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第3回 Live on Nutrition Seminar(術前経口補液)のお知らせ

◆第3回 Live on Nutrition Seminarのお知らせ

このたび、大塚製薬工場と共催で、船橋中央病院麻酔科 桜井康良先生のWEB講演を企画しました。お忙しいこととは存じますが、是非ご参加ください。

日時: 平成24年4月18日 (月) 18:30~20:00

場所: 名古屋記念病院 B館6階 理学療法室

演題: 「術前絶飲食時間の短縮を目指して」 社会保険船橋中央病院 麻酔科 主任部長 桜井康良先生

* WEB講演ですので、PC画面でのライブ中継になりますので、質問には制限があります。

共催: 名古屋記念病院、大塚製薬工場

御参加希望の方は、下記の申し込み書をFAXするか、直接大塚製薬工場の担当者にお聞きください。

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術後回復力強化プログラム(ERAS)

欧米を中心に検討されてきたERASプロトコルの評価が報告され、日本にも本格的に導入する検討が必要となってきました。これらはバランスよく包括的に行うことが成功の秘訣であり、外科医、麻酔科医、病棟・手術室・ICU看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、ケースワーカーなどの多職種からなるチーム医療連携が重要で、退院後のフォローアップまで記載されています。本邦では、欧米と少し事情が違い、全てをそのまま受け入れるのには問題がありますが、術前絶食の回避など日本でも有効性が報告されているエビデンスがあります。NSTの枠を超えて、周術期管理医療チームなどの取り組みはいかがでしょうか?

ERAS(Enforced Recovery After Surgery)Protocol:術後回復力強化プロトコル 

Enhanced recovery after surgery: A consensus review of clinical care for patients undergoing colonic resection. Fearon KCH, et al. Clin Nutri 2005;24:466-477.
Consensus review of optimal perioperative care in colorectal surgery. Lassen K, et al. Arch Surg 2009;144:961-969.

ERASの目的:Fast track surgeryも含む
① 手術侵襲を最小限にする術式を選択。
② 早期経口摂取を促進し、静脈栄養を早期(術後1日目)に中止。
③ 早期離床、十分な疼痛管理を中心とした総合的な管理。

④ 手術日を回復1日目と考える。
⑤ コスト削減
Spanjersberg WR. Et al. Fast track surgery versus conventional recovery strategies for colorectal surgery(Review)  Cochrane Database of Systematic Review 2011
 Fast track surgeryは従来法と比較して、術後合併症のリスク比は0.50と有意に少なく、術後の在院日数は-2.94日と有意に短縮した。再入院率には差を認めなかった。

1. 術前管理
(1) 入院前の情報提供とカウンセリング
 入院前に十分に情報を提供すること(入院中に何が起こるのか、手術後の患者の役割  は何かなど)は、患者の術後の回復、疼痛軽減、不安の軽減につながり、結果的に早期退院につながる。また、その際に、しっかり経口摂取を行うこと、離床することも目標とする。
* 栄養不良を認めた患者は、手術ができるようになるまで通常1~2週間観察下とする。
(2) 術前腸管前処置
 術前の経口大腸前処置は、大腸手術における有効性はなく、縫合不全や術後のイレウスの遷延の可能性を高めることが指摘されている。また、前処置群に心血管系の合併症による死亡率が高いとの報告もある。特に、高齢者では、脱水や電解質異常を惹起する可能性もある。従って、大腸手術を行う患者に大腸前処置は行わない(但し、術中ファイバーの場合を除く)。一時的ストーマの造設が必要な下部直腸切除には必要な可能性を検討。
* 術前腸管前処置を行った群が行わなかった群に比較して、縫合不全はリスク比が1.74と高かったが、その他の合併症には有意差なし。
* 高齢者への経口腸管前処置は、日常生活やリハビリテーションの低下、傾眠傾向、口渇の増悪も報告されている。
* 機械的前処置のエビデンスは、動物実験と非コントロール・スタディのみ。
* Cochraneなどの大規模メタアナリシスにて、縫合不全や創感染は前処置群にやや高い傾向があるが有意差はなし。
* 但し、腸管前処置の目的は術後感染性合併症の予防だけでない(大腸の把持を容易にするなど)。
(3) 術前絶飲食
 Clear fluidsは麻酔医導入2時間前まで、固形食は6時間前まで可能として投与する。また、12.5%の炭水化合物含有飲料を手術前夜に800mL、麻酔導入2-3時間前までに400mL摂取することで、術前の口渇、空腹、不安を軽減できるだけでなく、術後のインスリン抵抗性も改善する。肥満症例やⅡ型糖尿病患者でも胃内排出の遅延はないが、糖尿病の神経障害合併例では要注意。術前の絶飲食の回避で回復の強化と在院日数の短縮が期待できる。
* 術前後の絶食によって血糖値が低下すると、まず貯蔵された糖および炭水化物が消費され、次いで異化反応が惹起され、インスリン抵抗性をきたす。一旦低下した感受性は回復に術後約3週間を要し、低下の程度と在院日数に有意な相関がある。
* Clear fluidsの定義は、水および炭水化物含有飲料、牛乳を含まないコーヒー・紅茶、食物繊維を含まないジュース
(4) 麻酔前投薬
 麻酔前処置は効果がなく、さらに術前の抗不安薬はかえって術後のせん妄につながり、疼痛の不安は軽減しない。術前の短時間作用型の抗不安薬は、硬膜外麻酔の際の不安を取り除く可能性はある。オピオイドや長時間型鎮製薬、長時間作用型睡眠薬は、かえって術後の回復を妨げる。
2. 術中管理
(1) 抗血栓予防
 弾性ストッキングによる下肢の血栓予防を、低分子ヘパリン(HITの合併が少ない)、硬膜外麻酔および早期離床とともに行う。抗血小板剤や低分子デキストランなどの併用は、DVTの予防には効果がなく、ヘパリンの使用が困難なハイリスク患者にのみ考慮する。過量の低分子ヘパリンの使用は、硬膜外麻酔の血腫の合併のリスクを高めるので注意を要する。
(2) 感染予防(抗菌薬)
 適切な抗菌薬の執刀前からの投与を行う。
  ① 好気、
気ともにカバーする(第2世代セフェム+メトロニダゾール)

