グリセロールとマンニトールの栄養学的使い分け

~グリセオール注(グリマッケン)とマンニゲン注の使い分けについて~

当院では、同じく脳浮腫治療をするにあたり、脳外科ではマンニゲン注、神経内科ではグリセオール注(後発品;グリマッケン)が使用される傾向にある。その理由について考えた。

<製剤の組成について>

①マンニゲン注     20%マンニトール液(分子量182)。浸透圧比は約5.

マンニトールは糖アルコールの一種でソルビトールの異性体。糖尿病患者の甘味料や負の溶解熱をもつことからキャンディーなどの爽快感を出すのに使用され、昆布の表面の白い粉など自然界に広く存在する。

②グリセオール注     10%グリセオール(分子量90)、5%フラクトース(分子量180)+生食。浸透圧比は約7。200ml投与で126kcal

グリセロールは3価アルコールで甘味のある粘調な無色の液体で、天然にも存在するが、工業的にはプロピレンから合成される。グリセロールに含まれる果糖は糖類中最も甘味が強く、果実・糖蜜中に存在する。通常、そのまま血液に投与すると溶血を起こすため、塩化ナトリウムを添加することで防止している。

高張度に大差はない

<適応について(添付文書より抜粋)>

マンニゲン注

術中・術後・外傷後及び薬物中毒時の急性腎不全の予防及び治療する場合、脳圧降下及び脳容積の縮小を必要とする場合、眼内圧降下を必要とする場合

グリセオール注

頭蓋内圧亢進、頭蓋内浮腫の治療、頭蓋内圧亢進、頭蓋内浮腫の改善による下記疾患に伴う意識障害、神経障害、自覚症状の改善(脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)、脳内出血、くも膜下出血、頭部外傷、脳腫瘍、脳髄膜炎)脳外科手術後の後療法、脳外科手術時の脳容積縮小、眼内圧下降を必要とする場合、眼科手術時の眼容積縮小

(☆ 透析患者おけるグリセオールの適応は愛知県内では「透析困難症」で保険が通るようです。他県では保険が通らない可能性があるようです。)

* 脳出血急性期では止血が完成しない時期に脳圧効果薬を用いると血腫の増大、出血を招く可能性が指摘されている。

<投与方法の違い>

①マンニゲン注 100mL/3~10分で急速投与が原則。1日使用量は300~600mLで、最大1000mL。

②グリセオール注 100~200mL/hで、緩徐長時間投与を原則。重症例では1200mL、中等症では800~900mL、軽症例では500~600mL。また、全身へのカロリー源ともなる。

<薬理作用・代謝の違い>

マンニゲン注・・・頭蓋内圧は平均15~20mmHg低下するとされ、投与後40~50分後に頭蓋内圧は最低となり、持続時間は約3時間。

速効性で強力な抗浮腫作用。血液脳関門(BBB*1)、細胞膜を通過せず、血液膠質浸透圧を上昇させて組織から水を血管内に移動させ、体内で代謝されずに腎から排泄される。BBB傷害部では血管外に漏出して浮腫を助長させる可能性がある。また、短所としてリバウンド現象*2が生じやすく、さらに作用時問が短く、強力な浸透圧利尿により、水・電解質異常をきたしやすい。従って、脳ヘルニアをきたして命の危険があり、外科的治療が用意されているときに使用される。使用時には、血液・尿中の電解質、浸透圧、尿量測定を行い、水・電解質バランスの維持、腎障害等に注意する。マンニゲンには、脳梗塞、脳出血いずれの急性期にも有効性は証明されていない。

*1脳血液関門: 脳の血管は無孔性血管系に属し、酸素や二酸化炭素などの脂溶性物質、血管壁の代謝を介する必須アミノ酸、それに脳のエネルギー源となるグルコース以外をほとんど通過させない機能(10オングストローム10-10m、0.1nmナノメートル以下)。

*2リバウンド現象: 脳組織に拡散した投与物質の排泄・代謝障害がある場合に、血中濃度が低下すると浸透圧差の逆転が起こり、水分は血中より脳へ逆行し脳浮腫の増悪をきたすこと。

