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2011.05.17栄養学習会(経腸栄養時の下痢対策)

* 経腸栄養剤に伴う下痢対策

・経腸栄養剤で下痢は最も多い合併症である(2.3~68%)。原因はいろいろで、まずは経腸栄養法による下痢か、そのほかの原因による下痢かを鑑別する。経腸栄養法によるもので最も多い原因は注入速度で、その他栄養剤の組成、浸透圧、細菌汚染(栄養剤の細菌汚染)Clostridium difficileがある。その他のものでは、抗生物質、特にペニシリン、セフアロスポリン、クリンダマイシンなどを投与すると、腸内細菌のが増殖し分泌性下痢を生じる。低アルブミン血症も腸管の浮腫や粘膜の萎縮などのために下痢の原因となる。しかし、下痢のために経腸栄養を中止することはない。その原因を確かめて対応することが重要。

・注入速度の目安は胃内200~300ml/時、小腸内100ml/時以下であるが、個体差があるため投与速度を落としたり、固形化栄養への変更を考慮する。浸透圧が高い成分栄養でも投与速度を調節することにより下痢の発生を防ぐことができる。

・浸透圧の高い経腸栄養剤は下痢症の原因となる.血管内の浸透圧である300mOsm/Lに近い栄養剤が最適であるが、500mOsm/L以上の高い浸透圧のものは予め希釈するなどの配慮が必要となる。但し、通常の300mOsm/L前後の経腸栄養剤を下痢予防のために、希釈して投与することは推奨されない。施設のやり方が優先されるが、基本は投与速度の調節。

・乳糖不耐症の場合は乳糖を含まない経腸栄養剤を使用。脂肪吸収障害の場合は脂肪含有量の少ない経腸栄養剤や、吸収されやすい中鎖脂肪酸が含まれているものを選択する。

・経腸栄養剤の温度が低いと低温刺激による蠕動運動の亢進により下痢を引き起こすため、温めて(人肌)注入するとよい。

・経腸栄養剤を投与バックに移して使用すると6時間目頃から細菌の繁殖がみられ、8時間以上経過すると下痢発生の危険が出でくるため8時間以内に投与を終了する。クローズド・システムで投与できるものは24時間まで最近の汚染は見られなかった。

・長期間、絶食が続いた場合は腸管粘膜の萎縮が起こっていることがあるため吸収能力が低下している。腸管の吸収能力を回復させるためにGFO®の投与を行うことが有効である.

<経腸栄養剤の下痢チェックポイント-コメディカルのための静脈経腸栄養ハンドブック>

✓ 経腸栄養剤の注入速度:消化管の馴化期間を十分にとる

注入速度は20~30ml/hrで開始し、徐々に上げていき、1週間前後で維持量に到達。

持続注入の場合には、必ずポンプを使用する。

下痢が発生したら、いったん注入速度を下痢のないところまで戻し、腹部症状を慎重に観察しながら、再び緩徐に注入速度を上げていく。

注入速度が100ml/hrを超えると下痢を起こしやすい。

✓ 経腸栄養剤の温度が冷たい。

✓ 乳糖不耐症による可能性があれば、経腸栄養剤の成分をチェック。

✓ 浸透圧の高い経腸栄養剤(特に、エレンタール®)は水分吸収のアンバランスで下痢を起こしやすい。

✓ 最近の経腸栄養剤は常温保存でそのまま注入はきるが、加温する場合には60~70℃の湯で10分間温める。

✓ 細菌感染、特にクロストリジウム・ディフィシル(偽膜性腸炎)D-1毒素。

✓ 脂肪吸収障害

<当院における経腸栄養剤の下痢対策>

投与速度 ・・・ ゆっくりする。

投与量 ・・・ 予定投与量の3分の1〜2分の1の量から開始し、徐々に増やす。

濃度(浸透圧) ・・・ 希釈することも可能だが、水分が多すぎても下痢になることもある。また、胃液、消化液で希釈されるため、あまり効果が期待できない。

温度の調節 ・・・ 冷たくしない。

乳糖不耐症 ・・・ 乳糖を含まない製剤へ変更、ラクターゼ投与。

脂肪吸収障害 ・・・ 脂肪含有量の少ない製剤への変更。

細菌の繁殖予防 ・・・ 経腸栄養剤や器具の汚染予防、清潔管理。

細菌性腸炎 ・・・ 適切な抗生剤使用または腸管安静。

食物繊維の追加(サンファイバー®など)

下痢止めの併用(グルタミン®、ロペミン®、リン酸コデイン®、ラックB®、ビオフェルミン®、コロネル®)

