口または鼻孔から食道までチュービングして行う。嚥下訓練と併行してENが行え、ボーラス投与が可能となる。投与時間以外は栄養チューブから解放される利点もあるが、気管誤挿入の可能性があり、熟練者による施行が望まれる。

3. 胃投与

最も標準的に適用される栄養投与法であり、意識障害ないし嚥下障害があり、かつ胃以降の消化管機能に問題のない患者が適応となる。

利点:太いチューブが使用可能(胃瘻)

チューブの留置が容易

生理的な順序で消化液の作用を受ける

高浸透圧製剤の投与が可能

胃酸による殺菌が期待できる

貯留能があるため、ボーラス投与が可能

欠点: 胃食道逆流 (gastroesophageal reflux:GER)を起こしやすい

GERの原因・・・食道裂孔ヘルニア、胃の手術、経鼻胃管、意識障害、腹部手術、薬、脳圧亢進、消化管狭窄

GER対策・・・幽門後アクセス

経腸栄養剤の半固形化

* GER(gastric emptying rate:胃内排泄速度)上昇・・・プリンペラン、ナウゼリン、ガスモチンなど

低下・・・抗コリン剤、抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、オピオイド、脂肪食

半固形化栄養・・・経腸栄養剤を寒天・ペクチンなどでゲル化、デンプンなどの増粘剤で高粘度化

利点: 胃食道逆流の抑制 → 誤嚥性肺炎の防止

胃からの排出遅延 → 下痢・ダンピング症状の軽減

投与時間の短縮 → QOLの向上・褥瘡への負担軽減

欠点: 調整時間の延長、マンパワーの負担大

半固形化できない経腸栄養剤など

3-a. 経鼻チューブ栄養

4週間未満の短期間の経腸栄養に用いる。誤嚥のリスクがある場合には、幽門後(十二指腸、空腸)にチューブ先端を留置する。

利点:簡便である

非侵襲的に挿入できる

抜去すれば何ら障害を残さない

欠点:鼻腔・咽頭刺激、鼻翼や鼻中隔の壊死、副鼻腔炎・中耳炎、食道潰瘍

胃食道逆流、誤嚥のリスクを高める

事故抜去の可能性

短期間使用に限られる

細いチューブで閉塞しやすく、粘度の高い経腸栄養剤は投与しにくい

気道への誤挿入のリスクあり

* 気道内誤挿入のチェックとしての送気・聴診による確認は正診率約60%と低く、必ずX線による確認が必要。

呼気CO2モニターを使用して気管内誤挿入をチェック

チューブからの胃液の吸引回収によるph判定や、CO2濃度の測定などもある。口腔咽頭内のチューブのたわみに気をつけて、体外へ出ているチューブの長さもチェックする。

* 成分栄養剤は5Fr以上、その他は8~12Frを使用。できるだけ細いものを使用する!

成分栄養剤は8Fr以下でもつまらない。濃厚流動食は10Fr以上ならつまらない。

* 材質

シリコン:やわらかく刺激が少ない、挿入にガイドワイヤーが必要、外径に対して内径が小さい。傷つきやすい。消化液にて変性しにくい。

ポリウレタン:挿入時にある程度固いが、体温にて柔らかくなる、シリコンに比較して強い、外径に比較して内径が大きい、消化液による変化が少ない。粘膜刺激や組織反応が少ない。

ポリ塩化ビニル:DEHPの溶出の問題がありましたが、対応したカテーテルがあります。消化液で固く成りやすい性質がありますが、先端部を丸くするなど工夫されています。

* 異物感が少なく耐久性、生体反応の少ないポリウレタン(PU)が最も好ましい。また、固定による皮膚炎、皮膚潰瘍を防止するために、絆創膏の位置換えなどを行う。

* チューブの先端構造(側孔、重りなど)、スタイレット、ガイドワイヤーなど

3-b. 胃瘻栄養

現在、胃瘻はPEG(percutaneous endoscopic gastrostomy)と呼ばれ、Pull法が主流で胃内視鏡を用いて簡単に施行できます。PEGのチュ−ブには。下図のごとく4種類あり、バンパ−チュ−ブ型をポンスキ−と呼び、一般によく使用されます。ポンスキ−は交換が少し大変ですが耐久性にすぐれ、交換は4〜6ヶ月でいい特徴があります。チュ−ブ型で胃瘻を作成し、安定すればボタン式に変更も可能で、チュ−ブが邪魔にならず外観的にもよいですが、挿入カテとの接続はややしにくいため破損しやすい欠点があります。

●PEGの適応

(1)経腸栄養アクセスとして

・脳血管障害、痴呆などによる自発的な摂食意欲の障害

・神経筋疾患などによる嚥下機能の障害

・頭部、顔面外傷による摂食障害

・食道・胃噴門部病変による経口摂取障害

・長期の栄養補充が必要な炎症性腸疾患

・誤嚥性肺疾患の予防と治療

(2)誤嚥性肺疾患を繰り返す場合

・経鼻胃管留置に伴う誤嚥

(3)減圧目的

・減圧ドレナージとしての適応

●PEGの禁忌と要注意例

・内視鏡が通過困難な咽喉頭、食道、胃噴門部の狭窄

・大量の腹水貯留

・極度の肥満

・著明な肝腫大

・胃の潰瘍性病変や急性粘膜病変

・胃手術の既往

・横隔膜ヘルニア

・高度の出血傾向

・全身状態不良で予後不良と考えられる例

・消化管吸収障害

1)穿刺する位置を内視鏡で確認します。 2)穿刺針のシースを通してループワイヤーを胃内へ挿入し、スネアで把持します。
3)口から出たループワイヤーに本体を結びつけます。 4)ループワイヤーを引っ張り、ドーム部分を胃内に留置します。
5)適切に留置されたことを内視鏡で確認します。 6)お腹の上からチューブストッパーでカテーテルを固定します。
7)お腹の上からチューブストッパーでカテーテルを固定します。


株式会社メディコン ホームページより
図25. PEGの実際

・ PEG用チューブ
造設用・交換用

バンパー型・バルーン型×ボタン型・チューブ型

Pull法・・・腹壁から挿入したガイドワイヤーを口から出して、それとカテーテルを結んで、腹壁外にカテーテルを引き出す。

オーバーチューブ法(感染予防)、one-step button法(一期的にボタン型)

Push法(現在では使用されない)・・・腹壁から挿入したガイドワイヤーを口から出して、それに沿ってカテーテルを口から腹壁外に押し出す。

Introducer法、Direct法 ← 鮒田式胃壁固定具T-fastner・・・腹壁から挿入したトラカールを介して、直接カテーテルを胃内に挿入する。まず、細いガイドワイヤーを挿入して拡張して太いカテーテルを挿入する方法をセルジンガー法(Direct法)という。

* 多くはシリコン製だが、耐久性に優れるポリウレタン製も使用される。

* 経皮経食道胃管挿入術(percutaneous transesophageal gastrotubing:PTEG)・・・頸部食道を直接穿刺してチューブを胃まで誘導留置する方法

<PEGの手技>

<Pull法>

利点: 穿刺針が細いため穿刺が容易で安全

一般的に太い胃瘻カテーテルが留置できる

胃瘻カテーテルを引っ張り出すときに徐々に拡張して圧迫止血できるので、造設後の出血の危険性が少ない。

欠点: 口腔・咽頭の細菌がカテーテルに付着するので、術後創部感染の発生率が高い。

内視鏡を確認も含めて2回挿入する

開口障害や呼吸状態の悪い患者には使用できない

経鼻内視鏡が使用できない

<Seldinger法)>

利点: 内視鏡を1回挿入するだけでよい

清潔操作で可能

経鼻内視鏡で造設可能

(一期的にボタン型胃瘻が造設可能)

(穿刺針が細い)

(カテーテルの内径が太く、逸脱の危険性が少ない)

欠点: 胃壁固定が必要

空気が腹腔内に漏れやすい(気腹)

やや手技が煩雑

<PEGカテーテルの種類と特徴>

<バンパー型>

利点: 耐久性が高い

事故抜去の可能性が低い

交換の頻度が少ない(4~6か月で交換)

