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2013.06.06栄養学習会(横紋筋融解症)

【横紋筋融解症とは】
種々の原因により骨格筋細胞の融解や壊死が急激に起こり、筋細胞由来の酵素成分(ミオグロビン、クレアチニンキナーゼ(CK)、LDH、ASTなど)が血中に急激に増加する病態。無症候性のものから筋力低下・筋痛・疲労感などを呈するもの、さらにはCKの著明な上昇とともに急性腎不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)などを合併する致死的なものまでさまざまである。

【成因】

原因は、直接筋障害(外傷、挫滅症候群、深部熱傷)、労作性、虚血性、体温変化、遺伝性疾患(進行性筋ジストロフィー、代謝性筋疾患、悪性高熱)、電解質異常・浸透圧異常・代謝障害、感染症、炎症性筋疾患、中毒・毒素(アルコール、麻薬・覚醒剤、ヘビ毒・蜂毒・クモ毒)、薬剤性(HMG-CoA還元酵素阻害薬が有名)と多岐に及ぶ。

【病態】

筋崩壊の機序としては筋形質膜あるいは膜イオンチャンネルの障害あるいは骨格筋細胞内エネルギー(ATP)の減少が誘因となり、筋細胞膜の統合性破綻などに起因した細胞外Ca2+流入による細胞内Ca2+の異常上昇、Ca依存性プロテアーゼの活性化による筋原繊維の破壊、およびライソゾームによる筋細胞成分の消化誘導などが起こり、横紋筋融解症が引き起こされる。

【自覚症状】

手足・肩・腰・その他の筋肉が痛む、手足がしびれる、手足に力がはいらない、こわばる、全身がだるい、尿が赤褐色になるなど

【検査】

①血中筋細胞逸脱酵素上昇:CK上昇(正常上限の10倍以上)を伴うLDH、AST、ALT上昇。

②血中・尿中ミオグロビン上昇 ※血中ミオグロビン:700ng/mLを超える

③腎障害の評価

【治療】

①原因薬剤あるいは誘因の除去

②輸液・補液:腎保護をはかる

③尿のアルカリ化:ミオグロビン円柱形成予防

④利尿薬投与:輸液負荷で利尿が不十分な場合

⑤血液透析:急性腎不全出現時

【予後】

腎障害の程度に依存し、早期発見が予後を良くする。通常は数週間~数カ月で治癒するが、重症例では症状が残存する。

<医薬品ごとの特徴>

HMG-CoA 還元酵素阻害薬(プラバスタチンナトリウム、アトルバスタチンetc)

現在、最も副作用報告の多い医薬品である。筋痛が先行することが多く、また末梢神経障害の合併もしばしば認められる。

▽発症時期:服用開始後数ヶ月を経過して徐々に発症することが多い。

▽発症機序:詳細は明らかではないが以下の説がある。

①形質膜内のコレステロール成分の減少による直接作用

②HMG-CoA からメバロン酸を経てゲラニルゲラニオール誘導体の減少による、タンパク質のprenylation※の障害。

③ゲラニルゲラニオール誘導体の減少から生じるコエンザイムQ10 の減少によるエネルギー代謝の障害。

※prenylation:脂肪酸を介したタンパク修飾の一種で、細胞内シグナル伝達・細胞周期・ミエリン化・細胞骨格蛋白動態など基本的な細胞機能に関係している

▽発症頻度(米国):筋肉痛(2~7%)、CK上昇・筋力低下(0.1~1%)、重篤な筋障害(0.08%)、死亡例:0.15人/100万人

他の医薬品(フィブラート系高脂血症薬、ニコチン酸製剤、エリスロマイシン、シクロスポリン)との併用で頻度は上昇すると言われている。

▽本剤を中止しても症状が軽快しない場合には、横紋筋融解以外の筋疾患(多発筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎、MELAS などのミトコンドリアミオパチー、McArdle 病、CPT 欠損症、悪性高熱など)を疑い、もう一度診断について検討する必要がある。

