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2012.01.10栄養学習会(抗体療法)

抗体療法とは・・・??

☆癌細胞に特有の細胞を標的にして抗体を産生し、その細胞のみを攻撃する代表的な治療法のこと。一般的な抗がん剤は、正常な細胞も攻撃してしまうことによって副作用の発現のリスクが高まるが、標的細胞のみの攻撃であれば、副作用が少なくてすむという利点もある。

抗体とは・・・人の体内で免疫細胞が作るたんぱく質のこと。免疫グロブリンから成り、特定の異物に特異的に結合し、その異物を体内から除去する役割を担っている。血中の抗体は異物と結合すると、貪食細胞であるマクロファージや好中球を活性化させ、異物を除去する。

※免疫グロブリン…別名γ-グロブリン。構造を変化させて多様な抗原に結合することができる抗原結合領域と、あまり変化のない定常領域から構成される。定常領域の構造の違いによってIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類に分類される。

IgG:血液中に多く存在し、唯一胎盤を通過できる。細菌や毒素と結合する能力が高く、生体防御を担う。

IgM:B細胞からすばやく作られ、感染の初期に働く

IgA:腸管や分泌物(母乳中など)に多く含まれ、鼻・目などの粘膜からの細菌の侵入を防ぐ。母子免疫に関与。

IgE:肥満細胞に結合してアレルギー反応を引き起こす

IgD:B細胞表面に存在し、抗体産生の誘導に関与

※貪食細胞…侵入してきた病原性の細菌や異物、細胞内の老廃物などを取り込み、消化して無毒化する細胞。

マクロファージ…白血球の1つで免疫システムの一部を担う細胞。生体内に侵入した細菌、ウイルス、死んだ細胞を捕食して消化する。

好中球…細胞質に顆粒を持つ白血球のうちの1つで、生体に侵入してくる病原性の細菌などに対する自己防御の最前線で働く。

働きは…

中和作用…抗体が異物の周囲を取り囲んで毒になる部分を覆い隠して中和する。細菌が作り出す毒素も中和。

オプソニン化…細菌や異物(抗原)を好中球やマクロファージが貪食しやすくする

細胞溶解…補体と共に膜侵襲複合体(補体の活性化によって、補体と抗体がドーナツ状に結合したもの)を作り、細菌などを攻撃する

炎症の誘発…IgEが肥満細胞に結合して抗原に反応することにより、ヒスタミン・ロイコトリエンなどが放出される。
☆異物と認識された特定の物質や分子、細胞や組織(物質や分子)のみに働く性質を利用したものが、抗体医薬品
☆通常の医薬品と何が違うの?

①    特異性・・・標的を狙って作られるため、標的以外に作用することがほとんどないため、副作用の発現が少ない。

②    生体内安定性・・・抗体はもともと血中に存在する物質。

③    毒性が低い・・・元々生体内に存在する物質のため、毒性の発現する可能性が低い。

④    最適な抗体を比較的簡単に得られる。

⑤    生産や精製法の共通が高い・・・世界的な標準はCHO細胞を使用する方法。
☆自己免疫疾患、がんとその関連疾患、心疾患、感染症や神経疾患などに対する薬が開発されている。

<自己免疫疾患>

☆関節リウマチに使う薬

インフリキシマブ…一般名レミケード。ヒトTNFαに対して特異的なマウス型モノクロナール抗体由来の可変領域と、ヒトIgGの定常領域を有するヒトとマウスのキメラモノクロナール抗体を遺伝子組み換え技術によって作成した、抗TNFαヒトモノクローナル抗体。<副作用>点滴投与中,あるいは点滴終了後2
時間以内に投与時反応と呼ばれる頭痛,潮紅,眩暈などの症状がしばしば出現する(infusion
reaction)。