経済性にすぐれる

欠点: 交換が患者に苦痛

交換手技が難しい → オブチュレーターでカテーテル先端を伸展変形、ガイドワイヤー併用

<バルーン型>

利点: 交換が容易、苦痛がない

欠点: 耐久性におとる

交換の頻度が多い(1~2か月で交換)

事故抜去の可能性がある

<チューブ型>

利点: 接続が容易

固形化栄養剤の注入に適する

欠点: 事故抜去の可能性が高い

外観が悪い

チューブが邪魔でリハビリテーションがしにくい

瘻孔にかかる圧が不均等になりやすい

<ボタン型>

利点: 事故抜去が少ない

清潔保持がしやすい

外観が良い、リハビリテーションに邪魔にならない

瘻孔にかかる圧が均等

欠点: 長さの調節が困難

接続しにくい

4. 空腸栄養

GERの存在、胃の機能不全、手術などの影響による胃瘻造設不能の場合に適応となる。

経鼻十二指腸・空腸投与

留置操作と位置確認に注意が必要。チューブはさらに細く、閉塞しやすい。

・ 十二指腸・空腸瘻栄養

PEG-J:percutaneous endoscopic gastrostomy jejunostomy(経皮内視鏡的腸瘻造設術)

PEJ:percutaneous endoscopic jejunostomy(経皮内視鏡的空腸瘻造設術)、PED:percutaneous endoscopic duodnostomy(経皮内視鏡的十二指腸瘻造設術)と開腹手術の2種類ある。

十二指腸・空腸瘻はチューブによる違和感がなく、栄養剤の逆流もないため誤嚥の危険が少ないなどの利点があるが、貯留能が小さく持続的投与が必要で、チューブが細く閉塞をきたしやすい欠点がある。腹部膨満や下痢予防のために、投与速度と浸透圧に気をつける。

<合併症>

下痢や腹痛、ダンピング症候群

腸閉塞

カテーテルの巻きつき

腸重積

抜去困難

III-3. 経腸栄養剤の種類と特徴

2005年現在で、約110の食品、薬品の経腸栄養剤があり、大手の会社以外も含めてどんどんいろいろな栄養剤が発売されています。それらの分類は、下の表ように大きく分けて①薬品・食品、②素材の分子量、③エネルギー濃度、④特殊成分などで使い分けます。薬品扱いの経腸栄養剤は、簡単に言うと薬として登録されている成分でつくられた製品で、その製品も治験という臨床試験を受けて認可されたものです。保険適応があるので、患者さんの負担は軽減されます。特に成分栄養剤などを在宅で使用すると、各種の管理料が算定可能となり、必要器具などの購入も保険適応の範囲内でまかなうことも可能です。これに対して食品扱いの経腸栄養剤は、天然成分を配合してつくられることが多く、ある特定の成分のみを強化したり補給したりすることは難しいのですが、例えばセレン(最近は含まれている薬品もあります)やモリブデンなどの微量元素、食物繊維、EPA、DHAなどの薬品にない成分の配合は食品扱いの経腸栄養剤のみで可能です。ただし、保険適応がないので、入院中は食費、外来では自費扱いとなるので注意が必要です。

表9. 経腸栄養剤の医薬品と食品の違い

表10. 経腸栄養剤の種類と特徴

(図をクリックで拡大)

経腸栄養剤の種類は大きく分けて四つに分類され、より食事に近い天然流動食からほとんど消化された形での成分栄養まであります。究極の天然流動食は、ミキサー食といって食事をそのままミキサーにかけて流動化したものをそのまま使用することもあります。成分の分類は、蛋白質の分解度が大きく違ってきていますので、そこを参考にして種類を確認できます。

天然流動食(濃厚流動食)は、簡単に言うと自然素材を混ぜ合わせて作られた高エネルギ−高蛋白食品で窒素源は大豆蛋白、乳蛋白など、糖質はデンプン(粉飴)や蜂蜜で、脂肪の含有量が多い特徴があり、医薬品ではありません。水分量を減らして単位重量あたりのエネルギ−を高くしたもので、3大栄養素以外の栄養素も含んでおり栄養価は高いです。消化・吸収が必要なので、消化機能の保たれた患者への適応となり、当院では採用していませんがオクノス、YH-80などがあります。ほとんど高エネルギ−流動食の缶詰製品に近く、味や香りもよく栄養価も高いです。しかし、正常な消化機能が必要なので、消化機能の低下した高齢者などは下痢や腹部膨満などの消化器症状を起こしやすいため注意が必要です。これに準じた方法として、食事をミキサーにかけて注入することもあります。

成分栄養剤(エレンタ−ルヘパンED)は、窒素源がアミノ酸のみで、糖質はデンプンの分解物資であるデキストリンと2糖類、その他の成分も全て消化された栄養素として配合されており、体内での消化が不要な特徴から消化機能の低下した患者に適応となる医薬品です。成分栄養剤は消化を必要とせず、全ての成分が上部消化管で吸収され、残渣はないので、短腸症候群などにも適応が広い。ただし、脂肪の含有率が極めて低く(全エネルギ−の1.5〜8%、他の栄養剤の4分の1)、長期投与では必須脂肪酸の欠乏に注意が必要となります。また、浸透圧が高く、粉末製剤なので濃度の調整が必要です。医薬品ですので保険適応があり、処方箋でオ−ダ−します。ヘパンEDは、肝不全用として分岐鎖アミノ酸を多く含んだ製剤です。(赤字は薬品

消化態栄養剤(アミノレバンEN)は現在、当院で採用していないツインライン(液状)、エンテル−ド(粉末)という製剤が主で、アミノレバンEN(粉末)は肝不全用です。成分栄養剤と違うところは窒素源がアミノ酸の結合体であるジペプチドやポリペプチドであり、化学成分が人工的に合成された医薬品です。成分栄養剤より脂肪成分の含有量が増量され(11〜25%)、電解質、ビタミン、微量元素などがバランスよく配合されていますが、全て最終段階まで分解されている訳ではないので消化機能が著しく低下していたり、消化管の安静を要する場合には適応されません。医薬品ですので全て処方箋でオーダ−します。(赤字は薬品

成分栄養剤、消化態栄養剤の適応

・ 上部消化管術後早期
・ 急性膵炎の安定期、慢性膵炎
・ 短腸症候群(慢性期)
・ 炎症性腸疾患(特にクローン病)の緩解導入期
・ 蛋白漏出性胃腸症

・ アレルギー性腸炎
・ 一部の消化管瘻、縫合不全

半消化態栄養剤(エンシュアリキッドエンシュアHラコール、ライフロン、テルミ−ル、レナウエル、メイバランス)は、天然流動食と成分栄養剤・消化態栄養剤の中間的特徴を有する経腸栄養剤で、天然食品を人工的に加工して高エネルギ−高蛋白にしたものです。エンシュアリキッドは医薬品の液状タイプで投与しやすく、処方箋でオーダ−します。ラコールはエンシュアリキッドとほぼ同じタイプですが、やや蛋白質を高めにして脂肪が低くしてあり、ビタミンKとω3系の脂肪酸が強化してあります。消化態栄養に比べると、消化・吸収が悪く腹部症状に注意が必要です。現在、経腸栄養剤の主流となっています。ライフロンはマルトデキストリン、乳たん白、植物油(大豆由来)、カゼインNa(乳由来)、MCT、食物繊維、フラクトオリゴ糖、乳化剤(大豆由来)、小麦胚芽抽出物、DHA含有精製魚油、乾燥酵母、メカブ抽出物などを原材料として、医薬品系の栄養剤には含まれないω3系脂肪(DHA、EPA)やMCT、セレン、モリブデン、クロムなどの自然界の微量元素、さらにはフラクトオリゴ糖などの食物繊維が含まれています。栄養価も高く、味と香りがよい特徴がありますが、やはり消化態栄養剤と比較すると消化・吸収が悪く残渣が多くなり、下痢などの腹部症状もやや強い傾向があります。また、食品なので保険適応がない「ぜいたく品」扱いとなり、実費負担となるため、適応が限られてきます。ただし、当院では入院中のみ、食事療養費の中で投与できるシステムにしていますので食事指示箋にてオ−ダ−します。テルミ−ル・ミニは高濃度製剤1.6kcal/mlであり、約3分の2の量で同じカロリ−が投与できますが、腹部症状がより強くなり注意が必要です。レナウエルは腎不全用です。いずれも食品扱いとなります。(赤字は薬品

半消化態栄養剤の適応

・ 上部消化管通過障害
・ 化学療法・放射線治療
・ 熱傷・重症外傷
・ 神経因性食思不振症
・ 消化管術後

・ 意識障害患者の慢性期

* ヘパンEDとアミノレバンENの違いは?