半固形化栄養剤も下痢予防に有効。

* 腸管の炎症や浮腫による吸収障害では、なるべく腸管のストレスを軽減するために、食物繊維を含まない栄養剤が有効なこともある。できれば、アミノ酸、脂肪なども吸収しやすい成分にすることも有効。 キューピ K-2S®という経腸栄養剤もある。

* 消化吸収障害・消化管機能不全への経腸栄養

・成分栄養剤使用の注意・・・浸透圧が高いので、下痢の発生予防として投与は要注意

脂肪含有量が少なく、必須脂肪酸欠乏への注意

・胃でのタンパク質消化を要する半消化態栄養剤、濃厚流動食は基本的には胃内投与

腸瘻からの投与の場合には、消化酵素製剤を併用

・脂肪吸収障害患者への経腸栄養

消化酵素製剤やウルソデオキシコール酸の併用

2011.05.10栄養学習会(慢性下痢)

慢性下痢
・1日に消化管に入ってくる水分の量は、経口摂取と分泌される消化液で約10リットル。そのほとんどが小腸で吸収され糞便としては約0・1~0・2リットル排泄される(99.8~99.9%吸収)。腸管に流入する単位時間あたりの水分量(大腸の1日あたりの最大水分吸収能は5~6リットル)が、その吸収能力を超えると下痢になる。
・下痢とは、便の水分量が増えて液状から泥状またはそれに近い状態になったものとされ、症状が3週間以上続く時には慢性下痢を疑う。腸内で便から十分な水分が吸収されず、便がゆるくなると下痢が起こる。正常な便では60~90%が水分だが、下痢のときの便では水分の割合が90%を超えている。
・下痢になると、頻回排便のみならず、時にはガス発生、腹部けいれん、便意の切迫、吐き気、嘔吐などの症状を伴うことがある。
・薬、ウイルスや細菌や寄生虫感染症、食事の内容、ストレス、化学物質、腫瘍、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患などの慢性疾患、といったさまざまな原因により下痢が起こる。食物が正常に消化されない吸収不良症候群でも下痢が起こる。
・急性下痢はウイルス、細菌、寄生虫等の感染が原因で、腸の粘膜の炎症が起こる感染性下痢と、ストレスや食べすぎ、食中毒等を原因とする非感染性下痢がある。感染症の原因は風邪によるウィルスや細菌への感染、コレラ、赤痢、腸炎ビブリオなどのほか、食中毒の原因となるサルモネラ菌などの感染があり、多くは腹痛のほかに、嘔吐や吐き気、発熱を伴う。
・慢性下痢はその病態生理から、浸透圧性下痢、分泌性下痢、腸管粘膜障害による下痢(滲出性)、腸管運動異常による下痢に分類される(これに脂肪性下痢を加える分類もある)。通常3カ月以上持続する下痢を慢性下痢とする(病態栄養学会)。
・下痢の原因による分類では小腸や大腸の器質的な異常(潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核などの感染症、寄生虫、吸収障害、大腸悪性腫瘍、消化管の術後、先天性疾患など)、他臓器や内分泌疾患(膵臓疾患、甲状腺機能亢進症、カルチノイド症候群など)、過敏性大腸症候群(IBS)、薬剤性(抗生剤、利尿薬、強心薬、抗不整脈薬、自律神経薬、抗がん薬など)や放射線性などがある。また、胃酸の過剰な抑制(PPI、H2ブロッカーなど)によって腸内細菌叢の異常をきたした場合も難治性の下痢となることがある。
