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口腔ケアと全身疾患

今こそ、医科歯科連携を!―医療現場における栄養改革と歯科的介入の重要性、全身疾患に関連した口腔内病変―

 はじめに

米国のオバマ大統領の「チェンジ」というフレーズは、日本国民にも刺激的に受け取られ、政界をはじめ、あらゆる業界にも変革の動きが広がろうとしています。医療業界も国民医療費の増大や高齢者医療費などの問題が山積しており、新たな試みが行われています。今回の診療報酬改定においても、多職種からなる効率的なチーム医療を推進、評価する検討が行われています。患者のためを一番に考えた医療において、歯科も加わった多職種協同の取り組みの重要性が注目されています。

医療現場における栄養改革

NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)は、1998年に三重県の鈴鹿中央総合病院の東口髙志氏(現藤田保健衛生大学外科学・緩和ケア講座教授)が始めて日本に導入しました。NSTとは栄養治療に実績のある医師を中心として、看護師や栄養士、薬剤師、理学療法士、言語聴覚士などの多職種が1つのチームを結成して、それぞれの専門知識を出し合って患者の栄養管理を行うシステムです。日本には、患者個々の栄養を専門に管理するシステムがなかったので、NSTの誕生で患者の回復が早くなり、手術の合併症が減少するなど、様々な効果が生まれました。現在では、その治療効率の改善から病院の経営的側面にも欠かせない要素となり、約1300の病院(日本全国の病院の約7分の1)でNSTが活動しています。2006年4月からは「栄養管理実施加算」が診療報酬として認可され、入院時に全ての患者に対してチームとして栄養管理に関わり、管理栄養士を中心に栄養管理計画書を作成して実施、評価していくことが評価されました。実は、病院における栄養管理の評価の前に、2005年10月に介護保険として「栄養管理体制加算」「栄養マネジメント加算」「経口移行加算」などが導入されており、国は予防介護の側面からも栄養管理の充実を求めています。

このように、NST活動が中心となって医療・介護現場における栄養改革が行われましたが、ここに一つ重要なキーワードがあります。それはただ患者が何らかの強制的栄養管理(例えば、点滴や胃瘻栄養など)を受けるだけではなく、食べ物がうまくのみこめない、または誤嚥性肺炎を繰り返すような高齢者や脳神経疾患の患者に積極的に「食べて治す」という道を提供することです。NSTでは、この「食べて治す」ということを非常に大切に考えており、重症の患者さん(Activities of Daily Living)の向上も優先しているのです。現在は、急性期医療を提供する病院からできるだけ早く嚥下評価やリハビリテーション、適切な栄養管理計画を実践していくことが推奨され、その流れで在宅や介護のスタッフに栄養管理を継続する地域システムが求められています。このように、疾病の予防や治療のみに偏りがちであった医療の現場に、「栄養管理は全ての治療の基本である」というコンセプトのもとに、多職種からなる栄養ケアマネジメントと、患者個々のADLの向上を目的とした管理システムが加わったのです。

 ここで、「食べて治す」ために欠かせないのが、口腔ケアおよび歯科的介入になるのです。口腔ケアは、口腔の疾病予防、健康の保持・増進、リハビリテーションなどによる患者のADLの向上を目指した看護や介助を意味し、その中には口腔疾患の治療および管理、予防処置だけでなく、簡単な嚥下訓練や誤嚥予防なども含まれます。実際の口腔ケアには、本人や家族の方ができる簡単なものから、訓練された看護師や介護者が行えるもの、歯科衛生士や歯科医師の専門的な治療を要するものまでいろいろあります。歯科のない当院でも、口腔ケアや食事介助マニュアルなどを作成し、言語聴覚士を中心にスタッフに指導しています。しかし、やはり歯科医師による専門的治療が必要なことが多く、当院では近隣の歯科開業医に週2回の定期往診をお願いしています。また、その歯科医師が口腔ケアにも精通していたので、スタッフへの指導や地域連携にも関与し、NST活動として非常に重要な役割を果たしてもらっています。

   医療現場における歯科参加の意義

現在では口腔外科や歯科がある大病院が増加していますが、必ずしも入院患者、施設入所患者が常に歯科的介入が可能な環境にあるとは限りません。しかし、医療現場では前述した口腔ケアや口腔内の問題点の解決も含めて、様々な場面で歯科医師との連携(医科歯科連携)が必要な事例が増加しています。

<がん治療>

①緩和ケアにおける口腔内乾燥の予防・治療

②化学療法や放射線治療による口内炎、口腔内カンジダ症などの治療

③骨粗鬆症や悪性腫瘍が原因の高カルシウム血症に使用するビスホスホネート製剤による顎骨壊死の予防・治療

<生活習慣病>

④糖尿病患者の歯周病治療(歯周病が血糖コントロールを悪化させる可能性)

⑤動脈硬化、感染性心内膜炎、腎炎の予防としての歯周病治療

<重症疾患・手術関連>

⑥大手術後(特に食道・頭頸部疾患手術後)の合併症として肺炎、創部感染、縫合不全などの予防としての口腔ケア

⑦誤嚥性肺炎および人工呼吸器関連肺炎(VAP:Ventilator Associated Pneumonia)の予防・治療としての口腔ケア

⑧胃・十二指腸潰瘍や胃癌などの原因と言われているヘリコバクター・ピロリ菌に対する歯周病治療

<栄養管理・高齢者関連>

⑧認知症予防、高齢者の自立支援としての口腔ケアと歯科治療

⑨骨粗鬆症と歯周病の関連性

⑩PEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、経皮的内視鏡的胃瘻造設術)の合併症の予防としての口腔ケア