アミノレバンENは、ヘパンEDに比較して蛋白質の含有量が多く(分岐鎖アミノ酸も増量)1日3回投与用に調整してあるため、肝不全食など蛋白制限食の患者への投与によいとされています。これに対してヘパンEDは肝不全患者に欠乏しがちなアルギニンが増量されており、1日2回投与用に調整してあり蛋白含有量が押さえてあるため、肝不全が重症でなく蛋白制限のない患者の補食によいとされています。ただし、アミノレバンENに比較して、分枝鎖アミノ酸の含有量も少ないため注意が必要です。

 

* LES (Late Evening Snack)って知ってますか?

重症肝硬変患者(これを非代償性肝硬変と呼びます)は、糖質の代謝能力の低下により、自身の脂肪を燃焼させてエネルギーを維持しています。従って、分岐鎖アミノ酸を含めたバランスのとれた三大栄養素の投与が必要といわれています。これに加えて、肝硬変患者は肝臓にグリコーゲン(糖質の代謝物質)貯蔵量が少ないため、夕食を食べてから翌朝までに糖質が枯渇してしまい、貯蔵脂肪や筋肉を燃焼させて生体エネルギーを維持していることも確認されました。これは、さらに重症肝硬変患者の栄養不良(PEM)を増悪させています。

この改善のために、就寝前に200kcal程度のエネルギー(おにぎりやサンドイッチなど)を摂取することにより、蛋白代謝とエネルギーが好転することが示され、これをLESと呼びます。実際にLESとして分岐鎖アミノ酸を多く含んだ経腸栄養剤(アミノレバンENやヘパンEDなど)使用によって、低アルブミン血症や栄養指数の改善の報告などもあります。当院でも、重症肝硬変の患者に合併する出血性胃炎の改善や「こむら返り」の軽快などが経験されています。

* 腎不全患者の経腸栄養

当院で採用されているレナウエルA125mlは、腎疾患用に低蛋白質、低カリウム、低リンの調整された経腸栄養剤です。ただし、レナウエルAだけでは、低蛋白血症になりすぎるので、テルミールミニなどと組み合わせて使用することが必要です。

例えば、体重50kgの患者で、1日必要カロリー量を1800kcal、水分850mlとすると、以下のようになります。

腎不全患者(蛋白0.6g/kg)  レナウエルA 6本 + テルミールミニ 3本

慢性腎不全(蛋白0.8g/kg)  レナウエルA 4本 + テルミールミニ 5本

透析患者(蛋白1.1g/kg)    レナウエルA 1本 + テルミールミニ 8本

III-4. 経腸栄養管理の実際


図26. 経腸栄養の投与方法
(図をクリックで拡大)


図27. 経腸栄養法の合併症

経腸栄養に伴う三大合併症は、① 誤嚥性肺炎、② チュ−ブ誤挿入、③ 下痢と言われています。

① 誤嚥性肺炎の予防

・ 経腸栄養投与時および投与後30〜60分は上半身を30〜45度以上挙上しておく。

・ 下部食道括約筋(逆流防止機能)への負担軽減のための、経鼻胃管の場合には、10Fr以下の細径チュ−ブを用いる。

・ 投与速度を胃瘻は200〜300ml/時間以下、腸瘻は100ml/時間以下を守る。

・ 誤嚥の有無のチェックのため、導入時には先ず同量の白湯を同じ速度で投与して観察する。

・ 逆流が確実ならば、十二指腸や空腸までチュ−ブを進める。または、固形化栄養を考える。

・ 定期的なチュ−ブの位置や状態のチェック。

・ 嚥下リハビリを併施する。

② チュ−ブ誤挿入・逸脱

<経鼻胃管>

・ 現在行われている空気の注入音の確認では、左肺下葉や食道下端で屈曲していても胃内との識別は困難。無症状でのチュ−ブ先端の移動の可能性は細径チュ−ブに多く15〜50%にものぼるとされ、米国では24時間連続注入の場合には8時間ごとの、間欠的投与の場合には投与前にX-Pでの確認が推奨されています。しかし、実際には被爆の問題から、常に吸引内容の性状をチェックしたり、pHセンサ−付きのチュ−ブや吸引液のPH反応テ−プでの管理法などが米国では推奨されます。いずれにしても、呼吸音、逆流音の確認と呼吸状態やSpO2の確認は必ず行ってください。

・ さらに、肺、縦郭、胸腔や頭蓋内誤挿入があり、それらに伴う合併症は肺炎だけでなく無気肺、気胸、副鼻腔炎、中耳炎が報告されています。

・ チュ−ブそのものの刺激や圧迫による合併症として、鼻咽頭不快、鼻部壊死、嗄声、食道潰瘍、食道気管支瘻、腸管穿孔などの報告がある。したがって、鼻空チューブは10Fr以下で、適切なテープ固定が推奨されます。

<PEG>

・ PEG造設に伴う合併症は、挿入部の感染を含めると50%以上で、誤穿刺や出血、腹膜炎などの重篤な合併症は20%にものぼります。もともと訴えの少ない状態不良の患者におこなわれるため、バイタルが低下してから発見されことも多く、術者と連携して慎重な対応が必要です。

・ 経内視鏡的胃瘻造設患者のチュ−ブ交換における誤挿入による汎発性腹膜炎の頻度は1.4〜2.9%とされています。可能であればX線透視下にガイドワイヤーを挿入した形での入れ替えが推奨されます。

・ チュ−ブ・バンパ−の腹壁内埋没や周囲皮膚びらんによる脱落などもあり、スタッフは発見すれば栄養剤の注入をやめて担当医に連絡しましょう。

③ 下痢、その他の消化器症状

経腸栄養の消化管合併症として、下痢、腹部膨満、腹痛、悪心・嘔吐、便秘などがあります。

・ 下痢

24時間以内に6〜8行の排便があるのを下痢と定義すると、経腸栄養患者の2.3〜68%に合併しており、患者状態や施設によってかなりのバラツキがあります。欧米や日本のガイドラインでは、下痢は栄養剤の注入速度、温度によって発生することが多く、浸透圧もその一因とされています。例えば経腸栄養剤は300〜700mOsm/Lの浸透圧があり、血液浸透圧280〜290mOsm/Lに比較して高く、従来これが下痢の要因といわれていました。しかし、現在では欧米のデ−タから、浸透圧を重視して栄養剤を希釈(水で薄める)して投与する方がかえって下痢が増加するとされ、推奨されていません。したがって、投与速度をおとしてゆっくり持続的に投与することで下痢の合併が減少するとされています。

しかし、これには日本では異論も多く一定した見解はできていません。その根拠には白人は腸が日本人よりも一般的に長く経腸栄養による下痢の合併が非常に少ないだけでなく、乳製品やトウモロコシなどの穀物類の摂取が多い食生活も経腸栄養に適しているといわれています。 したがって必ずしも欧米のガイドラインが日本人にも適用できない可能性があります。実際に、日本における経腸栄養の普及が必ずしもよくない背景には下痢の合併症の頻度が高いことも要因となっています。当院では、経腸栄養用のポンプが足りないことから、実際には投与速度をおとすことは困難であり、しばらくは湯で希釈する対応しかないと思われます。下痢止めはあまり有効でないことが多いです。

<下痢の対応>

投与速度 ・・・ ゆっくりする。
投与量 ・・・ 予定投与量の3分の1〜2分の1の量から開始し、徐々に増やす。
濃度(浸透圧) ・・・ 希釈することも有効だが、水分が多すぎても下痢になる。
温度の調節 ・・・ 冷たくしない。食物繊維の追加下痢止めの併用
乳糖不耐症 ・・・ 乳糖を含まない製剤へ変更、ラクターゼ投与。

脂肪吸収障害 ・・・ 脂肪含有量の少ない製剤への変更。
細菌の繁殖予防 ・・・ 経腸栄養剤や器具の汚染予防、清潔管理。
細菌性腸炎 ・・・ 適切な抗生剤使用または腸管安静。

* サンファイバーって知ってますか?