・下痢になると脱水症が起こり、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩化物などの電解質が血液中から失われる。大量の体液と電解質が失われると血圧が低下し、失神、不整脈やその他の重症の障害を起こす。幼い子供や高齢者、衰弱している人、下痢が重症の人で特にリスクが高くなる。重炭酸塩も便中に失われるので、代謝性アシドーシスが起こる。
分類と病態
・下痢の原因は多くは小腸の障害によるものだが、大腸の障害からでも起こる。大きく分けると浸透圧性下痢と分泌性下痢、滲出性下痢があって小腸の障害は浸透圧性と分泌性、大腸の障害は滲出性になる。
脂肪性下痢
・膵酵素欠損や失活、胆汁酸の代謝異常(肝障害やミセル形成不全あるいは腸肝循環障害)、腸内細菌異常増殖により、脂肪の吸収障害が発生し下痢を引き起こす。
浸透圧性下痢
・腸管に吸収されない食べ物や薬剤により浸透圧が上昇し、水分と電解質が腸管内に移行することによって起こる。一部の果物や豆類、そしてダイエット食品やキャンデー、チューインガムなどに含まれるヘキシトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖類が浸透圧性下痢を引き起こす。
・ ラクターゼ(乳糖分解酵素)の欠乏症も浸透圧性の下痢を起こす。乳糖不耐症の人が牛乳を飲んだり乳製品を食べたりすると乳糖が消化されず、乳糖が小腸に蓄積すると浸透圧性下痢を起こす
・ 抗生物質の服用も、腸内の正常な細菌叢を破壊して浸透圧性下痢の原因となる。
分泌性下痢
・細菌の毒素やウイルス、胆汁酸や脂肪酸、ホルモンなどによる腸管からの水分の分泌亢進により起こる。コレラ菌や腸管出血性大腸菌、ある種のウイルスに感染したときに産生される毒素によって、この分泌が起こり、ある種の細菌(たとえばカンピロバクター属)による感染症や、クリプトスポリジウム属などの寄生虫による感染症も水分の分泌を促進する。この下痢は大量に起こり、コレラでは1時間に約1リットル以上の便を排泄する。ほかの原因には、ヒマシ油のような緩下薬、胆汁酸(小腸の部分切除術の後に蓄積しやすい)などがあり、カルチノイド、ガストリノーマなどのまれな腫瘍でもホルモンなどの影響で分泌性下痢が起こる。ポリープによっても分泌性下痢が起こる。
滲出性下痢
・腸の炎症によって腸管壁の透過性が高まった状態になり、タンパク質、血液、粘液、その他の体液を分泌し便の量と水分量を増加させる。潰瘍性大腸炎、クローン病、結核、リンパ腫や腺癌などの癌が原因で起こる。炎症を起こした直腸は,膨張に対してより敏感であるため,直腸粘膜が侵されると便意切迫および排便回数の増加を来しうる。
気を付けなければいけない病態
蛋白漏出性胃腸症
蛋白漏出の機序として、リンパ系の異常、毛細血管透過性、消化管粘膜上皮の異常がある。これらが単独あるいは複合して蛋白漏出を起こすと考えられている。
・リンパ系の異常
腸壁から静脈に至るリンパ管の形成不全や閉塞による腸リンパ管拡張症、収縮性心外膜炎、悪性リンパ腫、腸結核、クローン病、非特異性多発性小腸潰瘍症などで腸リンパ系の異常がみられ蛋白漏出が起こる。
・毛細血管透過性の亢進
アレルギー性胃腸症、アミロイドーシスなどでは消化管の血管透過性が亢進し、蛋白漏出を生じる。
・消化管粘膜上皮の異常
炎症性腸疾患(IBDやメネトリエ病、消化管の潰瘍性病変や悪性腫瘍などでは、この機序による蛋白漏出を生じる。

