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がん悪液質のまとめ その2

がん悪液質のまとめ その2

がん患者の栄養療法の利点と限界

・ 悪液質は、重度の体重減少と同義であると考えられている。ただし、これは複雑な病因の重層的、多角的な症候群であると認識することが重要

・ 悪液質の中核は、腫瘍の進行と従来の抗癌剤治療による副作用を含む。これら2つの現象は、神経内分泌系の活動変化と炎症サイトカインの産生、さらに腫瘍放出因子の上昇に影響を与える。これらのメディエーターは、順次、食品の摂取量の減少、異常代謝(クリーゼを含む)を発生する。その結果、エネルギーと窒素バランスのマイナスと様々な臓器の機能変化を誘起し、がん終末期のQOLと予後の低下をきたす。

<低栄養状態は手術、化学療法や放射線治療の結果に関連するか?>

手術患者では、術前の栄養不良は術後合併症罹患率と死亡率と、入院期間とのコストが増加する。これに対して、周術期の栄養療法は、手術のコストを増加させない。また、術後は、通常であれば栄養状態は数カ月低下することも判明している。

化学療法を受けるがん患者は、治療時点で体重減少が多く存在し、生存期間の延長、治療反応性の低下、生活の質の増悪、PSの低下と相関する。治療によって、体重減少が回復した患者は、回復しない患者に比較して予後が延長する。<従来の栄養サポートは抗癌治療の転帰を改善するか?>

<手術>

重症の手術患者 (主に上部消化管がん患者) に基づく最近のメタ分析は、TPNは術後合併症や死亡率に有用性はなかった。

・ 術後患者が、自発的に摂取する経口栄養サポリメント(oral nutritional supplement:ONS)は、安価、安全で合併症がないとされ、術後の効果が証明されている。

・  周術期のONS投与は、最近では入院前から退院後も継続することで、術後の体重減少だけでなく、術後合併症も予防する。また、術前の免疫強化サプリメントの使用で、術後の感染性合併症が減少し、コスト削減も証明されている。
・ これらの集大成として、ERAS(enforced recovery after surgery)プロトコールが効果をあげている。

<化学療法と放射線療法>

化学療法患者は、TPNを行うことで、抗癌剤の耐性が増加して生存率が改善するどころか、敗血症などの重篤な感染性合併症が増加した。ただし、骨髄移植(BMT)患者のみで、栄養状態を改善することが示されている。さらに、分岐鎖アミノ酸を補ったTPN がBMT患者の内臓タンパク質の維持に有効とされている。

・ 積極的な化学療法患者においては、侵襲が大きくコストの高いTPNは、外来化学療法患者に施行する栄養カウンセリングやONSに比較して予後の向上は期待できない。ただし、経口摂取で100-300 kcalと10-15 g タンパク質を1日あたり追加するONSなどのみでは、全身および消化管毒性の後遺症後に体重を完全に回復させるのには限界がある。

・ 栄養カウンセリング (ONS投与も含む)が、化学療法や放射線療法に伴う症状 (例えば食欲不振、吐き気、嘔吐と下痢) とQOLの改善を含めた大腸がん患者のアウトカムを向上させることが証明された。これらの研究は、栄養サポート – が、従来の合併症発生率・死亡率重視から患者中心のアウトカムとして身体活動(physical activity level:PAL)とQOLの向上を目標とすることへのシフトを意味している。これらは、栄養と治療がそれぞれ別々に評価されるのではなく、看護サポートも含めた複合的に再評価されるべきである方向付けとなった。

・ 6週間以上のTPNで増加した体重は、脂肪組織と水分がほとんどであり、一部の骨格筋蛋白であった。これに比較して、ONSのみでは体重増加も蛋白質の増加も乏しいため、特に進行がんの栄養療法においては考慮する必要がある(この場合のONSは、サプリメントのみの補給のこと)。

・ 体重減少を認めた栄養不良患者において、がんと非がん患者のTPNによる全身蛋白質の代謝動態を検討したところ、がん患者は非がん患者に比較して蛋白代謝が改善されないことが証明された。

・ 同様に、経腸栄養を 6週間継続したところ、非がん患者には体重増加、血中アルブミン濃度上昇、さらに脂肪組織と筋肉量の増加を認めたのに対して、がん患者では軽度の体重増加と体脂肪の増加は認めたものの、アルブミン濃度や蛋白量は増加しなかった。