クッキンサプリ・サンファイバー(太陽化学株式会社)は、グアー豆生まれの水溶性植物繊維(グアーガム)でほとんど無味無臭です。整腸作用とプレバイオティクスとして、腸内細菌を活性化して短鎖脂肪酸の産生を増加させます。御飯やおかずに混ぜるだけでも効果がありますが(全く味やにおいは変わりません)、経腸栄養剤に混ぜることによって下痢予防にもなります。当院では、主に難治性の下痢となった経腸栄養患者に使用していますが、結構下痢はとまります。一度試してみてください。

・ 腹部膨満、腹痛、悪心・嘔吐、便秘

これらは経腸栄養患者の10〜22%に発生するとされており、投与速度や濃度、特に栄養剤の温度が影響するとされています。特に、胃瘻の場合には胃内容排出異常があったり、過剰投与になると胃に栄養剤が停滞して胃炎の原因になったり、これらの症状の原因となり注意を要します。当院で胃の貯留にて、出血性胃炎から吐血した症例もあります。

<経腸栄養管理のポイント>  日本静脈経腸栄養学会ガイドライン2003年版

1) 投与速度は原則として徐々にステップアップする。胃瘻:200〜300ml/L以下腸瘻:100ml/L以下
2) 投与開始時の濃度は薄くする。できれば10%ブドウ糖液で開始することが望ましい(無菌の栄養剤で食道・胃の反射、誤嚥が起こらないことを確認)。経腸栄養剤を2倍希釈して用いる。(できれば成分栄養剤から開始)栄養剤の投与量を2倍、3倍と1〜2日ごとに増量していき、成分栄養から徐々に濃厚流動食へ変更していく。
3) 温度は人肌・室温とする:経腸栄養の温度の低下は下痢につながる。

4) 投与開始早期は脂肪を少なめに設定する(消化機能の低下を考慮)。
5) 投与開始早期は蛋白も少なめに、あるいはアミノ酸を主体とする経腸栄養剤を用いる(蛋白は消化作用が必要、アミノ酸は不要)。
6) 長期絶食、高齢者、消化器外科手術後早期症例では、消化機能が低下していることが多いので注意を要する。

* チュ−ブ閉塞予防に酢は有効!

チューブの洗浄は酢がいいとの報告もあります。特に細径チューブには、効果が高く、常温より、温かい方がより洗浄効果があがり、においも気にならなくなるとの報告もあります。具体的な方法は、以下の通りです。

① 先ず、チューブを白湯で洗浄し、可能な限り残渣を洗い流す。これはイリゲートボトルに栄養剤終了後に白湯を100ml追加して行うと簡単です。残渣が残っていると、酢と反応して沈殿物を形成するので大切です。

② 次に10倍に希釈した酢水(湯)を約5ml注入し、チューブを屈曲しておきます。

③ このまま、チューブのふたをして、酢水クランプとなります。


図28. 酢水クランプの実際

* 酢酸注入による事故があったようですが、酢(食酢)の酢酸濃度は4%くらいなので、上記マニュアルで推奨しているのは、0.4%ととなります。また、あくまでも細菌増殖予防による閉塞予防の処置なので、閉塞しているチューブに注入する効果はないと考えます。どちらかというと、閉塞をきたすような沈殿物、残渣がある状態での使用は、逆効果になる可能性がありますので、注意してください。

2)医薬品の経腸栄養剤…薬剤料として算定、在宅医療費として上乗せできます。

在宅成分栄養経管栄養法指導管理料

指導料 2500点/月  セット加算 2000点/月 ポンプ加算 1000点/月

・ 成分栄養剤・消化態栄養剤を使用

エレンタール(ツインライン、エンテルードなど)

・ 炎症性腸疾患、短腸症候群などの成分栄養剤や消化態栄養剤にてしか栄養状態が維持できないと医師が認めた患者

* GFOって知ってますか?

G: グルタミン(腸管粘膜の活性化)
F: 水溶性ファイバー(水溶性食物繊維、プレバィオテイクス)
O: オリゴ糖(腸内細菌の活性化、プレバィオティクス)

GFOとは、上記のような腸粘膜および腸内細菌の活性化に必要な栄養素からなる経口食品(大塚製薬)です。粉末状で水に溶かして飲みますが、やや薄めのポカリスエットのような味付けになっていて、飲みやすくなっています。MRSA腸炎、偽膜性腸炎や炎症性腸疾患などの栄養補助として使用されます。従来の経腸栄養剤と併用したり、経腸栄養が下痢などで困難な患者に投与が可能です。バクテリアル・トランスロケーションも防ぎます。ちなみに、薬品を混ぜて同じものをつくることも可能です。

例)

マーズレンまたはグルミン 3g/回

水溶性ファイバー      5g/回

オリゴ糖         5〜7.5g/回

最近ではファイバーとオリゴ糖含有の経腸栄養剤は市販されているので、マーズレンやグルミン(胃粘膜保護薬)を追加すればいいのですが、常用量よりかなり多くなります。

* 微量元素強化食品を有効に利用しましょう。

褥瘡や術後の創傷治癒に亜鉛、銅やセレンなどの微量元素が関与しています。主に生体内での組織障害や炎症に関与するフリーラジカルを、亜鉛や銅はSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)と結合して過酸化水素に分解し、セレンはグルタチオンペルオキシターゼと結合してさらに完全分解して抗酸化作用を発揮します。また、亜鉛はRNAやDNAなどの蛋白合成に、銅は創傷の治癒に関係するコラゲナーゼ活性の維持にも関係しており、これらの微量元素の欠乏により褥瘡が発生しやすくなるだけでなく、治りにくくなります。したがって、微量元素とこれらの作用を補助する適切なビタミンを補強した食品もあります。

ブイ・クレス アルファ    三協製薬

ブイ・アクセル

プロッカZn(ゼリー)

さらに、免疫能を強化して、蛋白や細胞合成に関与するアルギニンも添加した食品もあります。

アルジネード         ノバルティス

参考: 胃瘻管理の実際

・ 胃内へ投与する場合は、ボーラス法あるいは持続法のいずれでもよい。投与の目安は200~400ml/時間とされるが、エビデンスはない。幽門後(十二指腸・空腸)へ投与する場合には、ボーラス法は用いず持続法のみで、一般的に100ml/時間以内とし、ダンピング症状に気をつける。いずれの方法でも、最初は緩徐な速度で開始し、徐々に速度をあげていくことで、幽門後投与でも200ml/時間やボーラス投与も可能。

・ 糖尿病など耐糖能の低下している患者では、持続投与が望ましい。

・ 2週間以上の絶食後にENを開始する場合には、消化管の委縮を考慮して25ml/hrから開始する。

・ 投与開始にあたっては、現役で開始して問題なく(希釈にはエビデンスがない)、胃内投与の場合には胃液による希釈、幽門後の場合でも緩徐に少量ずつ注入すれば消火液と混和されるので、濃度は問題ない。

・ 成分栄養剤(elementaldiet:ED)、消化態栄養剤は投与量分の水分を含んでいるが、半消化態栄養剤は85%の水分量しか含んでおらず、半固形化栄養剤は65~70%しか水分はなく、脱水に注意。
● 経管栄養法 看護手順

1) 患者の体位を整える。

(ファーラー位)背中に枕をあてて右向きに傾けて寝かせる。

(胃の向きに合わせて消化吸収をよくするため)