② フィブラート系高脂血症薬(ベザトールSRetc)

HMG-CoA 還元酵素阻害薬ほどではないが、重要なものである。

▽発症時期:使用開始より数ヶ月から2年程度までの期間に発症することが多い。

▽発症機序:詳細は明らかではないが、筋形質膜の不安定化説がある。

③ ニューキノロン系(クラビット、オゼックス、シプロキサンetc)を主体とする抗生物質

感冒様症状がある場合などウイルス感染に伴うものも知られている。

▽発症時期:投与初期数日以内に急性に発症する

▽発症機序:直接的な筋毒性が示唆されている。

④ 抗精神病薬、抗パーキンソン病薬

悪性症候群に伴うものが知られている。

ハロペリドール(セレネース)などのドーパミンD2 受容体遮断作用の強い抗精神病薬において頻度が高い。骨格筋リアノジン受容体蛋白に作用してCa放出を抑制するダントロレンナトリウム(ダントリウム)が有効である。悪性症候群からの回復後の再投与は、約2週間の休薬期間が推奨されている。

▽発症時期:抗精神病薬の開始当初あるいは増量時(もともとの病状の増悪期)に多い。

▽発症機序:詳細は明らかではないが、ドパミン受容体遮断が関与しているとされている。

⑤ 麻酔薬・筋弛緩剤

全身麻酔中に生じるものは、高熱・自律神経症状を伴い、悪性高熱として知られている。本症は発症に気づかず無治療の場合には致死率70%に及ぶ病態である。発症時には速やかに麻酔薬を変更し、人工呼吸は過呼吸とし、アシドーシスを補正し、ダントロレンナトリウムを投与する。これらの処置により致死率は5%以下まで低下してきている。

▽発症機序:骨格筋の異常な代謝亢進によるとされている。

▽リスク患者:もともと何らかの筋疾患を持っている者、遺伝性筋疾患の保因者、高CK 血症、熱中症や運動時筋壊死の症状が認められた者。

▽原因となる全身麻酔薬:脱分極型筋弛緩剤(スキサメトニウムetc)、揮発性の吸入麻酔薬(セボフレンetc) など

▽プロポフォール症候群:特に小児において横紋筋融解症、代謝性アシドーシス、低酸素血症、心停止などの症状をきたす。筋強剛や発熱を欠き、悪性症候群とは病状が異なる。血清CK 値は著明に上昇し、二次性の高カリウム血症も生じうる。骨格筋のみならず心筋の壊死も報告されている。

⑥ 低カリウム血症などの電解質異常をきたす医薬品

▽発症機序:低カリウム血症により、形質膜の興奮性が変化することより周期性四肢麻痺を生じ、遷延化すると形質膜の破綻を生じて、筋線維の壊死が広範囲に生じる。アルコール多飲のみで生じる機序も低カリウム血症を介している。

▽低カリウム血症をきたす医薬品:利尿剤(フルイトラン、ラシックスetc)、緩下剤(センノサイドetc)、グリチルリチン製剤(グリチロンetc)、アムホテリシンB(アムビゾームetc)、酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)などの副腎皮質ホルモンなど。

⑦ その他

詳細が不明なものが多く、どこまでが単独に筋障害をきたしたかについては十分な再評価が必要である。

▽頻度が高く添付文書にも記載されているもの:アンジオテンシンII 受容体拮抗剤(ブロプレスetc)、H2 受容体拮抗剤(ファモチジン、ラニチジン、プロテカジンetc)、プロトンポンプ阻害剤(パリエットetc)、各種の消炎鎮痛剤(ボルタレンetc)など

▽筋毒性がかなり疑わしい医薬品(①~⑥を除く):シクロスポリン(サンデミュン、ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ)、痛風発作予防薬(コルヒチン)など

【参考文献】

薬局 2009年3月増刊号(vol.60,No.4)