<栄養療法による腫瘍増殖の危険性>

・ 動物実験においては、栄養補給による腫瘍増殖刺激は疑う余地がない。

・ 人間では、経腸栄養(経口も含む)による腫瘍の増殖については確認されていない(C)。

・ 手術直前の24時間TPNを施行した大腸がん患者で腫瘍のタンパク合成が促進された報告はあるが、長期間のTPN管理が、腫瘍の増殖・進展に関与した報告はない。

・ 全体として、がん患者の栄養療法を考慮する際に、腫瘍への影響は考えな くてよい(C)。

<がん患者の蛋白代謝の再確認>

① 炎症性サイトカインによる蛋白代謝の再編成

低アルブミンを示すがん患者において、アルブミン合成は抑制されておらず、むしろアルブミンもフィブリノゲンも合成は著しく刺激されている。これは、健康な場合に食事によってアルブミン合成は刺激されるが、フィブリノゲン合成は刺激されないのとは対照的である。がん患者は炎症性サイトカインによって持続的に急性反応蛋白の生成が刺激され、アミノ酸が骨格筋から内臓蛋白合成にまわされるためと考えられている。

② 加齢

加齢による、食事から摂取したアミノ酸の同化能の低下も指摘されている。患者の年齢を増加性アミノ酸の貧しい同化応答のさらなる原因です。高齢患者は必須アミノ酸からの蛋白合成の反応性の低下だけでなく、アミノ酸センシング/シグナル蛋白質の筋肉内発現と活性化が低下している可能性も指摘されている。これらの効果は、インスリン シグナル伝達に依存しておらず、したがって高齢者に増加するインシュリン抵抗性による影響はなく、著明に増幅したNFκβが影響している。

③ 患者の身体活動(PAL)の減少

体重減少したがん患者は著しくPALのレベルが減少しており、悪液質で見られる筋萎縮のさらなる悪化を引き起こす。食後の運動においても、筋肉の活動性もアミノ酸の蛋白合成刺激と連動する。適度な筋肉負荷を組み合わせないと、栄養療法のみでの蛋白質合成の改善は困難。

参考:サルコペニア

定義: 加齢に伴う筋力の低下 「sarco=筋肉」+「penia=喪失」のギリシャ語の造語 by Rosenberg 1988

病態: 速筋線維優位(2型)の萎縮と筋線維数・筋サテライト細胞数の低下

主にIGF-1(insulin-like growth factor-1)の加齢による低下が原因

診断: European Working Group on Sarcopenia in Older People:EWGSOP

1) 低筋肉量(low muscle mass)

2) 低筋力(low muscle strength)

3) 低動作機能(low physical performance)

重症度:

presarcopenia      1)のみ

sarcopenia        1)+ 2)または3)

severe sarcopenia 1)+ 2)+ 3)

評価:

① DEXA・・・SMI:skeletal muscle index  SMI=LBM(除脂肪体重)/身長2

男 7.26 kg/m2未満    女 5.45 kg/m2未満

② バイオオンピーダンス法

中等度 男 8.51~10.75 kg/m2 女 5.76~6.75 kg/m2

重症   男 8.50 kg/m2以下   女 5.75 kg/m2以下
がん悪液質の薬物治療・その他

<悪液質の診断、ステージ>

・ がん悪液質の管理は、リスクのあるがん患者に対して、腫瘍専門医、主治医(かかりつけ医)、専門看護師、作業療法士、栄養士などの医療チームが常に繰り返し再評価することが重要である。このチームの目的は、できるだけ早くがん悪液質を認識し、腫瘍の進行とともに悪液質を減衰するための予防である。

・ 残念ながら、進行した悪液質の段階では、栄養療法も含めていかなる介入も無効である。

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・ 悪液質の早期介入の指標として、5%以上の体重減少、食事摂取量低下、炎症反応高値が推奨される。

・ がん悪液質の管理は、リスクのあるがん患者に対して、腫瘍専門医、主治医(かかりつけ医)、専門看護師、作業療法士、栄養士などの医療チームが常に繰り返し再評価することが重要である。このチームの目的は、できるだけ早くがん悪液質を認識し、腫瘍の進行とともに悪液質を減衰するための予防である。

・ 残念ながら、進行した悪液質の段階では、栄養療法も含めていかなる介入も無効である。

・ 悪液質の早期介入の指標として、5%以上の体重減少、食事摂取量低下、炎症反応高値が推奨される。

✓ がん悪液質の病態、ステージを理解し、「pre-cachexia」の状態で早期の栄養的介入により、栄養不良の進展を抑制し、抗がん治療への耐容性の向上をはかる。

✓ 「refractory cachexia」は、栄養状態の改善は困難であり、QOLの維持を目的として過剰な輸液を回避し、時には栄養療法を断念する判断も必要となる。

