濃度をあらわす単位をまとめました。g/Lの表示は、輸液や栄養剤のラベルに1L中にどれくらいの物質が溶解しているか(栄養成分や電解質など)として使用されることが多いです。臨床的には製剤の呼称として、5%ブドウ糖などのように%で表示して使用することの方が多いので、簡単に説明すると%は100mlの溶液に溶解している物質の重量です。
mol/L、mEq/Lは電解質の濃度をあらわすもので、詳細について覚える必要はありません。投与するものがどれだけの濃度で、必要量や最大投与量と同じ単位で比較することができれば合格です。
浸透圧を構成する要素には、溶液という溶質(溶けている物質)+溶媒(物質を溶かしている液体)に半透膜という特殊な境界膜があります。半透膜とは、簡単にいうと水分(溶媒)だけが自由に出入りできる膜のことで、物質(溶質)は通さない「半分通す膜」です。上図のように、濃度に差のある同じ量の溶液を半透膜で仕切ると、濃度の薄い溶液から濃い溶液に水分が流れ込みその量だけ水面が上昇します。その状態で平衡になる(安定する)わけですが、このもちあがった溶液の重さが浸透圧に等しくなります。一般的に、濃度の濃い溶液が水分を引っ張る力を浸透圧と定義します。
下図のように、半透膜で境界されている二つの濃度の違う溶液があれば、互いの濃度が等しくなるように、濃度の濃い溶液に薄い溶液から水分が移動する力(圧力)を浸透圧と言います。同じ圧力は、濃度の濃い溶液の上昇した液面を元の高さに戻そうとする際に必要な圧力(水圧)とも等しいです。だんだん余計に分からなくなってしまうのが、浸透圧の説明です。とにかく、濃度の濃い溶液に流れ込む水圧と覚えておけば無難です。
スタ−リングの法則は、実際の毛細血管(毛細血管とは動脈と静脈の区別がつかないくらい細く小さな血管で、実際の組織内で動脈と静脈の連結にあたり上図のように水分などが組織との間で活発に出入りします)レベルでの浸透圧を示したものですが、血管内は浸透圧だけでなく血圧(これを静水圧といいます)も血管と周囲組織との間の水分の移動に影響があるということです。
ここで大切なのは、「体重のうち、体液60%、細胞内液40%、細胞外液20%、組織間液15%、血漿5%」の比率です。細胞の中には細胞内液があり、細胞外液の2倍の水分が含まれています。この境界が細胞膜で水分は自由に出入り可能で、電解質などの低分子物質の出入りも可能です。そして細胞外液では、血管の外にある組織間液は血管の中にある血漿の3倍比率となります。循環状態の表現でショックや腹膜炎、熱傷に用いる「サ−ドスペ−ス」というのはこの組織間液の貯留を意味します。この境界になる毛細血管壁は血球やアルブミンなどの高分子物質は通過せず、その他の低分子物質は自由に出入りします。これらは生体の機能を維持するために、密接に水分のやりとりを行っており、生体の恒常性維持(ホメオスタ−シス)と言います。
一般的に体重あたり10%の血液成分が常に循環していると言われていますが、ここで血液と血漿を間違えないようにしなければなりません。すなわち、血液とは血漿に赤血球や白血球などの血球細胞を加えたものを示します。したがって、50kgの体重の人間は5Lの血液が循環しており、そのうち半分の2.5Lが血漿なのです。これは例えば血液中のヘマトクリット値(血液中の赤血球濃度)の正常値が40〜50%くらいであることからも、血液の中では赤血球以外の50〜60%が血漿と推測されます。もちろん、赤血球以外にも白血球や血小板などのいろいろな成分がありますので、血漿濃度は50%くらいとなります。また、実際の救急の場では、実際に出血した量の約3倍量の等張液(ラクテックや生食など)を投与するル−ルがありますが、これは血管内だけでなく血管外(組織間液)にもしみだしていくためです。下の図を参照してください。
輸血は喪失血液量と同じ量でいいのですが、膠質液とよばれる血漿増量剤を使用しても同じ循環改善効果が得られます。ただし、赤血球や血漿蛋白の喪失に対する補充はできませんので、あくまでも循環と血圧維持の効果だけです。当院ではヘスパンダ−500ml(6%ヒドロキシエチルデンプン)と低分子デキストランL注500ml(10%デキストラン加乳酸リンゲル液)があります。どちらもほとんど同じ効果で、基本的には尿中に排泄されますが、組織残留傾向があるので腎障害などの可能性もあり、投与はなるべく緊急時のみとし、連続使用は5日間までとされています。
表1. 血漿増量剤
少し、マニアックな話になりますが、これも覚えておくと便利です。各体液区分で微妙に電解質の成分組成がことなります。例えば、インスリンを使用して血糖を下げると、同時に細胞内にカリウムを押しこんでしまい、低カリウム血症をきたすのは有名な話です。
出血や脱水など体液のなかで一番喪失しやすく、循環維持など生命に関わる緊急輸液が必要となるのは細胞外液であり、これらに用いられる輸液の特徴は電解質などが血漿とほぼ同じ成分であることと浸透圧が等しいことです。乳酸リンゲル液は循環不全の患者に大量に投与してもアシド−シス(体が酸性に傾く)にならないように開発された製剤です。
乳酸リンゲル液として、当院にはラクテックとラクテックGの2種類があります。ラクテックGはよく誤解されますが、5%のソルビト−ルというブドウ糖(G)とは異なる糖質が含まれた製剤であり、急速投与にて分解されずにほとんどが尿中に排泄される特徴から、栄養効果というより利尿効果を目的に使用されることが多いものです。臨床的にはよく間違って使用されることが多いので注意が必要です。逆に、ラクテックには一切栄養源(ブドウ糖など)は入っていませんので、長期間投与では必ず栄養不足となります。また、重症心不全、腎不全、肝不全には慎重な投与が必要とされており、特に乳酸が主に肝臓で代謝されるため、肝機能障害患者や肝臓手術には酢酸リンゲル液の方が推奨されています。ただし、臨床的には特に重篤な合併症は報告されておらず、通常の投与量なら問題ないと言われています。当院には肝臓にやさしい酢酸リンゲル液はありませんが、肝臓の手術などで大量に乳酸リンゲル液を投与する必要がある場合には注意を要すると思われます。また、カルシウムが含まれていますので、輸血との同時投与は禁忌ですので注意してください。最近、重炭酸リンゲル液も発売され、循環障害により体が酸性になるのを予防する点滴もあります。
人間の体液は一定の酸・塩基(アルカリ)のバランスで保たれる必要があります。上図のように 酸塩基のバランスの指標であるpH(ペーハ−)は7.35〜7.45の非常に狭い範囲が最適な状態であり、これを維持する(ホメオスタ−シス)ために、以下の作用があります。ちなみに、体が酸性をアシドーシス、塩基性(アルカリ性)なのをアルカローシスと呼びます。
また、体の中でバランスのくずれ具合を示す大事な指標としてBE(base excess、ベース・イクセス)があります。これは血液ガス分析にて測定できますが、簡単に言うとpH7.40からどれだけ体液のバランスがくずれているかを示す数値で、具体的には中和するための酸の量を表します。