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レミケードは、キメラ型モノクローナル抗体で、TNFαと結合する部位のみがマウスの蛋白質からなり、その他はヒト由来の蛋白で、遺伝子工学によって2種の蛋白を合体したものです。全体の25%がマウス蛋白なので、ヒトにとっては本来の体にはない異物と認識されるために、アレルギー反応がおこることがあります。このためアナフィラキシー(急性のアレルギー反応で血圧の低下やショック状態を起こす)と呼ばれる、生命にも関わる可能性がある強いアレルギー反応も、0.5%程度ですが、起こりえます。また連用しているとレミケードに対する抗体(抗キメラ抗体)ができて、効果がうすれてくることがしばしばあります。このアレルギー反応や抗キメラ抗体の産生を抑えるためにMTXと必ず併用します。したがって、MTXがどうしても服用できない患者様はレミケードも使用できません。

エンブレルは、TNF受容体という蛋白とヒトの免疫グロブリンという蛋白の一部を人工的につなぎ合わせたもので、すべてヒト蛋白でできています。マウス蛋白がないので抗キメラ抗体はできないため、MTXとの併用は必ずしも必要ではなく、単独でも使用できます。アナフィラキシーはほとんどありませんが、局所の発赤やかゆみなどの軽いアレルギー反応は多くみられ、時に全身のかゆみやじんましんなどの強いアレルギー反応や効果の減弱がみられます。MTXとの併用で、アレルギー反応も抑えられ、RAに対する効果も強くなることが知られていますので、できればMTXと併用で使用した方がよいでしょう。またレミケードと異なり、皮下注射で使用します。半減期(体内での薬の濃度が半分になる時間)が4日と短いため、1週間に2回の注射が必要で、多くは患者様自身がトレーニングを受けて自己注射で使用します。

ヒュミラはレミケードと同様のモノクローナル抗体製剤なので、エンブレルとは異なり、TNFβとは結合(中和)せず、TNF産生細胞上の膜型TNFαと結合し、その細胞を壊す作用があります。レミケードとの違いは、マウス蛋白を含まないことと、皮下注製剤であることです。このためMTXは併用不要で単独での使用が認められています。しかしマウス蛋白を含まなくても、中和抗体(抗アダリムマブ抗体)が欧米では17%、国内の治験では約40%の患者にみられたと言われており、効果の減弱やアレルギー反応がみられる可能性があります。したがって、他の製剤と同様にMTXとの併用が推奨されます。ヒュミラの投与方法は皮下注ですが、エンブレルと異なり半減期が長いため2週間に1回でよく、エンブレルの週2回と比較して使用しやすいと思います。注射した部位に発赤やかゆみなどが時々みられますが、通常軽度で、使用を継続することは可能です。

日本リウマチ財団のHPより引用

<がんと関連疾患>

☆血液がん

・リツキシマブ・・・リツキサン。B細胞表面のCD20を標的とするマウス・ヒトキメラ型モノクローナル抗体薬。補体依存細胞傷害反応や抗体依存性細胞傷害反応、およびアポトーシス誘導などによってCD20陽性細胞を傷害する。<副作用>投与中、特に開始から30分~2時間で発熱、悪寒などを生じることが多い(infusion reaction)。

☆乳がん

・トラスツマブ・・・ハーセプチン。抗HER2 ヒト化マウスモノクローナル抗体であり。癌細胞の細胞膜に存在するHER2と結合し、HER2の二量体形成阻害、HER2の下流のシグナル伝達阻害、抗体依存性細胞障害の惹起、HER2蛋白のendocytosisによる変性などの機序により細胞増殖を抑制すると考えられている。<副作用>投与中・投与開始24時間以内の発熱・悪寒などの反応(infusion reaction)や心毒性(EFの低下や心不全症状等)などが主にある。