2) 胃内容物を吸引し、食物残渣の有無を調べる。

3) 胃部に聴診器を当て、カテーテルチップにて10〜20mlの空気をチューブから送り込み、音を確認する。

4) 栄養剤の温度(37〜38℃)を確かめて、イリゲータに流し込み、ルートを満たす。

5) 内服薬がある場合、簡易懸濁法にて注入する。

6) ルートとチューブを接続する。

7) クレンメで滴下を調節する。

(1秒間に1〜2滴の速さで1〜1.5時間くらいで注入)

8) 全量注入後、微温湯を約60ml注入あるいは患者の状況に応じて、約100mlイリゲータより注入する。

9) 終了後は、30分間以上同じ体位を維持させる。
● PEG栄養法 看護手順

1) 栄養剤を体温程度(38℃くらい)に温める。

2) 栄養剤をイリゲーターに移しチューブの先端まで満たしておく。

3) 患者を座位またはファーラー位にする。右側臥位で行う場合には、上半身を少し起こす。

4) 吸引して、胃内容物を確認する。

5) 微温湯を注入し、スムーズに注入できることを確認する。

6) 周囲から漏れないことを確認する。同時に、胃瘻チューブが抜けていないか確認する。よければ、内服薬を簡易懸濁法にて注入する。

7) 胃瘻チューブとイリゲーターを接続して滴下量を調節する。

8) 栄養剤の投与が終了したら、微温湯でスムーズに注入できるまでフラッシュする(60〜100ml)。

9) 注入が全て終了したら、クランプし接続をはずす。

10)キャップを閉める。

11)注入終了後30分以上は同じ体位を維持させる。

12)1日1回は胃瘻チューブ内に酢水(10倍希釈)を通すと、チューブの汚れによる閉塞を予防できる。

白湯を補う。

<病態別経腸栄養剤>
1. 消化吸収障害・消化管機能不全への経腸栄養

成分栄養剤使用の注意・・・浸透圧が高いので、下痢の発生予防として投与速度への配慮

脂肪含有量が少ないものがあり、必須脂肪酸欠乏への注意

* 胃でのタンパク質消化を要する半消化態栄養剤、濃厚流動食は基本的には胃内投与

腸瘻からの投与の場合には、消化酵素製剤を併用

* 脂肪吸収障害患者への経腸栄養

消化酵素製剤やウルソデオキシコール酸の併用

* 炎症性腸疾患への経腸栄養

低抗原性、低脂肪・低残渣に加えて、n-3系多価不飽和脂肪酸や抗酸化ビタミン(C、E)、微量元素(セレン、亜鉛、クロム)などの抗酸化物質を併用

* クローン病患者への経腸栄養

クローン病患者は、65~78%に体重減少、低アルブミン血症を25~80%に認め、食事抗原の排除と腸管の安静が治療効果として有効。活動期に限らず緩解維持療法や再発予防における成分栄養剤、消化態栄養剤は有用。最近、半消化態栄養剤でも同様の効果があると報告されている。

・ 急性で一過性のストレス(手術、外傷、絶食など)により腸粘膜は委縮し、腸管免疫能の低下に伴う腸内細菌の異常増殖(腸内フローラの乱れ)や腸粘膜透過性亢進によって、腸管バリアー機能は破綻してバクテリアル・トランスロケーションBacterial translocation:BT) (が惹起される。

・ 小腸は、経口摂取時には主に食事由来のグルタミンやグルタミン酸をエネルギー源として、絶食TPN時には腸絨毛の基底膜側のトランスポーター(輸送タンパク)を介して血管からグルタミンやケトン体をエネルギー源としている。

・ 大腸は、水溶性食物繊維などを腸内細菌(ビフィズス菌など)が資化して生成された短鎖脂肪酸(酪酸が主)をエネルギー源として大腸粘膜は増殖する。酪酸は、大腸粘膜の血流を増加させ、粘膜レベルにおいて炎症性サイトカインを抑制して抗炎症作用を発揮する。さらに、回腸や上行結腸に存在するL細胞を刺激し、エンテログルカゴン(腸管粘膜の増殖ホルモン)や神経性ペプチドも亢進することにより、大腸および小腸粘膜を増殖する。

・ 食物繊維・・・サンファイバー、ジェビティ、ジーファイン(シンバイオティクス)、GFOなど

不溶性食物繊維:セルロースなど

糞便量を増加させて腸管の蠕動を亢進させて、便秘を改善させる。

発がん物質との腸粘膜接触時間の短縮による発がん予防効果

水溶性食物繊維:グアーガム、ペクチン、オリゴ糖など

腸粘膜表面の不攪拌層の増大や糖質・コレステロールの吸着により、それらの吸収を抑制し、糖尿病や高脂血症の改善効果

腸粘膜上皮に対する栄養効果(プレバイオティクス

大腸内pHを低下させ、Clostridiumなどの腐敗菌の増殖抑制による発がん抑制

リンパ球の抗体産生を高める

グアーガム分解物(サンファイバー®)の投与が、過敏性大腸症候群において排便回数と便性を改善させる。さらにリンパ球の抗体産生能を高める。

2. 抗酸化・炎症作用・・・ライフロンQL、アノム、オキシーパ、メインなど

・ 活性酸素・・・体内に取り込まれた酸素はエネルギー源として利用され、水素と結合して水になるが、約2%の酸素は水素と結合せず活性酸素として体内で防御作用に働く。しかし、炎症性サイトカインやリポ多糖類(エンドトキシン)などの刺激により過剰に産生された活性酸素は、組織に対して障害的に作用することが分かっている。

酸化ストレス・・・体内抗酸化システムによる消去を上回って生成された活性酸素種による酸化組織損傷力であり、生体内の活性酸素生成系の亢進や、消去系(抗酸化システム)の低下により引き起こされる。

活性酸素種・・・本来生体内で好中球やマクロファージなどから産生され、侵入異物に対する生体防御、不要な壊死組織や細胞の処理、情報伝達などに際して働くもの。

スーパーオキシド(O2・-):細胞のミトコンドリアでエネルギーが産生された際に発生し、最も一般的な活性酸素種。

過酸化水素(H2O2):過酸化水素事体は酸化力は強くないが、鉄や銅などと反応してヒドロキシラジカルになる。

ヒドロキシラジカル(HO・):酸化力が最も強く、組織障害性が高い活性酸素種。

ペルオキシナイトライト(ONOO-):炎症性サイトカインにより活性化された誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)によってアルギニンから産生された一酸化窒素(NO)と活性酸素の反応で合成された、より障害性の強い活性酸素種。

SOD(superoxide dismutase、抗酸化酵素)・・・体内で過剰となった活性酸素を除去し、体内の過剰な酸化を抑制する酵素。

抗酸化物質・・・

ビタミンE:生体膜リン脂質の不飽和脂肪酸におよぶ過酸化反応およびその拡大を防止

ビタミンC:抗酸化を発揮した後のビタミンEラジカルを再生させる

銅、亜鉛、マンガン:電子伝達系や細胞内で発生する活性酸素を除去するSODの成分

セレン・鉄:抗酸化作用で発生した過酸化水素を分解する酵素(グルタチオン・ペルオキシダーゼ、カタラーゼなど)の成分

カテキン、コエンザイムQ10(CoQ10)、クロム、n-3系多価不飽和脂肪酸、γリノレン酸、酪酸:活性酸素種の除去および炎症性サイトカインを活性化するNF-κB、AP-1などの転写因子の抑制

ポリフェノール

・ γリノレン酸 → ①PGE1(プロスタグランディン1系列)産生増加 → 抗炎症・免疫増強作用

γリノレン酸 → ②ジホモγリノレン酸 →15-ヒドロキシエイコサトリエンサン →ロイコトリエン抑制→ 抗炎症作用

(アラキドン酸 → 15-ヒドロキシエイコサテトラエン酸 → ロイコトリエン抑制)

γリノレン酸 → ③ジホモγリノレン酸 → NF-κBの活性化阻止 → 抗炎症作用

・ オキシーパ®の効果・・・急性呼吸促迫症候群(ARDS)や重症急性肺障害(ALI)患者のICU滞在日数、人工呼吸管理日数、臓器不全、死亡率を有意に減少(Immune-modulating enteral diet:IMD).