<その他>

⑪睡眠時無呼吸症候群の治療

⑫妊婦の歯周病治療(早産、低出生体重児の予防)

⑬歯科材料による金属アレルギーの治療

⑭歯性病巣感染、扁桃病巣感染による皮膚炎・皮疹の診断・治療

⑮原因不明の発熱、菌血症の診断・治療

 これらのなかには、まだ検討段階でエビデンスとまで言えない事例もありますが、このような事例を通しての医科歯科連携は患者にとって非常に有用です。

 特に、当院では口腔ケアを入院患者に徹底することで、誤嚥性肺炎が発生しても重症化して死亡する患者が減少し、ICUにおける口腔ケアの重視が人工呼吸器合併肺炎の減少にも効果を認めています。このように、病院の安全管理や感染対策においても歯科的介入は欠かせない要素となっており、歯科医師または歯科衛生士の関与が大変重要であると考えています。

医科歯科連携とは・・・

このように、医療現場における栄養改革において積極的に口腔機能の改善が図られるようになり、患者の予後やADLの改善に歯科的介入が有効とされています。また、全身疾患と歯科領域疾患との関連性に関するエビデンスの検証も報告されており、医科歯科連携が重症入院患者や高齢者だけでなく生活習慣病対策としても重要と考えられるようになっています。今後は、医師―歯科医師がお互いに知識と情報を共有し合い、互いに顔の見える連携が重要だと考えます。また、これらの連携は関係多職種を巻き込んで、病院や医院に限らず在宅や施設など地域へ広げていくことも重要であり、そのような取り組みも各地で行われはじめています。

栄養管理における口腔ケアのエビデンス

栄養管理における口腔ケアの効果

1. 高齢者に対する口腔ケア・歯科治療の必要性について

咀嚼能力がQOL向上に寄与している

バランス能力、ステッピング、脚力に口腔健康状態(特に咬合支持)が関連


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咀嚼能力と最も強い関連を示した要因は現在歯数であり、20歯以上群では「全部噛める」と回答した者の割合が無菌顎者よりも約4倍高いことが確認された。また、今回の分析の結果、唾液分泌が低下している者では咀嚼能力が低い傾向にあることが認められた。フェイススケールによるQOL評価と咀嚼能力の関連が他の諸要因から独立して有意であったことは、咀嚼能力がQOL向上に寄与していることを示唆するものである。したがって、今回の分析結果は、「よく噛めることはQOLを高めている」ことを実証したものといえる。

体力測定項目については、バランス能力(開眼片足立ち)、敏捷性(ステッピング)、脚力(脚伸展パワー)が口腔健康状態と有意な関連を持つことが示された。このうち、バランス能力と口腔の関連については、咬合支持の得られない顎口腔系の状態が平衡機能を障害し、姿勢制御機構に何らかの悪影響を及ぼしていることが推測され、口腔健康状態を良好に保つことが高齢者の転倒防止につながる可能性を示唆していると考えられる。

厚生科学研究 「8020データバンク調査」 1997-1998

2. 口腔ケアによる肺炎の予防と認知機能、ADLの改善

4ヶ月後の「食べこぼし」患者の割合が減少

2年間の発熱発生者、肺炎発生者、肺炎による死亡者および死亡率が減少

2年後の認知機能(MMS)の低下を予防


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米山武義ら 日歯医学会誌20:58-68 2001

3. 歯科治療にてADL向上

要介護高齢者の食事や更衣などのADLが向上


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才藤栄一 H14厚労省科研費補助金研究報告書:2003.3

4. ブラッシングを用いた口腔ケアにてADL改善

嚥下反射や咳反射を惹起し、嚥下機能とADLの改善効果を認めた


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Yoshino A et al JAMA286:2235-2236 2001

5. 栄養療法と口腔ケアを併施することで嚥下機能と栄養が改善

4ヶ月後に舌の押し付け圧と栄養状態(血清アルブミン値)が改善


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Kikutani T et al Gerodontology23:93-98 2006

6. 2年間の口腔ケアでADL向上

2年間週2、3回の口腔ケアで、歩行や家族との交流、集団行動が向上


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Ohsawa T et al The Bulletin Dental College 31-1:51-54 2003

7. PEG(経皮内視鏡的胃瘻)造設における口腔ケアの効果

術後の創部感染が激減し、早期から栄養投与が可能になった

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西山順博ら、消化器・がん・内視鏡ケア11:26-36 2006

瘻孔感染率が低下し、術後の発熱日数が減少、退院までの日数が減少


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成行稔子ら、地域医療44回特集:324-327 2005

8. 周術期管理における口腔ケアの効果

術前後の口腔ケアにより、術後の発熱の減少と術後在院日数が短縮

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大西徹郎ら 看護技術51:70-73 2005

食道がん患者で、術前後の口腔ケアで術後の誤嚥性肺炎の減少と経口摂取量が増加(859kcal→1184kcal)

さらに、縫合不全が減少し、術後在院日数が減少


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野原幹司ら デンタルハイジーン23:647-651 2003

頭頚部がん患者で、術前後の口腔ケアで、術後合併症の減少と経口摂取開始日数の短縮


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大田洋二郎ら 看護技術52:25-28 2006