✓ がんによる悪液質は、がんの進行をコントロールできない限り進行性の経過をとる。現在、がん悪液質に伴う低栄養を栄養療法単独で回復させることは困難であるが、栄養指導や軽い運動療法、メンタルサポート、抗炎
症療法などを早期から集学的に多職種で行うことでQOLの向上が期待できる。

<悪液質の薬物治療>

食欲刺激剤

重度食欲不振または早期の満腹感を訴えるがん患者に有用。高用量プロゲステロン製剤としてmegestrol酢酸(ヒスロン®)やヒドロキシプロゲステロンなどは、食欲不振の患者の約70%を改善し、炎症サイトカインの活性低下に作用する。ただし、主観的な食思不振の改善にもかかわらず、食事摂取量および体重増加を実際示すのは約20%のみ。

問題点:

① 体重増加は浮腫や脂肪沈着のためで、アンドロゲンのレベルを減らすことによって骨格筋量を減らす可能性がある。このため、活動性を含めたADLの改善には寄与しない理由がある。

② 適切な投与量が不明

③ 血栓症などの副作用の頻度が高く重篤。

* ステロイド製剤(食欲増進、QOL改善、疼痛軽減の可能性)

プレドニンゾロン 10mg/日

メチルプレドニゾロン 32-125mg/日

デキサメタゾン 3-8mg/日

2~4週間以内の短期使用に限る(効果が減弱、さらにミオパチー、骨粗鬆症、免疫低下、消化性潰瘍、心血管障害のリスク)

骨格筋異化(炎症性サイトカイン)の阻害

COX阻害剤(NSAIDs、アセトアミノフェン)、ペントキシフィリン、サリドマイド、メラトニン、スタチン製剤、ACE阻害抗薬サイトカイン抗体(抗TNFα抗体、抗IL-6抗体など) *感染症(特に、結核などの日和見感染)に気をつける

抗炎症性サイトカイン(IL 12、IL 15)

プロテアソーム阻害剤(EPA、ボルテゾミブなど)

・ 非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDS)の消化性潰瘍予防と組み合わせてのがん患者への使用は、生存期間の延長、全身性炎症を軽減し、体脂肪量を保持する。ステロイドと併用して、体重および筋肉量の増加を認めた報告もある。

・ Megestrol酢酸(ヒスロン®)と組み合わせて、イブプロフェンを重症の消化管がんの体重減少患者に投与するとより体重増加を促進する。

・ サリドマイドはTNF-α合成阻害に効果があり、一部のがんで体重増加や筋蛋白の増加、PALの向上あり。

・ Cannabinoids(マリファナ)には、食欲増進や気分障害、疼痛の改善効果があるとされているが、副作用が強く、ひすろん®とひかくしても効果にはあまり差がない。

・ EPAは、魚の油の自然のオメガ3系脂肪酸成分は炎症サイトカインの活性を低下させ、腫瘍放出因子(PIFなど) をブロックし抗癌剤と相乗的効果があるとされている。EPA は、魚オイルのカプセルとして(エパデール®)、または高蛋白質とカロリーの経口 (Prosure ®) を提供することが可能。この組み合わせは栄養不良への進行を止め、PALの向上に効果があるとされていた。エビデンス的には、膵がんと上部消化管がん患者への投与の大規模試験で唯一、LBMの増加に効果を認めたのみ。        1.5g/日 8週間以上      出血性副作用に注意

・ Cochrane review の結論では、EPAはがん悪液質には推奨されない。高容量の投与で、嘔気の副作用あり。

・ EPAは、NFκβを抑制して、炎症性サイトカインの産生を減少させる。また、直接PIFもブロックする。

・ β-Hydroxy-β-methylbutyrate(HMB)は、EPA同様にユビキチン依存性経路の蛋白異化を抑制。

・ 心臓悪液質の研究では、うっ血性心不全で体重減少を認める患者にアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬 (例えばエナラプリル、レニベース®) およびβ-ブロッカー(カルベジ ロール、アーチスト®)投与することで体重減少予防効果がある。

骨格筋同化の促進

・ 蛋白同化アンドロゲンステロイド(AAS)投与は、骨格筋のアンドロゲンレセプターのmRNA発現が増加し、アミノ酸の細胞内利用を促進し、骨格筋の蛋白合成を刺激して骨格筋量を増加させる。テストステロン、デカン酸ナンドロロンなどが、重度の熱傷、HIV感染症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・性腺機能低下症によるサルコペニアなどの異化亢進状態に有用とされる。