γリノレン酸・・・抗炎症効果

n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA、DHA)・・・抗酸化・抗炎症作用

糖質のエネルギー比28.2%抑制・・・インスリン濃度の制御が、アラキドン酸の過剰産生を抑制し、炎症性エイコサノイドの産生抑制

・ ホエイペプチドによる抗炎症作用・・・メイン

3. ビタミン、タンパク質強化・・・グランケア、ペムベスト、テゾン、ブイ・クレス、ブイ・アクセルなど

・ 高齢者のなかには、ビタミンB1、Cなどの潜在的欠乏症、特にB1欠乏による食思不振、体重減少が指摘されており、それらに対するビタミンB1投与は症状の改善に効果がある。

* ビタミンB1、2、水溶性ビタミン、微量元素の強化・・・グランケア

・ 抗酸化作用(銅、亜鉛、マンガン、セレン、ビタミンB、C、E、ナイアシンなど)の強化・・・テゾン、ブイ・クレス、ブイ・アクセル

・ タンパク質の強化とグルタミン、亜鉛、抗酸化ビタミンの強化・・・ペムベスト

4. 耐糖能異常

・ コントロール不良の糖尿病患者では、過剰な還元糖がタンパク質へ結合する糖化反応(glycation)が促進され、糖化されたタンパク質はその機能を失い、終末糖化生成物(advanced
glycationend-products:AGEs)となる。AGEsは血管内皮と結合して、連鎖的に脂質過酸化反応が惹起され、心・血管系合併症を進行させる。銅、亜鉛などのSODも糖化反応によって活性が低下するので、酸化ストレスはさらに高まる。

・ セレン欠乏はTGFβ1mRNAの発現を増加させて過酸化反応を亢進させるので、セレンの補充による酸化ストレスの抑制により、糖尿病における心・血管系合併症を抑制する。

・ クロムはインスリン・レセプターの数を増加させ、インスリン感受性を高め、これらを阻害するTNFαの分泌も抑制するので、糖尿病患者における糖代謝改善や過酸化反応の抑制に有用。

・ 血糖値の上昇を抑える経腸栄養

糖の吸収を緩徐にする糖質の使用と脂肪含有量の増加、脂質の配合率を高める、食物繊維含有

パラスチーノ、キシリトール+脂肪含有量30%・・・インスロー

タピオカデキストリン+脂肪含有量38%(高オレイン酸68.8%)・・・タピオン

ショ糖を含まない+脂肪含有量48%(高オレイン酸68.8%)・・・グルセルナ、SR、Ex

パラチノース+L-イソロイシン+脂肪含有量35%(オレイン酸、MCT)・・・ティムベスト

* 長期成績にはエビデンスがない

5. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸不全・・・オキシーパ、ライフロンQL、プルモケア、アノム

・ 慢性閉塞性肺疾患(chronic
obstructive pulmonary disease:COPD)は、「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することで生じた肺の炎症性疾患で、呼吸機能検査では末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に作用することにより惹起される進行性の気流閉塞を示す。臨床的には徐々に生じる体動時の呼吸困難や慢性の咳、痰を特徴とする」と定義する。

・ COPDの代謝の特徴

TNFαなどの炎症性サイトカインによる全身性炎症の継続

呼吸筋のエネルギー消費の増大

安静時エネルギー消費量の増大

炎症反応による摂食抑制

肺胞の膨満による胃、横隔膜の圧迫のための経口摂取不良

体脂肪と筋タンパクの異化亢進

* COPD患者の50%に体重減少で、体重減少が呼吸機能とは独立した予後因子!→十分なエネルギー、タンパク質(BCAA)の投与

炭水化物の過剰摂取はCO2濃度を増加させ、換気系の負荷となるので、呼吸商の低い燃焼効率の高い脂肪含有量の増加(中鎖脂肪酸:MCT)

n-3系多価不飽和脂肪酸や抗酸化ビタミン、微量元素、カテキンなどの併用

6. Immunonutrition(免疫賦活栄養)・・・インパクト、アノム、イムンα、サンエット

手術や外傷などの侵襲を受けた、またはこれから受ける患者に対して、免疫力の増強による感染症の発症予防や創傷治癒の促進により、予後を改善させることを目的とした栄養法。

Immune-enhancing enteral diet:IED

特殊栄養成分(immunonutrients)として、アルギニン、グルタミン、n-3系多価不飽和脂肪酸、核酸などを複合配合した経腸栄養剤。外科手術患者における感染性合併症と在院日数の有意な減少が報告されている。

その適応は、中等度以上の手術侵襲や感染リスクの高い手術で、術後に創部感染などの感染性合併症のリスクが高い症例。また、術前の適応病態としては、炎症所見がなく、循環動態が安定した症例で、術後の生体防御能を高めて感染性合併症を予防し、術後侵襲期の臓器循環を維持することが最大の目的。最近は、抗酸化の概念からビタミンE、Cや亜鉛、セレン、ポリフェノールなども広い意味でimmunonutrientsに含む。

侵襲後早期のEN、プレ・プロバイオティクス、抗酸化物質の使用も含まれる。

* 重症ICU症例でのIEDは、アルギニン強化による免疫能増強による炎症反応の過剰な亢進による臓器障害の可能性から、重症肺炎症例などで生存率が低下したとの報告もあり、注意を要する。
・ 免疫増強経腸栄養剤(immune enhancing diet:IED)の効果

感染性合併症発生率の低下

在院期間の短縮

抗生物質使用量の減少

人工呼吸管理期間の短縮

多臓器不全発生率の減少

ただし、生命予後の改善については明らかでない、重症肺炎では予後不良

* クレアチニン・クリアランスが50以下の腎機能不全患者には、タンパク質の投与は0.6~0.7g/kg/日とする。

・ Immunonutrients(特殊栄養成分)

グルタミン・・・非必須アミノ酸として筋肉細胞内に貯蔵、生体内で最も豊富な遊離アミノ酸

侵襲下では、肝臓、消化管などにおける需要が増大。

タンパク代謝改善(侵襲下における筋タンパクの崩壊抑制、全身タンパクの合成促進)

腸管粘膜固有層におけるIgA分泌能の亢進や好中球の貪食能、殺菌能の増強など局所免疫の維持に重要な役割を演じる。

腸管細胞、消化管上皮のエネルギー源であり、消化管上皮の委縮を軽減し、Bacterial translocationを予防する可能性がある。

抗酸化作用を有するグルタチオン合成に必須 →腸管虚血再灌流障害の抑制

マクロファージ、好中球、リンパ球などの免疫担当細胞のエネルギー源→感染症合併症の発生率低下、在院日数の減少

アルギニン・・・非必須アミノ酸で、細胞質や核酸タンパクの主要成分

肝臓における尿素形成に関与

一酸化窒素(NO)の前駆物質であり、免疫能を賦活化する可能性があるが、逆に免疫能増強による過剰な炎症反応の亢進による臓器障害の可能性もある。

窒素平衡の改善、タンパク異化抑制作用

創傷治癒を促進

* 敗血症をすでに発症している患者には、アルギニン強化IEDは過剰な免疫反応により死亡率が増加する可能性があるため禁忌。

n-3系多価不飽和脂肪酸・・・生体では合成されない必須脂肪酸

n-6系を抑制し、n-3系のエイコサノイド産生が優先されて抗炎症作用や抗酸化作用、細胞性免疫能低下抑制作用発揮。

αリノレン酸はEPAやDHAへと代謝され、さらに誘導されたロイコトリエン、トロンボキサンA,プロスタグランジンE3なが細胞膜安定化や過剰な炎症反応抑制を行う。

核酸・・・細胞増殖、遺伝情報伝達、タンパク質合成に関与する。細胞の増殖、遺伝情報の伝達、タンパク質の生合成など生命活動の最も重要な部分に関与する生体成分。

リボ核酸(RNA)とデオキシリボ核酸(DNA)がある。

侵襲期には、内因性核酸プールの減少と核酸合成系であるサルベージ合成系(体外、細胞内から得られた物質からの再利用にて核酸を合成する)の酵素活性が増加し、その需要が増加するとともに、タンパク質合成のために利用も亢進する。