重篤なショックや循環不全の場合には体はアシド−シスとなっているので塩基が多量に必要となり、BEは−10〜20mEq/L以上になります。臨床的には、アシドシ−シスの場合にはメイロンという重炭酸ナトリウム製剤(HCO3-)を投与します。アルカロ−シスの場合には、特効薬はありませんので、対症療法になります。
維持輸液という名前の由来は、血漿成分より電解質濃度が低く(低張電解質液)、浸透圧を等しくすることにより細胞内液も含めてまんべんなく体液の補充ができることと、栄養源として糖質(ブドウ糖など)を含有していることから1日に必要な輸液の必要充分条件を満たしているという意味です。すなわち、患者にとって必要な水分量を算定して、それにみあった量を投与すれば生体は維持できるということです。ただし、糖質の濃度は末梢投与を目的に作成されているため、濃度に限界があり糖質やアミノ酸を付加した製剤も開発されていますが、栄養基準からは長期間の使用には適しません。具体的には、健康成人には1日1500〜2000mlの維持輸液を腎機能に応じて投与すれば、体調は維持される計算になります。絶食の場合には、72時間以内は通常の維持輸液でもかまいませんが、それ以上の期間の使用には糖質やアミノ酸を加えた輸液が必要であり、14日間以上は高カロリ−輸液が必要とされています。
上図のごとく、維持液とは体液と浸透圧が等しい生理食塩水と5%ブドウ糖とを混ぜ合わせて、電解質の量、特にNa+、Cl-とK+の濃度を臨床利用にあわせて調節したものです。これらにさらにブドウ糖やアミノ酸を追加するのですが、投与濃度によって末梢血管では静脈炎などを合併するのでそれらを配慮して作られています。
ビーフリード: 上記アミノ酸加ブドウ糖液にビタミンB1(他のビタミンは含んでいないことに注意)を混合したダブルパック製材。糖質負荷によるビタミンB1欠乏を予防します。
PPN(Peripheral Parenteral Nutrition; 末梢静脈栄養法)
実施期間が2週間未満と短い場合に用いられる静脈栄養法であり、現在では末梢静脈(四肢の静脈、上肢では前腕静脈、下肢では下腿の表在静脈)からできる限り高濃度で、糖質、アミノ酸、脂肪乳剤、ビタミン、電解質、微量元素を総合的に投与することをPPNと呼ぶことが多い。臨床的にはブドウ糖液であれば10%、アミノ酸製剤で10~12%、アミノ酸加総合電解質液はブドウ糖7.5%+アミノ酸3%が浸透圧の関係から血管痛や末梢静脈炎発生の限界とされている。脂肪乳剤は浸透圧が血漿とほぼ等しいので併用すると浸透圧を下げることになるが、一般的には投与量は総投与カロリー量の20~30%以内とする。また、脂肪乳剤の至適投与速度は0.08~0.15g / kg / 時間とされ、レシチンによる副作用を防止するため20%製剤を用いることが推奨され、20%脂肪乳剤100mlの場合には体重50kgの患者で最大37.5ml / 時間(2時間40分)の投与となることに注意が必要である。PPNとして20%脂肪乳剤を併用することで、1日当たり1000~1200kcalの栄養補給が可能である。最近では、ビタミンB1欠乏を予防するためのビタミンB1配合製剤や安全のために隔壁開通のセーフガードのついたアミノ酸加総合電解質液製剤も発売されている(表)。これらのビタミンB1加総合電解質液は、低栄養患者への対応を考慮して細胞内電解質と呼ばれるCa、Mg、 Pなどが含まれており、微量元素として体内での補酵素として重要であるZn(亜鉛)も配合されているが、あくまでも短期間の栄養補給を前提とした製剤であり、長期間使用においては総合ビタミン剤やZn以外の微量元素の併用が必要である。
* ココでちょっと一息
約46億年前、地球最初の生命体は、古代の海の中で誕生しました。やがて、海から陸へ上がり、人間へと進化していきました。私たちの体液が、イオンを含んだ海水に似ているのは、その名残なのです。私たちのからだは、”内なる海”を持っている、といえるのです。 体内の水分が3%失われると、強いノドの渇き・ぼんやり・食欲不振などの症状がおこり、4〜5%になると、疲労感や頭痛・めまいなどの脱水症状があらわれます。そして、10%以上になると、死にいたることもあるのです。むかしは、”運動中には、水分を摂ってはいけない”と、いわれていましたが、水分補給の重要性が認識されるようになり、現在では、スポーツ中の積極的な水分補給が、広くすすめられています。体液量を回復・保持するためには、失われた体液の成分に近いものを飲むのが理想的です。ちなみに多くのスポーツ飲料は水分補給を主としているために、体液の成分よりやや薄めに調整してあります(Na+21mEq/L、5分の一維持液、4号液)。最近では脱水改善用の経口補水液として3分の一維持液、3号液のNa+50mEq/lのものも発売されました(大塚製薬、OS-1)。
I-6. 水分必要量と輸液速度
図11. 経口摂取患者の水分バランス
1日の水分バランスには、摂取される水分以外に代謝水といって体内での化学反応にてできる水分が約300mlあります。基本的には投与エネルギ−源の内容や全身状態によって微妙に異なります。また、喪失する水分としては尿量以外に糞便中の水分が約100mlとされていますが、水様下痢などでは1l以上に達することもあります。不感蒸泄とはいろいろな表現で使用されていますが、本来の意味は「本人が感じない水分の蒸発で、通常の生活をして呼吸をしているだけでも発散する水分のこと」です。一般的には汗はカウントしないことになっていますが、欧米のガイドラインでは汗の量のカウントは物理的に困難なことから、本来の不感蒸泄は1日約400mlで、発汗によりさらに400〜600mlとしています。すなわち、1日800〜1000mlとなります。
これらの簡便なカウント法として、1日の必要カロリ−の4分の1のカロリ−分が水分発散となると言われており、例えば必要カロリ−2000kcal/日なら500kcal分のブドウ糖が水分を発散するので1kcalあたり1.7mlの水分発散があるとして850mlの発汗と不感蒸泄となるわけです。また、体温1℃上昇に応じて13%不感蒸泄と発汗は上昇するといわれています。ここまでは「おたく」の世界です。しかし、病院内では手術室やICUの勤務のスタッフは常に室温が高めになっていますので、汗をかいていなくても脱水に注意しましょう。
図12. 輸液患者の水分バランス
必要輸液量 X (ml) = 予測尿量 Y (ml) + 600ml
絶飲食患者で正常の場合には、前図のように簡便な計算式として尿量+600mlが1日の輸液量の目安となります。しかし、下図のように発汗の量や下痢、嘔吐、さらにはドレ−ン排液を喪失体液としてカウントして補充輸液を加えたものが総輸液量となるのです。
図13. イレウス患者の水分バランス
必要輸液量(ml)=尿量1100ml+喪失量1000ml
+600ml = 2700ml
表5. 喪失液の電解質組成
mEq/L |
Na+ |
K+ |
Cl– |
HCO3– |
胃液 |
40-60 |
10 |
100-140 |
|
膵液 |
135-155 |
5 |
55-75 |
70-90 |
胆汁 |
135-155 |
5 |
80-110 |
35-50 |
回腸液 |
120-130 |