  ② 皮膚切開前(1時間以内)に投与する

  ③ 単剤の投与メニュー(3時間ごとに追加投与)

(3) 標準麻酔

 長時間作用型の麻薬(モルヒネ、フェンタニルなど)の使用は避け、プロポフォールやアルチバなどの短時間作用型の静脈麻酔薬を使用するか、それよりも短時間作用の吸入麻酔を推奨する。また、胸部硬膜外麻酔(T7/8)を施行することで術中の麻酔薬の使用量を減らすことが可能で、術後も引き続きペインコントロールにて使用することで疼痛軽減だけでなく、合併症の発生率や死亡率も軽減する(但し、硬膜外麻酔に伴う血腫や膿瘍、神経損傷に気をつける、0.01~0.6%)。硬膜外麻酔には、局所麻酔薬に低用量オピオイド、可能であれば少量アドレナリンの使用が推奨される。これらは、ストレス・ホルモンを抑制するだけでなく、インスリン抵抗性も改善する。
(4) 手術創
 できるだけ小さい切開創を推奨。横切開の方が、縦切開に比較して鎮痛薬の使用や肺塞栓の合併が少なく、回復が早い傾向がある有意差なし。
* 横切開の方が創感染率が高いとの報告もある。
(5) 腹腔鏡手術
 腹腔鏡または腹腔鏡補助手術にて、創の合併症の減少、腸管の動きだしが早くなり、退院も早くなる。ERASプロトコルと腹腔鏡手術の組み合わせで、在院日数が3.5日対6日と有意に短縮したとの報告もあるが、差はないとの報告もある(両者とも在院日数2日間)。

* 腹腔鏡手術は低侵襲で、術中に腸管操作が少なく、また腸管が外気に触れることもなく、腸管麻痺が軽度で早期の経口摂取が可能。
* 腹腔鏡手術の経口摂取開始は術後54時間で、開腹手術の85時間に比較して有意に短縮していた。
* 器械吻合の導入が縫合不全を減少
(6) 経鼻胃管