☆大腸癌

・ベバシズマブ・・・アバスチン。抗VEGFヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、VEGFと結合することにより、VEGF受容体との結合を阻害して、シグナル伝達を遮断する。この結果、投与早期には未熟な腫瘍血管を退縮させることにより抗腫瘍効果を示す。続いて、残存腫瘍血管は正常化して間質圧が低下することにより、併用するcytotoxic agentsの腫瘍移行性を上昇させる。<副作用>消化管穿孔、出血、(動静脈)血栓塞栓症、創傷治癒遅延、高血圧、蛋白尿、infusion reactionなど

・セツキシマブ・・・アービタックス。EGFR(HER1/erbB1)に対するIgG1サブクラスのモノクローナルキメラ抗体。細胞表面に存在するEGFRのリガンド結合部位に,EGFと競合的に結合し、EGFRの活性化、二量体化を阻害する。また、細胞表面にあるEGFRを細胞内へ内在化させ、EGFRからのシグナル伝達が遮断され、癌細胞はアポトーシスに陥る。EGFRの発現強度はセツキシマブと相関しないことが分かっており、EGFR陰性大腸癌においてもセツキシマブの有効性が示されるようになった。<副作用>皮膚毒性、infusion reactionが多く、皮膚毒性は80%の症例で見られるが、皮膚毒性が治療効果と相関することがわかっているため、皮膚症状をコントロールすることが大事である。治療には、ステロイド軟膏、抗菌剤が有効。

・バニツムマブ・・・ベクティビックス。上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)に特異的かつ高親和性に結合し、リガンドのEGFR への結合を競合的に阻害することで腫瘍細胞の増殖を抑制する遺伝子組換え型のヒト型IgG2
モノクローナル抗体。<副作用>完全ヒト型のため、注射投与中又は投与後に現れる過敏反応の症状が少ない。

☆肺癌

ゲフィチニブ…イレッサ。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤。EGFRチロシンキナーゼの自己リン酸化を強力かつ選択的に阻害することにより、腫瘍細胞の増殖をもたらすシグナル伝達を抑制する。さらに、野生型EGFRよりも変異型EGFRに対してより低濃度で阻害作用を示し、アポトーシスを誘導することが知られている。<副作用>発疹、肝機能異常、下痢などが見られるが、重篤なものに、間質性肺炎・急性肺障害があり、早期の発見が必要。

エルロチニブ…タルセバ。EGFRを標的とした選択的チロシンキナーゼ阻害剤。EGFR 細胞内チロシンキナーゼ領域のATP 結合部位においてATP と競合的に拮抗することにより、癌細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導に基づいて抗腫瘍効果を示すと考えられている。<副作用>発疹、下痢、皮膚乾燥・掻痒感などの発現が報告されている。

☆腎細胞癌

ネクサバール…ソラフェニブ。腫瘍細胞の増殖に働くMAPキナーゼ経路を直接阻害する点に加え、血管新生に働くVEGF受容体、PDGF受容体活性を併せて阻害する。<副作用>手足症候群、急性肺障害、出血、肝機能障害、肝性脳症などの報告がある。肝細胞癌にも効果が認められている。

スーテント…スニチニブ。複数のRTK(受容体チロシンキナーゼ)をターゲットとする新規のキナーゼ阻害剤。<副作用>汎血球減少症、手足症候群、肝機能異常、食慾不振などが報告されている。

トーリセル…テムシロリムス。癌細胞の成長・増殖を調節するキナーゼである哺乳類のラパマイシン標的タンパク質(mammalian target of rapamycin:mTOR)を阻害することで、細胞周期の移行及び血管新生を抑制することにより、癌細胞の生存・増殖・転移を抑えるとともにアポトーシスを誘導すると考えられている。<副作用>発疹、口内炎、肝機能異常、コレステロールやTGの上昇、重篤なものとして、間質性肺疾患、血栓症やinfusion reactionなどが報告されている。

☆その他

グリベック…イマチニブ。CMLに対しては、Ph 染色体の異常遺伝子bcr-abl のチロシンキナーゼ活性を選択的に阻害する分子標的薬。KIT陽性消化管間質腫瘍に対しては、KIT(CD117)チロシンキナーゼ活性を選択的に阻害する分子標的薬。<副作用>好中球減少症、下痢、嘔気、浮腫などの報告がある。

※参考

名前の由来は・・・?