10 |
50-60 |
50-70 |
水様下痢 |
25-50 |
35-60 |
20-40 |
30-45 |
回腸液を1000ml排出しているので、水分だけでなく上記の緑部分の電解質の補充が必要となります。
今までこの文章を読まれてきて一番大切なのは、輸液というのは1日必要量をしっかり設定して、それを24時間に配分して投与することなのです。予定外の喪失があれば内容を充分検討して喪失した水分と電解質をその都度補充するのです!!!一般の臨床でよく遭遇する場面、「点滴の投与速度はいくらですか?」「とりあえず40パワ−(ml/ hour、時間当たり)でいっといて」、「おしっこの量が少な目なんですけど」「それでは80パワ−にアップして」または「ラクテック一本いっといて」という会話ではダメなのです。
以下に点滴投与速度の目安を示します。ブドウ糖については一般的には0.5g/kg/時間以上の速度にならないように指導されていますので、例えば50kgの体重の糖尿病のない患者では、ソリタT3や5%ブドウ糖は1時間、ソリタT3Gは1.5時間、フィジオゾ−ルで2時間の投与速度が最高です。
輸液の最大投与速度
|
輸液 |
500 ml/時間 |
|
Na+ |
100 mEq/時間 |
|
HCO3– |
100 mEq/時間 |
|
K+ |
20 mEq/時間 |
|
Ca2+ |
20 mEq/時間 |
|
Mg+ |
20 mEq/時間 |
当院の輸液製剤500mlの最大投与速度(体重50kgの場合)
*緊急時を除く
|
生理食塩水、ラクテック、ラクテックG |
1時間 |
|
ソリタT1、ソリタT3、ソリタT4、5%ブドウ糖 |
1時間 |
|
ソリタT3G |
1.5時間 |
|
フィジオゾール3号 |
2時間 |
|
アミノフリード |
2時間 |
Ⅰ-7. 静脈栄養法の実際
・ 細径中間長の静脈カテーテル(ミッドラインカテーテルやPIカテーテルなど)の使用は、6日間以上の末梢静脈栄養で推奨される。
・ 中心静脈栄養では鎖骨下静脈経路を第一選択とし、大腿静脈経路は避ける。
・ 超音波ガイド下穿刺による中心静脈カテーテルの挿入は安全性を向上させる。
・ 長期間の中心静脈栄養では皮下トンネルの作成や埋めこみ型ポートの使用が推奨される。
・ 輸液剤の体液分布は、輸液剤のNa濃度によって決定される。
・ 末梢静脈栄養剤には7.5~12.5%糖質電解質液、アミノ酸加総合電解質液、脂肪乳剤、高濃度アミノ酸製剤がある。
・ 中心静脈栄養剤には高カロリー輸液用基本液、キット製剤、高濃度アミノ酸製剤、脂肪乳剤、総合ビタミン剤、微量元素製剤がある。
・ 微量元素製剤にはコバルト、クロム、セレン、モリブデンが含有されておらず、長期の中心静脈栄養管理ではこれらの欠乏症に注意する。
・ 病態別輸液栄養剤には腎不全用と肝不全用がある。
・ 末梢静脈カテーテルは、針刺し防止機構がついた製品が多く使われる。
・ 中心静脈カテーテルは、使用目的、留置期間を考慮して選択する。
・ PICCは挿入時の合併症発生のリスクが低く、穿刺時の患者の不安を軽減できるという大きな利点がある。
・ 輸液ラインの接続方法としては、自然にはずれることがないようルアーロック型を用いる方がよい。
・ 輸液がクリーンベンチで無菌的に調製されていない場合には、インラインフィルターを用いる。
・ 輸液ポンプにはさまざまな機能があるため、その使用方法を熟知しなければならない。
・ TPN輸液による高血糖を避けるために、低濃度グルコース含有製剤から投与を始める。
・ メイラード反応はアミノ基とカルボニル基との反応で、褐色のメラノイジンが生成される。
・ アミノ酸輸液は基本的に必須アミノ酸および非必須アミノ酸を含有している。
・ 市販脂肪乳剤の多くは大豆油を原料としたLCTを脂肪源とし、卵黄リン脂質を乳化剤としている。
・ 滴定酸度は、生体の酸塩基反応に影響を及ぼす酸の量であり、多くのTPN輸液製剤のその値は大きい。
・ CRBSI(cathter related bood stream infection:カテーテル関連血流感染)は医原性疾患であることを認識して徹底的な無菌管理で予防しなければならない。
・ ガイドラインに準拠した感染対策を各施設で講じる必要がある。
・ 栄養療法選択の大原則、腸管が使用可能な場合は経腸栄養を選択するという考え方がCRBSI予防の大原則である。
・ ニードルレスシステムは、不適切な使用によってCRBSIを増加させるリスクがあることを理解しておく。
・ ドレッシング交換、輸液ラインの交換は週1~2回、曜日を決めて定期的に実施する。
・ 真菌によりCRBSIでは真菌性眼内炎を併発している可能性があるので必ず眼科的診察を行う。
1. 末梢静脈栄養法(Peripheral parenteral nutrition:PPN)
・ 実施期間が2週間未満と短い場合に用いられる静脈栄養法であり、現在では末梢静脈(四肢の静脈、上肢では前腕静脈、下肢では下腿の表在静脈)からできる限り高濃度で、糖質、アミノ酸、脂肪乳剤、ビタミン、電解質、微量元素を総合的に投与すること(800~1200kcal/日)をPPNと呼ぶことが多い。
・ PPNには、主に前腕の橈側、尺側静脈を用いるが、他に正中皮静脈、手背静脈、頸部の外頚静脈などが使われる。下肢では、大小伏在静脈、足背静脈を用いるが、血栓形成をきたしやすいのでなるべく避ける。
・ 高カロリー輸液に用いられるPIカテーテルまたはミッドラインカテーテルを橈側皮静脈から静止して中枢側15cmで先端を上腕にとどめることもある。この場合は6日間以上のPPNが必要な場合に選択される。
* ミッドラインカテーテルの管理
ミッドラインカテーテルの留置は厳格な無菌下に行う。
予定交換は行わず、血栓性静脈炎やカテーテル感染の徴候が認められるときのみ交換する。
感染発生率は0.08%/日、留置期間の中央値は7日間(最長49日間)
輸液ラインの交換は中心静脈栄養管理に準じる。
・ 血栓性静脈炎の予防には、無菌下穿刺手技、静脈径の1/3以下の細径カテーテルの使用、ポリウレタンまたはシリコンカテーテルの使用、脂肪乳剤(等浸透圧)やpH5~9の輸液剤の使用が有効。
・ 臨床的にはブドウ糖液であれば10%、アミノ酸製剤で10~12%、アミノ酸加総合電解質液はブドウ糖7.5%+アミノ酸3%が浸透圧の関係から血管痛や末梢静脈炎発生の限界とされている(浸透圧900mOsm/kg)。浸透圧の上昇とともに血管痛や静脈炎の発生率は高くなる。静脈炎の予防として、輸液を冷たくせず、緩徐に投与する。
・ アミノ酸輸液製剤は、ヒスチジン以外の必須アミノ酸と非必須アミノ酸が1:1の比率で配合されている。
・ グルタミンは、水に溶けにくく、熱および光で分解してアンモニアを発生するのでアミノ酸輸液製剤には含有されない。
・ アミノ酸と還元糖の反応にて精製されたアミノレダクトンが酸化・変性してメラノイジン(褐色沈殿物)になることをメイラード反応と呼ぶ。メイラード反応に手生成される物質は、動脈硬化を促進したり、活性酸素を発生させ人体にも有害である。空気中の酸素、過酸化水素水やビタミン剤に含まれる酸化剤などと反応して、システィンやトリプトファンなどのアミノ酸がする酸化反応とは異なる。