重篤副作用疾患別対応マニュアル 第1集

医薬品副作用ハンドブック

2012.05.24栄養学習会(ステロイドの副作用)

ステロイドの作用機序

ステロイドは細胞膜を通過し、細胞質にある特異的受容体に結合する。受容体には2分子の熱ショック蛋白が結合しているが、ステロイドの結合によりそれらが離れ、活性化したステロイド-受容体複合体が核内に移行し、DNAの特異的結合部位に結合し、様々な遺伝子発現を誘導あるいは抑制する。その結果、多くの薬理作用を引き起こす。

ステロイドの薬理作用

ステロイドの生理作用と薬理作用を表1に示した。炎症、アレルギー、免疫を考えた場合の作用機序として重要なものは、免疫抑制作用と抗炎症作用である。その主な作用点は、種々の炎症サイトカインの産生抑制とアラキドン酸代謝に関わる種々の酵素の発現抑制によるプロスタグランジン産生抑制である。それら以外の作用点も報告されており、ステロイドの強力な作用は、これらが共同して発揮されるためと考えられている。

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ステロイドの種類と剤形

血中半減期、抗炎症作用を発揮する糖質コルチコイド作用の力価比、副作用の電解質代謝に関係する鉱質コルチコイド作用などを表2に示した。デキサメタゾン、ベタメタゾンなどは半減期が長く、受容体との結合力が強いことから、生物活性は血中半減期で予想される以上に長くなる。逆にこれらのステロイドは副腎抑制が強く、離脱しようと思うときには使わないほうがよい。なお成人ヒドロコルチゾン分泌量は10mg/dayである。

全身投与のステロイドの使い分け

ステロイドは次の3群を使い分けられればよい。まず1群として、半減期が適度なためよく使われるプレドニゾロンがあり、メチルプレドニゾロンやトリアムシノロンもほぼ同じ使われ方である。2群としてはベタメタゾンないしデキサメタゾンであり、作用の強力なステロイドである。第3群は内因性のヒドロコルチゾンである。

プレドニゾロンは、ヒドロコルチゾンに比べて電解質作用が弱く、高血圧、心不全の誘発・増悪などの心配が少ない。表2のメチルプレドニゾロン以下のステロイドは、電解質代謝の副作用はさらに少なく、ステロイドパルス療法などの超大量投与が可能である。デキサメタゾンとベタメタゾンは、全身投与が可能なステロイドの中で最も強力である。

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適応症と使い方

炎症反応、免疫反応が強く、自覚症状とともに赤沈亢進、CRP上昇、発熱などの所見がある方がステロイドの効果が強く現れる。ステロイドは一般に投与後1時間程度で十分な血中濃度となり、通常の炎症症状なら1~2日で症状の著名な軽快をもたらす。適応症、投与量、注意を表4に示した。副腎不全、ショック、離脱症候群のような必ず使用すべき適応症がある。また、重要臓器障害を有する膠原病諸疾患はほとんど適応となる。次に、薬物アレルギーのようにステロイドを使うことで、しばしば軽快し、また経過短縮あるいは治癒を期待しうるものが適応となる。その他、多くの疾患や病態で使われる。

ステロイドの投与法

一般に治療初期に十分量ないし適当量使用し、症状の改善や他の療法の効果を待ち漸減するのがよい。中等量以上の投与時には、結核を含めた重篤な感染症に十分注意する。

ステロイドの副作用

ステロイドの副作用を表6aにまとめた。一般にこれらの頻度や重症度は用量依存性である。表中の「特に注意すべき副作用」に分類した症状が出現した場合は、ただちに注意深くステロイドを減量ないし中止を目指すのが原則だが、治療の必要性からそれが困難なことも多い。感染症には抗菌薬、糖尿病にはインスリンなどを必要に応じて使用する。ステロイドの長期使用で特に問題となる副作用は骨粗鬆症と動脈硬化病変である。前者に対しては、第一選択薬として、ステロイド骨粗鬆症を改善するエビデンスのあるビスホスホネート製剤が推奨されている。ビスホスホネート製剤の歯科治療に伴う顎骨壊死が注目されており、日本口腔外科学会では歯科治療の少なくとも3ヵ月前からの中止を進めている。ステロイドは動脈硬化の危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症を引き起こし、さらに直接血管障害性があるともいわれている。これらに対してはその程度により各々降圧剤薬、インスリンまたは血糖降下薬、脂質異常症治療薬で治療する。