モノクロナール抗体(monoclonal antibody = mab)

o‐mab:マウス

xi‐mab:キメラ 可変領域はマウス由来であるが、その他の定常領域をヒト由来の免疫グロブリンに置換したもの    –Rituximab(リツキサン®) Cetuximab(アービタックス®)

zu‐mab:ヒト化 可変領域のうち、相補性決定領域がマウス由来で、その他の領域をヒト由来としたもの。免疫原性はキメラ抗体よりもさらに低減する

Trastuzumab(ハーセプチン®) Bevacizumab(アバスチン®)

umab:ヒト ヒト抗体遺伝子を導入したトランスゲニックマウスを用いて、完全なヒト型抗体としたもの  –Panitumumab(Vectibix)
特徴的な副作用は・・・?


☆  各種分子標的薬による治療が行われるようになり,それにつれて従来の薬疹とは対応の異なる皮膚障害が増加している。EGFR系阻害薬として,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬,抗EGFRモノクローナル抗体、マルチターゲット型チロシンキナーゼ阻害薬があり,以下のような皮膚障害のパターンをとることが知られている

瘡様皮疹:毛孔に一致した紅色の丘疹,黄色調の膿疱。通常細菌感染はなし。

脂漏性皮膚炎:脂漏部位に光沢を有する紅斑な鱗屑

皮膚乾燥(乾皮症):鱗屑が付着し,全身がかさかさな乾燥皮膚の状態

爪囲炎:指の爪甲周囲に紅斑や炎症を伴う色素沈着がみられ,陥入爪の好発部位に亀裂を生じる。進行すると腫脹や肉芽を形成する。

⑤ 掻痒症:

<治療>

☆  薬疹・中毒疹では、原因薬剤を中止することが原則であるとされているが、分子標的薬による皮膚障害では、皮膚障害が強いほど、癌の治療効果がよいと報告されているものもある。そのため,Grade 2 までの皮膚障害であれば、癌の治療をできるだけ継続しながら、皮膚の症状をコントロールすることが重要である。

☆  他にも、抗癌剤治療数週間後から四肢末端、とくに手掌・足底・爪に紅斑、色素沈着、腫脹、疼痛、ほてり、知覚過敏などがみられ、重症化すると水疱やびらんを伴い、落屑や皮膚亀裂などにより物がつかめない、歩行困難など日常生活に支障をきたすことがある症候群(手足症候群)が発現することがある。

☆  原因薬剤は、フッ化ピリミジン系(5-FU 系)抗癌剤の、特に持続点滴でしばしばみられ、カペシタビンでもその頻度が高い。ほかにもシタラビン、ドキソルビシン、メトトレキサート、エトポシド、ドセタキセルなどでみられる。

<推奨されるセルフケア>

1)   毎日シャワーを浴び石けんでよく洗い,肌を清潔に保つ

2)    低刺激性で香料,保存剤を含有しない石けんを使用する

3)    シャワーはぬるま湯で使用し,長いシャワー,熱いシャワーは避ける

4)    シャワーまたは入浴後の15分以内に保湿剤を乾燥している部位に使用する

5)    必要のないときは化粧をしない

6)    直射日光を避け,日光の遮断度の高い日焼け止めを使用する7)サイズの合った柔らかい歩きやすい靴を選ぶ

<生活指導>

☆手足の安静☆手足を挙上させたり,冷却する☆手袋の使用☆皮膚を清潔にし,乾燥を避ける。低刺激性石けんの使用☆過度の荷重や機械的刺激を避ける☆温度,圧力,摩擦を避ける☆手足をこすり合わせるような運動やジョギングなどの足底に負荷のかかるような運動は避ける☆きつい靴や指輪を避ける☆やわらかいパッドなどを患部にあてる。