・ 脂肪乳剤は主な組成は大豆油と卵黄レシチンでn-6系多価不飽和脂肪酸が大部分である。脂肪乳剤は浸透圧が血漿とほぼ等しいので併用すると浸透圧を下げることになるが、一般的には投与量は総投与カロリー量の20~30%以内とする。また、脂肪乳剤の至適投与速度は0.1g / kg / 時間とされ、レシチンによる副作用を防止するため20%製剤を用いることが推奨され、20%脂肪乳剤100mlの場合には体重50kgの患者で最大37.5ml / 時間(2時間40分)の投与となる。必須脂肪酸の補給と効率のよいエネルギー源として投与される。
・ 脂肪乳剤の使用による輸液チューブからの可塑剤DEHP(フタル酸ジ-2エチルヘキシル)が溶出すると、精巣毒性を有するので注意が必要。
・ PPNとして20%脂肪乳剤を併用することで、1日当たり1000~1200kcalの栄養補給が可能である。
・ ビタミンB1欠乏を予防するためのビタミンB1配合製剤や安全のために隔壁開通のセーフガードのついたアミノ酸加総合電解質液製剤も発売されている。これらのビタミンB1加総合電解質液は、低栄養患者への対応を考慮して細胞内電解質と呼ばれるCa、Mg、Pなどが含まれており、微量元素として体内での補酵素として重要であるZn(亜鉛)も配合されているが、あくまでも短期間の栄養補給を前提とした製剤であり、長期間使用においては総合ビタミン剤やZn以外の微量元素の併用が必要である。
・ ビタミンB1は点滴中に含まれる亜硫酸塩にて分解されるので、欠乏しやすい。
・ 滴定酸度とは、輸液製剤に添加されている生体の酸・塩基反応に影響を及ぼす酸の量を表し、必ずしも輸液製剤のpHとは相関しない。注射剤の混注において、配合変化などにも影響する。
<末梢静脈カテーテルの衛生管理>カテーテル血流関連感染ガイドラインより引用
2.1.1上肢の静脈を使用する方が良い。(IIIB)
2.2.1カテーテルは、静脈炎予防のためには、可能な限り細径のものを使用する方が良い。(IIIB)
2.3.1静脈炎のリスクを減らすため、末梢静脈カテーテルは96 時間以上留置しない方が良い。(IIIB)
2.4.1末梢静脈カテーテルの輸液ラインは、カテーテル入れ替え時に交換する方が良い。(IIIB)
2.5.1カテーテルロックを実施する場合は、作り置きしたヘパリン生理食塩水は使用しない。(IIIA)
2.6.1静脈炎の徴候(発赤、腫脹、疼痛)がある場合は、カテーテルを抜去する。(IIIA)
27.1静脈炎予防のためのステロイド剤、ヘパリン、血管拡張剤は、使用しない方が良い。(IIB)
2.8.1カテーテル刺入部は滅菌のドレッシングで被覆し、カテーテル入れ換え時に交換する方が良い。(IIIB)
2.9.1アミノ酸加糖電解質製剤を投与する場合は側注を避けるなどの厳密な衛生管理下においてのみ使用する。(IIIA)
2. 中心静脈栄養法(Total parenteral nutrition:TPN)
・ TPN(完全静脈栄養)は、中心静脈内に留置されたカテーテル(CVC)を介して高濃度、高浸透圧の輸液剤を投与することではじめて可能となる。消化管の使用できない2週間以上の長期間にわたっての栄養管理、または重症患者における集中治療時に行われる。
・ 上腕の肘部の橈側または尺側皮静脈からカテーテルを上大静脈内に留置するPICC(peripherally-inserted central catheter)は、合併症が少なく安全な方法である。
・ 中心静脈経路の選択順は、鎖骨下(右>左)、内頸、上腕、腋窩、大腿静脈である。
・ 内頸静脈は鎖骨下静脈より感染率が高いが、なるべく頸部の下位からアプローチする方が感染が少ない。
・ 超音波ガイド下穿刺の方が、合併症の発生が少なく、穿刺の成功率が高い。
・ 気胸の合併は穿刺後12時間でもはっきりしない場合があるので、慎重に対応する。
・ 糖質の濃度は15~36%まであり、これらに約3%のアミノ酸を配合した高カロリー輸液キットがある。
・ 糖濃度は低濃度糖質含有製剤から始めて徐々にあげていくが、5mg/kg/分(50kgで15g/時間)を超えないように注意する。臨床的には4ml/kg/分がベター。
・ 高血糖は好中球機能の低下や補体系にも影響して免疫能の低下をもたらすので、感染性合併症やCRBSIのリスクファクターとなるので、血糖値を適正に保つ。特に、ハイリスク症例には血糖100~200mg/dLに保つ。
・ 糖質過剰投与に伴う高炭酸ガス血症に注意する。
・ アミノ酸はTEO基準として、BCAAを約30%含有し、必須アミノ酸/非必須アミノ酸比(EAA/NEAA)を1.4が多い。
・ NPC/N比を150~200に保つが、侵襲時には低く、腎不全などのタンパク質制限時には高くなる。
・ 高齢者や腎機能低下時にアミノ酸を過剰投与すると、アシドーシスの原因となる。
・ 脂肪乳剤の投与の目的は、必須脂肪酸欠乏の予防、エネルギー高率の高い栄養素、静脈炎発生の抑制がある。
・ 脂肪乳剤の投与速度は、0.1g/kg/hrを遵守する。
・ 脂肪乳剤は、インラインフィルターを通過しないため、必須脂肪酸欠乏の予防として末梢静脈から投与する。
・ 脂肪乳剤は脂肪肝を発生させるというよりは、糖質の過剰投与による脂肪肝や膵手術後の膵ホルモンの不均衡による脂肪肝に対して逆に改善効果がある。脂肪乳剤は免疫低下や急性感染症時、急性肝障害・肝不全、急性膵炎には禁忌。さらに、高脂血症、脂肪塞栓、血液凝固障害、溶血、肝機能障害に気をつけて投与する必要がある。
・ 必須脂肪酸欠乏とは、絶食患者では2週間脂肪乳剤の投与がなければ、体内で合成されない必須脂肪酸が欠乏します。その症状としては、皮膚の硬化、肥厚や落屑(カサカサ)、脱毛、成長傷害、創傷治癒傷害、貧血、血小板減少などがあり、注意を要する。
・ 高カロリー輸液基本液と脂肪乳剤の配合により油滴分離あるいは脂肪粒子の粗大化などの死亡の形態変化を惹起し、網内系の機能低下や肺塞栓を起こす可能性が指摘されている。
・ 水溶性ビタミンの半減期は1週間以内であるため、欠乏症に注意する。これに対して、脂溶性ビタミンは半減期が長いために過剰症に注意。
・ 高カロリー輸液キット製剤は、配合されている水溶性・脂溶性ビタミンは2パック投与することで1日必要量が充足されるため、1パック投与では不足する。
・ 乳酸アシドーシスを予防するためのビタミンB1はもちろんのこと、水溶性、脂溶性ビタミンも必ず補給する。
・ 抗酸化剤としての亜硫酸塩によるビタミンB1の分解に気をつける。
・ 微量元素と総合ビタミン剤を混合すると、水酸化第二鉄や水酸化第二銅が沈殿することがある。
・ 栄養療法施行中は、胆汁うっ滞や脂肪肝の発生に気をつけて、定期的に肝機能をモニタリングする。
・ 栄養療法施行中は水分・電解質バランス、酸塩基平衡に注意する。
・ 栄養障害が高度な患者ではrefeeding syndrome(急速過剰栄養に伴う合併症)発生のリスクが高いので、栄養療法開始時には血清中のリン、マグネシウム、カリウムおよび血糖値を厳密にモニタリングする。