 経鼻胃管の留置は、人工呼吸器の使用時の脱気以外には、ルーチンには推奨されない。経鼻胃管の留置を止めることで、発熱や無気肺、肺炎の予防になる。従って、手術中に経鼻胃管を留置しても、覚醒前に抜去すべきである。
(7) 術中低体温の回避
 術中の正常体温維持によって、創感染、心合併症、出血の予防と輸血の減少が期待できる。
(8) 周術期輸液管理
 現在では、周術期には必要な水分量のみ輸液し、適切な水分バランス(体重など)を保つ方が、術後の合併症を減らし、在院日数も短くなるとされている。術後の輸液はできる限り早く終了して経口摂取を開始することを推奨する。輸液は可能であれば術後1日目に終了すること。硬膜外麻酔を併用した場合に血管拡張により低血圧を合併することがあるが、輸液を付加するのではなく適切な血管収縮薬を使用する。周術期の過剰な輸液、塩分負荷は、合併症を増加し在院日数も延長する。可能であれば術中より経食道エコーなどを駆使して心機能を評価しつつ適正な輸液を推奨する。
* 術後の輸液が3L以上の対象群と比較して、2L以下に抑えた群では胃排出時間が72.5分と175分より有意に短縮した。結果として、排ガスまでの時間や在院日数も有意に短縮。
* 開腹手術の腸管蠕動回復に要する時間として、小腸6~12時間、胃12~24時間、大腸48~120時間とされている。
* 動物実験で消化管吻合の創傷治癒促進には絶飲食は逆効果であり、早期経口摂取にて吻合部の神経芽細胞に適切な機械的負荷を加えることで促進する。
* 早期の経口摂取が、消化管吻合部の耐圧強度を高める。
3. 術後管理
(1) 術後ドレーン管理
 術後ドレーンは明らかに早期離床の妨げになるだけでなく、縫合不全や合併症の軽減にはつながらない。従って、ドレーンのルーチンの挿入留置は好ましくない。
(2) 尿道バルーンの留置
 硬膜外麻酔中でも膀胱の収縮障害による排尿障害のリスクは低く、できるだけ早期に尿道バルーンは抜去すべきである。
(3) 術後嘔気・嘔吐
 術後の嘔気・嘔吐対策を行うことは早期の経口摂取につながる。リスク因子に1.術後のオピオイドの使用、2.乗り物酔いに弱い、3.女性、4.非喫煙者の4つがあり、2つ該当する場合には予防的に制吐剤(デキサメタゾンまたはセロトニン受容体拮抗剤)を使用する。3つ以上該当する高リスク群は、麻酔をプロプフォールなどの短時間型にして、同時にデキサメタゾンも併用する。補助として、セロトニン受容体拮抗剤やドロレプタン、プリンペランなどを手術終了30~60分前より使用しておく。
(4) 術後イレウス予防
 術後は硬膜外麻酔やオピオイド、輸液過剰負荷を避け、予防として酸化マグネシウムを2g朝夕分2を退院まで使用することでイレウスを予防し、早期経口摂取を開始する。
(5) 術後疼痛管理
 術後に局所麻酔薬と低用量オピオイドを併用した持続硬膜外麻酔は、早期離床と呼吸器合併症の予防に有用で、術直後2日間の使用を推奨する。アセトアミノフェン1日4gをベースとして使用することも有用である。突出痛にはNSAIDsもしくは硬膜外麻酔にてブピバカインのワンショットを推奨する。NSAIDsは硬膜外麻酔抜去前から退院または退院後も使用し、可能な限りオピオイドは使用しない。
(6) 術後栄養管理
 正常な栄養状態と消化器機能の術後患者の術後栄養管理のゴールは、適切な食事を早期から行うことである。待機消化器手術において、絶食期間をもつ有用性は否定された。早期からの食事開始は、感染性合併症と在院日数の減少に貢献するが、縫合不全の危険性を高めない。但し、イレウス対策を行わないと、腹部膨満や早期離床、呼吸機能に悪い影響を及ぼす可能性がある。栄養不良を認めた患者は、術後だけでなく、その後8週間の経口栄養サプリメントの補給は有用である。術前に栄養スクリーニングで栄養不良と評価された患者にも栄養サプリメントの補給は有用であるとされている。回復力強化プログラムでは、経口栄養サプリメントの摂取は手術当日(可能であれば術後4時間から400mL)から開始し、少なくとも4~5日以内に目標の栄養量に達すること(静脈栄養からの完全離脱)が推奨される。術前の炭水化物含有飲料の直前までの摂取と硬膜外麻酔、術後早期経口摂取(経腸栄養)のコンビネーションは、高血糖をきたさずに窒素平衡を保つことが可能である。
* 術後24時間以内の経口摂取開始によって、術後合併症発症率の低下、在院日数の短縮傾向が認められた。
(7) 早期離床
 ベッド臥床は、インスリン抵抗性や筋蛋白喪失、筋力低下を招き、呼吸機能や組織酸素化も妨げる。さらには血栓形成を助長する。有効な硬膜外麻酔による除痛が、早期離床のキーポイントである。術当日は2時間、その後は退院まで6時間はベッドから離床できる環境を整える。
(8) 退院基準
 a) 経口鎮痛剤による疼痛コントロール良好
 b) 固形食の摂取と静脈栄養の離脱
 c) 完全離床または入院前と同等のADL回復

 d) 上記全部と帰宅の意志
これらは、入院前カンファレンスで確認しておくべき。

4. 退院後

(1) フォローアップ
 2~3日間の入院期間短縮が行われた患者の10~20%が、再入院または外来での継続治療を要する。1~3%は縫合不全により、再入院を余儀なくされる。
 退院直後の1~2日間は電話相談がいつでもできる体制とする。術後7~10日間は創のチェックや抜糸、病理結果の相談などが必要である。また、術後の化学療法も必要なことがある。できれば、術後30日間は患者とコンタクトとれるようにする。