 

第2回 Live on Nutrition Seminarのお知らせ

◆第2回 Live on Nutrition Seminarのお知らせ

このたび、大塚製薬工場と共催で、国立がん研究センター中央病院の金 成元先生のWEB講演を企画しました。お忙しいこととは存じますが、是非ご参加ください。

日時: 平成24年1月23日 (月) 18:30~20:00

場所: 名古屋記念病院 B館6階 理学療法室

演題: 「がん化学療法・造血幹細胞移植施行時の栄養管理」 国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科・造血幹細胞移植科 金 成元先生

 * WEB講演ですので、PC画面でのライブ中継になりますので、質問には制限があります。

共催: 名古屋記念病院、大塚製薬工場

御参加希望の方は、下記の申し込み書をFAXするか、直接大塚製薬工場の担当者にお聞きください。

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2011.08.09栄養学習会(化学療法と栄養管理)

がん化学療法時における栄養管理

抗がん剤は正常細胞にも多大な影響を及ぼす。抗がん剤の副作用には消化管毒性、骨髄毒性、神経毒性、心毒性、腎毒性、脱毛、皮膚症状などがあるが、消化管症状と骨髄毒性の頻度が高く、消化管症状が強い場合には栄養療法が必要となる。

【がん患者における栄養障害の原因】

①     がん病変の部位による影響

②     精神・神経的な変化による影響

③     手術や化学療法・放射線治療の影響

④     がん悪液質

【がん化学療法の支持療法としての栄養療法の適応】

1)        米国静脈経腸栄養学会の「成人および小児に対する栄養療法のガイドライン」では、がん化学療法施行症例全例へ栄養療法を施行することに利益はないとしている。

  • 栄養療法は化学療法の毒性を減少せず、奏効率や患者の生存率を改善させることもない。
  • 中心静脈カテーテルの留置は感染の危険を増すため、化学療法施行中の患者全例に栄養管理を施行することは有害である。
  • 強力な化学療法を受けていて栄養障害状態にあり、長期間にわたって十分な栄養を吸収できない患者については栄養療法の施行を推奨。

2)        2006年にがん化学療法に対して施行する補助的な静脈栄養の有用性を示す無作為化比較試験の結果が報告された。

  • 補助的なPN施行群では、有意なBMIの増加がみられ、body cell mass、血清アルブミン値、QOLも良好な値を示し、累積生存率の有意に高かった。(Shang E et al: J Parenter Enteral Nutr 30: 222-230, 2006)

3)        2007年にPichardらは、がん患者のQOLに関するレビューにて、早期からの栄養療法導入が栄養状態とQOLを改善し、感染症発症予防にも寄与し、治療に対する意欲を高め、入院期間も短縮した。緩和医療における栄養療法は症状のコントロールとQOLを重視して個々の患者の状態に合わせて行うべきとした。(Marin-Caro MM et al: Curr Opin Clin Nutr Metab Care 10:480-487,2007)

【がん化学療法の目的別分類】

1)        がんの根治を目的とする化学療法
強力な抗がん剤を複数組み合わせて使用するため、高頻度に高度な消化管毒性がみられる。
対象疾患:白血病、悪性リンパ腫など

2)        手術により切除率や根治度の向上を目的として施行する化学療法
(術前補助化学療法 neoadjuvant chemotherapy)
術後補助化学療法と比較してより強力な抗がん剤の併用療法が施行される傾向にある。施行期間は短くても1ヶ月間であり、化学療法終了後も抗がん剤の影響を考慮して手術まで回復期間をおく。
対象疾患:進行胃がん、進行大腸がん、非小細胞肺がん、炎症性乳がん

3)        根治手術後の無再発生存期間の延長、生存率の向上を目的とする化学療法
(術後補助化学療法 adjuvant chemotherapy)
術後6~12ヶ月間施行されることが多い。胃切除による小胃症状やダンピング、膵切除による消化・吸収障害などの臓器欠落症状はこの時期に明らかになる。
対象疾患:胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん

4)        手術と対等の立場でがんの根治を目的とする化学療法
手術と化学療法の順序は一定でなく、手術が先行することもあればその逆もある。さらに、手術の前後に化学療法が施行される場合もある。
対象疾患:卵巣がん

5)        切除不能症例、再発症例などのQOLの改善や延命を目的とする化学療法
化学療法の奏効率は向上しているものの、切除不能症例や再発症例が末期状態に陥ることは避けられない。
対象症例:各種切除不能がん、再発がん

【がん化学療法患者に対する栄養療法】

1)        栄養療法の目的

  • 抗癌剤、放射線療法による食欲不振、全身衰弱の予防。
  • 治療による臓器障害の予防。
  • 治療に伴うDIC、MOFの予防。
  • 栄養状態を改善することにより、化学療法、放射線療法の完遂率を高める。
  • 骨髄移植や末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法を安全に行う。

2)        栄養アセスメント

  • 消化器切除の既往を有さない症例に対する栄養アセスメントは、通常の栄養アセスメントと変わりない。
  • 消化管切除術の既往を有する症例では、切除された臓器の欠落症状としての摂食障害や代謝・栄養障害に留意する。
  • がん患者のエネルギー代謝の特徴は、宿主の消耗、食欲不振による骨格筋委縮、蓄積脂肪の消失、臓器萎縮、貧血、低アルブミン血症、低血糖、高脂血症、耐糖能異常などである。
  • 胃切除後には、ビタミンB12の吸収障害をきたす。ビタミンB12は主として肝臓に蓄えられているため、その欠乏症状は胃切除後1~2年以上を経過してから出現する。上部空腸内のpHが上昇することから葉酸の吸収率も低下する。ビタミンB12と葉酸の欠乏はともに巨赤芽球性貧血、末梢神経障害を引き起こす。末梢神経障害はビタミンB12欠乏でより顕著であり、ビタミンB12を補充することなく葉酸を投与すると末梢神経障害の不可逆性の悪化をみるため、胃切除術の既往を有する症例に葉酸を投与する場合、ビタミンB12欠乏の有無を確認することが重要。

表 消化器がん術後に生ずる摂食・代謝・栄養障害

手術術式        摂食・代謝・栄養障害           原因                                                                               

食道切除術      嚥下困難              逆流性食道炎・吻合部狭窄

                                      体重の減少             1日摂取栄養量の減少

                                     鉄の吸収障害            胃酸分泌の低下

胃切除術       1回経口摂取量の減少        胃容積の減少、胃の喪失

                                     体重の減少             1日摂取栄養量の減少

                  ビタミンB12の吸収障害       内分泌因子の低下、欠落

             鉄・カルシウムの吸収障害      胃酸分泌の低下、欠落

膵臓切除術      消化能の低下            膵外分泌能の低下、欠落

             耐糖能の低下            膵内分泌能の廃絶(膵全摘術後)

コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドラインより引用

3)        栄養療法の適応

  • 化学療法施行前に低栄養が認められる症例
  • 化学療法による消化管毒性(食思不振、悪心・嘔吐、下痢など)のために栄養状態の悪化が予想される症例

4)        栄養投与経路の選択

  • がん化学療法および放射線治療を施行する際にルーチンに静脈栄養を施行すべきでない。副作用および高度の消化管毒性のために、経口摂取や経腸栄養が困難な場合に静脈栄養を施行する。
  • 経口摂取不能期間が10~14日以上に及ぶと予想される場合には、好中球減少を認めてもTPNの施行を考慮する。この場合は厳重な感染予防が重要となる。
  • 血小板減少がみられる症例では中心静脈アクセスの確保に深部の静脈を穿刺せず、外頸静脈や上肢の皮静脈切開法を用いる。
  • 長期間の絶食・TPNの場合には、Bacterialtranslocationに注意する。