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参考:ICUにおけるステロイド使用の注意点

✓ グルココルチコイドはインスリン産生の減少、インスリン抵抗性増強、糖合成の変化をきたす。

✓ グルココルチコイド投与による二次性高血糖は、48時間以内に自然消退する。

✓ 白血球増加

✓ 免疫抑制・・・サイトカイン抑制、免疫担当細胞抑制、前炎症性メディエーター抑制

✓ 創治癒の遅延・・・炎症性メディエーター抑制による創傷治癒に必要な細胞の集積抑制、蛋白質合成阻害による線維芽細胞のコラーゲン沈着抑制 * ビタミンAの副作用予防効果あり

✓ 消化管の酸分泌亢進、粘液産生抑制にて壁細胞を萎縮 ⇒ 消化性潰瘍増加

✓ 視床下部―下垂体―副腎系抑制によるステロイド中止時の副腎不全に気をつける。

* 急性副腎不全・・・循環虚脱、発熱、低血糖、抑うつなどの症状を呈する。プレドニゾン5mg(デキサメタゾン1mg、ヒドロコルチゾン25mg)を1年間に2週間以上使用されているとリスクはある。

< 副腎皮質ホルモン >

副腎は腎臓の上に乗っかっており、副腎皮質からはステロイドホルモンが産生されている。副腎皮質は球状帯、束状帯、網状帯に分かれており、それぞれの場所で産生されるホルモンが異なっている。球状帯からは鉱質コルチコイドが産生され、束状帯からは糖質コルチコイドが、網状帯からはアンドロゲンが産生される。
なお、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の影響によって、糖質コルチコイドとアンドロゲンの産生・分泌が亢進される。鉱質コルチコイドは副腎皮質ホルモンの作用を受けないが、アンギオテンシンⅡによって産生が亢進される。

・糖質コルチコイド

・コルチゾール(ヒドロコルチゾン)
・コルチコステロン
・コルチゾン
この中ではコルチゾールが最も作用が強く、主要である。糖質コルチコイドは肝臓での糖新生に関わり、グルコースの取り込みを促進するなど血糖上昇に関わっている。また、タンパク分解を促進させる作用(タンパク質異化作用)や脂肪分解促進作用などもある。なお、大量投与によって抗炎症作用、免疫抑制作用が見られる。これは、ホスホリパーゼA2阻害物質を合成し、プロスタグランジンやロイコトリエンなどの産生を抑制したためである。

・鉱質コルチコイド

・アルドステロン
・デオキシコルチコステロン
鉱質コルチコイドは腎臓に作用して、Na+と水の再吸収を促進する。Na+の再吸収を促進するので、鉱質コルチコイドは高血圧に関わっている。
鉱質コルチコイドは副腎皮質刺激ホルモンの影響を受ける糖質コルチコイドやアンドロゲンとは異なり、アンギオテンシンⅡの作用によって産生促進される。アンギオテンシンⅡは、腎糸球体から分泌されるレニンによって濃度上昇を起こす。

・アンドロゲン
アンドロゲンは男性ホルモンの総称であり、代表的なものにテストステロンがある。テストステロンは精巣間質細胞から分泌されている。なお、アンドロゲンは副腎皮質からも合成されている。そのため、女性でも少量であるがアンドロゲンを合成している。

2012.01.19栄養学習会(発熱性好中球減少症)