(2) 再評価
系統的に予後やプロトコルの内容について、調査・評価を行い、多施設との比較検討を行う。

<ERASの効果>
・ 平均術後在院日数が、従来法では7日間程度だが、ERASでは5日間程度と有意に短縮。
・ ERASの有無と腹腔鏡手術の有無で4群に分けたRCTにて、ERAS腹腔鏡5日間、ERAS開腹6日間、腹腔鏡従来6日間、開腹従来7日間と有意に術後在位日数が変化した。多変量解析では、腹腔鏡手術は在院日数の短縮と術後合併症を減少させる有意な因子であった。
・ 再入院率に両群間に差がなく、ERAS群は再入院に伴う在院日数も有意に短縮。
・ 死亡率には差がないが、合併症の発生率はERAS群が有意に少なく約50%。
・合併症のリスク比は0.53。
・ ERASによる早期退院でも術後の生活の質は変わらず、疼痛や疲労度も改善する。
・ 術後排便が5日目から2日目に短縮し、術後在院日数は2日間短縮、術後合併症を37%から18%へ減少。
・ 大腸開腹手術において、ERASプロトコルを実施した群は、従来法群と比較して縫合不全や嘔吐等の合併症の発生に有意差を認めなかった。
・ 大腸開腹手術症例にERASプロトコルを実施した群で、平均在院日数は3.6日と有意に短縮した。
・ 下部消化管手術症例のうち、患者希望にて術後に経口摂取を開始した群ではほぼ全ての患者で術後3日以内に普通食が開始されたのに対して、従来法群と術後合併症は全く差を認めなかった。
・ ERASプロトコルで開始した下部消化管手術症例は、81.3%の患者が術後2日目までに普通食を開始できた。
・ 上部消化管手術においても、術後48時間以内に流動食を開始し、次の48時間以内に普通食にアップした群は、排ガスを認めた後に流動食を開始した群に比較して、合併症に有意差はなく、術後絶食期間や在院日数は有意に短縮した
・ 幽門側胃切除症例で、術後1日目より流動食を開始した群は従来法群と比較して、合併症に差を認めず、有意に在院日数は短縮した。
・ 胃切除後に術後約2~3日目に胃管を抜去し、4時間後からすぐに普通食を摂取した群と、流動食から開始し段階的にアップ下群とで術後合併症に差を認めなかった。
・ 胃切除後で術後2日目より流動食を開始し、患者の希望で全粥食を開始するクリニカルパスのバリアンスは38%で、従来法と比較して食事摂取量や在院日数が有意に良好であった。
・ 腹部大動脈瘤手術でも術後に経口摂取が可能であれば、術後3日目でも退院可能。
・ 肺手術でもERASプロトコルにて1日入院で可能。
・ 肝臓手術でも在院日数の短縮。
・ 婦人科手術でも、スタッフの労働力を増加させることなくERASプロトコルの導入は可能。
 

<ERASの問題点>
・ ASA分類の重症患者で、有効性が少ない。
・ 硬膜外麻酔の導入率が、各国によって違う。
・ チーム医療としてのマンパワーの確保に温度差。
・ ERASのコンプライアンスについて、2002~2004年の初期で遵守率約40%であったが、2005~2006年で約65%まで上昇。
・ 術前術中の遵守率は93%であったが、術後は約36~85%と低下。
・ 在院日数に有意な因子は・・・
  60歳以上、術前合併症の有無、ERASの経験、プロトコルの遵守
  早期離床、術後早期経口摂取、静脈栄養の早期中止、尿道バルーン・硬膜外カテーテルの早期抜去
・ 術後3日間で回復基準を満たしていたが、実際の術後在院日数の中央値が5日目。
・ 2006年の報告では、制限なく飲水可能になるのは、米国の3.1日が最も早く、ドイツの3.3日、英国の3.5日、最も遅いスペインは5.3日であった。

<術前炭水化物含有飲料の効果>
・ 胃液量、胃液pHに影響なし。
・ 誤嚥の増加にはつながらない。
・ インスリン抵抗性の改善(静脈投与の50%に抑制)。
・ 12.5%のブドウ糖液の使用にて、2.5%ブドウ糖液に比較して、たんぱく質バランスの改善と異化の抑制に有効。退院時の上腕筋囲の改善に有効との報告もある。
・ Clear fluidsは摂取後1時間で、固形食は3時間で20%残存するのみ(胃内通過?)。

* 日本におけるアルジネート・ウォーター®の術前投与の効果


アルジネート・ウォーター
®は、0.8kcal/mL、糖質濃度18%、アルギニン2%に亜鉛10mgや銅1mgの強化された経口飲料125mL。
・ 手術前日の夕食にて固形食は最終として、その後術前2時間まではアルジネート・ウォーター600mLまで患者の自由摂取。手術が午後の症例では、さらに300mLまで摂取可能。