5)        栄養投与量の算出

  • がん化学療法の施行によって生体のエネルギー消費量は増大しない。
  • 総エネルギー消費量を算出する場合、傷害係数は1.0とする。
  • タンパク必要量は1.0g/kg前後に設定する。
  • TPN時には、ビタミンB1欠乏によるアシドーシスに細心の注意を払う。

6)        栄養療法のモニタリング

  • 体重の現状維持かやや増加と内臓タンパクの合成亢進を栄養療法の目的とする。
  • 頻回の下痢や嘔吐を認める症例では、水・電解質バランスに特に注意する。

【化学療法に伴う副作用対策】

1. 悪心・嘔吐

 治療患者の70~80%に合併し、食事摂取量の低下だけでなく、治療への意欲も減退。

  • 抗がん剤自体が引き起こす悪心・嘔吐には以下がある。

① 投与開始後から24時間以内に生じる急性嘔吐

② 24時間以降に発生する遅発性嘔吐

③ 2回目以降の薬剤投与時に精神的要因により発症する予測性嘔吐(上記①②がコントロールできない場合に高率に合併)

標準的制吐剤使用法ASCO2006

リスクカテゴリー          標準的な推奨方法

high(>90%)      【急性嘔吐】

              5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンおよびNK1受容体拮抗薬

              化学療法前に投与

              【遅発性嘔吐】

              シスプラチンおよびリスクが高い薬剤の場合:

               デキサメタゾンとNK1受容体拮抗薬の併用

mderate(30~90%)   【急性嘔吐】

              AC療法(アドリアシン+エンドキサン)では、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメ

タゾンおよびNK1受容体拮抗薬の3剤を化学療法前に投与

AC療法以外のmoderateリスクの薬剤の場合:

               5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの2剤併用

              【遅発性嘔吐】

              AC療法ではNK1受容体拮抗薬単剤(day2,3)の使用

              AC療法以外のmoderateリスクの薬剤の場合:

 デキサメタゾンあるいは5-HT3受容体拮抗薬(day2,3)の使用

Low(10~30%)     デキサメタゾン8mgの使用が推奨される

             遅発性王代のためにルーチンな制吐剤の使用は推奨されない

Minimal(<10%)    制吐剤は、化学療法の前後にルーチンに投与しない

  • 5-HT受容体拮抗薬・・・グラニセトロン、ラモセトロン(ナゼア®)、パロノセトロン(アロキシ®)
    神経伝達物質セロトニンの受容体を遮断することにより悪心・嘔吐を抑制する。パロノセトロンのみ遅発性嘔吐に有効性が認められている。
  • NK1受容体拮抗剤・・・アプレピタント(イメンド®)
    神経伝達物質サブスタンスPの受容体を遮断することにより悪心・嘔吐を抑制する。5-HT受容体拮抗薬とは作用機序が異なるため、併用することで相乗効果が期待される。急性および遅発性嘔吐を抑制する。

 

2. 鎮痛剤による胃粘膜障害・・・PPI、H2ブロッカー

  口内炎・・・抗癌剤点滴時の口腔内冷却(粘膜血流の減少による薬物濃度低下)

        アロプリノール(ザイロリック®)、メシル酸カモスタット(フォイパン®)、レバミピド(ムコスタ®)、塩酸ロペラミド(ロペミン®)、キシロカインなどの含嗽

        疼痛軽減目的にステロイド軟膏の塗布

        二次感染予防のポビドンヨードやアズレンの含嗽

  下痢・・・ロペラミド、オピオイド

       肛門周囲の洗浄、皮膚保護

       プロ・プレバイオティクス

  便秘・・・緩下剤、消化管運動賦活剤

【がん悪液質による代謝異常】

がん悪液質とは

がん患者の栄養学的・免疫学的消耗状態による体重減少を引き起こす混合性代謝異常と栄養障害を呈する症候群。がん細胞による炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6など)の産生増加、たんぱく質湯分解誘導因子(PIF)の放出増加がさまざまな代謝異常を引き起こす。