・ 成長ホルモン(GH)/インスリン様成長因子(IGF)-1は、集中治療患者の投与において合併症発生率および死亡率が増加したため、使用が推奨されていない。さらに、がん患者においては、腫瘍の成長を刺激する可能性がある。

その他

・ 胃蠕動促進薬(メトクロピラミドなど)は、胃機能は促進するが食欲増進にはあまり結びつかない。早期満腹感や嘔気、胃酸逆流などには有効。

・ グレリン投与によって悪液質が改善する可能性あるが、腫瘍も増殖する可能性が指摘されている。漢方薬の六君子湯にグレリン抵抗性の改善作用あり。

BCAAは食欲不振をもたらすセロトニンの作用を軽減する。さらに、筋蛋白維持効果も期待される。

<その他の治療>

・ 強制栄養(EN、TPN)が経口摂取に比較して生存率に貢献したエビデンスはない。

・ 早期から他職種医療チームでの介入は有効。

・ がん悪液質患者は、健常者に比較して有意に活動性が低下している。

・ プログラム、ウォーキングなどの運動が、筋肉量の維持と患者疲労感の改善に有効。

・ 疲労感は、心理社会的サポートを増やし、患者のストレスレベルを低下させることで、さらに削減できる。

・ 貧血の存在下での疲労が発生した場合は、ヒト・エリスロポエチン(rhEPO)治療が有益なことがある。ただし、腫瘍の進行に対するEPOの影響が危惧される。

・ 悪液質は、可能な限り患者さんのQOLを改善するため、吐き気や嘔吐などに適正に対処し、早期の満腹感には胃運動促進剤によって緩和することができる。便秘や疼痛コントロールに真摯に取り組み、メンタルサポートの機会をおしまない。

がん悪液質のまとめ その1

癌悪液質について
(ESPEN LLL Topic 26 Nutrition support in cancer 2012 ESPEN Guidelines for Non-surgical oncology Enteral 2006 & Parenteral 2009 nutrition Clinical practice guidelines on cancer cachexia in advanced cancer patients with afocuson refractory cachexia 2011より)

がん特有の栄養不良の病態(安静時エネルギー消費量の増大、骨格筋の著明な減少、炎症反応の持続など)は、サトカインや腫瘍由来物質産生の関与が証明されており、栄養不良をより早期に発見し、適切に対応していくことが患者のQOLの改善につながる。ただし、その効果は難治性悪液質を合併するまでである。

そのために必要なことは、以下である。

✓ がん栄養不良の病態を知り、進行度を評価できる。

✓ 患者の適切な予後評価ができる。

✓ がん栄養不良の病態を多方面から多職種によるチームで 対応する。

癌悪液質のまとめ

がん悪液質は、まだ完全には理解されていない臨床症候群である。

・ 筋肉量喪失、エネルギー必要量増大と代謝障害は、一般的にみられる。

・ がん悪液質は、身体的な、徴候的な、代謝性および腫瘍関連の因子の多彩な影響がある。

・ 悪液質には、患者のQOLと生存に悪影響を及ぼす。

・ がん患者の死因の約20%は悪液質が関係するとされる。

・ がん患者の治療のために、チーム・アプローチとして栄養の統合の必要を示すエビデンスがある。
1. がん悪液質の定義

・ 癌患者は、PEMまたは悪液質に移行するかもしれない栄養不良を合併している。

がん悪液質とは、従来の栄養療法で完全に改善することは困難な継続する筋肉量の減少と(脂肪量の減少の有無に関わらず)、進行性の機能障害につながる多因子複合的な栄養不良症候群である。病態生理学的には、栄養摂取量の減少と代謝異常によって、タンパク質及びエネルギーは負の平衡状態となる。By Kenneth
Fearon 2011

・ がん悪液質の可能性は1932年から1972年にかけて研究され、1980、90年代にがん患者の8~84%(発生部位に応じて)存在することが証明されている。しかし、悪液質の病態は、解明されていない。

・ 従来、悪液質は飢餓から内臓蛋白を温存するストレスへの生理的代償反応と思われていたが、その反応には限界がある。筋蛋白の喪失により、動けなくなり機能低下をきたすためである。