発熱性好中球減少症(febrile neutropenia ; FN

 多くの抗癌剤による骨髄毒性の一つとして好中球減少が生じる。好中球減少患者で発熱が生じた場合には、重篤な細菌感染症を併発している可能性が高く、危険な副作用であり、emergency と考えなければならない。経験的抗菌療法が施行されるようになる以前は、化学療法に関連した感染症の75%が死に至っていた。経験的抗菌療法は、白血病やリンパ腫に対して化学療法を受ける患者向けに考案されたが、現在、抗癌剤によって好中球が減少し、発熱したすべての患者において使用されている。

 FNの定義

2004年に発表されたわが国のガイドラインではFNを好中球数が1000/mm3未満で500/mm3未満になる可能性がある状況下で、腋窩温で37.5℃以上もしくは口腔内温で38.0℃以上の発熱と定義している。有害事象共通用語基準(CTCAE)ver 3.0日本語訳によると、好中球が1000/mm3未満で臨床的または微生物学的に感染が確認されない感染巣不明の38.5℃以上の発熱をFNとしている。

 FNの起因菌

FNの多数例の解析結果では、起因菌が同定された感染症と起因菌は不明であるが感染巣が同定された感染症がそれぞれ全体の4分の1程度であり、発熱や炎症反応は認めるものの起因菌や感染巣が同定されない不明熱が約半数を占めている(表1)。しかしながら多くの症例が経験的な抗菌薬使用により改善を認めることから、何らかの細菌感染によるものと考えられている。表2には2002年のInfectious Disease Society of America(IDSA)のガイドラインに示された、原因として高頻度に検出される微生物の一部を示す。起因菌が同定された感染症では60~70%がグラム陽性菌であり、グリコペプチド系薬剤にしか感受性を示さないメチシリン耐性菌や治療を早急に開始しなければ生命にかかわるブドウ球菌や肺炎球菌が問題となる。グラム陰性桿菌ではとくに緑膿菌や大腸菌、クレブシエラ属が原因である。真菌感染は一般的には重複感染であるが、カンジダ属やアスペルギルス属は初期よりFNの原因となり得る。

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FN時の患者リスク評価

FNをきたした患者が重症化するかどうかの危険因子と予測のためのスコアリング(Multinational Association of Supportive Care in Cancer;MASCCスコア)が提唱されている。合計したスコアが20以下の場合、重篤な感染症を発症する可能性がある高リスクとされる。

 FNの初期管理

(1)低リスク患者の治療

IDSAのガイドラインでは、経口薬としてはシプロフロキサシンやレボフロキサシンの経口キノロン薬とアモキシシリン/クラブラン酸の合剤を併用するようにされている。わが国のガイドラインでは低リスク患者でも、主治医の判断で経口抗生物質が好ましくないとした際は、単剤の注射用抗生物質投与が可能である。セフタジジムかセフェピム、もしくはカルバペネムが選択される。

(2)高リスク患者の治療
 全身状態の悪い例、好中球減少症が長期に持続する可能性、MASCCスコアが20以下の症例では、第3もしくは第4世代セフェムまたはカルバペネム注射薬単独か、それらとアミノグリコシド系薬剤の併用が勧められる。

 抗生物質開始後の管理

A. 3~5日以内に解熱した場合

 同じ抗生物質を3~5日投与し解熱していれば、少なくとも4日間治療を継続する。起因菌が同定された場合も、広域スペクトラムを維持しながら、感受性試験の結果に基づいて抗生物質を考慮する。また、解熱し状態が安定していて好中球数が500 mm3以上に回復している場合には抗菌薬を速やかに中止してよい。 

B. 初期治療に反応しない場合

 高・低リスクを問わず、抗菌薬を投与したにもかかわらず3~5日以上も発熱が持続し、状態が改善しなければ、血算、生化学、CRPを含めた血液検査、画像検査、培養検査や血清学的真菌検査(β-D-glucan,galactomannanなど)を追加実施した後、経口投与例は高リスクに準じた単剤または併用の静注用抗菌薬に変更する。注射用抗菌薬単剤で開始した症例ではアミノグリコシドを加え、アミノグリコシドを併用している例ではβ-ラクタム薬の変更を考慮し他のセフェム系かカルバペネム系に変更するか、他のアミノグリコシドもしくはシプロキサン注射薬への変更を考慮する。