胃腸管の発育を促し、腸管免疫や細胞性免疫を賦活する。

核酸の生理作用には、抗酸化作用、細胞賦活作用、末梢血管拡張作用、肝機能改善、免疫賦活作用、抗アレルギー作用、脂質代謝改善、ATP産生、などがある。→感染症発生率の低下、入院期間の短縮

中鎖脂肪酸(medium chain fatty acid:MCFA)・・・炭素数8~10個の脂肪酸

腸管から吸収されて、リンパ管を通らずに門脈経由で直接的に肝臓に作用する。

カルニチン非依存性で酸化されやすく、長鎖脂肪酸より速やかに吸収され、代謝も速い。

7. 肝性脳症を伴う慢性肝不全の経腸栄養・・・アミノレバンEN、ヘパンED、リーバクト、へパスⅡ、アミノフィール、アミノガレット

・ 肝不全とは、肝機能の低下によるタンパク代謝不全

アンモニアなどの代謝・解毒

血中アミノ酸バランスの不均衡(芳香族アミノ酸aromatic amino acid:AAA↑、分岐鎖アミノ酸branched chain amino acid:BCAA)→ 分岐鎖アミノ酸(BCAA)の補給

8. 腎不全患者の経腸栄養・・・リーナレン、レナウエル、アミーユ配合顆粒

・ 腎不全は体内の老廃物を尿中に十分に排泄できず、体液の恒常性維持が不可能となった病態。

透析を行わない維持期の食事療法としては、低タンパク食により、窒素、リン、カリウムの摂取を抑える。

ビタミンD、E、B1、B6、Cが欠乏

カルシウム、鉄、亜鉛、セレン、マグネシウムも欠乏

カルニチンは、腎不全による腎臓での合成障害、透析による除去で低下する。そのため、筋痙攣・筋肉量低下や心機能低下、貧血や脂質代謝異常に気をつける。

9. 悪性腫瘍

悪液質による体重減少を予防する目的に、EPA及びタンパク質、エネルギー、食物繊維(フラクトオリゴ糖)を補給・・プロシュア

EPAは炎症性サイトカインとタンパク質分解誘導因子の癌細胞からの放出を抑制

10. 小児用経口栄養製品

腎機能の未熟性に対してNPC/N比を200、食物繊維とビオチン、セレン、ヨウ素を含有・・・リソース・ジュニア

<薬と栄養>

薬の服用・・・特に経口糖尿病薬に気をつける!

空腹時に服用する薬・・・カルシウムと結合して沈殿する薬(テトラサイクリン、ビスホスホネートなど)

胃粘膜の直接保護作用薬(アルギン酸ナトリウム、オルノプロスチルなど)

抗パーキンソン薬(レボドパ)はアミノ酸と競合

食直前に服用する薬・・・αグルコシダーゼ阻害剤、速攻型インスリン分泌刺激剤など

食直後に服用する薬・・・胃障害を引き起こす薬(PGE2合成阻害消炎鎮痛剤など)

EPA(エパデール)は食事にて吸収が促進

・ 薬物吸収阻害酵素(小腸上皮細胞)・・・チトクロームP-450-3A4(CYP3A4)とP糖タンパク

グレープフルーツジュースやセントジョーンズワートは競合作用あり

・ ワルファリン投与中の患者のビタミンKの投与量にも気をつける。

合併症のまとめ

1. 経鼻栄養チューブ
1) 誤挿入

・ チューブ留置後は空気を少量フラッシュして送気音を聴取確認。

・ X線にてチューブ先端の位置確認とチューブの蛇行・屈曲がないことの確認・

・ 体外へ出ているチューブの長さの確認、口腔内・咽頭内のチューブのたわみの確認

・ 注入前の胃内容物の吸引確認

2) 鼻・咽頭部付近の合併症

・ チューブ圧迫による咽頭炎、咽頭部びらん、鼻炎、副鼻腔炎、鼻翼の潰瘍・壊死、食道潰瘍

→ 細径の柔らかい材質のシリコンまたはポリウレタンを使用、鼻翼の固定具使用、6週間以上使用する場合にはPEG

3) 嚥下性肺炎(逆流した胃内容の誤嚥)

原因:胃食道逆流(GER)、胃内容の排出遅延・胃拡張・嘔吐、脳梗塞後の咽頭反射の低下、栄養剤の注入速度

頻度:多いところで66.6%

予防対策:適切な注入速度を守る

経腸栄養ポンプを使用

注入中から注入後30~60分上体を30~45度虚上

幽門後にチューブ先端を留置

半固形化栄養剤

口腔ケア

* Mendelson syndrome:胃・十二指腸内容物の気道内吸引(macroaspiration)によって発生するが、経腸栄養時には高濃度高浸透圧の経腸栄養剤と酸度の高い胃液が気管支・肺胞内に多量に流入するため、細菌性肺炎・化学性肺炎の病態を示す重篤な合併症

4) チューブ閉塞

チューブ内への経腸栄養剤の付着、胃酸による栄養剤の凝固などが原因

薬剤は、簡易懸濁法などでできるだけ液状にして注入

栄養剤注入後は必ず微温湯でチューブ内腔をフラッシュする。

酢水クランプ(十分な内腔フラッシュ、残渣があると酢と反応して沈殿物形成、10倍希釈の酢水5ml注入)

ガイドワイヤーによる再開通はチューブの破損の可能性があり、行わない。

5) チューブによる消化管穿孔

硬いチューブの使用

側孔のないタイプの使用

乳児や炎症性腸疾患の合併

消化管蠕動が著しく低下

これらの場合に注意を要する。

2. 胃瘻・空腸瘻

<PEG管理>

術後早期管理(瘻孔閑静前、術後3週間まで)

1) 感染管理

口腔ケアは術前、術後毎日行う。

創部の消毒は必要ない、水道水で清潔に保つ。

Pull(Push)法で造設する場合には、術直前および術後3日間抗生物質を投与する。抗生物質の選択は喀痰、咽頭培養の結果を参考にする。

Direct(Introducer)法は、抗生物質の投与は術直前に単回でよい。

創部感染を生じた場合には、ただちに排膿ドレナージと培養検査、抗生物質の投与を行う。

栄養投与ライン・容器の汚染防止に努める。経腸栄養剤は細菌汚染を予防するために可能な限り8時間以内に投与する。開封した栄養剤は冷蔵(7℃以下)保存24時間を限度とする。

RTH:ready-to-hang・・・経腸栄養剤があらかじめバッグに収容されたもので、無菌的に投与できる。

経腸栄養剤の注入終了時における許容限界は細菌培養で1000CFU/mlである。

難治性の下痢は、クロストリジウム・ディフィシル(偽膜性腸炎)の感染にも気をつける。

2. 酸分泌管理

一般的にPEG後の抗潰瘍剤(H2ブロッカー、プロトンポンプ・インヒビター)は必要ない。

ストレスがある場合に、抗潰瘍剤を考慮する。

3. 補液・栄養管理

PEG直後は、一時的に胃排出能が低下するので、経腸栄養の投与は慎重に行う。

原則的には術当日は絶食とするが、管理上必要な薬剤は投与してよい。

経腸栄養は、通常翌日より開始する。

術前に経鼻胃管より十分な経腸栄養が行われていた場合には、術後第1日目より術前同様の経腸栄養剤を同じ濃度から開始する。投与量は予定投与熱量の1/3を目安にし、術後第3病日までは少量持続注入が好ましい。

経腸栄養が30kcal/kgまで増量できた時点で、間欠的投与に切り替える。

術前1か月以上消化管が使用されていない場合には、術後第1病日より経腸栄養剤の濃度を希釈して(2倍希釈)微量持続注入(10mL/hr)から開始する。消化器症状を観察しながら、投与量を少しずつ増量する。

誤嚥性肺炎を防止するために、経腸栄養剤の投与速度や投与時の体位に注意する。また、胃内残留料のモニタリングを行う。具体的には、栄養剤注入終了後にチューブを吸引して、胃内容残量をチェックする。