吸収不良症候群
・吸収不良症候群の中にはさまざまな疾患が含まれるが、原発性吸収不良症候群と、続発性吸収不良症候群に大きく分けられる。
・ 原発性吸収不良症候群はもともと小腸の粘膜自体に問題があり、栄養素の吸収が障害されているものでスプルー(グルテン腸症)と牛乳不耐症(乳糖不耐症)とがある。スプルーは小麦蛋白(たんぱく)のグルテンが腸粘膜に障害を起こすと考えられる優性遺伝による疾患で、欧米人に多く日本人ではほとんどみられない。1日3、4回、酸臭のある不消化便を排出し栄養素が吸収されないためビタミン欠乏を起こす。牛乳不耐症は日本人にも多、二糖類分解酵素のラクトース(ラクターゼ)が欠損している。牛乳など乳糖を含む食物を摂取すると腹痛、腹鳴、腹部膨満感、水様性下痢を生じる。
・ 続発性吸収不良症候群は、原因となる疾患や腸管などの手術によって二次的に起こり栄養分の吸収が悪くなっているもので、クローン病など広範囲にわたる腸病変、異常蛋白のアミロイドが体の中に付着して臓器の機能障害を引き起こすアミロイドーシスなどの全身性の疾患、腸管などの手術による切除、放射線照射、膵(すい)がんや胆道がんなどでの消化酵素分泌障害などが挙げられる。ランブル鞭毛(べんもう)虫の小腸への寄生も、原因となる。症状としては、下痢、泥状で酸臭がある脂肪便、体重減少、全身倦怠感、腹部膨満感、浮腫、貧血、出血傾向、病的骨折、四肢の硬直性けいれん、皮疹などがみられる。
・    この他に腸の病気以外で慢性膵炎、膵臓がん、肝硬変、慢性肝炎、甲状腺機能亢進症、糖尿病、アジソン病、アレルギー疾患や腎不全などで慢性下痢を起こす
診断
便サンプルを顕微鏡で調べ、細胞、粘液、脂肪、その他の物質を確認し、血液や浸透性下痢を引き起こす物質が含まれているかどうかを調べる。刺激物を分泌する感染性の微生物、たとえばカンピロバクター属やエルシニア属などの細菌や、アメーバ、ランブル鞭毛虫(べんもうちゅう)、クリプトスポリジウム属などの寄生虫がないかも検査する。下剤を使用している場合も、便サンプルの検査で確認できる。貧血や炎症の有無を調べるための血液検査、潜血反応や細菌・虫卵検査のための糞便検査、大腸の器質的な異常を調べるための大腸内視鏡検査や大腸X線検査が必要。消化吸収試験として、経口ブドウ糖負荷試験、Dキシロース試験、乳糖負荷試験などや、糞便中の脂肪を直接・間接で確認する方法がある。
治療
・下痢は症状であるため治療は原因によって異なり、原因を取り除くだけで、痢が治まり全身状態が回復する。下痢の治療に使われる処方薬には、オピオイドと腸の筋肉を弛緩させる薬がある。慢性の便秘の治療に使われるオオバコ種子やメチルセルロースなどの膨張性薬剤も、慢性の下痢に効果がある。
腸管運動抑制薬: ロペラミド(ロペミン)…オピオイド受容体に作用して、腸管運動を抑制。
トリメプチン(セレキノン)…オピオイド受容体にも作用する腸管運動調節機能。
臭化メペンゾラート(トランコロン)…副交感神経遮断薬。
収けん薬: タンニン酸アルブミン…腸粘膜蛋白に結合し、粘膜面を覆って分泌と刺激を抑制する。鉄剤と配合禁忌(鉄の吸収阻害)。
ビスマス製剤(次硝酸ビスマス)…消化管に被膜を形成して二次的に蠕動を抑制し、腸内異常発酵で生ずる硫化水素と結合してガス刺激も緩和する。
吸着薬: 天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン)…細菌性毒素などを吸着して腸管を保護する。
殺菌薬: ベルベリン(フェロベリン)…腸内細菌殺菌作用。
乳酸菌製剤: 乳酸菌(ラックビー、ビオフェルミンR)…乳酸菌が生じる乳酸により腸内を酸性にし、病原性大腸菌などを阻止。アンモニアの産生・吸収も抑制。抗菌薬使用時の腸内細菌の菌交代予防にも有用。
乳糖分解酵素剤: チラクターゼ(ミルラクト)
漢方薬: 五苓散(水様下痢)、啓脾湯(慢性下痢)、半夏瀉心湯(腹痛が強い)、柴苓湯(炎症の強い下痢)
アヘンアルカロイド: リン酸コデイン、アヘンチンキなど
過敏性腸症候群治療剤: ポリカルボフィルムカルシウム(コロネル)…胃内の酸性下でカルシウムが脱離してポリカルボフィルとなり、小腸や大腸の中性下で膨潤、ゲル化する。消化管内水分保持作用及び消化管内内容物輸送調節作用により下痢、便秘を改善する。
ラモセトロン塩酸塩(イリボー)…男性用5-HT3受容体拮抗薬。
グルタミン: GFO、グルタミンプラス、L-グルタミンなど
・重症の下痢により脱水症を起こしている場合は入院して、水分と塩類を点滴する必要がある。吐き気や嘔吐がない場合には、水分、糖類、塩類のバランスが取れた飲料を飲むとよい。基本的には長期間下痢が持続しないと(2週間以上)、栄養不良はきたさない。
栄養療法
・脂っぽい料理や糖分を多く含む料理やお菓子などは、腸管に負担をかけるので避ける。
・カフェイン飲料、アルコール類、炭酸飲料を避ける。乳糖不耐症の場合は乳製品を避ける。
・香辛料の効いた料理や食物繊維を多く含む生野菜は、腸の蠕動運動を活発にして症状を悪化させるためは避ける。
・果物を食べる場合、柑橘(かんきつ)類は腸管に刺激を与えるため避ける。りんごの食物繊維ペクチンは腸を整える作用がある。
・プロバイオティクス、プレバイオティクスは腸内環境を整える。
* サンファイバー(太陽化学株式会社)は、グアー豆生まれの水溶性植物繊維(グアーガム)でほとんど無味無臭。整腸作用とプレバイオティクスとして、腸内細菌を活性化して短鎖脂肪酸の産生を増加させる。御飯やおかずに混ぜるだけでも効果があるが(全く味やにおいは変わらない)、経腸栄養剤に混ぜることによって下痢予防に有効。当院では、主に難治性の下痢となった経腸栄養患者に使用(3~9g/日を分1~3)。
・中鎖脂肪酸は胆汁酸によるミセル化が不要で速やかに吸収されるため脂肪性下痢は比較的起きにくい。
・n-3系脂肪酸は抗炎症作用があり侵襲が強い時に有利である。