C. 抗真菌薬の使用

 上述したような抗生物質の追加・変更を行った後、48時間後に再評価を行うが、それによっても発熱が持続し起因菌が明らかでない場合、とくにgrade 3,4の重篤な好中球減少症が1週間以上持続している場合や、免疫抑制薬使用のため長期間免疫抑制状態にある場合には真菌症の合併率が高く、画像検査、血清学的真菌検査、培養結果をもとに抗真菌薬の投与を考慮する。抗真菌薬の予防投与が行われていない症例では、アムホテリシンBやアゾール系薬剤(フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール)を使用する。アムホテリシンBを投与できない場合やすでにアゾール系薬剤を投与されている症例では、キャンディン系薬剤であるミカファンギンを選択する。 

バンコマイシンの投与について

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の対応については、わが国のガイドラインでは発熱が持続し、MRSAの同定が検出された場合に使用するよう慎重投与を勧めているが、IDSAのガイドラインでは疑わしい場合には早期からのバンコマイシンもしくはテイコプラニンの投与を促している。バンコマイシンの必要な状態としては、①中心静脈カテーテル感染が強く疑われる場合、②β-ラクタム系抗生物質耐性の肺炎球菌もしくはMRSAを保菌している場合、③グラム陽性球菌が血液培養で同定され、菌種と感受性の結果が判明していない場合、④ショックや循環不全が認められる場合、⑤重篤な粘膜障害を認める場合、⑥ペニシリン耐性連鎖球菌感染症が疑われる場合、⑦キノロン系抗菌薬の予防的投与がなされていた場合があげられる。

FN時のG-CSFの投与について

 G-CSFは好中球減少期間を短縮はするものの、発熱の頻度やその期間、抗生物質の使用期間およびFNにかかる費用の削減効果を証明していない。 ASCOのガイドラインによると好中球が1000/mm3に減少することが予測されるか10日間以上持続すると予測される場合、65歳以上の高齢者、原疾患のコントロールが困難な場合、肺炎、ショックや多臓器不全を合併している場合、発熱時に入院している場合などは高リスクと判断されG-CSFを使用すべきとされているが、それ以外の場合にはG-CSFの投与を差し控えるべきであるとされている。

わが国では抗悪性腫瘍薬によるFNに対するG-CSFの投与は保険適応に基づいて行われており、日本癌治療学会によるG-CSF適正使用ガイドラインでは、「たとえば好中球100/mm3以下になるような高度の好中球減少の場合は(中略)G-CSFの投与は妥当かもしれない」としているものの、「無熱で好中球減少をきたしている場合にG-CSFの投与を強く勧めるエビデンスは乏しい」としている。ただし、同ガイドラインでは「1コース目にFNが起こった場合で、2コース目の抗悪性腫瘍薬の減量が適切でないと判断される場合はG-CSFの使用を考慮してもよい」として、二次的予防投与について一定の条件の下では使用を容認している。 

抗ウイルス薬について

抗ウイルス薬は、ウイルス感染症が臨床的もしくは検査結果で同定された場合のみ使用すべきである。単純・帯状疱疹ウイルスにはアシクロビルを、サイトメガロウイルスにはガンシクロビルを使用する。

γグロブリン製剤

γグロブリン製剤をルーチンで使用することは推奨できない。重症例でのみ考慮すべき治療と考えられる。 

参考文献

「骨髄抑制(1)好中球減少症」

埼玉医科大学臨床腫瘍科 荒木 和浩/Kazuhiro Araki(現 国際医療センター臨床腫瘍科・腫瘍内科)
奈良林 至/Masaru Narabayashi(現国際医療センター緩和医療科)

<http://www.cancertherapy.jp/anticancer/2006_autumn/02_01.html>