・ 体重の10%以上の減少は、患者のQOLと予後を低下させ、すなわち体重減少の重症度ががん患者の死亡率、合併症率と相関する。癌患者のうち、手術75%、放射線治療57%、化学療法患者51%、一般の癌患者の80%が体重減少を認めている。解剖学的な発生臓器以外にも、癌の悪性度(進行ステージ、病理学的悪性度)や抗癌治療(放射線治療、化学療法、手術)、年齢、精神サポートも体重減少にかかわる因子である。

・ 食欲低下は、がん患者の15~40%にみられ、終末期では80%に達するとされる。
<がん悪液質とサイトカインおよび腫瘍放出因子>

・ 食思不振が最大のがん患者の消耗(悪液質)の原因。

・ 頭頸部、消化管癌患者は食事によって何らかの症状をきたし、食事をためらうようになる(food aversion)。これは、がんの診断前も含めて、癌の進行度に関係なく発症する。

・ 食事量の低下は、食事刺激の中枢への働きかけの低下、化学的感覚器の異常(味覚異常、嗅覚異常)、上部消化管の運動低下(早期の満腹感、嘔気、嘔吐)、遠位消化管の蠕動異常(下痢、便秘)によっても誘発される。さらに、メンタル面の不安定からも起こる。

・ 悪液質は、食思不振に合併することが多いが、必ずしも食思不振と食事摂取量の低下から発生するとは限らない。

・ 悪液質の消耗には以下の血液循環する因子が考えられている。サイトカインよりは腫瘍崩壊因子の方がエビデンスは強い

1)宿主産生・・・TNF-α、IL-1IL-6IFNγ、LIFleukemia inhibitory factor

2)腫瘍産生・・・LMFlipid mobilizing factor)→脂肪組織、PIFproteolysis-inducting factor)→骨格筋

これらの因子は協働しており、悪液質の進行に関与するサイトカインの産生に循環因子が関与している可能性がある。

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<急性期反応>
・ 急性期反応(APR)は、組織損傷、感染または炎症に反応してさまざまな生理的および代謝的な変化のことを言う。

・ APRでは、 肝臓タンパク質合成は、アルブミンの合成から急性期蛋白(例えばC反応性蛋白(CRP)、血清アミロイド-A蛋白質、β2-マクログロブリンとα-1-抗トリプシン)にシフトする。

・ 肺癌、膵癌、メラノーマの患者は、APRから早急な体重減少をきたすことが知られており、腎癌、膵癌、大腸癌ではAPRをきたした場合には予後不良である。

APRの重症度はサイトカイン(IL-6TNFα)と相関し、体重減少の重症度や予後とも相関する。また、PIFNF-κβの転写を促進し、その結果炎症性サイトカインであるIL-8IL-6CRPを増加させ、トランスフェリンを減らす。

・ APRに加えて、IL-6の仲間であるCNTF(ciliary neurotrophic factor)が食思不振と体重減少に作用している。

<代謝亢進>

・ がん患者の48%でREEは亢進している。

・ 体重減少は、減少したエネルギー摂取、さらなるエネルギー消費または両方とものため起こる。摂食障害はすでに診断時に癌患者に普通にみられる。

・ がん質の患者は、栄養相談や静脈栄養を駆使しても、体重増加は一時的かつみかけ上であり、そのほとんどは水分と脂肪である。同様の減少は、ヒスロンなどのエストロゲン製剤(megestrol acetate medroxyprogesterone acetate)などの炎症性サトカインを失活させる薬剤でもおこる。

・ 飢餓の代償

カロリー摂取不足は、脂肪の減少はきたすが、しばらく骨格筋は維持される。

飢餓の最初は、グルコースは肝および筋蛋白の貯蔵から、脳・赤血球のエネルギー源として利用され、そのグルコースは主に乳酸及び筋の糖原性アミノ酸は肝臓で生成される。

飢餓が長期化するとケトン体や脂肪酸の代謝産物を使用して、グリコーゲンと筋蛋白の使用を控えるようになる。

・ 悪液質の患者は骨格筋と脂肪は同じように減少する。骨格筋の一部を優先的に消耗することで、内臓蛋白の減少を予防しているが、全体重の30%以上の減少では耐えられない。

<糖質代謝とエネルギー消費>
・ 糖質代謝で最も特徴的な変化は、糖新生↑とグルコース異化↑とインシュリン感受性がたもたれているのにインシュリンの機能が低下していることにある。このインシュリン機能不全によって、末梢組織でのスルコースの利用と糖耐性(血糖の安定化)が困難となり、SIRSと同じようにTNFαの作用でみられる。これらの変化は病気またはがんとは無関係な体重減少と対照をなす。