創部感染が生じた場合には、一時的に経腸栄養を中止する。これは創部の安静をはかる目的がある。

4. 創部・瘻孔管理

原則として術後7日間は創部の観察を行う。

術後第1病日からシャワー、術後第3病日から入浴を許可する。

瘻孔完成後も創部は消毒が不要で、シャワー、入浴または清拭で対応する。

5. カテーテル管理

外部ストッパーに約1cmのゆとりをもたせる

1日1回カテーテルを回転させる。

ガーゼ保護不要

石鹸と微温湯で洗浄、シャワー、入浴

栄養チューブの閉塞を予防するために定期的に温水などでフラッシュする。酢水クランプにはエビデンスはない。

バンパー型は4~6ヶ月で交換、バルーン型は1~2か月で交換。

静脈ライン用接続部と物理的に接続不可能なカテーテルテーパーとなった経腸栄養ラインを使用する。

PEGの合併症>

PEGの合併症は開腹手術などを必要とするmajor complicationは4%(鎮静剤によるもの、誤嚥、腹膜炎、心停止など)、minor complicationは4~16%(創部感染、チューブ逸脱、血腫など)。

PEGの手技に関連した死亡率は0.6%。

術後早期合併症(瘻孔完成前、術後3週間まで)

バルーンカテーテル破裂・・・胃壁固定を行う、初回造設時はバンパー型を用いることで予防

合併した場合には、CTで腹腔内の溜まりを評価し、全身状態とあわせて外科的適応を考慮する。瘻孔が保たれていれば、再増設を内視鏡的に再度試みる。

カテーテル事故抜去・・・ボタン型、患者の抑制などで予防

気腹・・・造設時に空気が腹腔内に漏れることで、30~40%合併。

ほとんど臨床的には問題ないが、イレウスや呼吸苦を訴える場合には、脱気する。

送気をできるだけ短くすることで予防。

瘻孔周囲炎・・・瘻孔部に発赤、腫脹、疼痛、熱感を認めることで、術後合併症で最も頻度が高い。

主な原因は、口腔、咽頭を通過する際の細菌汚染である。

感受性のある抗生物質の予防投与やDirect法にて予防できる。

時に腫瘍の転移、増殖がある

皮膚潰瘍・・・ストッパーの締め付けに注意し、皮膚との間にガーゼを挟み込むなどして皮膚を保護する。

術後晩期合併症

バンパー埋没症候群・・・内部ストッパーが胃壁内に埋没した状態で、ストッパーによる過度の胃壁圧迫が原因

完全埋没の場合には、経皮的に抜去を試み、無理なら外科手術

不完全埋没の場合には、胃内にストッパーを内視鏡下に送り込むが無理なら外科手術

予防は、皮膚と外部ストッパーの間を10mmゆとりをとる

瘻孔開大・・・栄養剤や胃液の漏れによる皮膚炎を生じる

全身状態不良や栄養不良が原因であることが多く、まずそれらの改善をはかる

創部のケアを十分におこない、難治の場合には半固形化栄養などを考慮する

不良肉芽・・・滲出液が増加したり、出血を伴う

硝酸銀で焼却または外科的切除、創部の清潔も重要

胃潰瘍・・・胃内ストッパーが長時間接触することで、胃体部後壁などに好発し、吐下血や貧血で発見される

胃内のストッパーまたはバルーンの先端がとがっていないものを選択する

十二指腸閉塞・・・バルーン型、チューブ型を使用した場合に、外部ストッパーを使用しないで留置すると、胃の蠕動でバルーンが十二指腸にはまり込み閉塞症状をきたす

交換時合併症

腹腔内誤挿入・・・誤挿入を疑った場合には、必ず内視鏡または造影検査で確認する

比較的早期に発見すれば、容易に再挿入できるが、栄養剤を先に注入してしまうと腹膜炎となる

横行結腸内誤挿入・・・栄養剤の注入にて、下痢と栄養剤そのものの便を認める

横行結腸を貫通して胃瘻となっている場合が多く、外科的処置を要する

* 誤挿入の確認

胃液の逆流を確認

細い内視鏡でカテーテルから挿入して胃粘膜確認

造影剤を注入し、X線確認

内容液のpHを確認

色素液を注入して、後に逆流液を確認

3. 消化器合併症

・ 下痢

経腸栄養剤の注入速度:消化管の馴化期間を十分にとる

注入速度は20~30ml/hrで開始し、徐々に上げていき、1週間前後で維持量に到達する。

持続注入の場合には、必ずポンプを使用する

下痢が発生したら、いったん注入速度を下痢のないところまで戻し、腹部症状を慎重に観察しながら、再び緩徐に注入速度を上げていく。

注入速度が100ml/hrを超えると下痢を起こしやすい。

経腸栄養剤の温度が冷たい

乳糖不耐症による可能性があれば、経腸栄養剤の成分をチェックする。

浸透圧の高い経腸栄養剤は水分吸収のアンバランスで下痢を起こしやすいが、注入速度で調整可能。

最近の経腸栄養剤は常温保存でそのまま注入はきるが、加温する場合には60~70℃の湯で10分間温める。

細菌感染、特にクロストリジウム・ディフィシル(偽膜性腸炎)

脂肪吸収障害

半固形化栄養剤も下痢予防に有効。

食物繊維、グルタミン、GFO、ロペミン、リン酸コデイン、ラックB、ビオフェルミン、コロネル

・ 悪心・嘔吐

味や臭い(アミノ酸の不快な臭い) →フレーバー

胃からの排出遅延、消化管蠕動の低下、腸閉塞→吸引で確認、蠕動促進剤・緩下剤の投与

栄養剤の投与が速い →ゆっくり(50mh/hr以下でスタート)

乳糖不耐症 →栄養成分を変更

半固形化栄養

幽門後に変更

・ 便秘

脱水

宿便

薬剤(麻薬、制酸剤など)

神経機能低下→ 食物繊維、緩下剤、投与速度を速める

* 腸閉塞の合併に気をつける

* 半消化態栄養剤や成分栄養剤では、便量が少なくなることを便秘とすることがあるので要注意

4. 代謝性合併症

1) 高浸透圧性非ケトン性昏睡

診断基準:

著しい高血糖   血糖値≧600mg/dL

血漿浸透圧高値 浸透圧≧350mOsm/L

浸透圧(mOsm/L)=2(Na+K)(mEq/L)+血糖(mg/dL)/18+BUN(mg/dL)/2.8

高Na血症、BUN上昇、高度の脱水、意識障害

ケトン体の増加なし

pH>7.2、HCO3-≧12~15mEq/L

原因: 糖質の利用低下(糖質の過剰投与、ステロイド)と脱水(利尿剤など)、手術・外傷などのストレス、感染

症状: 傾眠傾向、尿量増加 → 数日間の多尿 → 突然の乏尿、意識混濁

治療: インスリンと十分な低張液輸液(0.45%食塩水、ハーフ生食)

鑑別診断:糖尿病性ケトン性昏睡 アセトン臭、重症糖尿病、血清・尿中ケトン体増加

2) Refeeding syndrome

大量の炭水化物を投与すると低リン血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症のような代謝障害をきたす。

極度の低栄養患者に、十分な馴化を行わずに大量の栄養負荷を行うと発生する。

マラスムスでは、遊離脂肪酸とケトン体をエネルギー源としていることも影響。

飢餓状態のようにエネルギー基質の外からの供給が不十分な状態では,体脂肪を分解して遊離脂肪酸とケトン体をエネルギー源とする代謝経路に生体が適応しています。そこに糖質が急激に入ってくることにより,インスリン分泌が刺激され,その結果KやMgが細胞内に取り込まれ,低K,Mg血症となり不整脈の原因となる。さらに糖質負荷によりATPが産生されるのに伴いPが消費されるため,低P血症となって貧血や痙攣,横紋筋融解が起こり呼吸機能低下を招く

3) 必須脂肪酸欠乏、ビタミン・微量元素欠乏、電解質異常、血糖以上、溢水、脱水