症状・・・進行性の体重(骨格筋)減少、活動性の低下、脂肪組織の減少、食欲不振や易疲労低アルブミン血症、浮腫や貧血、免疫能の低下

出現率・・・がん患者全体の約20-50%。膵臓がんや肺がんで高頻度、大腸がんや乳がんでは比較的頻度が低い。

栄養療法・・・悪液質に陥った場合には、過剰なエネルギーや水分を投与しないように注意し、必要最低限の投与にとどめる。抗炎症作用を有するエイコサペンタエン酸(EPA)の有効性も期待されている。

* 食事がすすまない時のコツ

・朝に食欲がある場合が多い。従って、朝にたくさん食べるようにする。または、一日のうち、もっとも食べる食事を一日の早い時期にとり、食べることに興味がない場合は、夜の食事に市販の流動食やミルクセーキなどのような簡単にとれる液体の食事をとる。

・もしあまりにも具合が悪くて、1-2種類のものしか食べられないのであれば、それを食べ続ける。それからよくなったら他のものを食べてみる。また、流動食のような栄養補給剤でカロリーとたんぱく質を補う工夫もすることができる。

・全然食べることができない日があったとしても、そればかりを心配しない。そのときは、あなたの気分がよくなることを何かしてみる。食べる気がしてきたら、食べてみる。

・たくさんの水分(ミネラルウオーターなど)をとるようにする。とくに食べる気がしない日はたくさん飲むように。あなたの身体が働くために十分な水分があることが大切です。だいたい大人で、一日コップ6-8杯の水分摂取が目標です。日中に水のボトルや水筒を持ち歩くようにする

悪心・嘔吐:

・一度にたくさん食べることは避ける。そうすることによって、胃が満杯になる感じを抑えることができる。一日に3回(ないし1、2回)大きい食事をする代わりに日中少しずつ食べる。

・食事中の飲み物は避ける。飲む際は、食事の前後少なくとも1時間は空ける。

・ゆっくり時間をかけて、食べたいときに食べたり飲んだりする。

・冷たく口当たりのよい飲み込みやすいものをとる(卵豆腐、茶碗蒸し、絹ごし豆腐、ヨーグルト、プリン、ゼリー、アイスクリームなど)。

・冷たい料理か、室温程度の料理を食べることで、臭いの強さが気になることはない。

・味付けも自分の好みにあわせる。

・食事の量をへらし、品数を多くする。

・リンゴジュースやグレープジュースのように、甘味を加えられていない、冷たくて透明なジュースを飲む。電解質バランス飲料・栄養バランス飲料などは、体力保持によい。

・氷、またはミントなどの清涼感のある飴をなめる。(ただし、口内や喉に傷がある場合は飴をなめてはいけません。)

・気になる臭いは避ける。例えば、料理、たばこ、香水など。

・料理したくない時のために、前もって数日分の食事を準備し冷凍しておく。

口内炎:

柑橘類(ジュースも)や、強い香辛料を使っている食べ物は刺激になるのでさける。

・食事の温度は人肌程度にする。

・やわらかい食事をとる。

・シュガーレスキャンディや、氷の固まりをなめる。

・飲み物に食べ物を浸して食べる。(ミルクティーにクッキーをひたしてたべるなど)。

<参考>

コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン

浅桐公男, 田中芳明 : がんの代謝異常と栄養障害, ニュートリションケア, 2(4) : 350-354, 2009.

三木誓雄 : プロシュアTM発売1周年記念講演会-がん悪液質のベースに“炎症”「栄養管理に加え抗炎症療法を」-, MEDICAMENT NEWS, (2023) : 8-9, 2010.

命を守る知識と技術の情報館http://www.coe-cnas.jp/group_cncr/manual/manual07/index.html