・ 膵癌、肺癌の患者は体重減少にもかかわらずREE↑であり(胃癌、大腸癌ではない)、普通は食事量が減少して体重減少し、その結果REEは低下するので、悪液質の進行において特異な状況である。

・ 消化管癌で体重減少した患者では、REEは増加していないにも関わらず、骨格筋のUCP-3mRNA(Mitochondrial
uncoupling protein-3)が5倍健常者や体重減少のない癌患者に比べて発現していた。

UCP-2、-3は、脱神経による筋委縮や運動などの筋蛋白の異化刺激で筋肉内に発現することが知られている。

UCP-3mRNAは、非常に低カロリーの食事によって脂肪組織内での発現が減少し、エネルギー消費を抑える役目をしていることが判明している。

従って、REEの上昇が起きないメカニズムに、UCP-3mRNAが一役買っていることが示唆されている。

・ 増加したUCP-3mRNAは、脂肪酸、トリグリセリドとコレステロールを二倍に増加させた。ニコチン酸による高脂血症の減少には、筋肉のUCP-3の発現を減らさなかった。これは、循環する脂肪酸が癌悪液質の間、好気的な筋肉でUCP-3遺伝子発現の調節に関与している可能性があることを示唆する。

・  悪液質はTNF-αの影響を受けていると考えられており、実際にTNF-α(100μg/kg)の一回の静脈注射の投与を受けたラットは骨格筋のUCP-2とUCP-3の有意の増加を示した。これは、LMFTNF-αが悪液質癌患者の骨格筋でUCP-3 mRNAを上昇させ、これらの血清脂質の上昇の原因となることを示唆する

・ 腫瘍が産生する大量の乳酸を肝臓のCori cycleでブドウ糖にリサイクルするために、大量の熱量が消費されることも関与している。

<蛋白質代謝と骨格筋>

・ 悪液質は、全体重の約30%が減少すると、骨格筋が75%まで減少するので、それは死に直結する窒素死と呼ばれる。骨格筋の喪失は、蛋白合成能の低下と筋蛋白の崩壊の証明である。この結果引き起こされる蛋白質の濃縮は、BCAAは維持されるが糖原性アミノ酸の減少を招く。筋蛋白の崩壊では、アラニンとグルタミンの放出をおこし、アラニンは肝臓における糖新生とAPRを促し、グルタミンはエネルギーと窒素補給のため腫瘍に取り込まれていく。

・ ヘキソキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼとチトクロームc-オキシダーゼの活動が癌患者の骨格筋で有意により低いとわかったが、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼの活性は有意により高い。これらはエネルギー産生を障害し筋力低下につながる。

・ 体重減少した癌患者でも、体全体の蛋白合成能は、APR2倍に亢進するので保たれる。しかし、骨格筋の蛋白合成は全体の8%と健常人に比較して明らかに減少している。癌患者の蛋白合成能は、明らかに亢進しており、ターンオーバーも早くなっている。これはATPユビキチン依存性蛋白質分解経路による細胞内蛋白質の異化によるところが大きい。TNFα、IL-1、IFNγはこれらの反応を促進するが、LIF,IL-6にはそのような作用はない。直接効果が証明されたのはTNFαのみであり、蛋白異化の促進にはTNFαが重要

・ サルコペニアの癌患者は、化学療法の副作用のハイリスクであり、減量や治療延期を考慮すること。

・ 骨格筋の蛋白異化には、リボソーム経路、カルシウム調節性カルパイン経路、ATPユビキチン依存性経路があるが、悪液質ではユビキチン経路が最も重要である。炎症性サイトカインが、MuRF1muscle
ring-finger 1
Atrogin-1muscle
atrophy F box
:MAFbx)を誘導し、骨格筋を萎縮させる。MuRF1はNFκβ経路が、Atroginn-1はphosphatidylinositol-3 kinase(PI3K)/Art経路を阻害して誘導される。IGF-1はPI3K/Art経路の活性化により、骨格筋の萎縮の予防効果がある。

・ PIFはユビキチン依存性経路を活性化する。

・ 筋細胞の細胞骨格構成分子であるdystrophin glycoprotein complexDGCは、過剰発現にて悪液質の予防が期待される。すなわち、DGCの減少は悪液質をきたしている可能性がある。

・ 悪液質における蛋白合成能低下は、アミノ酸プールの不均衡、肝臓でのAPR蛋白合成増加、ミオシン発現の低下(MyoDの低下)、myostatinの増加、インスリン抵抗性、IGF-低下などの因子が考えられる。