・ 多くのキットには、亜鉛は含まれているが、必ず微量元素製剤も使用する。特に、これらに含まれないコバルト、クロム、セレン、モリブデンの欠乏にも気をつける。
・ 腎不全用高カロリー輸液(ハイカリックRF)は糖質濃度が50%と高く、電解質濃度は最小限でカリウム、リンを含まない。また、アミノ酸製剤では、BCAAの配合比率40%で、EAA/NEAA=3と高い。アルギニンも少なく設定されている。
・ 肝不全用アミノ酸製剤はBCAAの配合比とFischer比が高く設定されているが、クロール濃度がナトリウム濃度に比較して高いものもあり、アシドーシスに気をつける。
<中心静脈挿入アプローチ>
鎖骨下静脈アプローチ:カテーテル感染症の合併が少なく、固定が容易。首の稼働制限が少ない。気胸やカテーテルの迷入、位置異常が多い。
内頚静脈アプローチ:気胸の合併が少ない。固定、長期留置が困難。動脈穿刺や感染の合併が鎖骨下に比較して多い。
大腿静脈アプローチ:カテーテル感染症が多く、深部静脈血栓症のリスクがある。
PICC(Peripheral-inserted central catheter):橈側または尺側皮静脈から上大静脈内にカテーテルを留置する方法で、最近ではエコー下に上腕静脈から留置することも可能。閉塞や血栓形成が多い。
* 鎖骨下、内頚静脈穿刺にあたっては、軽い頭低位にすることにより、静脈を虚脱させない。
鎖骨下穿刺にあたっては、肩枕を行うことで鎖骨と第一肋骨の間が開き、成功率がアップする。
<中心静脈カテーテル(CVC挿入に伴う合併症>
気胸、動脈穿刺、血胸、皮下血腫・気腫、空気塞栓、不整脈、位置異常
神経損傷、静脈血栓、胸管損傷、リンパ管損傷、気管損傷、大血管損傷、縦郭・胸腔内注入
<材質>
シリコン製:やわらかい、抗血栓性に優れる、傷つきやすい、長期留置用に用いられる
ポリウレタン製:適度に硬いが、体温によりやわらかくなる、抗血栓性に優れる、短期間留置用に用いられる
特殊コーティング:ウロキナーゼ、ヘパリン、抗菌薬コーティング(日本にはない)など
<挿入方法>
direct puncture法:穿刺する針が太く、血管穿刺部の損傷が大きい。
Seldinger法:穿刺針が細く、血管損傷が少ない。特にさらに細いガイドワイヤーを用いる方法(micro-introducer法)もある。
<マルチルーメン>
感染をきたしやすく、使用するカテーテルの内腔数は必要最小限となるようにし、使用目的によって選択する。
<長期留置用カテーテル>
Broviac-Hickman(ブロビアック、ヒックマン)カテーテル:線維性癒着により皮下で固定されるダクロンカフが付いている。
ブロビアックカテーテルの方が細径で小児用。
埋め込み式カテーテル(ポート):逆流予防のグローションカテーテルは、ヘパリンロックが不要。
<高度バリアプリコーション>
滅菌ガウン、滅菌手袋、帽子、マスク、大きな滅菌ドレープ、手洗い
<カテーテル先端位置の確認>
カテーテルは上大静脈内で心嚢外に留置されるべき(X線上、気管分岐部の高さ)
<高カロリー輸液施行のガイドライン(成人)(ASPEN、1986)
1. 日常治療の一部として行う場合
1) 消化管からの栄養素吸収能がない場合
a) 小腸広範囲切除患者
b) 小腸疾患(全身性エリテマトーデス、スプルー、慢性特発性仮性腸閉塞症、クローン病、多発性小腸瘻、小腸潰瘍)
c) 放射線腸炎
d) 重症下痢
e) 重症で長期間続く嘔吐
2) 化学療法(高容量)、放射線療法、骨髄移植
3) 中等度~重症膵炎 * 近年、積極的に経腸栄養を推奨する
4) 消化管機能の障害を目前にひかえている高度栄養障害患者
5) 消化管が5~7日間以上機能しないと思われる高度異化期患者(敗血症、拡大手術、50%以上の熱傷、多臓器不全、重症炎症性腸疾患)
2. 通常、役に立つことが期待できる場合
1) 大手術:大腸全摘、食道癌手術、膵頭十二指腸切除、骨盤内臓全摘、腹部大動脈瘤など
2) 中等度侵襲:中等度の外傷、30~50%熱傷、中等度膵炎
3) 消化管瘻
4) 炎症性腸疾患
5) 妊娠悪阻
6) 集中的治療を必要とする中等度栄養障害患者
7) 5~7日間に十分なENを行うことが不可能な患者
8) 炎症による小腸閉塞
9) 集中的化学療法を受けている患者
3. 十分な価値が認められていない場合
1) 消化管を10日間以内に使用可能で軽度の侵襲や外傷を受けた栄養状態良好な患者
2) 7~10日間以内に消化管が使用できるかもしれない患者の手術、侵襲直後
3) 治療不可能な状態にある患者
4. 施行すべきでない場合
1) 十分な消化吸収能をもった患者
2) 高カロリー輸液が5日以内にとどまる場合
3) 緊急手術が迫っている患者
4) 患者、あるいは法的保護者が強力な栄養療法を希望していない場合
5) 強力な化学療法を行っても予後が保障されない場合
6) 高カロリー輸液の危険性が効果を上回る場合
・ 末梢静脈栄養法(PPN)は静脈栄養の実施予定期間が短期間(2週間以内)の場合に用いられる。
最大1200kcal/日くらいまで、投与可能。
浸透圧などに関連した疼痛、血栓性静脈炎に対する予防が重要。
・ 中心静脈栄養法は静脈栄養の実施期間の長期化(2週間超)が予想される場合に用いられる。
中心静脈ルート造設には、TPN以外にも中心静脈圧のモニタリング、末梢静脈ルートからの投与が危険な薬剤の使用に対して用いられる。
中心静脈ルート造設の合併症、特に感染症(カテーテル関連血流感染症:catheter-related blood stream infection:CRBSI)に気をつける。
<CVC感染管理のまとめ>カテーテル関連血流感染ガイドラインより引用
1 中心静脈カテーテルの衛生管理
1.1 中心静脈栄養法(total parenteral nutrition: TPN)の適応
1.1.1栄養療法が必要な場合は可能な限り経腸栄養を用いる。(IIA)
1.1.2静脈栄養は経腸栄養または経口摂取が不可能または不十分な場合に用いる。(IIIA)
1.1.3中心静脈栄養法は静脈栄養の長期化が予測される場合に用いる。(IIIA)
1.2 中心静脈カテーテル選択の基準
1.2.1必要最小限の内腔数のカテーテルを選択する。(IA)
1.2.2長期使用が予想される患者では、長期留置用のカテーテルを選択する。(IIA)
1.3 カテーテル挿入部位
1.3.1感染防止のためにはカテーテル挿入は鎖骨下静脈穿刺を第一選択とする。(IIA)
1.4 皮下トンネルの作成
1.4.1短期間の留置では、皮下トンネルを作成する必要はない。(IA)
1.5 定期的に入れ換え
1.5.1定期的にカテーテルを入れ換える必要はない。(IIA)
1.6 高度バリアプレコーション
1.6.1中心静脈カテーテル挿入時は高度バリアプレコーション(清潔手袋、長い袖の滅菌ガウン、マスク、帽子と大きな清潔覆布)を行う。(IA)
1.7 抗菌薬の予防投与
1.7.1中心静脈カテーテル挿入に伴う抗菌薬の予防投与は行わない。(IIA)
1.8 カテーテル挿入時の皮膚の消毒薬
1.8.1カテーテル挿入時の消毒には、0.5%クロルヘキシジンアルコールまたは10%ポビドンヨードを用いる。(IA)
