2011.06.07栄養学習会(短腸症候群)

短腸症候群(Short Bowel SyndromeSBS

・ 短腸症候群とは、小腸の大量切除に伴う吸収不良の状態で、通常成人では小腸は5~6m、小児では2mであり、70~80%切除されると重度の消化吸収障害となる。原因は、成人では上腸間膜閉塞症、クローン病、外傷など、小児では小腸閉鎖症や腸回転異常症などが多い。

・ 短腸症候群における消化吸収障害の程度は、

手術時の年齢

残存小腸の長さ

回盲弁の有無

残存小腸の病変の有無

腸切除後の経過時間

残存小腸の適応能力

残存小腸の部位

合併切除臓器の有無などの栄養を受ける。

・ 短腸症候群の診断基準は、十二指腸を含まない残存小腸の長さが成人で150cm以下、小児(15歳以下)で75cm以下とされている。残存小腸が、30cmあれば経腸栄養は可能、60cmあれば経口摂取は可能とされる。

・ 1m以上の回盲弁を含む小腸切除では、腸内通過時間が1/5、糞便量と脂肪、蛋白の排泄(非吸収)が3~6倍となる。

・ 空腸が大量切除されると、膵液胆汁分泌が影響を受けて、脂肪やタンパク質の消化吸収が低下し、カルシウム、マグネシウムの喪失がおこる。しかし、回腸が十分に残存していれば、代償される。

・ 回腸は、炭水化物、タンパク質、水電解質だけでなく胆汁酸、ビタミンB12、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の主な吸収部位なので、これらの欠乏と脂肪性下痢が発生する。

・ 回盲弁は回腸と結腸の圧格差を維持するために重要で、この機能により栄養素が小腸を通過する時間が保たれ、結腸内の細菌の小腸への逆流を防止している。

・ 短腸症候群では、結腸の残存は水電解質の吸収を保ち、下痢を防ぐために重要であるが、結腸内の細菌の小腸への逆流や、シュウ酸と乳酸の過剰吸収による腎結石や乳酸アシドーシスを合併することがある。

・ 可溶性食物繊維(ペクチン、グアーガム)は、胃内容の粘張度を増して胃排泄を遅らせたりする作用をもち、また、大腸内で腸内細菌が発酵してつくられる短鎖脂肪酸の前駆物質でもあり、SBS患者にとってはエネルギー利用の面からも有用。しかし、不溶性繊維(セルロースやキチンなど)は消化管ではほとんど消化されずに便形成に役に立つが、SBS患者においては窒素、Ca、亜鉛などの便への喪失を増加させるためにむしろ有害の可能性がある。

・ 可及的早期に経腸栄養を開始することは、残存小腸の再生を促し、機能維持に重要である。

・ 腸管大量切除後は以下の合併症に気をつける。

ガストリンの分泌亢進による胃や上部消化管の潰瘍 → 制酸剤

鉄の吸収障害 → 鉄剤投与または静注

胆汁酸の吸収障害(回腸末端)による胆石、必須脂肪酸欠乏、脂溶性ビタミン欠乏→ 利胆剤(コレスチラミン)、脂肪乳剤、ビタミン剤の投与

脂肪便形成によるカルシウム、マグネシウムの欠乏 → 補充

セレンや亜鉛などの微量元素欠乏 → 補充

ビタミンB12欠乏(回腸末端)による大球性貧血 → 補充

D乳酸の腸管内過剰産生によるアシドーシス → 腸内細菌の活性化、グルタミン投与

腸管の拡張、壁の菲薄化によるバクテリアル・トランスロケーション→ グルタミン投与、経腸栄養の継続

蓚酸過剰による尿路結石 → 低蓚酸塩食

・ 腸管免疫の低下、バクテリアル・トランスロケーション、栄養デバイス(CVカテーテル、リザーバーなど)の感染・合併症が患者の予後を左右する。

<栄養管理ガイドライン> 静脈経腸栄養ガイドライン 第2版

1. 広汎な消化管切除を受けた患者あるいは短腸症候群の患者は栄養学的なリスクを有している。栄養アセスメントを実施し、栄養管理計画を作成する。

2. 小腸粘膜の萎縮防止や残存小腸機能の増加・回復を目的に可能な限り経口摂取への移行を試みる。

3. 経口摂取あるいは経腸栄養で栄養必要量が満たされない場合、中心静脈栄養を併用する。

4. 正常な大腸を有する場合に、低脂肪・高複合炭水化物食が望ましい。

SBS患者での比較試験では、大腸が残存している患者において低脂肪・高複合炭水化物食[low fat-high corbohydrate diet]では高脂肪・低炭水化物食に比べ、便中のエネルギー損失が500kcal/日減少し、エネルギー吸収は有意に高かった。炭水化物の種類に関しては、単純炭水化物(単糖類)はSBS患者では浸透圧性の下痢を起こすことがあり、発酵による短鎖脂肪酸の変換もしないため、複合炭水化物の方が望ましい。