・腫瘍はその過剰な増殖により低酸素状態となり、hypoxia-inducible factor 1(HIF-1)が増加し、糖輸送因子であるglucose transporter-1,3(GLUT-1,3)が発現し、腫瘍内に糖の取り込みが増加する。

<脂質代謝と脂肪組織>

・ 癌患者では、脂肪組織は大きなエネルギー源であり、著明に減少していることが多い。悪液質患者では、脂肪分解の亢進と脂肪合成の低下によって85%の脂肪組織が喪失していることもある。

・ 以下の因子による脂肪分解、脂肪酸の流出↑

TNFα、LMfによる脂肪分解↑

TNFα、IL-1による脂肪合成↓

TNFα、IL-6IFNγ、LIFによるLPL活性↓

・ 癌患者は脂肪代謝が亢進しており、特にグリセロールと脂肪酸の代謝が亢進していて、体重減少の前から見られることも多い。CTでは腹腔内死亡は比較的保たれている。

・ 脂肪酸の増加は、βアドレナリン・レセプターの活性化により、βブロッカーにてエネルギー消費量、組織酸素代謝、CO2産生も抑制できる。

TNFαはMEKmitogen-activated protein kinase)とERKextracellular signal-related kinase)を介してcyclicAMOを上昇させて脂肪分解を亢進させる。

LMFadenylate cyclate in a GTP-dependent processと協働で脂肪分解を促進させる。

<がんの進行の影響>

・ 癌患者の体重減少を予防するには、多方面からのアプローチが重要であり、免疫力低下や感染症、術後合併症が発生、医療補の増大につながるので注意が必要である。

・ 倦怠感や無気力も日常生活の低下につながり、メンタル面からも栄養不良は増悪する。さらに、微量元素欠乏でも同様の症状がみられるので、注意が必要。


2. がんと摂食障害

・ がん悪液質は、独立した予後不良因子でQOLを低下させることは臨床的に明白である。
・ がん悪液質の存在は、質的に、そして、量的に評価されなければならない。

・ 腫瘍によって誘発された神経炎症因子は、主として癌悪液質の病因に関与する。

・ がん関連の摂食障害と消耗している組織は、エネルギー・ホメオスターシスを制御している脳域を含んだ病原性経路を共有する可能性がある。

・ 癌悪液質は、食思不振による重症栄養障害、末梢組織で野筋蛋白の崩壊を代謝異常によって引き起こされる適度かつ持続的な全身炎症反応の臨床症状である。

・ エネルギー・ホメオスターシスを調整している視床下部の特殊領域の活動を含むいくつかの病原性経路を理解しておく必要がある。
<がんによる摂食障害>

・ 悪液質は、炎症によって引き起こされた体内外で発生した障害を伴う生理的反応である。すなわち、急病または外傷によって引き出される臓器を治癒し回復させるための行動および代謝的な変容のことである。しかしながら、慢性疾患(がんを含む)では、悪液質はエネルギー摂取や代謝に持続的に影響するため、タンパク質とエネルギー貯蔵を減少させて、合併症のリスクを増して、結局死亡を増加させる。

・ 悪液質の主要な特徴のうちの1つに、減少した食物摂取(すなわち摂食障害)の進行がある。摂食障害の臨床的意義は、入院患者の死亡のリスク増加で、特に癌患者で強調される。また、摂食障害は生活の質に影響を与える。

・ 食物摂取の減少が癌患者のQOLを決定する因子である。

・ 癌患者の約50%は診断時に何らかの食事行動の変容を訴えている。

・ 癌終末期の患者の60%は食思不振を患っているが、それまでの治療の副作用で合併していることも多い。

・ 摂食障害と代謝変容は同じ神経化学物質/代謝障害の徴候を表現していることに注意する。

・ 診断用ツール

・ 食思不振の診断ツールとして、visual analogueや摂取エネルギー測定やアンケートなどがあるが、どれも質的・量的評価には問題がある。

ESPENは、AC/S-12FAACT)を推奨し、24以下は食思不振の十分な診断となる。
<がん摂食障害の病因>

・ 生理的状況の下で、エネルギー摂取と体重は、視床下部によって調整される。視床下部は末梢組織から生じている神経、代謝的なおよび、ホルモンの信号を集積する。そして、それはエネルギー貯蔵の状態に関する情報を伝達する。 視床下部(ヒトにおける漏斗核)の弓状核は、これらの入力をニューロン反応に変換している特定のニューロン集団を含む、そして、第2経路を経て、行動および代謝反応に、ニューロン信号を送っている。