1.9 カテーテル留置期間中の皮膚の消毒薬
1.9.1カテーテル挿入部皮膚の処置で用いる消毒薬としては、0.5%クロルヘキシジンアルコールまたは10%ポビドンヨードを用いる。(IIA)
1.10挿入部位の剃毛
1.10.1穿刺に先立って局所の剃毛はしない。除毛が必要であれば、医療用電気クリッパーなどを用いる。(IA)
1.11カテーテル挿入部の抗菌薬含有軟膏やポビドンヨードゲルの塗布
1.11.1抗菌薬含有軟膏を使用しない。(IIA)
1.11.2ポビドンヨードゲルを使用しない。(IIA)
1.12カテーテル挿入部の観察
1.12.1カテーテル挿入部の発赤、圧痛、汚染、ドレッシングの剥がれなどを毎日観察する方が良い。(IIIB)
1.13ドレッシング
1.13.1滅菌されたパッド型ドレッシングまたはフィルム型ドレッシングを使用する。(IA)
1.14ドレッシング交換の頻度
1.14.1ドレッシング交換は週1 ~ 2 回、曜日を決めて定期的に行う。(IIIA)
1.15一体型輸液ラインの使用
1.15.1一体型輸液ラインを用いる方が良い。(IIIB)
1.16ニードルレスシステム
1.16.1 ニードルレスシステムの感染防止効果は明らかでないことを理解して使用を決める。
1.17三方活栓
1.17.1三方活栓は手術室やICU以外では、輸液ラインに組み込まない。(IIA)
1.17.2三方活栓から側注する場合の活栓口の消毒には、消毒用エタノールを使用する。(IIA)
1.18輸液ラインの管理
1.18.1輸液ラインとカテーテルの接続部の消毒には消毒用エタノールを用いる。(IIA)
1.18.2輸液ラインは曜日を決めて週1 ~ 2 回定期的に交換する。(IIB)
1.19脂肪乳剤の投与に使用する輸液ラインの交換頻度
1.19.1脂肪乳剤の投与に使用する輸液ラインは、24 時間以内に交換する。(IIIA)
1.20インラインフィルター
1.20.1インラインフィルターを使用する。(IIIA)
1.21カテーテルロック
1.21.1作り置きしたヘパリン生理食塩水によるカテーテルロックは行わない。(IVA)
1.22輸液・薬剤とその調製法
1.22.1高カロリー輸液製剤の調製に関する基本的考え方
1.22.1.1高カロリー輸液製剤への薬剤の混合は、可能な限り薬剤師の管理下に無菌環境下で行う。(IIIA)
1.22.1.2高カロリー輸液を投与するにあたっては、薬剤の数量および回路の接続数を最少化する。(IIIA)
1.23高カロリー輸液基本薬・輸液剤の選択および使用
1.23.1基本原則
1.23.1.1糖電解質液とアミノ酸製剤を混合する場合は、高カロリー輸液用キット製剤を使用する方が良い(IIIB)
1.23.1.2スリーインワンバッグ製剤(アミノ酸、糖質、脂肪が一つのバッグに入っているもの)では細菌が混入すると急速に増殖する。また、フィルターが使用できないため、微量元素製剤と高カロリー輸液用総合ビタミン剤以外は混注しない。(IIIA)
1.23.1.3スリーインワンバッグ製剤では完全閉鎖ルートとし、その製剤の輸液ルートからの側注は禁止する。(IIIA)
1.23.1.4脂肪乳剤を含んだ製剤は、三方活栓にひび割れを生じさせることがあるので、接続部での液漏れや汚染を監視する。(IIA)
1.23.2高カロリー輸液基本液への薬剤の添加
1.23.2.1高カロリー輸液にアルブミン製剤を加えない。(IIA)
1.23.2.2高カロリー輸液に脂肪乳剤を加えない。(IIIB)
1.23.3調製後の保存方法
1.23.3.1高カロリー輸液製剤は、混合時間を含め28 時間以内に投与が完了するように計画する。(IIIA)
1.23.3.2高カロリー輸液製剤を保存する必要がある場合には無菌環境下で調製し、冷蔵庫保存をする。(IIIA)
1.24カテーテル関連血流感染
1.24.1カテーテル関連血流感染が疑われる場合の対処
1.24.1.1カテーテル関連血流感染が疑われる場合は血液培養を行う(IIIA)
1.24.1.2他に感染源が考えられない場合にはカテーテルを抜去する。(IIIA)
1.24.1.3カテーテル抜去時には、血液培養とともにカテーテルの先端培養を行う。(IIIA)
1.24.1.4真菌が原因である場合には、真菌性眼内炎に留意して眼科的診察を行う。(IIIA)
1.24.2教育およびサーベイランスの役割
1.24.2.1カテーテル関連血流感染防止に関する標準化された教育・研修を実施する方が良い。(IIIB)
1.24.2.2全国的なサーベイランスを参考にし、自施設のカテーテル関連血流感染防止能力を客観的に評価する方が良い。(IIIB)
1.25 システムとしてのカテーテル管理
1.25.1中心静脈カテーテルのチームによる管理
1.25.1.1専門チームによるカテーテル管理を行う方が良い。(IIB)
1.25.1.2 ICU では看護師- 患者比を適正に保つ方が良い。(IIB)__
* CVCの入れ替えは、挿入部に感染がない限り、ガイドワイヤーを用いて入れ替える方がよい。
・ 針刺し事故防止
リキャップをしない
針捨て専用廃棄箱を持参する
針を廃棄箱内以外に置かない
針をもったまま他の行為をしない
針先を穿刺部以外に向けない
廃棄箱を満杯にしない
針刺し事故防止対策製品を使う
<ドレッシング材>
刺入部の感染防御目的
通気性良く、低刺激性のものが良い
刺入部の観察が可能な透明なフィルムタイプが推奨
週に1回交換
交換の際に固定具合や刺入部の異常の有無を確認する
* CVC皮膚挿入部に抗菌薬やポビドンヨードを塗布する方法は、現在ほとんど行われていない。
<輸液ライン>
導入針、点滴筒(ドリップチャンバー)、連結管、クランプ、タコ管、通気針、定量筒、三方活栓、エクステンションチューブ
感染予防の閉鎖式システム、シュアプラグ(三方活栓不要)
輸液ポンプ、シリンジポンプ
<TPN輸液インラインフィルター>
一体型に組み込まれたものが、接続での感染機会が少なく、はずれることもない
ガラス片、異物、沈殿物をトラップする(微生物除去には、0.22μm)
カテーテル感染を減らすエビデンスはない
通常孔径のフィルターは脂肪乳剤や血液製剤などは目詰まりする
* TPNは、輸液がクリーンベンチ内で無菌的に調製されいない限りフィルターを使用すべき。
・ カテーテル関連血流感染症(CRSBI)
TPN(CVC留置)施行中に発熱(38℃以上3日間)、白血球数増加、核の左方移動、耐糖能の低下、その他感染症を疑わしめる症状があって、CVC抜去によって48時間以内に解熱、その他の臨床所見の改善を見た場合と定義
培養結果が陰性であっても可、陽性であっても抜去後解熱しなかったものは不可。
参考:解剖と生理
<上部消化管>
1. 口腔
・ 口腔では食物の情報を収集しつつ、咀嚼と唾液混合によって食物塊の形成が行われる。
* 食物からの情報収集、咀嚼、嚥下の準備
・ 口腔内(舌も含む)の知覚は、前方を三叉神経、後方は舌咽神経と迷走神経がつかさどる。舌の味覚は味蕾を通じて、顔面神経が中枢に伝達する。
* 口腔内は主に三叉神経、咽頭は主に舌咽神経、喉頭は主に迷走神経とザックリ覚える!