5. 正常な大腸を有する場合には、低蓚酸塩食(生野菜、特に緑色野菜、ホウレンソウを避ける)を試みる。

食物中の蓚酸(oxalate:HOOCミCOOH)は、通常カルシウムと結合し不溶性複合体として便に排泄されるが、腸内のカルシウム量が少ないと腸管から蓚酸の吸収が増加する。また、脂肪はカルシウムとの親和性が蓚酸よりも強いため、蓚酸と結合するカルシウムを減少させて遊離型蓚酸の吸収を増加させる。SBS患者で大腸が残存して脂肪便がみられる場合には、蓚酸は大腸から容易に吸収されるため、蓚酸塩腎結石症を発症しやすくなる。また、増加した蓚酸が小腸内に逆流しても同様に血中に蓚酸が増加する原因となる。

6. 回腸末端切除症例では、月1回非経口的にビタミンB12を補充する。

 

短腸症候群の栄養管理

<第1期術直後期(術後1か月以内)>

A. 腸麻痺期(術直後2~7日間)

TPNは必須

25~30kcal/kg/日、たんぱく質1.2~2.0g/kg(理想体重)または総カロリーの15~22%、脂肪20~30%、

水分30~35ml/kg+喪失分、Vit A,D,E,K,B12、Ca、Mg、亜鉛の補給

B. 腸蠕動亢進期(術後3~4週間)

多量の下痢に伴う水分と電解質の喪失

水分と電解質の補充

微量元素、特に亜鉛欠乏に気をつける

必要カロリー量(H-B式+Long法、または40kcal/kg/日)の投与

<第2期回復適応期(術後数か月~12か月)>

残存腸管の再生の促進により、吸収能が改善し、下痢も改善

経口摂取を開始し、TPNを減らす。

残存腸管が短く下痢が持続する場合には、消化吸収のよい成分栄養剤や経口の場合には低残渣食を用いる。

欧米では、ペプチド・ベースの栄養剤(半消化態栄養剤)のほうが、アミノ酸ベースの栄養剤(成分栄養

剤、消化態栄養剤)よりも吸収効率が高いとされて推奨されているが、本邦では浸透圧に気をつけて成分栄養剤または消化態栄養剤を使用することが多い。

吸収効率の良いMCT(中鎖脂肪酸)を含んだ低長鎖脂肪酸の投与が推奨。

アルコールやカフェインは消化管活性を促進するために、避ける。

残存小腸の機能維持および促進のために、グルタミンを用いる(欧米では、少なくとも25g/日)。

<第3期(Ⅱ期以降数年)>

腸管が十分に適応する時期

経腸栄養を進めて、TPNの離脱をはかる。

TPNから離脱困難な症例は、在宅静脈栄養(home pareteral nutrition:HPN)の適応となる。

小児で20cm、成人で40~50cmが、TPNから離脱可能な残存小腸の長さの基準。

経腸栄養剤の経口補給だけで不十分な症例は、夜間のみ自己挿入した経鼻胃管からの持続的経腸栄養も考慮する。

通常、残存小腸が60cm以上あれば、経口摂取は可能。

正常な大腸を有する場合は、低脂肪・高複合炭水化物を選択する。

正常な大腸を有する場合は、低シュウ酸塩食を試みる。

回腸末端切除例では、月1回非経口的にビタミンB12を補充する。

下痢が続く場合には、乳糖が入っていない食事を選択する。

グルタミン、成長ホルモンやファイバーを多く含む食事を投与する。

必須脂肪酸、脂溶性ビタミン、微量元素の欠乏に気をつけ、適宜、必要なら非経口的に補充していく。

胃液の過剰分泌によって胃・十二指腸潰瘍を発生しやすい(ガストリンの分泌亢進)ので、PPIやHブロッカーを適宜使用する。但し、腸内細菌の異常により、逆に下痢を惹起することもあるので注意を要する。

脂肪便によって、CaやMgが石ケン形成によって喪失するので、テタニーや骨粗鬆症などに気をつける。

下痢のコントロールに、ロペラミド(ロペミン®)やオピオイドを使用する。