癌の食思不振は、形質導入プロセスにおけるエラーまたは第2の神経命令シグナル経路からの変性からの防御的末梢シグナルによる結果からかもしれない。

<メラノコルチン系>

・ 視床の弓状核には、食事摂取やエネルギー消費に関する2つのニューロンが存在する。

・ その1つは、プロオピオメラノコルチン(POMCで、POMCは生物活性を持たなくて、より小さい生物学的に活性ペプチドであるメラノコルチンになる。メラノコルチンは、αメラニン細胞刺激ホルモン(α-MSHのもとであり、その生物学的効果は特異的な受容体であるメラノコルチン-4-受容体(MC4Rによって媒介され、食欲不振のおよび異化作用のエネルギーバランスを調節する。

・ 神経単位の第2は、ニューロペプチドY(NPY)とアグーチ関連タンパク質(AgRPを表す。AgRPは、α-MSHの作用においてMC4Rの内因性の拮抗剤である。これは、2つのニューロン・サブセットの相互的な関係を示す。

・ 過剰なエネルギーの状態では、POMCは起動され、次々にMC4Rを活性化して、メラノコルチンの放出を誘発する。そして、メラノコルチンは食物摂取の抑制とエネルギー消費の増加を刺激する。同時に、弓形AgRP/NPYの活動は停止する。対照的に、エネルギーが減少すると、食欲不振誘発性POMC神経単位の活動は減少する、しかし、NPY/AgRP神経単位の活動は増加する。

・ がん悪液質は、末梢信号に対する視床下部の抵抗によって特徴づけられる。これは、POMC神経単位の持続的な活性化によって媒介される。がんの実験モデルにおいて、MC4Rノックアウト・ラットは、食物摂取の減少と除脂肪体重の損失に抵抗する。悪液質動物におけるAgRPの投与は、食思不振を改善して、身体組成を改善する。 これは、NPY/AgRP神経単位の減少した活動と並行してPOMC/CART神経単位の活性化過剰が悪液質の本体であることを示唆する。

<炎症性サイトカインの役割>

・ 炎症性サイトカインは、特にIL-1TNF-αが癌食思不振の病因とされる。摂食障害の腫瘍をもったラットにおいて、視床下部IL-1 mRNA発現は、有意に増加したである。 また、IL-1受容体拮抗剤の内部視床下部注射が同じ実験モデルで摂食障害を改善する間、食欲不振の腫瘍をもったラットの脳脊髄液のIL-1集中は増加して、反対にエネルギー摂取と相関する。

<視床下部セロトニン作動性の活性>

・ 視床下部で、セロトニンは生理的状態の下で満腹を調節する。

・ がん患者では、IL-1のさらなる視床下部での表出とセロトニンのさらなる放出が起こっている。

・ BCAAは食欲不振をもたらすセロトニンの作用を軽減する。

<自律神経系の役割>

・ 悪液質と迷走神経(自律神経)が関連しており、炎症性サイトカインが介入している。

<視床下部脂肪酸酸化(エネルギー信号)の役割>

・ 視床下部脂肪酸代謝は、食物摂取とエネルギー代謝の変調に貢献する。視床下部マロニル補酵素A(CoA)は脂肪酸合成酵素(FAS)の基質である、高い内部視床下部マロニル‐CoAは脂肪酸酸化を阻害することによって摂食障害を誘発するが、低レベルは食物摂取を引き出す。

カルニチンは、この脂肪酸酸化に対する効果を強化している

<その他の内分泌系>

・ 悪液質では、グレリは上昇(50%~80%) 、レプチンは低下傾向。 グレリンは空腹時に胃より分泌され、摂食を促進し、エネルギー消費を抑制してエネルギーバランスを保つように末梢より、液性、神経性に脳内へシグナル伝達される。視床下部のNPY/AgRP蛋白の発現と分泌を増加させることで、コントロールしている。また、下垂体前葉において、成長ホルモンの発現と分泌、さらには間接的にIGF-1の肝での発現と分泌も促進する。

①成長ホルモン、IGF-1の分泌促進、②摂食亢進、③エネルギー消費抑制、④胃酸分泌、胃蠕動促進、⑤炎症性サイトカインの抑制、抗炎症作用⑥脂肪蓄積、分解抑制、⑦筋蛋白の同化促進、異化抑制、⑧血圧上昇、心拍出量増加、⑨空腹時血糖維持

・ レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、視床下部を通して強力な摂食抑制とエネルギー消費亢進により、体重減少を促進する。レプチンは視床下部でPOMC神経を刺激して摂食抑制。