グリセオール注・・・頭蓋内圧は平均15~20mmHg低下するとされ、投与後2時間後に頭蓋内圧は最低となり、持続時間は約6時間。

10~20%が腎より排泄され、約80〜90%が肝臓で代謝されてエネルギーとして利用されるため、浸透圧利尿が少なく、水・電解質バランスを障害しにくく、腎障害も少ない。また、脳浮腫に対する効果の持続がマンニトールより長く、リバウンド現象もより少ないこと、神経細胞の高エネルギー源となり脳組織代謝改善作用を有することなど、すぐれた面がある。脳卒中急性期の死亡を有意ではないがわずかに減少させ、虚血性脳血管障害に限れば発症後14日以内の急性期死亡を有意に減少させる(ただし、1年後の死亡については有意差なし)。しかし、水・電解質の異常も大量投与になるほど出現しやすく、高血糖、稀に非ケトン性高浸透圧性昏睡をきたすことが指摘されている。
2剤の比較研究が少なく、一概にどちらがよいとはいえないが、マンニゲン注は即効性があるため、急速に頭蓋内圧を低下させる目的で頭部外傷、脳腫瘍のope前やope中に使用されることが多い。グリセオール注は、生命に関わる可能性がある中等度大以下の脳梗塞、脳出血において心機能、腎機能に問題ない用量で使用する。

<脳卒中ガイドライン2009より>

<脳卒中急性期>

1.  高張グリセロール静脈内投与は、脳卒中一般の急性期の死亡を減らすが、治療効果はそれほど大きくなく、長期的予後や機能予後に関する効果は明らかではない。本療法は頭蓋内圧亢進を伴う重篤な脳卒中の急性期に推奨される(グレードB)。

2. マンニトールは脳卒中急性期に有効とする明確な根拠はない(グレードC1)。

3. 副腎皮質ホルモン投与が脳卒中急性期に有効であるという明確な根拠はない(グレードC2)。

<脳梗塞急性期>

1. 高張グリセロール(10%)静脈内投与は、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性梗塞のような頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞の急性期に推奨される(グレードB)(投与量は年齢、重症度によるが10~12mL/kgを数回に分けて与える)。

2. マンニトール(20%)は脳梗塞の急性期に使用することを考慮しても良いが、十分な科学的根拠はない(グレードC1)。

<脳出血急性期>

1. 高張グリセロール静脈内投与は、頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳出血の急性期に推奨される(グレードB)。

2. マンニトール投与が脳出血の急性期に有効とする明確な根拠はないが(グレードC2)、進行性に頭蓋内圧が亢進した場合やmass effectに随伴して臨床所見が増悪した場合には、考慮しても良い(グレードC1)。

3. 副腎皮質ホルモンが脳出血急性期に有効とする明確な科学的根拠はない(グレードC2)。

4. 頭蓋内圧亢進に対しベッドアップにより上半身を30°挙上すると良いと報告されているが(グレードC1)、血圧低下に注意すべきである。

<参考>

グリセロールとマンニトールの比較研究

・ グリセロールは頭蓋内圧降下開始時期がマンニトールより早く、投与開始4時間までの効果も大きい。それ以降は、両者はほぼ同等となる。

・ グリセロールは持続的に投与して血中濃度を維持すれば、脳組織と血管の浸透圧差も維持可能だが、マンニトールでは腎臓からの排泄作用が強く、血中濃度の維持が困難。

・ グリセロールは、腎排泄が少なく、脳組織で代謝されるため、リバウンド現象がマンニトールより起こしにくい。

・ グリセロールは障害脳であっても代謝による消費により組織濃度が低下するが、代謝されずに組織での排出を血流にのみ頼っているマンニトールよりもリバウンド現象が少ない。

・ 両者とも脳血流増加作用があるが、グリセロールは神経細胞のエネルギー供給による脳代謝改善作用もある。

グリセロールとマンニトールの栄養学的使い分け」への2件のフィードバック

  1. 脳腫瘍等の治療としてマンニトールを投与すると、健康な体細胞も脱水すると思われますが、その補正は必要ありませんか?

  2. お返事遅くなりました。ご指摘の通りです。比較的血管内脱水の補正は簡単ですが、細胞内脱水の補正は非常に難しいですね。個人的見解ですが、マンニトールの常用量であれば、細胞内脱水は補正必要ないと思われます。おそらく大量投与することは脳腫瘍に対してはないと思うので、高血糖昏睡などのように補正は必要ないのではないでしょうか?

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