・ 咽頭まで嚥下は意識下に行われる。
・ 唾液腺
耳下腺:漿液性でアミラーゼ(糖分分解)を多く含む
舌下腺:ムチンを多く含む粘液性の舌下腺
顎下腺:上記二つの中間
・ 唾液は1日約1000ml、耳下腺25%、顎下腺70%、舌下腺5%。唾液の生理機能は消化、細菌からの防御および口腔、食道を滑らかにすることで、αアミラーゼ、リパーゼを含む。
* s-IgA(secretary IgA)は唾液などの分泌液に含まれる免疫グロブリンで免疫機能を発揮する。
・ 歯は、第三大臼歯(親知らず、智歯)4本を含めて計32本で、13歳までに生えそろう。* 歯は(しわ)32と覚える!
・ 口腔内の常在菌は、1gあたり100億から1000億の菌がいる(直腸内と同じ)。
2. 咽頭
・ 咽頭は気道と食道との分岐点として重要な機能を持つ。
・ 嚥下運動: 反射的協調的嚥下運動
①先行期:食物を口に入れる前に、食物を認知し、何をどのくらい食べるかを決定する段階。
障害例:拒食、たくさん口の中に入れる
②準備期:口腔内に食物が取り入れられ、咀嚼されて嚥下しやすいように食塊が形成される段階。
障害例:うまくかめない、口からこぼれる
③口腔期:食塊を口腔から咽頭へと送る段階(随意運動)。
障害例:食べ物が口の中にずっと残る
第1相(口腔・咽頭相): 随意運動で食物は口腔から咽頭へおしやられる。
④咽頭期:咽頭から食道に食塊を送る反射運動の段階(延髄)。
障害例:誤嚥してむせる、呼吸がかわる
第2相(咽頭・食道期):咽頭筋が収集駆使、食道の入り口(UES)が開き、食物が食道内に吸い込まれる。
⑤食道期:食道の蠕動と重力で食塊が胃に送られる。
障害例:胸やけ、嘔吐(胃食道逆流)
第3相(食道相):食物は蠕動運動により下行し、LESが開き、食物が胃の噴門へと進む。
3. 食道
・ 食道は上下の括約筋部が内容物の逆流を防止している。
・ 食道は食塊の移動に伴って収縮と弛緩を繰り返し、嚥下により下部食道括約筋部の圧が低下する。
・ 第1狭窄部(食道入口部)上部食道括約部(UES) 食道への空気流入と誤嚥の予防 横紋筋
・ 第2狭窄部(気管分岐部) 中間
・ 第3狭窄部(食道裂孔部)下部食道括約部(LES) 胃食道逆流の予防 平滑筋
・ 口腔から咽頭、食道は扁平上皮に覆われている。
*LESの弛緩には、一酸化窒素(NO)や小腸ペプチド(VIP)が関与する。
4. 胃
・ 胃は左上腹部に存在する食道に続く嚢状の臓器である。 * 解剖の位置、周囲の臓器との関連性を確認!
・ 胃の入り口を噴門(横隔膜直下第11胸椎)、出口を幽門(第1腰椎)という、いずれも逆流防止機能が備わっている。
・ 胃壁は内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜より構成されている。
・ 胃は迷走神経(副交感神経)と内臓神経(交感神経)の支配を受けており、運動や酸分泌に対して前者が促進的、後者が抑制的に働く。
・ 胃の主な働きは貯留、混合、排泄であり、消化吸収(特に吸収)に果たす役割は低い(水・アルコール以外吸収されない)。
・ 胃は弛緩により食物を蓄積し、胃酸によって食物中の細菌を大幅に減少させ、タンパク質分解酵素であるペプシノーゲンを分泌し、リパーゼにより脂質の分解も行う。
・ 噴門→穹窿部(胃底部、噴門部)→胃体部→幽門部(前庭部)→幽門→十二指腸球部
・ 胃容量1400ml
* 食物が胃に入ると、胃体上部の筋肉がゆるみ膨大する(受容体弛緩)。
* 胃の蠕動運動・・・15~20秒に1回
・ 食物の胃内停滞は3時間。近位胃部(上部)は食物の貯留、遠位胃部(下部)は排出。液体食の胃排出は速く、固形食は粉砕(1~2mm)するので遅い。
・ 胃排出には、上部小腸の受容体によるフィードバック機構があり、浸透圧、水素イオン、脂肪酸などに反応する。
・ 胃底腺:主細胞・・・ペプシノーゲン、リパーゼの分泌
壁細胞・・・胃酸(pH1前後)分泌←胃の伸展、迷走神経刺激、ガストリン、ヒスタミン
内因子(ビタミンB12吸収)
副細胞・・・粘液分泌
D細胞・・・ソマトスタチン分泌(幽門腺にもあり)
幽門腺:副細胞・・・粘液(アルカリ性)分泌
G細胞・・・ガストリン分泌
噴門腺:粘液分泌
* 胃には約3500万個の分泌細胞
・ 胃酸分泌と胃蠕動は迷走神経(副交感神経)↑交感神経↓。胃液の1日分泌量は2000~2500ml。
Na+, H+,K+, Cl-, HCO3-, HPO4-, SO4 2-などを含む。
脳相:刺激→大脳→迷走神経→アセチルコリン
胃相:ガストリン、ヒスタミン刺激(胃酸分泌の80%)
腸相:食物が十二指腸→セクレチン→ソマトスタチン→胃酸分泌抑制
・ 胃酸の作用
ペプシノーゲンをペプシンに、ペプシンの至適pH維持、殺菌作用、胃内の発酵防止、タンパク質の膨化、消化管ホルモンの調節、酸の加水分解作用
5. 十二指腸・小腸
・ 十二指腸(指12本長25~30cm)、小腸は食物を消化し、小腸で最も効率よく栄養素を吸収する部位が決まっている(6~7m、空腸2/5、回腸3/5)。
・ 十二指腸S細胞:セクレチン分泌→膵・胆管から重炭酸分泌
小腸I細胞:コレシストキニン(CCK)→膵酵素、胆汁分泌
・ 糖質の消化吸収
デンプン→(唾液アミラーゼ)→麦芽糖+デキストリン→(膵アミラーゼ)→二糖類→(マルターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ)→ブドウ糖
・ タンパク質の消化吸収
タンパク質→(ペプシン)→ポリペプチド→(膵トリプシン、キモトリプシン)→小ポリペプチド→(カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼ)→アミノ酸
・ 脂肪の消化吸収
脂肪→(膵リパーゼ、胆汁酸、膵コリパーゼ)→脂肪酸+モノグリセリド
* 管腔内消化・・・主として膵液中の酵素(アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなど)と胆汁酸塩(乳化剤としてリパーゼの消化に関与)の協力で行われる。
膜消化・・・小腸微絨毛(全面積で200m3、テニスコート1.5面)の刷子縁膜酵素によって、最終的な消化を受け吸収する。
・ 十二指腸~上部空腸:鉄、カルシウム
空腸:糖、アミノ酸、脂肪酸、ビタミンB12以外のビタミン
回腸:胆汁酸(腸肝循環)、ビタミンB12
・ GALT(gut-associated lymphoid tissue)・・・腸管粘膜組織でのリンパ免疫機能(体内の最大リンパ組織50%が腸管に)
M細胞→樹状細胞・マクロファージ→T・B細胞活性化→形質細胞→IgA産生(分泌型IgA)
・ MMC(migration motor complex):十二指腸・空腸の20分間続く強い収縮運動(空腹時、胃蠕動休止期)
<肝胆膵>
1. 肝臓
・ 肝臓は人体中最大の臓器(1.2kg前後)で、体重の1.5~2.5%の重さがある。
・ 肝臓は他の臓器と異なり門脈(80%)と肝動脈(20%)の二重の血管を受けている
・ 肝臓の最小機能単位は肝小葉(100万個)からなり、小葉間動脈と小葉間門脈は肝細胞索を取り囲み類洞を形成する。さらにやや太めの小葉間動脈・門脈は小葉間胆管とともに肝小葉の角でグリソン鞘を形成する。
・ 肝三つ組:肝動脈 → 小葉間動脈 → 類洞(毛細血管) → 中心静脈 → 肝静脈
門脈 → 小葉間静脈 → 上におなじ
毛細胆管 → 小葉間胆管 → 肝管
・ 肝細胞索と類洞内皮細胞の間にあるDisse(ディッセ)腔を介して物質交換が行われる。
・ Healey & Scholy分類による区域(5区域)やCouinaud(クリノー)分類による亜区域(8区域)を考慮して肝切を行うと出血が少ない。
* 肝臓はCantlie線によって、右葉と左葉に分けられる。
・ 手術手技上で右肝動脈の血流を失っても一般に肝不全に至ることはなく、無理な再建は試みなくとも構わない。
・ 尾状葉(セグメントⅠ)は下大静脈の腹側に位置し、その右縁については明確に示し得ない場合がほとんどである。
・ 肝臓は三大栄養素の全てにおいて重要な働きを担っており、糖代謝は肝臓の機能なかで最も重要であり、血清タンパクや脂質が肝臓で合成される。
・ 肝臓は毒性の強いアンモニアを処理する最も重要な臓器である。
・ 糖代謝(糖新生、グリコーゲンの合成・分解)
タンパク代謝(ほとんどのタンパク質は肝臓で作られる、血漿タンパク、凝固因子など)
脂質合成・代謝(血清脂質の合成、アポリポ蛋白合成、胆汁酸の合成)
アンモニア代謝(尿素回路)
ビタミン代謝
ホルモン代謝(インスリン、グルカゴン、女性ホルモンの分解、血小板増殖因子、肝細胞増殖因子の産生)
生体防御・免疫機能(クッパー細胞、網内系による異物貪食)
薬物代謝
・ ビリルビン代謝
ビリルビンの80%は老廃赤血球のヘモグロビン由来(脾臓で生成)
20%は骨髄の無効造血、肝内ヘム由来
血中でビリルビンはアルブミンに結合→ BUGT(ビリルビンUDPグルクロン酸転移酵素)にてグルクロン酸抱合されて細胞内取り込み→ 胆汁として胆管へ排泄 → 小腸にて還元(ウロビリノーン) →便中80%、再吸収(腸肝循環:回腸末端から胆汁酸として4~12回/日)
・ 薬物代謝
脂溶性薬剤を取り込み、チトクロームP450で酸化、グルクロン酸抱合にて胆汁排泄
・ 胆汁の生成と分泌
1日約600~800mlの胆汁産生(ほとんど95%以上が水分)
胆汁酸やビリルビン、無機塩、脂質を含む
胆汁は体内で不要となったコレステロールやビリルビンの排泄の役割を果たす。
胆汁酸は肝臓でコレステロールにより合成
1次胆汁酸(肝臓で合成、胆汁として腸管内に排泄) コール酸 ケノデオキシコール酸
↓ ↓
2次胆汁酸(腸内細菌による変換と再吸収) デオキシコール酸 リトコール酸
胆汁酸の90~95%は小腸にて再吸収(腸肝循環:1回の食事にて2回循環)
胆汁分泌(胆汁酸依存性と非依存性)
2. 胆道・胆嚢
・ 胆汁酸は腸肝循環により回腸末端部で再吸収され、門脈を経て肝臓に戻り、再び胆汁中へ排泄される。
・ 胆道は肝臓で生成された胆汁を十二指腸へ排泄する。
・ 胆嚢は、胆嚢管、胆嚢頸部、胆嚢体部、胆嚢底部に区分。肝臓の肝ない側区(S4)と肝前下亜区域下部(S5a)に固定。
・ 肝床部、上部胆管(右肝管および総胆管)、胆嚢(胆嚢管および胆嚢頸部)を三辺とするCalot(カロー)の三角部は解剖的に重要。
・ 毛細胆管 →肝管 →総肝管 →胆嚢(胆汁濃縮) →総胆管 →膨大部括約筋(Oddi、オッジィ) → 十二指腸
・ 胆嚢は胆汁の貯蔵と濃縮(5~10倍)
・ コレシクトキニン(CCK)とアセチルコリン → 胆嚢収縮とOddi筋弛緩
・ セクレチン → 胆汁中への重炭酸イオンの分泌
アクアポーリン → 胆汁中への水分分泌
・ 胆汁酸トランスポーター(胆汁酸の取り込み、移動)
3. 膵臓
・ 膵臓に急性炎症を生じると、炎症の波及は腸間膜に生じ、その結果として空腸や横行結腸の腸間膜運動麻痺を生じることがある。
・ 胆管および膵管の十二指腸へ流入する末端部は、いったん細くなるため、同部に胆石や膵石が嵌頓すると急性胆管炎や急性膵炎を生じやすい。
・ 膵頭部に炎症や癌が存在すると右腹腔神経節を、膵体・尾のそれでは左腹腔神経節を刺激し、腹痛や背部痛を招く。
・ 膵臓は外分泌腺として消化酵素を大量に含み、強アルカリ性の膵液を分泌し、食物中のデンプン、タンパク質、脂肪、繊維などの各成分を分解する。
・ 主膵管(Wirsungウイルサング管)、副膵管(Santoriniサントリニ管)が総胆管と合流して、Vaterファーター乳頭より膵液分泌
・ 膵液1500ml/日 pH8の強アルカリ性(胃酸を中和し、消化酵素を活性化)
腺房中心細胞、介在部、導管 → 重炭酸イオン
・ 膵酵素は前酵素として膵液中に分泌されるが、十二指腸のエンテロキナーゼによってトリプシノーゲンがトリプシンに活性化され、トリプシンが他の酵素を連鎖的に活性化させる。
・ トリプシン、キモトリプシン・・・タンパク質をアミノ酸に分解
ホスホリパーゼ・・・リン脂質を分解
アミラーゼ・・・炭水化物を分解
リパーゼ・・・脂肪を分解
* 膵外分泌性トリプシンインヒビター(PSTI)が腺房細胞から膵液中に分泌され、トリプシンの作用を抑制する。
・ B細胞(70%) → インスリン分泌
血糖降下、グリコーゲン合成、脂肪組織での脂肪分解抑制、たんぱく質の合成と取り込み
・ A細胞(15~20%) → グルカゴン分泌
インスリンの拮抗
・ D細胞(10~20%) → ソマトスタチン分泌
他のホルモン分泌や膵液分泌の抑制
・ PP細胞 → 膵ポリペプチド分泌
<下部消化管>
・ 下部消化管は結腸と直腸および肛門からなり、結腸は虫垂を含めて、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に区分され、直腸は趙区長S状部(RS)、上部直腸(Ra)、下部直腸(Rb)に分けられる。
・ 大腸の層構造は粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜よりなる。
・ 右側結腸では上腸間膜動脈、左側結腸および直腸では主に下腸間膜動脈から血流を得て、それぞれ同名の静脈に還流し、門脈を経て肝臓に至る。下部直腸、肛門では内腸骨静脈から下大静脈に入る大循環系も存在する。
・ 大腸は水分や電解質を再吸収し糞便を形成する。
・ 腸内細菌により食物などの最終処理を円滑にかつ十分時間をかけて行い、適当なタイミングで排便できるように、運動機能が備わっている。5
・ 結腸80~150cm(S状結腸20~40cm)、直腸12cm(肛門管3~4cm)
・ 1日の摂取水分約10L →小腸9L吸収 → 大腸吸収約1L → 便100ml
・ 腸内細菌100兆個と共存 → 有機酸(酢酸など)を産生 →大腸上皮細胞のエネルギー源
・ 3日分の便を貯留(宿便)